• 著者: Katherine B. Chiappinelli, Pamela L. Strissel, Alexis Desrichard, Huili Li, Stephen B. Baylin, Reiner Strick
  • Corresponding author: Stephen B. Baylin (Johns Hopkins), Reiner Strick (University-Clinic Erlangen)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-08-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26317466

背景

DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤 (DNMTi) である5-azacytidine (Aza) と5-aza-2’-deoxycytidine (Dac; decitabine) は、骨髄異形成症候群 (MDS) に対してFDA承認された癌治療薬である。これらのシチジンアナログはDNAに取り込まれてDNMTの触媒活性を阻害・分解し、異常プロモーターDNAメチル化を逆転させて沈黙した腫瘍抑制遺伝子を再発現させるほか、アポトーシス・細胞周期・幹細胞機能を含む癌シグナル経路に変化をもたらすことが知られている (Issa, 2005; Matei et al., 2012)。低用量では細胞毒性を回避しながら細胞のリプログラミングと腫瘍形成能の低下が見られることが報告されている (Tsai et al., 2012)。

先行研究において、著者らのグループはAzaが非小細胞肺癌 (NSCLC) 細胞においてインターフェロンシグナリング・抗原提示・ウイルス防御経路・PD-L1の表面タンパク質発現を誘導することを示し、300遺伝子からなる「Aza誘導性免疫遺伝子 (AIM)」シグネチャーを定義した (Li et al., 2014; Wrangle et al., 2013)。このシグネチャーの活性化は上皮性卵巣癌 (EOC) とNSCLCで最も顕著であり、高・低発現群への分離が複数の癌種で認められた (Li et al., 2014)。NSCLCの臨床試験では少数の患者がAza後に免疫チェックポイント阻害療法に顕著で持続的な応答を示したが (Wrangle et al., 2013)、DNMTiによる免疫応答誘導の分子機構は未解明であった。

内在性レトロウイルス (ERV) はヒトゲノムの8%以上を占め、DNAメチル化によって通常は正常体細胞で沈黙化されている (Bannert and Kurth, 2004; Tristem, 2000)。一部の癌細胞はERVのDNAメチル化を失いERVを異常に過発現しているが、他の癌細胞はメチル化を維持している (Larsen et al., 2009; Rycaj et al., 2015; Strick et al., 2007; Strissel et al., 2012; Wang-Johanning et al., 2001, 2007)。Azaがメラノーマ・絨毛癌・子宮内膜癌細胞で特定のERV転写物を誘導することが報告されていたが (Laska et al., 2013; Ruebner et al., 2013; Stengel et al., 2010; Strissel et al., 2012)、ERVが実際にAzaの免疫応答誘導機構の一翼を担うかどうかは未検証であり、この点に知識のギャップが残されていた。特に、DNMTiが誘導する免疫応答におけるdsRNA (二本鎖RNA) の具体的な役割や、ERVの脱メチル化とdsRNA形成経路との連関については、これまでの研究では詳細なメカニズムが不足していた。

目的

本研究の目的は、(1) DNMTiが癌細胞においてI型インターフェロン (IFN-I) 応答を誘発する分子機構を解明し、特に細胞質dsRNA (二本鎖RNA) センシング経路の関与を実証することである。(2) ERV (内因性レトロウイルス) の脱メチル化・発現誘導とdsRNA形成経路の連関を明らかにすることを目指した。(3) Viral defense遺伝子シグネチャーとERV発現の複数癌種における臨床的意義・免疫療法応答との相関を示すことを目的とした。(4) 最後に、前臨床マウスモデルでDNMTiと免疫チェックポイント阻害の相乗効果を検証し、新たな治療戦略の可能性を評価することを目指した。

結果

DNMTiによるI型インターフェロン応答の誘導とその特異性: AzaおよびDacは、DKO細胞と同様に4種のEOC細胞株でI型インターフェロン経路遺伝子 (IFNβ1, IRF7, STAT1) と複数のインターフェロン刺激遺伝子 (ISG;IFI16, IFI27, IFI44, IFI44L, MX1, OASL) を誘導した (Figure 1A, 1C, 1D)。この応答は、Aza処理終了後4日目 (day7) から増加し7日目 (day10) にさらに上昇する時間的パターンを示した。carboplatin処理では同様の応答が生じず、DNAメチル化特異的機構の関与が示された (Figure 1B)。媒体を未処理細胞に移すとISG応答が誘導され、これが抗IFNβ抗体でブロックされたことから、分泌されたIFNβが傍分泌的に作用することが確認された (Figure 2B)。TykNu細胞培地中のIFNβタンパク質はELISAで検出・定量され、平均10 pg/mLのIFNβが検出された (Figure 2C)。ruxolitinib (JAK阻害剤) はISG応答を強力に抑制し、抗IFNAR2抗体はISGの転写誘導とAza誘導性のcleaved PARP (アポトーシス指標) 両方を阻止した (Figure 2D, 3A, 3C)。これらの結果はAzaがIFNβ-IFNAR2-JAK/STAT-ISGシグナル軸を活性化することを確立した。

dsRNAがAza誘導性インターフェロン応答の主要トリガー: Aza処理A2780・TykNu細胞の細胞質RNAをHT29細胞にトランスフェクションするとIFNβ1誘導が生じたが、DNA・PolyA- RNA・RNaseIII処理した細胞質RNAではこの誘導が消失した (Figure 3D, 4A)。これはdsRNA成分がAza誘導性免疫シグナルの担い手であることを直接証明した。RNaseH処理ではIFNβ1誘導が消失しなかったため、DNA-RNAハイブリッドは主要なトリガーではないことも示された (Figure S4A)。AzaはTLR3・MDA5・RIG-Iのタンパク質レベルを増加させた (Figure 4B)。TLR3とMAVSのノックダウンはAzaによるIFNβ1・IFI44・IFI44L・IFI27の誘導をそれぞれ約2倍低下させた (p < 0.05) が (Figure 4C, 4D)、STINGノックダウンでは効果がなかった。A2780 cellsにおいてTLR3およびMAVSのノックダウンはIFNβ1、IFI44、IFI44L、IFI27の誘導を約2-fold低下させた (p < 0.05)。TykNu cellsにおいてもTLR3およびMAVSのノックダウンはこれらの遺伝子応答を著しく減弱させた (Figure S4C)。アルカリフォスファターゼ処理はIFNβ1誘導を消失させなかったため、RIG-Iの活性化に必要な5’トリリン酸基を持つRNAは主要な貢献因子ではないと判断された (Figure S4D)。これらの結果は、AzaがdsRNAセンシング経路を介してインターフェロン応答を誘導することを示唆する。

ERVの脱メチル化と誘導発現がdsRNA応答を活性化: AzaおよびDac処理により3種のEOC細胞株で複数のERV遺伝子転写物が有意に増加した (Figure 5A, 5B)。22種のfull-length env遺伝子分子数がday7 (ISG発現のピーク時) に増加し、特にenv-Fc2が顕著な上昇を示した。A2780細胞ではenv-Fc2プロモーターのDNA脱メチル化がAza処理と相関し発現増加と連関していた (Figure 6B, 6C)。TASA-TD法による解析では、Syncytin-1と5種のenv-Fc2遺伝子座でセンスとアンチセンス転写物の双方向転写が確認された (Figure 5C)。TykNu細胞でenv-Fc2アンチセンス転写物はセンス転写物の6.69-foldに達し、このようなセンス/アンチセンスRNAはdsRNAを形成しうる。ERVのタンパク質レベルはAza処理後に増加せず (RNA転写物のみが増加)、dsRNA経路を介したシグナル伝達における転写物の役割を支持する (Figure 6D)。ERV-3・EnvW2・Syncytin-1の過剰発現は、Azaと同じインターフェロン遺伝子 (IFNβ1・IFI27・IFI44L) を誘導し、Aza誘導量よりも多い場合が多かった (Figure 6E)。19例の原発性EOCにおいて、22種のERV env遺伝子分子数の基礎発現レベルとviral defense遺伝子発現が有意に相関した (ERV高発現群10例 vs. 低発現群9例の間でISG発現の有意差を確認、p=0.000141) (Figure 7A)。

TCGA複数癌種でのViral defense遺伝子による腫瘍分類と免疫療法応答との相関: Aza誘導性viral defense遺伝子の基礎発現レベルは原発性EOC・乳がん・大腸癌・NSCLCおよびメラノーマにおいてTCGAデータで高・低発現群に分離した (Figure 7B, S7C-S7F)。EOCでは高・中・低発現群が区別され、TCGAのImmune reactive (IMR) サブタイプ (良好予後) は高・中群にほぼ包含され、Proliferative (PRO) サブタイプ (不良予後) は低群に集中した (p<0.001〜0.0001)。CIMP陽性 (高DNAメチル化頻度表現型) 右側大腸癌の大半が高・中間群に属し、高変異負荷を示すこれらが免疫チェックポイント療法に良好応答することと整合する (Le et al. NEnglJMed 2015)。

メラノーマ患者での抗CTLA-4療法応答との相関と前臨床効果: 抗CTLA-4治療を受けたメラノーマ患者の腫瘍RNA-seqデータで、Viral defense遺伝子シグネチャーの高発現は持続的臨床ベネフィット (CR・PRまたはPFS>6ヶ月) と有意に関連していた (Figure 7C, 7D)。高viral defense発現は高変異負荷とも相関した (Snyder et al. NEnglJMed 2014; Rizvi et al. Science 2015)。前臨床B16-F10マウスメラノーマモデルでは、低用量Azaの複数スケジュールと抗CTLA-4の組み合わせが腫瘍応答を有意に増強し (Figure 7E, 7F)、Aza処理後B16細胞を注射し抗CTLA-4で治療したn=10 miceでは腫瘍が完全に消退した (data not shown)。

考察/結論

本研究はDNMTiがERVを含むdsRNAの発現を誘導して「viral mimicry」機構を活性化し、癌細胞に抗ウイルス免疫応答を誘導するという統一的な分子機序を確立した画期的な論文である。

先行研究との違い: 先行研究でDNMTiが免疫遺伝子を誘導することは知られていたが (Li et al., 2014; Wrangle et al., 2013)、本研究はその主要機構がdsRNAセンシング経路 (特にTLR3とMAVS) であり、ERV転写物 (特に双方向転写産物) がdsRNAの主要供給源の一つであることを初めて実証した。STINGノックダウンで免疫応答が変わらなかったことから、細胞質DNAセンサーよりRNAセンサーが主役であることが確立された点で、これまでの知見と異なっている。

新規性: 本研究で初めて、DNMTiがERVの脱メチル化と双方向転写を誘導し、これが細胞質dsRNAセンサーを介したI型インターフェロン応答のトリガーとなることを新規に同定した。この「viral mimicry」という概念は、エピジェネティック療法が癌免疫を活性化する新たなメカニズムとして、これまで報告されていないものであった。

臨床応用: 本知見は、エピジェネティック療法が免疫応答を「プライミング」して免疫チェックポイント阻害の効果を増強する分子的根拠を初めて提供した。この知見は「immune evasion」パターン (viral defense signature低発現) を示す癌患者がDNMTi前処置により免疫療法への感受性を獲得しうる可能性を示唆し、複数の大規模臨床試験 (NSCLCなど) の実施根拠となった。また、viral defense signaturesとERVの基礎発現レベルが免疫療法応答の潜在的バイオマーカーとなりうることを示し、臨床現場での患者選択の精緻化に貢献する可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、NSCLCやEOCにおけるDNMTi + 免疫チェックポイント阻害の組み合わせの有効性は、当時進行中の臨床試験での検証が必要とされており、本研究発表時点では第I/II相段階であった。以降の臨床試験データは概して奏効率の適度な改善を示したが、viral defense signature低発現患者への選択的適用による患者選択の精緻化が今後の課題である。ERVに加えてAlu要素など他のnoncoding RNAが免疫応答に貢献する可能性、dsRNA生成における他のゲノム要素の役割、そして腫瘍選択圧によるviral mimicry機構の回避 (ERVのre-silencingなど) も重要な未解決問題として残る。本研究が提案したviral mimicryの概念は、癌治療におけるエピジェネティック療法と免疫療法の組み合わせの可能性を大きく広げるものであり、今後のさらなる研究が期待される。

方法

主要な実験系として、4種の卵巣癌 (EOC) 細胞株 (A2780, Hey, TykNu, Kuramochi) とDNMT1/DNMT3Bダブルノックアウト (DKO) HCT116大腸癌細胞株を用いた。細胞はAza 500 nM (72時間処理 + 4〜7日間休薬)・Dac 100 nM・carboplatin (陰性対照) で処理した。Aza/Dac誘導性遺伝子変化はマイクロアレイとqRT-PCRで評価した。

dsRNAセンシング経路の関与を検証するため、TLR3・MAVS (Mitochondrial antiviral-signaling protein)・STING (Stimulator of interferon genes) のshRNAノックダウン、抗IFNβ抗体・抗IFNAR2 (Interferon alpha and beta receptor subunit 2) 抗体・JAK阻害剤ruxolitinib・IL-10Rβ抗体を用いた阻害実験を実施した。dsRNAの直接的役割は、Aza処理細胞の細胞質RNA画分をRNaseIII (Ribonuclease III) で処理した後HT29大腸癌細胞にトランスフェクションし、IFNβ1誘導能を測定する実験で検証した。RNaseH処理も実施し、DNA-RNAハイブリッドの関与を評価した。

ERVの発現変化は、22種のfull-length env・6種のpartial coding env・1種のfull-length gag・2種のpartial coding polを含む31種のERV遺伝子をqRT-PCRで定量し、TASA-TD法でセンス/アンチセンス転写物を定量した。DNA脱メチル化はbisulfite処理後メチル化特異的PCR (MSP) とCOBRAで確認した。

TCGA (The Cancer Genome Atlas) データを用いてEOC・乳がん・大腸癌・NSCLC・メラノーマの複数癌種でviral defense遺伝子の発現分類を実施した。メラノーマ患者の抗CTLA-4療法応答データ (Snyder et al. NEnglJMed 2014、RNA-seq) とviral defenseシグネチャーの相関を解析した。統計解析にはMann-Whitney U検定またはStudent’s t検定を用い、p値0.05未満を有意とした。コンセンサス階層的クラスタリングはWilkerson et al. Bioinformatics 2010を用いて実施した。

マウスmelanoma (B16-F10) モデルでAza + 抗CTLA-4の前臨床効果を検証した (各群n=10 mice、2回の独立実験)。腫瘍増殖は2元配置分散分析 (ANOVA) で評価し、Dunnettの多重比較検定でp値を調整した。