- 著者: Simon J. Hogg, Paul A. Beavis, Mark A. Dawson, Ricky W. Johnstone
- Corresponding author: Ricky W. Johnstone (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne, Victoria, Australia)
- 雑誌: Nature Reviews Drug Discovery
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 32929243
背景
エピジェネティックな調節は、がん細胞の転写プログラムを制御するだけでなく、腫瘍免疫微小環境 (TME) の形成にも深く関与することが明らかになっている。DNAメチル化酵素 (DNMT)、ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)、エンハンサー・オブ・ゼスト・ホモログ2 (EZH2) などのポリコーム抑制複合体2 (PRC2)、リジン特異的脱メチル化酵素1 (LSD1)、SETドメインタンパク質1 (SETDB1) といった主要なエピジェネティック調節因子は、腫瘍細胞自体の免疫原性(主要組織適合性複合体クラスI (MHC-I) 発現、ネオ抗原提示、ウイルス模倣経路)および免疫細胞(CD8陽性T細胞、ナチュラルキラー (NK) 細胞、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL)、制御性T細胞 (Treg))の機能状態を制御する。
近年、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) はがん治療に革命をもたらしたが、多くの患者がICBに非応答性であるか、治療後に耐性を獲得することが課題として残されている。この非応答性や耐性の背景には、腫瘍細胞によるエピジェネティックな免疫逃避機構が深く関与していることが示唆される。例えば、腫瘍細胞における抗原提示機構の抑制や、TMEにおける免疫抑制性細胞の増加などが挙げられる。
これまでの研究では、エピジェネティック薬が腫瘍細胞に直接的な抗がん作用を持つことが主に注目されてきたが、その免疫調節作用については十分に理解が進んでいない部分が未解明である。特に、エピジェネティック薬が腫瘍の免疫原性を高め、抗腫瘍免疫細胞の機能を回復させる分子メカニズムの全体像は不足しており、ICBとの併用療法を最適化するための機序ベースの戦略的枠組みが課題として残されている。例えば、Galon et al. Science 2006やSchreiber et al. Science 2011は免疫細胞の浸潤と予後の関連性や、免疫系によるがんの監視機構を示したが、エピジェネティックな制御がこれらのプロセスにどのように影響するかは詳細に検討される必要があった。また、Dawson et al. Cell 2012はがんのエピジェネティクスと治療について包括的にレビューしたが、免疫応答との具体的な連携についてはさらなる深掘りが求められていた。
目的
本レビューの目的は、DNAメチル化酵素阻害薬 (DNMTi)、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬 (HDACi)、エンハンサー・オブ・ゼスト・ホモログ2 (EZH2)/ポリコーム抑制複合体2 (PRC2) 阻害薬、リジン特異的脱メチル化酵素1 (LSD1) 阻害薬、ブロモドメインおよびエクスターミナル (BET) 阻害薬を含む主要なエピジェネティック薬が、腫瘍の免疫原性および抗腫瘍免疫細胞機能に与える影響を分子レベルで体系的に整理することである。さらに、これらのエピジェネティック薬と免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) との組み合わせ戦略の理論的根拠、前臨床および臨床開発状況、そして今後の方向性を提示し、がん免疫療法の効果を最大化するための新たな治療戦略を構築する基盤を提供することを目指す。
結果
DNAメチル化酵素阻害薬 (DNMTi) によるウイルス模倣 (viral mimicry) 機序とI型インターフェロン (IFN) 応答の誘導: 5-アザシチジン (5-Aza) やデシタビンなどのDNAメチル化酵素阻害薬 (DNMTi) は、DNAメチル化を広範に抑制し、通常はメチル化によってサイレンシングされている内在性レトロウイルス (ERV) の転写を脱抑制する。再発現したERV由来の二本鎖RNA (dsRNA) は、レチノイン酸誘導性遺伝子I (RIG-I) やメラノーマ分化関連タンパク質5 (MDA5) などのパターン認識受容体によって認識される。これにより、ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達タンパク質 (MAVS)/インターフェロン制御因子7 (IRF7)/核内因子カッパB (NF-κB) シグナル経路が活性化され、I型インターフェロン (IFNα/β) の産生が誘導される (viral mimicry状態) (Fig. 2)。このI型IFN応答は、主要組織適合性複合体クラスI (MHC-I) 経路の増強、ケモカインC-X-Cモチーフリガンド9/10 (CXCL9/CXCL10) 分泌、ナチュラルキラー (NK) 細胞および細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) の活性化、抗原クロスプレゼンテーション能の向上を通じて抗腫瘍免疫を増強する。例えば、5-AzaとクラスI/IIヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害薬エンチノスタットの併用は、抗PD-1抗体および抗CTLA-4抗体との組み合わせで、乳腺癌および非小細胞肺癌 (NSCLC) の前臨床モデルにおいて治療活性の増強を示した (Table 1)。また、SETドメインタンパク質1 (SETDB1) ヒストンH3リジン9トリメチル化 (H3K9me3) 酵素はERVをH3K9me3修飾によりサイレンシングする主要因子であり、腫瘍細胞でのSETDB1欠損がERV発現、dsRNA産生、MDA5活性化、I型IFN応答、T細胞浸潤増加、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) 感受性向上をもたらすことが報告されている。DNAメチル化酵素3A (DNMT3A) 変異を有する急性骨髄性白血病 (AML) 細胞では、5-Azaへの感受性が高く、ERV再活性化がより顕著であり、I型IFN応答遺伝子の発現が約2.5倍増加したとの報告もある。Chiappinelli et al. Cell 2015は、DNMT阻害がERV再活性化を介してI型IFN応答を誘導するメカニズムを詳細に解明した。
ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬 (HDACi) によるNK細胞リガンド誘導と抗原提示機構 (APM) 増強: ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬 (HDACi) はヒストンアセチル化を亢進させ、複数の免疫関連遺伝子の転写を活性化する (Fig. 3)。特に、ナチュラルキラー細胞活性化受容体NKG2Dリガンド (MHCクラスI関連鎖A (MICA)、MHCクラスI関連鎖B (MICB)、UL16結合タンパク質1-3 (ULBP1-3)) のHDACi依存的なアップレギュレーションがNK細胞認識と殺傷を増強することが示されている。また、抗原提示機構 (APM) コンポーネント (トランスポーター関連抗原提示タンパク質1 (TAP1)、トランスポーター関連抗原提示タンパク質2 (TAP2)、低分子量プロテアソームサブユニット2 (LMP2)、低分子量プロテアソームサブユニット7 (LMP7)) および抗原提示分子 (β2-ミクログロブリン (β2M)、MHC-I) の転写増強により、CD8陽性T細胞認識が向上する。臨床試験では、エンチノスタット (クラスI HDACi) とペムブロリズマブ (抗PD-1抗体) の併用療法が、抗PD-1耐性メラノーマ患者において約20%の客観的奏効率 (ORR) を示した (Table 1)。ロミデプシンとペムブロリズマブの併用試験もNSCLCやホジキンリンパ腫で進行中である。HDACiは制御性T細胞 (Treg細胞) の選択的枯渇(Forkhead box P3 (FOXP3) 陽性Treg細胞への選択的プロアポトーシス効果)も引き起こし、抗腫瘍免疫増強に寄与する機序として注目される。しかし、HDACiは免疫細胞 (CTL、NK細胞) にも細胞毒性を持ちうるため、投与タイミングや用量の最適化が重要である。前臨床モデルでは、HDAC阻害薬の有効性が免疫不全マウスや免疫細胞枯渇マウスで低下することが示されており、その作用機序に免疫依存的な要素があることが示唆される。
エンハンサー・オブ・ゼスト・ホモログ2 (EZH2)/ポリコーム抑制複合体2 (PRC2) 阻害によるMHC-Iおよびケモカインの二重サイレンシング解除: エンハンサー・オブ・ゼスト・ホモログ2 (EZH2) (ポリコーム抑制複合体2 (PRC2) 複合体の触媒サブユニット) は、ヒストンH3リジン27トリメチル化 (H3K27me3) 修飾を介してMHC-I遺伝子座、MHC-II (一部)、ケモカインC-X-Cモチーフリガンド9 (CXCL9)、ケモカインC-X-Cモチーフリガンド10 (CXCL10)、NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有タンパク質5 (NLRC5) (MHC-I transactivator) の転写を直接抑制し、腫瘍免疫原性を多層的に低下させる (Fig. 3)。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) および小細胞肺癌 (SCLC) では、EZH2の変異や過剰発現がβ2MおよびHLA-I発現の低下と関連することが報告されている。前臨床モデルでは、抗CTLA-4 (細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4) 投与後に腫瘍壊死因子アルファ (TNF-α) シグナルを介してEZH2発現が上昇し、MHC-I発現が低下するという「適応型免疫逃避」が生じることが示された。この場合、EZH2阻害が抗CTLA-4耐性を克服することが可能であった。神経芽腫においてもEZH2がMHC-I発現を抑制し、EZH2阻害と免疫療法の併用で抗腫瘍効果が得られている。EZH2阻害薬タゼメトスタットはEZH2変異DLBCLおよび類上皮肉腫に承認されており、ICBとの組み合わせが現在評価中である (Table 1)。EZH2阻害は、NK細胞のナチュラルキラー細胞活性化受容体NKG2D発現を増加させ、腫瘍細胞上のNKG2Dリガンド (NKG2DL) 発現も増強する可能性があり、NK細胞による殺傷を促進する (Fig. 4a)。
リジン特異的脱メチル化酵素1 (LSD1) 阻害によるERV再活性化とI型IFN応答: リジン特異的脱メチル化酵素1 (LSD1) はヒストンH3リジン4モノメチル化/ジメチル化 (H3K4me1/me2) およびヒストンH3リジン9ジメチル化 (H3K9me2) を脱メチル化し、エンハンサー活性化と転写調節に関与する。LSD1阻害によりSETDB1活性が低下し、ERVがヒストンH3リジン9トリメチル化 (H3K9me3) サイレンシングから解放されてdsRNA産生、ひいてはI型インターフェロン (I型IFN) 産生が誘導される (DNMT阻害と同様のviral mimicry) (Fig. 2d)。LSD1阻害薬SP-2509と抗PD-1抗体のマウスモデルでは、協調的な抗腫瘍効果が報告された。LSD1は赤白血病や胃がんなどでも免疫逃避と関連しており、LSD1阻害はCXCL9、CXCL10、ケモカインC-Cモチーフリガンド5 (CCL5) などのT細胞ケモカインおよびPD-L1の発現を調節することが示されている。LSD1阻害によりCD8陽性T細胞のTMEへの浸潤が増加し、LSD1阻害薬と抗PD-1抗体の併用は単剤療法と比較して抗腫瘍応答を増強した。
ブロモドメインおよびエクスターミナル (BET) 阻害薬によるPD-L1抑制と抗腫瘍免疫増強: ブロモドメインおよびエクスターミナル (BET) タンパク質は、アセチル化リジン残基を認識するエピジェネティックリーダーであり、活性エンハンサーやプロモーター領域に豊富に存在し、RNAポリメラーゼII (Pol II) 依存的な転写を正に制御する。BET阻害薬は、MYC癌遺伝子 (MYC) などの癌遺伝子の転写を抑制することで抗腫瘍効果を発揮する。前臨床モデルでは、BET阻害薬の抗腫瘍活性に宿主免疫系が関与することが示されており、B細胞リンパ腫、卵巣癌、メラノーマの同系マウスモデルにおいて、BET阻害薬の抗腫瘍活性には適応免疫が必要であることが示された。BETタンパク質は、免疫チェックポイントリガンドであるPD-L1およびPD-L2の転写に必要であり、BET阻害はPD-L1発現を抑制する。例えば、プロトタイプBET阻害薬JQ1は、インターフェロンガンマ (IFNγ) 誘導性のPD-L1発現を抑制することが示された。また、BET阻害薬は多発性骨髄腫においてNK細胞活性化NKG2Dリガンドの発現を増加させ、NK細胞による腫瘍細胞殺傷感受性を高める可能性も示唆される。BET阻害薬は、抗PD-1抗体やアゴニストCD137 (4-1BB) 抗体との併用で相乗効果を発揮することが報告されている。KRAS遺伝子 (KRAS) 変異NSCLCモデルでは、JQ1が抗PD-1療法の活性を増強し、CD4陽性FOXP3陽性制御性T細胞 (Treg細胞) 浸潤の減少と相関した。
エピジェネティック薬によるCD8陽性T細胞機能回復と疲弊の再プログラミング: 腫瘍内CD8陽性T細胞は、慢性的な抗原刺激によりエピジェネティックな疲弊プログラム(TOX、NR4A転写因子を介した疲弊特異的クロマチン状態)を獲得する。DNMT1の発現はTME内のCD8陽性T細胞で増加し、T細胞機能不全に関連する遺伝子のメチル化を増加させることで、抗腫瘍表現型を抑制する。低用量のデシタビンによるDNAメチル化酵素3A (DNMT3A) 阻害は、T細胞の疲弊関連DNAメチル化プログラムを再プログラミングし、T細胞因子7 (TCF7) 発現、幹細胞性、自己更新能を回復させることが前臨床で示された。ten-eleven translocation 2 (TET2) 欠損キメラ抗原受容体T細胞 (CAR-T細胞) では、DNAメチル化の低下により疲弊耐性および持続的な抗腫瘍活性の増強が示された。これらの知見は、エピジェネティック薬がCD8陽性T細胞の分化と疲弊を制御し、ICBへの応答性を高める可能性を示唆する (Fig. 5)。
エピジェネティック薬によるNK細胞機能の調節: NK細胞の細胞傷害性機能は、DNAメチル化やヒストン修飾によって調節される。5-Azaで処理されたNK細胞は、エフェクター機能の増強を示す。EZH2阻害は、NK細胞のナチュラルキラー細胞活性化受容体NKG2D発現を増加させ、in vitroでの細胞傷害性活性を増強する。また、EZH2阻害は腫瘍細胞上のNKG2Dリガンド (NKG2DL) もアップレギュレートし、NK細胞による殺傷を促進する可能性がある (Fig. 4a)。しかし、EZH2阻害がNK細胞の活性化を抑制するMHC-I発現も増加させるため、全体的な効果は複雑である。パノビノスタットによるクラスI/II/IV HDAC阻害は、CXCL9/CXCL10の発現増強を介してNK細胞の腫瘍へのリクルートメントを促進し、ヒト上皮成長因子2陽性 (HER2+) 乳腺腺癌に対するNK細胞介在性応答を増強した。
エピジェネティック薬によるTreg細胞機能の調節: 制御性T細胞 (Treg細胞) はTMEにおける主要な免疫抑制性細胞であり、その機能はエピジェネティックな制御に依存する。Forkhead box P3 (FOXP3) 遺伝子の発現と安定性は、Treg細胞特異的脱メチル化領域 (TSDR; 保存された非コード領域2 (CNS2)) のメチル化状態に強く依存する (Fig. 4c)。5-AzaによるTreg細胞の処理はFOXP3発現を増加させるが、その免疫抑制機能は低下し、プロ炎症性サイトカインの産生が増加する。これは、TSDR以外のグローバルなエピジェネティック再プログラミングの結果であると考えられる。クラスI HDAC阻害薬エンチノスタットは、シグナル伝達兼転写活性化因子3 (STAT3) 活性/アセチル化の増強とFOXP3発現の低下を介して、腫瘍担持マウスにおけるTreg細胞活性を減少させ、抗腫瘍免疫を増強した。EZH2阻害薬CPI-1205は、腫瘍内Treg細胞機能を抑制し、よりインターフェロンガンマ (IFNγ) 産生性のTヘルパー1 (Th1) 細胞様表現型へと転換させ、CD8陽性T細胞の流入と強力な抗腫瘍免疫応答をもたらすことが前臨床モデルで示された (Fig. 4e)。
臨床開発における組み合わせ戦略: エピジェネティック薬とICBの組み合わせには、複数の戦略的相乗効果が存在する (Table 1)。
- DNMT阻害薬の低用量投与による免疫原性回復とPD-1遮断。
- EZH2阻害薬と抗CTLA-4抗体による耐性克服。
- HDAC阻害薬と抗PD-1抗体による疲弊T細胞の再活性化。
- LSD1阻害薬とICBによるERV再活性化。 エンチノスタットとペムブロリズマブの第II相臨床試験では、抗PD-1既治療メラノーマ患者において約20%の客観的奏効率 (ORR) が示され、エピジェネティック薬がICB後進行患者にも活性を持ちうることを実証した。多数のDNMT阻害薬、HDAC阻害薬、EZH2阻害薬、LSD1阻害薬、BET阻害薬とICBの併用療法が、AML、NSCLC、結腸直腸癌 (CRC)、メラノーマ、卵巣癌、頭頸部癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL)、末梢性T細胞リンパ腫 (PTCL) など多様な癌種で臨床試験中である。
考察/結論
本レビューは、ポリコーム抑制複合体2 (PRC2) (エンハンサー・オブ・ゼスト・ホモログ2 (EZH2))、DNAメチル化酵素 (DNMT)、ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)、リジン特異的脱メチル化酵素1 (LSD1)、SETドメインタンパク質1 (SETDB1) といった主要なエピジェネティック調節因子が、腫瘍の免疫逃避をいかに制御するかを分子機序と前臨床・臨床エビデンスの両面から体系的に整理し、エピジェネティック薬と免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) の組み合わせに向けた機序ベースの枠組みを提示した点に新規の貢献がある。
先行研究との違い: これまでの研究では、エピジェネティック薬の抗腫瘍効果は主に腫瘍細胞への直接的な細胞毒性に起因すると考えられてきた。しかし、本レビューは、DNAメチル化酵素阻害薬 (DNMTi)、SETDB1欠損、LSD1阻害が内在性レトロウイルス (ERV) 再活性化を介した二本鎖RNA (dsRNA)-メラノーマ分化関連タンパク質5 (MDA5)/ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達タンパク質 (MAVS)-I型インターフェロン (I型IFN) 経路(viral mimicry)という統一的な機序を通じて免疫調節活性を発揮することを明確に示した点で、これまでの理解を深めるものである。また、EZH2が主要組織適合性複合体クラスI (MHC-I) のみならず腫瘍浸潤ケモカイン (ケモカインC-X-Cモチーフリガンド9/10 (CXCL9/10)) もサイレンシングするという「二重封鎖」機構と、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4 (CTLA-4) 遮断に対する適応型耐性としてのEZH2上昇という知見は、EZH2阻害とICBの組み合わせの理論的根拠を強化する。さらに、DNAメチル化酵素3A (DNMT3A) 阻害による腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 疲弊の再プログラミングは、ICBがすでに疲弊したTILを救出するだけでなく、DNAメチル化プログラム自体を逆転させるという、これまで報告されていない新たな治療戦略を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、エピジェネティック調節因子が腫瘍の免疫原性および抗腫瘍免疫細胞機能に与える影響を詳細にレビューし、免疫療法との併用による抗腫瘍免疫応答強化の戦略的機会を体系的に示した。特に、エピジェネティック薬が腫瘍細胞の免疫原性を高めるだけでなく、ナチュラルキラー (NK) 細胞、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、制御性T細胞 (Treg細胞) などの多様な免疫細胞の機能と分化を直接的に調節するメカニズムを詳細に解説した点は新規である。
臨床応用: 本知見は、ICBに非応答性または耐性を示す患者に対する新たな治療選択肢の開発に直結する臨床応用の可能性を秘めている。エピジェネティック薬とICBの併用療法は、腫瘍の「冷たい」免疫微小環境を「熱い」環境へと転換させ、免疫応答を再活性化する臨床的意義を持つと考えられる。エンチノスタットとペムブロリズマブの併用療法が抗PD-1既治療メラノーマ患者で約20%の客観的奏効率 (ORR) を示したことは、エピジェネティック薬がICB後進行患者にも活性を持ちうることを実証しており、臨床現場での導入が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、以下の点が残されている。
- エピジェネティック薬の免疫増強作用と免疫細胞毒性のバランスを最適化する用量・スケジュール設計。特に、パンHDAC阻害薬はCD8陽性T細胞の細胞傷害性機能を抑制する可能性があり、アイソフォーム選択的HDAC阻害薬の検討が必要である。
- viral mimicry誘導の程度を予測するバイオマーカー(ERV負荷、SETDB1発現、I型IFNシグネチャーなど)の開発。
- EZH2阻害と抗CTLA-4/PD-1の併用療法による耐性克服の前向き試験での実証。EZH2阻害がCD8陽性T細胞の浸潤を促進する一方で、その活性を制限する可能性も考慮し、最適な組み合わせとタイミングを検討する必要がある。
- キメラ抗原受容体T細胞 (CAR-T細胞) や養子免疫療法とDNMTi/HDACiなどのエピジェネティック薬の組み合わせ戦略の最適化。特に、CAR-T細胞の製造プロセスにおいて、エピジェネティック薬によるT細胞の幹細胞様記憶T細胞 (Tscm細胞) 表現型の維持や疲弊耐性の付与が今後の研究の重要な方向性である。
- 単一細胞RNAシーケンス技術などを活用し、エピジェネティック薬が抗腫瘍T細胞応答に与える影響をより高解像度で評価すること。 これらのlimitationを克服することで、エピジェネティック療法と免疫療法の相乗効果を最大限に引き出し、より効果的ながん治療法の開発に繋がることが期待される。
方法
本論文は、エピジェネティックな調節因子が抗腫瘍免疫に与える影響に関する既存の文献を包括的かつ体系的にレビューした総説である。特定の実験方法論は含まれないが、エピジェネティック薬の免疫調節機序、腫瘍免疫原性への影響、および抗腫瘍免疫細胞機能の調節に関する分子レベルの知見を統合した。レビューの対象は、DNAメチル化酵素阻害薬 (DNMTi)、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬 (HDACi)、エンハンサー・オブ・ゼスト・ホモログ2 (EZH2)/ポリコーム抑制複合体2 (PRC2) 阻害薬、リジン特異的脱メチル化酵素1 (LSD1) 阻害薬、ブロモドメインおよびエクスターミナル (BET) 阻害薬といった主要なエピジェネティック薬に焦点を当てた。関連する前臨床研究および進行中の臨床試験のデータを、PubMed、ClinicalTrials.govなどの主要な医学データベースから収集し、分析した。これらのデータは、エピジェネティック薬が腫瘍細胞の免疫原性、抗腫瘍免疫細胞(NK細胞、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、Treg細胞など)の機能と分化に与える影響、および免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) との併用戦略の理論的根拠、開発状況、今後の方向性という観点から統合的に評価された。本レビューは、既存の知見を整理し、エピジェネティック療法と免疫療法の組み合わせによる抗腫瘍免疫応答強化の可能性を強調することを目的としており、新たな実験データは提示していない。