• 著者: Joschka Hellmeier, Rene Platzer, Alexandra S. Eklund, Thomas Schlichthaerle, Andreas Karner, Viktoria Motsch, Magdalena C. Schneider, Elke Kurz, Victor Bamieh, Mario Brameshuber, Johannes Preiner, Ralf Jungmann, Hannes Stockinger, Gerhard J. Schütz, Johannes B. Huppa, Eva Sevcsik
  • Corresponding author: Eva Sevcsik (eva.sevcsik@tuwien.ac.at) (Institute of Applied Physics, TU Wien, Vienna, Austria)
  • 雑誌: PNAS
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-01-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33468643

背景

T細胞は、TCR (T cell antigen receptor) を介して抗原提示細胞 (APC) に提示される少数のアゴニストpMHC (peptide/MHC complex) 分子を認識し、活性化されるという極めて高感度な抗原認識機能を持つ。TCR-pMHC相互作用の細胞外結合がどのように細胞内シグナルを誘発するかの機序は依然として未解明であり、特に「リガンドの空間的配置 (クラスタリング) がシグナル伝達に必要かどうか」について議論が続いていた。TCRはリガンド結合時に迅速にTCRマイクロクラスターを形成し、キナーゼやアダプタータンパク質が濃縮されることが報告されており (Campi et al. JExpMed 2005、Yokosuka et al. Nat Immunol 2005)、この観察は空間的TCR-pMHC配置が免疫シナプス内で重要であるという解釈を支持するものであった。

先行研究では、高親和性リガンドを用いて「50 nm以内のリガンドクラスタリングが必要」と主張されたが (Cai et al. Nat Nanotechnol 2018, Taylor et al. Cell 2017)、これらは長いドウェルタイムを持つ人工リガンドを使用しており、短い一過性の結合を持つ生理的pMHCに同じ要件が当てはまるかは不明であった。APC表面上のアゴニストpMHCは1–5分子/細胞程度という極めて低密度で存在し (Purbhoo et al. Nat Immunol 2004)、単一pMHC分子でT細胞活性化を誘導できることも報告されていた (Huang et al. Immunity 2013)。これらの知見は、TCRシグナル伝達におけるリガンドの空間的配置の役割に関する統一的な理解が不足していることを示唆していた。

TCRの単量体構造が抗原認識を駆動するという報告 (Brameshuber et al. NatImmunol 2018) や、TCRが休止状態の抗原経験T細胞のプラズマ膜上にランダムに分布しているという報告 (Rossboth et al. Nat Immunol 2018) もあり、TCRクラスタリングの重要性については議論が分かれていた。また、TCRマイクロクラスターがシグナル伝達の足場となるという考え (Campi et al. JExpMed 2005) や、TCRクラスタリングがシグナル伝達にどう影響するかという疑問 (Goyette et al. JCellSci 2019) も提起されていた。これらの背景から、TCRトリガーリングにおけるリガンドの空間的配置の役割について、生理的リガンドと高親和性人工リガンドとで異なる要件が存在する可能性が示唆されていたが、これを直接的に検証する実験系が不足していた。

目的

本研究の目的は、ナノスケールのリガンド距離を精密に制御できるDNAオリガミベースのバイオインターフェースを開発し、高親和性抗TCR scFV (single-chain antibody fragment) と生理的アゴニストpMHCのそれぞれについてT細胞活性化に必要な空間的リガンド要件を系統的に解析することである。具体的には、リガンドの全体的な表面密度とナノスケールでの間隔を独立して制御し、T細胞活性化中の受容体クラスタリングという細胞内在性ダイナミクスを妨げずに、リガンドの空間的配置がTCRトリガーリングにどう影響するかを明らかにすることを目指した。二種類のリガンドの結果から、TCRトリガーリング機序に関する統一モデルを構築し、特に単一pMHC分子の刺激能力の分子基盤を解明することを目的とした。

結果

H57-scFV (高親和性) ではリガンド間距離≤20 nmが活性化に必須であり、48 nmで活性化閾値が100倍以上増加した: 単価型mSA-H57 (自由拡散) の活性化閾値は、約1分子/μm²であった。S-H57 (δ=20 nmの排他領域) はmSA-H57と同等の活性化を示し、有意差は認められなかった。しかし、M-H57 (δ=48 nmの排他領域) では、200分子/μm²の高密度でも活性化が不十分であり、活性化閾値は100倍以上増加した (p<0.001)。ZAP-70膜集積はmSA-H57とS-H57で確認されたが、M-H57では50分子/μm²でも消失した。この結果は、TCR近位シグナル伝達がH57-scFVの距離に影響されることを示唆する (Figure 2D)。DNA-PAINT解析により、M-H57マイクロクラスター内リガンドnndは約48 nmであり、プラットフォームがT細胞誘発リガンドクラスタリングを物理的に阻害していることが示された (Figure 1F)。リガンド濃縮は全構築物で約3.5倍と同等であり、活性化の差はリガンド密度差に起因しないことが示された (SI Appendix, Figure S17)。この実験にはn=17 cells以上が用いられた。

二価型H57-scFVプラットフォームにより、TCR 2個の近傍ペアがシグナル伝達可能な最小単位であることが実証された: Mdiv-H57 (δ=10 nm、20 nm) は、mSA-H57と同等の活性化閾値を示し、有意差はなかった。Mdiv-H57 (δ=30 nm) の活性化閾値はmSA-H57と比較して約10倍高値であった (p<0.01) が、単価型M-H57より有意に低閾値であった。Ldiv-H57 (δ=10 nm, 20 nm、プラットフォーム間最小距離約60 nm) もmSA-H57と同等閾値を示した。これらの結果は、二価型単独で孤立したscFVペアがT細胞活性化に十分であることを実証している (Figure 3B)。n=150-350 cellsのデータから、単価型M-H57を10倍モル過剰添加しても二価型Mdiv-H5710nmの活性化閾値は変化せず (SI Appendix, Figure S18)、二価プラットフォームのみが応答に寄与することが示唆された。ZAP-70膜集積も、すべての二価型プラットフォームで効率的に確認された (SI Appendix, Figure S19A)。

pMHCは60 nmで孤立した単分子でもH57-scFVと同等の強力な活性化を誘導した: mSA-pMHC (自由拡散) の活性化閾値は約1分子/μm²であり、mSA-H57と同等であった。M-pMHC (δ=48 nmの排他領域) およびL-pMHC (δ=60 nmの排他領域) は、mSA-pMHCと同等の活性化閾値を示し、有意差は認められなかった (Figure 4D)。これはH57-scFVで完全失活したδと同じ距離である。二価型pMHC (δ=10 nm) ではわずかに閾値増加が認められたが、これは立体障害の可能性が考えられる。CD4ブロッキング (抗CD4 Fab) は、全pMHC構築物で活性化閾値を同様に増加させたが、構築物間の相対的関係は変化しなかった (Figure 4F)。このことから、CD4共受容体はpMHCの距離非依存性を説明しないことが示唆された。ZAP-70膜集積は、全pMHC構築物で高値が確認された (SI Appendix, Figure S19B)。この結果は、pMHCがH57-scFVとは異なるTCRトリガーリングメカニズムを持つことを強く示唆している。

高親和性リガンドと生理的pMHCのTCRトリガーリング機序には本質的な差異が存在する: H57-scFV (ドウェルタイム約50分) は、一旦結合すると固定され、TCR-リガンド空間配置がリガンド配置と同一になる。この場合、2つ以上のTCRが20 nm以内に並行して結合する「parallel engagement」が必須である (Figure 5B)。一方、pMHC (ドウェルタイム約1.7秒@RT、約100 ms@37℃) は短い一過性結合が繰り返される。このため、単一孤立pMHCが複数TCRを順次関与させ (serial triggering、最大約200 TCR/pMHC, Valitutti et al. Nature 1995)、近接した2つ以上のTCRをシグナル伝達可能なアセンブリに誘導する「serial engagement」が可能である (Figure 5C)。これが低抗原密度 (1–5 pMHC/細胞) でも高感度T細胞認識が達成される分子的根拠である。

考察/結論

本研究は、DNAオリガミによるナノスケールリガンド制御という方法論的革新を用いて、T細胞活性化における「リガンド配置は関係ない、TCR配置が重要」という重要な原理を実証した。高親和性scFVと生理的pMHCで正反対の空間依存性という結果は、両者の根本的に異なるTCRとの結合様式 (安定 vs 一過性) に起因する。この知見は、Campi et al. JExpMed 2005といった先行研究で示されたTCRマイクロクラスター形成とシグナル伝達の関連性に対し、リガンドの動態が果たす役割の新規な側面を提示する。

先行研究との違い: 本研究は、これまでの研究が高親和性人工リガンドの特性を生理的pMHCに誤って外挿した可能性を明確に示した点で、先行研究と対照的である。特に、Goyette et al. JCellSci 2019Fooksman et al. FrontImmunol 2014が議論してきたTCRクラスタリングの重要性に対し、リガンドの種類によってその空間的要件が異なることを明らかにした。また、Brameshuber et al. NatImmunol 2018が示した単量体TCRによる抗原認識の概念を、リガンドの空間的配置の観点からさらに深化させた。

新規性: 本研究で初めて、DNAオリガミプラットフォームを用いることで、TCRトリガーリングにおけるリガンドの種類に応じた空間的要件の差異をナノメートル精度で制御し、定量的に解明した。単一pMHCが卓越した刺激能を持つという発見は、これまで報告されていない重要な知見であり、生理的条件下でのT細胞の極めて高い感度を説明する分子的根拠を提供する。

臨床応用: 本知見は、CAR (chimeric antigen receptor)-T細胞設計 (scFV/ナノボディタイプのCARとpMHC様トランジェント結合型CARの活性化特性の差異) や抗体薬設計 (双価性・クラスタリングの必要性) に関する基礎的なフレームワークを提供する。特に、低抗原密度でのT細胞活性化を最適化するための臨床応用への道を開く可能性がある。例えば、腫瘍抗原が低発現の場合でもT細胞を効率的に活性化させるためのCAR設計において、リガンドの結合動態を考慮したアプローチの重要性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、37℃におけるpMHCのドウェルタイムがさらに短い状況下での詳細な解析や、in vivo環境でのDNAオリガミプラットフォームの適用可能性が残されている。また、TCR-CD3複合体の四次構造変化がpMHCエンゲージメントに特異的である可能性についても、さらなる研究が必要である。単一pMHCによるシリアルエンゲージメントがどのようにして複数のTCRをシグナル伝達可能なアセンブリに誘導するのか、その詳細な分子メカニズムの解明も今後の重要な課題である。

方法

矩形DNAオリガミプラットフォーム (Small 30×20 nm、Medium 65×54 nm、Large 100×70 nm) をコレステロール修飾オリゴヌクレオチドを介してGPI-ICAM-1 (glycosylphosphatidylinositol-anchored intercellular adhesion molecule-1) /B7-1 (各100分子/μm²) を含む平面支持脂質二重層 (SLB: supported lipid bilayer) に固定した。DNAオリガミは、単価型 (S/M/L) と二価型 (Mdiv/Ldiv) プラットフォームとして設計され、二価ストレプトアビジン (dSA) 経由でビオチン化リガンド (H57-scFV: TCRβ鎖高親和性scFV、半減期約50分;pMHC: IE^k/MCC、半減期約1.7秒) をナノメートル精度で配置した。リガンド間距離δはSmall (約5 nm) 〜Large (60 nm)、二価型で10/20/30 nmに設定した。

T細胞は5c.c7 αβ TCR-transgenicマウスからCD4+ T細胞を採取し、MCC 88–103ペプチドとIL-2で7日間刺激後に使用した。活性化評価はFura-2 AM Ca²⁺イメージング (Zeiss Axiovert 200M、10分間1 Hz) でリガンド密度-反応曲線を作成し、用量-反応Hillモデルで活性化閾値 (TA) を決定した。ZAP-70膜集積は、T細胞をバイオインターフェースと接触後10分で固定し、α-ZAP-70 AF647で免疫染色 (n>50 cells) により評価した。DNA-PAINT (DNA points accumulation for imaging in nanoscale topography) 超解像顕微鏡 (Nikon Eclipse Ti、Cy3Bイメージャー鎖) でマイクロクラスター内リガンド最近傍距離 (nnd) を測定し、DNAオリガミプラットフォームがリガンドの物理的分離に有効であることを確認した。リガンド密度はシングル分子輝度比で定量した。DNAオリガミの機能化効率は単一修飾部位で約60%、二箇所修飾部位で約40% (2リガンド)、約45% (1リガンド) であった。SLB上でのDNAオリガミの拡散係数はmSA固定H57-scFVの約半分 (Dorigami-scFv ~ 0.25 μm²·s⁻¹, DmSA-scFv = 0.6 μm²·s⁻¹) であった。

統計解析には、活性化閾値の比較にはブートストラップ比検定を、ZAP-70膜集積やリガンド濃縮の比較には中央値のブートストラップ検定を用いた。すべての実験は24℃で実施されたが、一部の実験は37℃でも実施され、同様の傾向が確認された。CD4共受容体の関与を評価するため、抗CD4 Fabを用いたブロッキング実験も行った。