- 著者: Jiajie Hou, Michael Karin, Beicheng Sun
- Corresponding author: Michael Karin (Laboratory of Gene Regulation and Signal Transduction, University of California San Diego, La Jolla, CA, USA); Beicheng Sun (Affiliated Drum Tower Hospital, Nanjing University, Nanjing, China)
- 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-19
- Article種別: Review
- PMID: 33469195
背景
がんは「治癒しない傷」と称されるほど慢性炎症との関連が深く、炎症はがん発生・促進・進行の全段階に関与する。感染性微生物 (HBV/HCV・HPV・H. pylori・EBV) ・化学発癌物質・慢性炎症性疾患などの外因性刺激が慢性炎症を誘発し、腫瘍微小環境 (TME) 内の各種サイトカイン・ケモカイン・増殖因子が腫瘍増殖・血管新生・免疫抑制を促進する。一方、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) を代表とする免疫療法は免疫活性化を介して抗腫瘍効果を発揮するが、免疫抑制性炎症 (pro-inflammatory/immunosuppressive TME) がICI耐性の主要因となることも多いと報告されている (Shalapour & Karin, Immunity 2019)。がんの主要な特徴の一つとして炎症が挙げられており (Hanahan et al. Cell 2011)、腫瘍免疫と腫瘍進化の関連性も深く議論されている (Chen et al. Immunity 2013)。
非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) ・スタチン・メトホルミン等の従来抗炎症薬の疫学的ながん予防効果が示され、さらにIL-1β・IL-6・TGFβ・CSF1R等を標的とする分子標的型抗炎症薬の臨床開発も進んでいる。しかし、これらの抗炎症療法ががんの予防・治療においてどの程度有効であるか、またその分子機序や免疫療法との相乗効果、さらには逆説的な腫瘍促進リスクについては、包括的な理解が未確立である。特に、炎症シグナルの文脈依存的な二面性(抗腫瘍 vs 促腫瘍)に関する知識は依然として不足しており、効果的な臨床応用にはさらなる検討が必要である。
目的
がんの予防と治療に向けた抗炎症療法 (抗感染薬、NSAIDs、スタチン、メトホルミン、サイトカイン標的薬) の最新臨床エビデンス・分子機序・免疫療法との相乗効果・および逆説的な腫瘍促進リスク (perils) を体系的に論じ、今後の臨床応用に向けた方向性を提示する。
結果
抗感染療法によるがん予防効果: B型肝炎ウイルス (HBV) ワクチン接種コホートでは、未接種コホートと比較して肝細胞がん (HCC) 発生率が75%低下した (Chang et al. Gastroenterology 2016)。HBV/HCV感染者への抗ウイルス療法 (ヌクレオシドアナログ・直接作用型抗ウイルス薬) により、HCCリスクは50-80%低下した。ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン (4価) 接種 (10-30歳) により、スウェーデン全国研究では子宮頸がん発生率が94/10万人から47/10万人へと半減した (Lei et al. N Engl J Med 2020)。H. pylori根除 (2週間の広域抗菌薬) により、中国高リスク地域の住民ではH. pylori除菌後22年超で胃がん発生・死亡率が有意に減少した (Li et al. BMJ 2019)。これらの抗感染療法は、慢性炎症を抑制することでがん発生リスクを大幅に低減することが示された (Fig 1)。
NSAIDsのがん予防および治療的意義: 観察研究・RCTのメタ解析により、アスピリンの定期使用は結腸直腸がん (CRC) リスクを27% (45研究)、食道扁平上皮がん (ESCC) リスクを33% (13研究)、胃がんリスクを36% (14研究)、肝胆道がんリスクを38% (5研究)、膵がんリスクを22% (15研究) 低下させることが示された (Bosetti et al. Ann Oncol 2020)。心血管疾患 (CVD) 予防RCT (8試験、n=25,570例) のプール解析では、アスピリン投与群で遠隔転移発生とがん死亡率が減少した (特に腺がん)。診断後のアスピリン使用もCRC・消化管がん死亡率の低減と関連し、特にPIK3CA変異CRCではアスピリン使用後の生存改善が顕著であった (Liao et al. N Engl J Med 2012)。しかし、ASPREE試験 (>65歳健常者、n=19,114) では、アスピリン低用量群でがん転移診断およびがん死亡の増加が報告されており、年齢や出血リスクに基づく個別化の必要性が示唆された (McNeil et al. J Natl Cancer Inst 2020)。セレコキシブなどのCOX2阻害剤は、CRC腺腫の予防に有効性が示されたが、心血管リスクのためルーチン使用は推奨されない (Bertagnolli et al. N Engl J Med 2006)。
スタチンとメトホルミンの抗がん活性: スタチン長期使用 (≥5年) はCRCリスクを50%低下させた (OR 0.50, 95% CI 0.40-0.63)。CRC診断後のスタチン使用はがん特異的死亡率の低下と関連した (HR 0.71, 95% CI 0.61-0.84)。メトホルミン (250 mg/日) は、CRC腺腫・ポリープ再発率を有意に低下させた (RR 0.67, 95% CI 0.47-0.97)。EGFR変異肺がん患者へのEGFR-TKI+メトホルミン追加療法では、PFSが13.1ヶ月 vs 9.9ヶ月 (p=0.03)、OSが31.7ヶ月 vs 17.5ヶ月 (p=0.02) と有意に延長した (Arrieta et al. JAMA Oncol 2019)。機序として、AMPK活性化によるmTORC1抑制やPD-L1リン酸化・分解促進を介したT細胞活性回復 (metformin-AMPK-PD-L1軸) が示唆されている (Cha et al. Mol Cell 2018)。
canakinumab (抗IL-1β抗体) の肺がん予防効果: CANTOS試験 (n=10,061、心血管疾患既往・高感度CRP≥2 mg/L患者) において、canakinumab (300 mg、3ヶ月毎皮下注) は肺がん発生率を67%減少させ (p<0.0001)、肺がん死亡率を77%減少させた (p=0.0002)。150 mg投与でも39%の減少が認められた (Ridker et al. Lancet 2017)。ただし、致死的感染・敗血症がcanakinumab群で高頻度であったため、安全性上の懸念が指摘された。抗IL-1α抗体MABp1は、フェーズI-III試験で忍容性が確認され、オキサリプラチン・イリノテカン耐性進行CRC患者において病勢安定と症状改善が認められた (Hickish et al. Lancet Oncol 2017)。
その他の標的抗炎症療法: 抗IL-6R抗体 (tocilizumab) や抗IL-6抗体 (clazakizumab・siltuximab) は固形腫瘍への単剤効果が乏しいが、CAR-T細胞療法誘発性サイトカイン放出症候群 (CRS) や免疫療法関連有害事象 (irAE) の管理に標準的に使用されている (Shah & Fry, Nat Rev Clin Oncol 2019)。TGFβR1阻害薬galunisertibはPDACで安全性確認され、gemcitabineとの併用で一定の活性が示されたが、有効性は限定的であった。より強力なTGFβ阻害薬やbi-functional抗PDL1-TGFβR2抗体のフェーズI試験が進行中である。抗CSF1R抗体単独での固形腫瘍抗腫瘍活性は限定的だが、CCR2拮抗薬・CCR5拮抗薬との組み合わせでPDAC・CRCにおいて一部客観的奏効が確認された (Nywening et al. Lancet Oncol 2016; Halama et al. Cancer Cell 2016)。CXCR1/2拮抗薬SX-682とペムブロリズマブの併用がメラノーマのフェーズI/II試験で検討されている (Greene et al. Clin Cancer Res 2020)。
免疫療法との協調作用機序: 前臨床データでは、COX2阻害 (アスピリン・セレコキシブ) がPD-1遮断と相乗効果を示すことが示された (Zelenay et al. Cell 2015)。これは、プロスタグランジンE2 (PGE2) がcDC1のNK細胞介在リクルートを抑制する機序で免疫逃避を促進するためであり、COX2阻害によりこの経路が解除される (Bottcher et al. Cell 2018)。メトホルミン (AMPK活性化) は、骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC) のCD39/CD73発現を抑制し、アデノシン産生を阻害することでCD8+ T細胞の抗腫瘍活性を回復させる (Li et al. Cancer Res 2018)。これは卵巣がん患者で確認された。抗血小板薬 (アスピリン・クロピドグレル) は、GARP-TGFβ軸でのT細胞抑制を解除し、T細胞療法を増強することがマウスモデルで示された (Rachidi et al. Sci Immunol 2017)。抗IL-1β抗体と抗HER2抗体 (trastuzumab) の併用は、腫瘍関連マクロファージ (TAM) のIL-1β依存的PD-L1/IDO誘導を阻害し、HER2+乳がんマウスモデルで免疫療法との相乗効果を示した (Su et al. Cell 2018)。これらの機序は、抗炎症剤が単独ではなく、既存の免疫療法と組み合わせることで、より強力な抗腫瘍効果を発揮する可能性を示唆している (Fig 3)。
抗炎症療法の逆説的腫瘍促進リスク (Perils): メトホルミンは、BRAF変異メラノーマにおいて、AMPK活性化がDUSP6分解を誘導し、ERK-VEGFA経路を増強することで、mTORC1経路をバイパスし血管新生を促進するという逆説的な効果を示した (Elgendy et al. Cancer Cell 2019)。mTOR阻害剤 (ラパマイシン) は、脂肪肝HCCモデルでSTAT3活性化を介してHCC進行を加速させた (Zhong et al. Cell 2016)。CSF1R阻害後の持続性マクロファージは、インスリン様成長因子1 (IGF1) を産生し、PI3K経路を介してグリオーマ再発を促進することが報告された (Quail et al. Science 2016)。CCL2阻害中止により、炎症性単球の骨髄保持が解除され、反動的なIL-6/VEGF分泌を介して急速な転移増加 (「リバウンド効果」) が観察された (Bruchard et al. Nat Med 2013)。IL-1βは、免疫応答誘導 (免疫原性細胞死後の樹状細胞によるT細胞プライミング、TH9細胞の抗腫瘍機能) においても不可欠であり、抗IL-1β療法が化学療法誘発性免疫原性細胞死後の抗腫瘍免疫を減弱するリスクがある。また、IL-1βは一次腫瘍の全身炎症応答として骨髄MDSCからのIL-1β産生を介して遠隔転移の間葉-上皮転換 (MET) を抑制する防御的側面も乳がんモデルで示された (Kaplanov et al. Proc Natl Acad Sci USA 2019)。これらの結果は、抗炎症療法の選択と適用において、腫瘍の種類や微小環境の特性を考慮した慎重なアプローチが必要であることを強調している (Fig 4)。
考察/結論
本レビューは、がん促進炎症を標的とする抗炎症療法に関するKarin et al.による包括的な論文であり、従来の抗炎症薬 (アスピリン・メトホルミン・スタチン) の予防的有効性をエビデンスグレード別に体系化し、さらにIL-1β (canakinumab CANTOS試験) やCSF1R阻害等の分子標的抗炎症療法の臨床開発状況を網羅した。
先行研究との違い: これまでの研究でアスピリンのCRC予防効果は示されていたが、本レビューはそれを消化管全がん種に拡張し、PIK3CA変異・COX2発現・PD-L1低値などの応答予測バイオマーカーの存在を強調した点で、先行研究と異なり、より詳細な患者層別化の可能性を示唆した。また、抗炎症療法が免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) との併用により相乗効果を発揮する具体的な分子機序を詳細に解説した点は、これまでのレビューと比較して新規性が高い。
新規性: canakinumabの肺がん予防効果 (-67%発生率、-77%死亡率) はCANTOS試験の副次解析という性質上確証性は低いものの、炎症抑制を通じたがん予防という概念の有望性を示す最初の大規模臨床的証拠であり、新規の治療戦略として注目される。メトホルミンのAMPK活性化を介したPD-L1リン酸化・分解という直接的なICI相乗効果機序は、代謝リプログラミングと免疫療法の接点として本研究で初めて詳細に議論された。さらに、抗炎症剤が腫瘍微小環境 (TME) 内の多様な細胞(TAM、MDSC、CAF、血小板など)に与える影響と、それらが抗腫瘍免疫に及ぼす影響を包括的に分析した点も新規である。
臨床応用: 本知見は、抗炎症療法ががんの予防・遅延、既存治療や次世代免疫療法の効果改善に繋がる可能性を示唆しており、臨床応用への大きな含意を持つ。特に、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法は、免疫抑制性TMEを改善し、治療抵抗性を克服する上で臨床的有用性が高いと考えられる。炎症性バイオマーカーに基づいた個別化医療の導入は、治療効果の最大化と副作用の最小化に貢献する可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 炎症性バイオマーカー (CRP・IL-6・腸内細菌叢) に基づく抗炎症療法の応答予測、(2) ICIとの最適組み合わせ戦略の前向き試験、(3) 年齢・代謝状態・マイクロバイオームを考慮したパーソナライズされた抗炎症レジメンの開発が残されている。また、メトホルミンのBRAF変異メラノーマでの腫瘍促進やIL-1β遮断による免疫応答抑制といった逆説的なperilsは、炎症シグナルの文脈依存的二面性を示しており、バイオマーカー選択や患者層別化なしの抗炎症単剤療法の限界を浮き彫りにする。これらのlimitationを克服するためには、統合的なマルチオミクス解析やシングルセル解析を用いた、より深い作用機序の理解が必要である。
方法
本研究は、がん促進炎症を標的とする抗炎症療法に関する包括的なレビューである。PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて、関連する臨床試験、疫学研究、前臨床研究を検索した。検索キーワードには、「cancer-promoting inflammation」、「anti-inflammatory therapy」、「cancer prevention」、「immunotherapy」、「NSAIDs」、「statins」、「metformin」、「IL-1β」、「IL-6」、「TGFβ」、「CSF1R」などを用いた。検索期間は論文発行時点までとし、特に大規模なランダム化比較試験 (RCT) やメタアナリシスからのエビデンスを重視した。各治療法の効果、安全性、作用機序、および免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) との併用可能性について詳細に分析した。また、抗炎症療法が潜在的に持つ腫瘍促進リスクについても、関連する前臨床および臨床データを収集し、その分子メカニズムを考察した。エビデンスの質は、ClinicalTrials.govデータベースに登録された試験の結果に基づき、体系的に評価された。統計手法の具体的な記述はレビューの性質上省略されるが、引用された各研究では、カプラン・マイヤー曲線を用いた生存解析やCox回帰分析などの適切な統計手法が用いられている。本レビューは、既存の知識を統合し、新たな治療戦略の方向性を示すことを目的とした。