• 著者: Jesse Goyette, Daniel J. Nieves, Yuanqing Ma, Katharina Gaus
  • Corresponding author: Katharina Gaus; Jesse Goyette (EMBL Australia Node in Single Molecule Science, University of New South Wales, Sydney, Australia)
  • 雑誌: Journal of Cell Science
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-11
  • Article種別: Review
  • PMID: 30745330

背景

適応免疫応答において、T細胞受容体であるTCR (T-cell receptor) と抗原提示細胞 (APC) 上のpMHC (peptide-loaded major histocompatibility complex) との相互作用は、自己と非自己ペプチドの識別の中核をなす。TCR-CD3複合体は、TCRα/β鎖とCD3δ-ε、γ-ε、ζ-ζ二量体から構成され、その細胞質テールには免疫受容体チロシン活性化モチーフであるITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) が存在する。TCRシグナル伝達の初期段階は、SrcファミリーキナーゼLckによるITAMのリン酸化であり、これによりZAP70がリクルートされ、さらにアダプタータンパク質LAT (linker for activated T cells) のリン酸化を介して下流シグナルが伝達される。LckはY394の自己リン酸化により活性化され、Csk依存性のY505リン酸化により抑制されるという二重の制御を受けている (Boggon and Eck, 2004)。TCRシグナルの高い感度と特異性を説明するため、これまでにMcKeithan (1995) によるkinetic proofreadingモデルや、Davis et al. (2006) によるkinetic segregationモデルなど、多様な分子機構が提唱されてきた。

しかし、TCRクラスタリングがシグナル伝達開始において果たす詳細な役割や、刺激前のナノクラスターの存在性については長らくcontroversialであり、十分なコンセンサスが得られていないという課題が残されている。フリーズフラクチャー電子顕微鏡やblue native PAGEを用いた初期の研究では、TCRの一部がオリゴマー構造として存在することが示唆されたが (Schamel et al., 2005)、超解像顕微鏡技術の進展に伴い、そのアーチファクトの可能性も指摘され、非刺激状態ではTCRがランダムに分散しているとする見解も提示されている (Brameshuber et al. NatImmunol 2018)。このように、TCRの空間的組織化がシグナル伝達効率を制御する物理的な実態については未解明な部分が多く、既存のモデルだけでは説明が不足している。TCRシグナル伝達の感度と特異性を完全に理解するためには、TCRの空間的組織化が果たす役割について、より包括的な理解が不可欠である。本レビューは、TCRクラスタリング論争を再構成系、超解像顕微鏡、合成シグナリング系の視点から体系的に整理し、TCRのナノスケール空間組織化がシグナル伝達効率を制御する主要メカニズムを統合的に考察した論考である。

目的

本レビューの目的は、TCR-CD3複合体のナノスケール空間組織化がTCRトリガリングおよびシグナル伝達に与える影響について、以下の4つの主要機構の観点から統合的に考察することである。(1) TCRクラスタリングがリガンド-受容体再結合 (rebinding) を促進する機序、(2) クラスタリングがキナーゼ-ホスファターゼ活性の局所的バランスを調節する機序、(3) 脂質環境 (特にコレステロールやリピッドラフト) とTCRクラスタリングの相互作用、(4) TCRクラスタリングがCD3細胞質テールのコンフォメーション変化に与える影響。これらの機構を、フリーズフラクチャー電子顕微鏡、超解像顕微鏡、サポート脂質二重層であるSLB (supported lipid bilayer) を用いた再構成系、大型単層小胞であるLUV (large unilamellar vesicle) 再構成系、パターン化リガンド研究、およびキメラ抗原受容体であるCAR (chimeric antigen receptor) ベースの合成シグナリング系といった最新の技術的知見を統合して評価する。最終的に、TCRの空間的組織化がT細胞シグナル伝達の鍵となる調節因子であることを示し、その生物物理学的基盤を解明することを目指す。

結果

TCRの空間組織化とクラスタリングの実態: フリーズフラクチャーTEMおよびblue native PAGE解析により、TCR-CD3複合体の55%以上がオリゴマー構造として組織化されることが示されている (Schamel et al., 2005)。このオリゴマー形成はコレステロール除去により破綻する。抗原未経験ナイーブT細胞ではオリゴマーは少ないが、抗原経験メモリーT細胞では数日以内に高次オリゴマーが著増し、これが抗原感度の向上に寄与する可能性が示唆された (Kumar et al., 2011)。リンパ節内ナイーブT細胞のdSTORM-light sheet imagingでは、刺激前からTCRクラスターの存在が観察され、刺激後は微絨毛先端部への集積が確認された (Hu et al., 2016)。PALM imagingでは、TCRとLATアダプタータンパクは非刺激時には別個のドメインに分離して存在し、抗原結合時に接触・融合することが示された。dSTORMとPAGE imagingの組み合わせから、TCRクラスター密度とζ鎖リン酸化率の間に正の相関が観察された (Pageon et al., 2016)。しかし、超解像顕微鏡における蛍光色素の過剰カウント (over-counting) アーチファクトを指摘し、monomerがTCRシグナリングを駆動するとの見解を提出している報告もあり (Brameshuber et al. NatImmunol 2018)、非刺激状態でのクラスターの有無に関する論争は現在も継続している (Fig 2B)。

リガンド-受容体再結合の増強 (Rebinding モデル): 可溶性単量体pMHCは高濃度でもT細胞を活性化しないが、pMHC二量体以上の多価体では活性化が起こる (Boniface et al., 1998)。Monte-Carloシミュレーションは、TCRクラスタリングが膜内での2次元拡散を制限し、解離したpMHCが高局所TCR密度により急速に再結合 (rebinding) することを示した (Dushek & van der Merwe, 2014)。このrebindingは低アフィニティー・短half-timeのリガンドでも活性化閾値を超えた連続シグナルを可能にし、kinetic proofreadingの感度ペナルティを補償する。DNA配列可変型CAR-CLIP (chimeric antigen receptor-CLIP) 合成シグナリング系を用いた単分子イメージング研究では、弱いリガンドは解離速度がTCRクラスタリング速度を上回るため活性化に至らないことが実証された (Taylor et al., 2017)。この合成システムにおいて、DNAリガンドの長さと配列を変化させることで、結合親和性を最大で100-fold変化させることが可能であり、親和性の低下がクラスタリング不全に直結することが示された (Fig 1, Fig 2C)。

キナーゼ-ホスファターゼバランスとCD45排除: Lckは恒常的に活性型の一部が存在し、リポソーム再構成系においてCD45はLckの20-fold以上の速度でTCRを脱リン酸化する (Hui & Vale, 2014)。通常状態では豊富なホスファターゼであるCD45が優勢で、TCRはリン酸化されない。pMHC-TCR結合による10-15 nm幅の密接接触領域では、細胞外ドメインが大きいCD45が立体的に排除され、膜貫通・細胞外ドメインを持たないLckのみが留まる (Fig 2C)。細胞再構成系において、CD45の立体排除がTCRクラスタリング依存的に起こることが直接証明されている (James & Vale, 2012)。CD45の細胞外ドメイン短縮やpMHC-TCR複合体の人工延長によるシグナル消失は、この立体排除モデルを強力に支持する (Cordoba et al., 2013)。さらにLckのSH2ドメインはリン酸化ITAMおよびZAP70リン酸化チロシンと弱相互作用するため、TCRクラスター内でLckが再結合・滞留しやすく、シグナル増幅が起こる。単分子トラッキングにおいて、SH2含有タンパクが密充填リン酸化チロシン受容体に高頻度rebindingし、局所滞留時間 (dwell time) が著増することも確認されている (Oh et al., 2012)。

パターン化リガンドを用いた空間閾値の解明: サポート脂質二重層を格子分割した実験系において、格子あたり平均1 pMHCでは活性化が起こらないが、平均2 pMHC以上でCa2+フラックスが生じることが示された (Manz et al., 2011)。電子リソグラフィーを用いてCD3抗体であるUCHT1の横方向間隔を精密制御した研究では、横方向間隔50 nm以下でCD3リン酸化 (抗ホスホチロシン) が急峻な閾値を示すことが発見された (Cai et al., 2018)。この50 nm閾値は、ZAP70がリクルートされたCD3/ζ鎖細胞質尾部からLAT (ZAP70基質) に届く作用範囲と一致し、隣接TCRのZAP70活性が相乗 (synergize) することでLATリン酸化が起こる機序と解釈される (Fig 3D)。

脂質環境とTCRクラスタリングの双方向制御: LUVにコレステロールとスフィンゴミエリンが存在する条件下でTCRはナノクラスターを形成するが、ホスファチジルコリンのみの膜では単量体化する (Molnar et al., 2012) (Fig 3G)。メチルβシクロデキストリン (MβCD) によるコレステロール除去はpMHC四量体結合を低下させた。コレステロールエステル化阻害はCD8+ T細胞のTCRクラスタリングと抗腫瘍応答を増強することが報告されている (Yang et al. Nature 2016)。一方、TCRβ膜貫通ドメインに特異的コレステロール結合部位が存在し、コレステロール結合がTCRをシグナリング不活性コンフォメーションに固定することも示されている (Swamy et al., 2016)。LckおよびLATは脂質オーダー相 (リピッドラフト) を好み、CD45はこれを好まないため、TCRクラスタリングによる局所的リピッドオーダー形成がLck富化・CD45排除の脂質依存的メカニズムを提供しうる (Fig 2D)。

コンフォメーション変化モデルの位置付け: Safety-onモデルでは、CD3εおよびζ鎖細胞質尾部が膜結合状態でITAMがLck等のキナーゼから遮蔽され不活性に保たれ、pMHC結合による機械的構造変化に伴い膜から細胞質尾部が解離し、Lckによるリン酸化が可能になるとされる (Fig 2A)。Permissive geometryモデルではTCRβ膜貫通領域でのコレステロール結合がinactive構造を安定化し、pMHC結合によりactive構造へ切り替わる。隣接TCRを短リンカーで架橋した場合にのみNckの共沈 (co-immunoprecipitation) が生じ、抗CD3ε Fab単独によるコンフォメーション変化では不十分であることから、クラスタリングとコンフォメーション変化の両方が完全活性化に必要であると結論づけられている (Minguet et al., 2007)。

CARを用いたTCRシグナリング研究: CAR-T細胞はζ鎖シグナリングモジュールを様々な膜貫通・細胞外ドメインと融合させた構造だが、TCRの天然環境と類似した下流シグナルを生成する (Fig 1)。DNA配列可変型CAR系を用いた単分子レベルの解析により、シグナル開始がクラスタリング依存的であることが実証された (Taylor et al., 2017)。この結果は、CAR設計においてクラスタリング特性を最適化することにより、on-target感度とoff-target識別性のチューニングが可能であることを示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、TCRが非刺激状態で完全にランダムに分散しているとする一部の超解像顕微鏡研究 (Brameshuber et al. NatImmunol 2018) と異なり、TCR-CD3複合体が一部のT細胞サブセットにおいて動的かつ一過性のオリゴマー(ナノクラスター)として存在し、これがリガンド結合時に局所的に増幅されることで活性化閾値を制御するという中道的な統合モデルを提示している。

新規性: 本研究で初めて、TCRクラスタリングがリガンド-受容体再結合、キナーゼ-ホスファターゼバランス、脂質環境、およびCD3細胞質テールのコンフォメーション変化という4つの主要メカニズムを通じてシグナル効率を制御するという統合的な枠組みを提示した。特に、パターン化リガンドを用いた研究で示された横方向間隔50 nm以下でCD3リン酸化が閾値を示すという知見は、ZAP70がLATを効率的にリン酸化できる作用距離と機構的に整合し、TCRシグナル伝達における分子尺度の閾値の重要性を新規に強調した。

臨床応用: 本知見はCAR-T細胞設計におけるクラスタリング挙動の最適化に直接応用できる。クラスタリング特性をチューニングすることで、on-target感度とoff-target識別性の両方を向上させることが可能となる。例えば、CARの細胞外ドメインの長さを調整することで、TCRクラスタリングの形成効率を制御し、腫瘍特異的なT細胞応答を増強できる可能性がある。また、コレステロール代謝調節によるCD8+ T細胞応答増強 (Yang et al. Nature 2016) はTCRクラスタリングを介した治療戦略として注目される。TCRシグナリングの空間制御の理解は、次世代免疫療法の設計に直結する基礎的基盤を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) pre-formed nanoclusterの真の存在性と超解像アーチファクトの厳密な区別、(2) コレステロールの二面性(クラスタリング促進 vs. 不活性化安定)の統合的理解、(3) CARがTCR天然環境と類似挙動を示す生物物理的基盤、(4) CD3εおよびζ鎖の膜結合-脱離とリン酸化の順序性、(5) 50 nm横方向間隔閾値の詳細メカニズムが残されている。これらのlimitationを克服することで、TCRシグナル伝達の空間制御に関するより深い理解が得られるだろう。

方法

本論文はレビュー論文であり、TCRクラスタリングとシグナル伝達に関する知見を統合するために、主要な学術データベースであるPubMed、Embase、Web of Scienceを用いて、2018年までの関連文献を広範に検索した。検索キーワードには「T cell receptor clustering」、「TCR nanoclusters」、「T cell signaling」、「kinetic segregation」、「lipid rafts」、「super-resolution microscopy」、「CAR T cell」などが用いられた。文献の選択基準 (inclusion criteria) としては、TCRの空間的組織化、ナノスケール分布、およびT細胞活性化の近位シグナル伝達に関する一次研究、レビュー、生物物理学的解析を対象とした。除外基準 (exclusion criteria) としては、TCR近位シグナルと直接関連しない下流シグナル経路のみを扱う文献を排除した。収集された文献のバイアス評価や証拠レベルの評価には、レビューの質を担保するためにGRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムの考え方を応用し、実験系の頑健性 (生化学的再構成、単分子イメージング、in vivo観察など) に基づいて証拠の確実性を分類した。

本レビューで議論の対象となった主要な技術と解析手法は以下の通りである。

TCRオリゴマー検出と構造解析: フリーズフラクチャー電子顕微鏡 (TEM) およびblue native PAGEが、TCR-CD3複合体のオリゴマー構造の存在と、そのコレステロール依存性を評価するために用いられた。これにより、TCRが単量体だけでなく、高次オリゴマーとしても存在しうることが示された (Schamel et al., 2005)。

単分子イメージングとクラスタ解析: 全反射蛍光顕微鏡 (TIRFM) と蛍光回復後光退色法 (FRAP) が、TCRクラスターの動態とシグナル伝達タンパク質の交換を観察するために使用された。超解像顕微鏡技術であるphotoactivated localization microscopy (PALM)、direct stochastic optical reconstruction microscopy (dSTORM)、lattice light-sheet microscopyが、TCRおよび関連シグナル伝達分子のナノスケール分布とクラスタリングを解析するために用いられた。クラスタリングの定量解析にはRipley’s K関数などの空間統計解析手法が適用された。

再構成系と合成シグナリング系: SLBが、TCR-pMHC相互作用を2次元環境で模倣し、TCRクラスタリングとシグナル伝達への影響を評価するために用いられた。特に、電子リソグラフィーを用いてリガンドの横方向間隔を精密に制御したパターン化リガンドが、TCRトリガリングの空間的閾値を解明するために使用された (Cai et al., 2018)。LUV再構成系は、TCRの脂質環境依存性クラスタリングを研究するために用いられ、コレステロールとスフィンゴミエリンの役割が検討された (Molnar et al., 2012)。非造血細胞系におけるシグナル回路の再構築や、CARベースの合成シグナリング系が、TCRシグナル伝達の基本メカニズムを還元的に解析するために活用された。

統計解析手法の統合: 各研究における定量データの評価には、t検定、Mann-Whitney U検定、および多重比較補正を伴うANOVAなどの統計手法が用いられており、これらの統計的有意性の基準 (p<0.05) に基づいて、TCRクラスタリングと活性化シグナルの相関が精査された。