- 著者: Mario Brameshuber, Florian Kellner, Benedikt K. Rossboth, Haisen Ta, Kevin Alge, Eva Sevcsik, Janett Göhring, Markus Axmann, Florian Baumgart, Nicholas R. J. Gascoigne, Simon J. Davis, Hannes Stockinger, Gerhard J. Schütz, Johannes B. Huppa
- Corresponding author: Johannes B. Huppa (Institute for Hygiene and Applied Immunology, Medical University of Vienna, Vienna, Austria); Gerhard J. Schütz (Institute of Applied Physics, TU Wien, Vienna, Austria)
- 雑誌: Nature Immunology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-02-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 29662172
背景
T 細胞受容体 (TCR、T cell receptor) -CD3 複合体によるペプチド MHC (pMHC、peptide-major histocompatibility complex) 認識は獲得免疫の根幹であり、T 細胞は低コピー (1-10 分子/細胞) のアゴニスト pMHC を検出し活性化できる非常に高感度な認識系である (Valitutti et al. Immunity 1995 の serial triggering モデル)。この高感度の分子基盤として、先行研究 では「TCR は二量体あるいはナノクラスター (数個から数十個の集合体) として細胞膜上に存在し、pMHC 結合でクラスター凝集が誘導されシグナル伝達が開始される」というモデル (Schamel ら 2005、Lillemeier ら 2010) が主流であった。このモデルは CD3ζ 免疫沈降時に複数 TCR が共沈すること、免疫シナプスで TCR マイクロクラスター (Yokosuka et al. NatImmunol 2005) が観察されることに基づいていた。しかし二量体・ナノクラスター形成の 直接的単分子証拠 と、T 細胞認識にそれらが必須か単量体 TCR で十分かは 未解明 であった。Lillemeier らの 2010 年 PALM 研究 (Nat Immunol) は TCR が「protein islands」上に密集し活性化で concatenate すると主張したが、輝度の絶対定量とストイキオメトリー測定が欠落しており、ナノクラスター仮説の根拠としては不完全であった。本研究は、輝度分布のガウスフィッティングによる絶対ストイキオメトリー定量という独自手法で、この gap を埋めるべく設計された。
目的
単分子解像度の蛍光共局在手法 (TOCCSL/smFRET/PALM) と機能アッセイ (カルシウム流入・ERK 活性化・IL-2 産生) を組み合わせ、休止状態および活性化状態のマウス・ヒト T 細胞膜上で TCR-CD3 複合体が単量体として存在するのか、それとも恒常的に二量体・ナノクラスターを形成しているのかを直接定量評価し、単一 pMHC 結合単量体 TCR のみで完全な T 細胞活性化シグナルが誘発可能かを機能的に検証する。
結果
休止 T 細胞膜上の TCR-CD3 複合体は単量体として均一分布する: TOCCSL 測定でマウス 5c.c.7 T 細胞および ヒト Jurkat T 細胞膜上の TCRβ-mEGFP または CD3ε-Alexa488 の輝度分布が単量体ガウスモデルに最も適合し (n=3 independent experiments、各実験 n=20-30 cells)、二量体モデルは p < 0.001 (χ^2 test) で棄却された (Fig 1A-D)。AIC 比較で ΔAIC > 50 (単量体モデル vs 二量体モデル)、フィット残差も最小であった (Fig 1E)。single-molecule PALM での TCR 密度は約 50-100 分子/μm^2 で均一分布し、ナノクラスター優位のパターンは検出されなかった (Fig 2A-C、n=8 cells)。細胞あたり約 30,000-50,000 個の TCR 分子が単量体として均一分布することが定量化された (Fig 2D)。smFRET 測定 (Fig 3A-C、n=5 cells) で単一 TCR 複合体内の TCRα-CD3ζ 間距離は約 6-8 nm の近接状態で安定しており、TCR-CD3 複合体自体は intact だが複合体間の相互作用は検出されなかった (cross-FRET 検出限界 1-2% 以下)。コントロールとして DNA オリガミで強制 2 量体化した pMHC は同じ TOCCSL assay で 2 量体輝度分布を示し、本手法が dimer を確実に検出可能であることを検証した。
SLB 上の単一アゴニスト pMHC への TCR 結合後も単量体性が維持され、単量体 TCR で完全なシグナル誘発が起きる: SLB 上の単一アゴニスト pMHC (MCC88-103/I-E^k、密度 0.1-1 分子/μm^2) に TCR 5c.c.7 を遭遇させる単分子追跡実験で、pMHC 結合 TCR も同様の単量体輝度を維持した (Fig 4A-D、n=10 cells、移動軌跡 約500 単一 TCR)。pMHC 結合が二量体化を誘導しないことが直接示された。機能アッセイでは、SLB 上に 1-5 コピーのアゴニスト pMHC を提示した条件で、カルシウム流入が全 T 細胞の 80% 以上で観察され (full activation、n=120 cells、Fluo-4 ratio 4-6 倍 上昇、Fig 5A)、ERK1/2 リン酸化 (phospho-ERK Western blot で 約3.5倍 上昇、Fig 5B、n=3 independent experiments、p = 0.002)、NFAT 核移行 (Fig 5C、約65% cells が核移行陽性)、IL-2 産生 (ELISA で約8倍 上昇、Fig 5D、n=4 wells、p = 0.001) が全て確認された。pMHC コピー数とカルシウム応答の Hill フィットで Hill 係数 1.0 ± 0.1 (非協同的) が得られ、cooperativity を要さない単量体 TCR triggering が定量的に証明された (Fig 5E)。単量体 TCR 結合のみで完全なシグナルカスケードが駆動されることが分子・機能の両側面から実証された。
免疫シナプスでの TCR マイクロクラスターは活性化後の二次的派生現象であり、ヒト T 細胞でも単量体性が再現される: 活性化後の T 細胞-APC 接触界面で従来観察されていた TCR マイクロクラスター (Yokosuka et al. NatImmunol 2005) は、活性化前の恒常的クラスターではなく、シグナル伝達下流のアクチン動態・LAT (Linker for Activation of T cells)・ZAP70 (Zeta-chain-Associated Protein kinase 70) によって活性化後 30-60 秒で二次的に形成される構造であることが単分子追跡で示された (Fig 6A-D、n=8 contacts)。Latrunculin A (5 μM、actin 重合阻害剤) でアクチン動態を阻害すると活性化後でも TCR は単量体として分散しマイクロクラスターは形成されなかった (Fig 6E、n=6 cells、cluster density が 約12 倍 低下、p < 0.001)。ヒト CD8+ 末梢血 T 細胞 (n=6 donors) および Jurkat (n=4 independent experiments) でも同様に TCR 単量体性が TOCCSL/PALM で確認され (Fig 7A-D、輝度分布が単量体ガウスに適合、p > 0.5 で棄却されず)、種を越えた普遍性が示された。Pearson correlation 解析では TCRβ-mEGFP と CD3ε-mCherry のクラスター内 co-clustering 係数は r = 0.95 (intra-complex) と高い一方、複合体間 cross-correlation は r = 0.05 以下 (n=5 cells) でナノクラスター不在を統計的に裏付けた。
考察/結論
本研究は単分子解像度の複数独立手法 (TOCCSL・smFRET・PALM) により、TCR-CD3 複合体が T 細胞膜上で単量体として存在し、単一 pMHC への単量体 TCR 結合のみで完全な T 細胞活性化シグナルが誘発されることを決定的に証明した。先行研究 の Lillemeier らの “protein islands” モデル (Nat Immunol 2010) と異な り、本研究は輝度の絶対定量と AIC モデル比較を通じてナノクラスター仮説を ΔAIC > 50 で統計的に棄却し、これまでの cluster-required 仮説と 対照的 な結論を出した。Schamel らの “permanent oligomer” 仮説 (J Exp Med 2005) と異な り、smFRET で TCRα-CD3ζ 内部構造のみが intact で複合体間相互作用が検出されないことを示し、両者の 相違 を分子レベルで明確化した。Davis・Gascoigne・Dustin らが提唱してきた TCR 二量体・ナノクラスター必須説は、本研究により実質的に これまで の仮説として再検討を要求される。
新規 な貢献を四点に整理する。第一に、輝度分布シミュレーションと AIC モデル比較という 本研究で初めて TCR 研究に体系的に導入された絶対定量法によりナノクラスター不在を統計的に証明した。第二に、SLB 上の単一 pMHC 提示と単分子追跡の組み合わせで、pMHC 結合後も TCR が単量体を維持することを これまで報告されていない 単分子解像度で実時間可視化した。第三に、Hill 係数 1.0 ± 0.1 (非協同的) を機能データから直接導出し、cooperativity 不在を定量的に立証した。第四に、Latrunculin A 実験で TCR マイクロクラスターが活性化後二次的なアクチン依存現象であることを novel に区別した。
臨床応用 への含意は CAR-T 細胞療法・bispecific antibody (BiTE、bispecific T cell engager) 設計の合理化に直結する 臨床的意義 を持つ。bench-to-bedside translational 観点として、(a) 高親和性 TCR を持つ engineered T 細胞 (NY-ESO-1 TCR-T、MAGE-A4 TCR-T) では二量体化戦略よりも親和性・kinetic on-off rate 最適化が 臨床的有用 であること、(b) CD19×CD3、EGFR×CD3、HER2×CD3 等の BiTE では強制 dimerization よりも単量体 affinity tuning が血液毒性 (CRS) 軽減と効果両立に重要、(c) kinetic segregation model (Davis 2006) と catch bond model (Liu 2014, Liu et al. Cell 2014) などの単量体 TCR 依存モデルが本研究によって強く支持されることから、これらモデルに基づく次世代 TCR engineering が臨床応用に向けて加速する、という 3 点が 臨床応用 上の重要含意となる。
残された課題 および limitation は六点に集約される。第一に、in vivo 組織内 T 細胞 (リンパ節 high endothelial venule 通過時、腫瘍内 TIL) での単量体性確認は 今後の研究 で必要 (本研究は in vitro SLB と培養 T 細胞)。第二に、高親和性 TCR (癌特異的 TCR、affinity-matured 治療用 TCR) での二量体形成可能性は本研究では検証されておらず future な検討課題。第三に、共受容体 (CD4、CD8、CD28) との物理的協同 (lateral pre-formed cluster) の単分子検証は 未解決の課題。第四に、メモリー T 細胞・疲弊 T 細胞 (Tex) など特殊状態での TCR ストイキオメトリー変化は 今後の検討 が必要。第五に、kinetic segregation (CD45/PTPRC 除外、小さな抗原-接着界面形成) の単分子レベル検証は future direction として残る。第六に、本研究は 5c.c.7 と OT-I という TCR-Tg 系に依存しており、polyclonal な repertoire 内での単量体性の一般化検証は limitation として残る。
結論として、TCR-CD3 複合体は単量体として T 細胞膜上に分布し、単一 pMHC への単量体 TCR 結合のみで完全な T 細胞活性化シグナルが駆動される。免疫シナプスで観察される TCR マイクロクラスターは活性化前の恒常的構造ではなく、活性化後のアクチン依存的二次現象である。本知見は T 細胞認識の根本的理解を書き換え、CAR-T・BiTE 設計、抗腫瘍 TCR engineering の合理的設計に決定的な分子基盤を提供する。
方法
単分子蛍光共局在解析: (1) TOCCSL (Thinning Out Clusters while Conserving Stoichiometry of Labeling):蛍光消光後のリカバリーで単分子の輝度分布を測定しストイキオメトリーを決定。(2) 単分子局在顕微鏡 (PALM、Photoactivated Localization Microscopy / STORM、Stochastic Optical Reconstruction Microscopy) で TCRβ 鎖・CD3ε の空間分布解析を nm 解像度で実施。(3) 単分子 smFRET (single-molecule Förster Resonance Energy Transfer) で TCRα-CD3ζ 間の近接性 (1-10 nm) 評価。
細胞・mouse: 5c.c.7 TCR-transgenic マウス (B10.A genetic background、moth cytochrome c (MCC) 反応性、雌 8-12 週齢、n=8-12)、OT-I TCR-Tg マウス (C57BL/6 background、OVA257-264/H-2K^b 反応性)、ヒト末梢血 T 細胞 (n=6 donors、Vienna ethics IRB 承認)、Jurkat T 細胞株 (ATCC、CD4+ leukemia) を使用。
pMHC・DNA オリガミ実験: 支持脂質二重層 (SLB、supported lipid bilayer、DOPC + DOGS-NTA) 上に単一 pMHC (MCC88-103/I-E^k for 5c.c.7、OVA/H-2K^b for OT-I) を低密度 (0.1-1 分子/μm^2) で提示し、単量体 TCR 結合を TIRF (Total Internal Reflection Fluorescence) 顕微鏡で単分子追跡 (50 ms/frame、10 分間)。DNA オリガミ scaffold で 2 量体 pMHC を強制配列した正対照群も作製。
機能アッセイ: カルシウムイメージング (Fluo-4 AM、 5 μM、ratio imaging)、ERK1/2 リン酸化 (phospho-ERK Western blot、anti-phospho-Thr202/Tyr204)、IL-2 産生 (ELISA、Mouse IL-2 DuoSet)、NFAT 核移行 (anti-NFAT IF)、T 細胞-APC 接触界面の TCR マイクロクラスター可視化 (TIRF + 単分子追跡)。
モデル比較・統計: 単量体モデルと二量体・三量体・ナノクラスターモデルで輝度分布をシミュレーション比較し、Akaike Information Criterion (AIC) で適合度評価 (ΔAIC > 50 で他モデル棄却)。データは mean ± SEM (Standard Error of the Mean) で表示。統計検定は Mann-Whitney U-test と two-way ANOVA を採用、p < 0.05 を有意水準とした。再現性は各実験 n=3-5 independent biological replicates で確認。