- 著者: Kenneth M. Murphy, Steven L. Reiner
- Corresponding author: Kenneth M. Murphy (Department of Pathology and Immunology, Washington University School of Medicine, St. Louis, MO, USA)
- 雑誌: Nature Reviews Immunology
- 発行年: 2002
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 12461566
背景
CD4+ Tヘルパー細胞(T helper cell)は、抗原提示細胞(APC (antigen-presenting cell))から抗原刺激を受けた後、細胞性免疫を主導するTH1細胞(IFN-γやIL-2を産生)または液性免疫や寄生虫排除を主導するTH2細胞(IL-4、IL-5、IL-13を産生)へと分化し、生体防御応答の方向性を決定する。TH1分化は細胞内病原体に対する宿主防御に不可欠であるが、過剰なTH1応答は多発性硬化症やI型糖尿病などの臓器特異的自己免疫疾患を誘発する (Abbas et al. 1996)。一方、TH2分化はアレルギー性喘息やアトピー性疾患の病態形成に深く関与している。1990年代には、TH1誘導サイトカインであるIL-12やTH2誘導サイトカインであるIL-4が同定され、それらの下流で機能する転写因子(T-betやGATA3)の解析が進められていた (Mosmann et al. 1986, Hsieh et al. 1993)。しかし、これらのサイトカインや転写因子が、どのように協調してヘルパーT細胞の運命を決定し、その細胞系譜をエピジェネティックに固定化するのかという詳細な分子機構は当時未解明であった。特に、T細胞受容体(TCR (T-cell receptor))シグナル、共刺激分子、およびクロマチン構造の動的変化がどのように統合されて安定した細胞系譜を確立するのか、その全容を説明する知見は不足しており、分化決定の初期段階におけるメカニズムに関する課題が残されていた。
目的
本レビューは、CD4+ナイーブT細胞がTH1またはTH2サブセットへと分化するプロセスにおける、転写因子カスケード(T-bet、GATA3、STAT1、STAT4、STAT6、c-MAF)、エピジェネティック制御機序(クロマチンリモデリング、DNAメチル化、ヒストン修飾)、およびサイトカイン誘導(IL-12、IL-4、IL-23、IL-27)の役割を体系的に整理することを目的とする。さらに、分化決定を説明する二つの主要なモデルである「instruction(指令)モデル」と「selection(選択)モデル」を比較検討し、当時の最新知見に基づいてこれらを統合する新たな分化モデルを提示することを目的とする。
結果
TH1分化を駆動するT-betおよびSTAT4シグナル: TH1分化は主にIL-12とIFN-γの二つのサイトカインシグナルにより誘導される。抗原提示細胞から分泌されるIL-12は、IL-12Rβ1/IL-12Rβ2ヘテロ二量体受容体を介してSTAT4 (signal transducer and activator of transcription 4) をリン酸化し、IFN-γ遺伝子の転写を活性化する。IFN-γはIFNGR1/R2→JAK1/JAK2→STAT1経路を活性化し、STAT1がT-bet (T-box transcription factor TBX21 (T-box transcription factor TBX21)) の転写を誘導する。T-betはIFN-γプロモーターを直接活性化するとともに、IL-12Rβ2の転写を維持することでTH1状態を安定化させるポジティブフィードバックループを形成する (Mullen et al. 2001)。T-bet欠損 (KO) マウスから調製したCD4+ T細胞では、IFN-γ産生が野生型と比較して 10-20 fold 減少することが示されている (Szabo et al. 2002) (Figure 3)。また、GADD45β (growth-arrest and DNA-damage-inducible protein beta) およびGADD45γはIL-12→STAT4経路下流でIFN-γ産生のインデューサーとして機能する (Yang et al. 2001, Lu et al. 2001)。新規サイトカインとして、IL-23 (IL-12p40 (interleukin-12 subunit p40)+p19) とIL-27 (EBI3+p28) が同定され、IL-27はSTAT1を介してT-betを誘導することでTH1分化の調節に関与することが示された (Pflanz et al. 2002)。HLX (H2.0-like homeobox 1) はT-betと協働してIFN-γ産生をさらに増強する第二の転写因子として同定された (Mullen et al. 2002) (Figure 7)。
TH2分化を制御するGATA3およびSTAT6シグナル: TH2分化はIL-4→IL-4Rα/γc→JAK1/JAK3→STAT6経路を起点とする。STAT6活性化はGATA3 (GATA binding protein 3) の転写を誘導し、GATA3はIL-4、IL-5、IL-13遺伝子座を含むTH2サイトカインクラスターのクロマチンを再構成して転写を活性化するマスター転写因子として機能する (Zheng and Flavell 1997, Lee et al. 2000)。GATA3をトランスジェニック過剰発現させた場合、TH1誘導条件下でもTH2分化が誘導され、IL-4, IL-5, IL-13産生が 10-20 fold 増加する (Lee et al. 2000) (Figure 2)。c-MAFはIL-4遺伝子プロモーターのMAREに直接結合してIL-4転写を特異的に増強する転写因子であり、c-MAF欠損T細胞ではIL-4産生のみが選択的に低下する (Ho et al. 1996)。MEL18はGATA3発現を転写後に促進し、TH2分化のエピジェネティック安定化に寄与することが報告された (Kimura et al. 2001)。また、STAT6非依存的なTH2分化経路も存在し、CD28共刺激がGATA3発現を増強する可能性や、NF-κBの関与も示唆された (Rodriguez-Palmero et al. 1999, Das et al. 2001) (Figure 4)。
STAT6下流のGFI1によるTH2細胞の増殖優位性: GFI1 (growth factor independence 1) はSTAT6シグナル下流でCD4+ T細胞に発現誘導され、TH2細胞のIL-4依存的クローン増殖 (clonal expansion) に必要であることがGFI1欠損マウスを用いた実験で示された (Zhu et al. 2002)。GFI1欠損T細胞ではIL-4誘導性の増殖に特異的な欠陥が見られ、細胞数は約 50% 減少した。この発見は、IL-4がTH2細胞の選択的増殖を誘導するメカニズムの基盤を提供し、selectionモデルの要素を強化するものであった (Figure 5a)。GFI1はGATA3と協調してTH2細胞の増殖を促進すると考えられ、instructionとselectionの両要素を統合するモデルが提唱された。
エピジェネティック制御:クロマチンリモデリングとMBD2/NuRD複合体: GATA3はTH2サイトカイン遺伝子座(IL-4、IL-5、IL-13クラスター)のクロマチンをDNase I感受性部位の誘導 (chromatin remodeling) により活性化構造に変換する (Ouyang et al. 2000)。MBD2 (methyl-CpG-binding domain protein 2) とNuRD (nucleosome remodelling and histone deacetylase) からなるMBD2-NuRD複合体は、メチル化DNAに結合して転写を抑制する。GATA3はMBD2-NuRD複合体をIL-4遺伝子座から排除することで転写抑制を解除するという脱抑制 (de-repression) 機序が示された (Hutchins et al. 2002)。MBD2欠損細胞ではIL-4発現誘導効率が 5-10 fold 向上し、この脱抑制モデルはTH2分化のエピジェネティック基盤として重要な発見であった (Figure 6)。TH1分化では、T-betがGATA3の転写活性を直接阻害し、IL-4遺伝子座の転写が抑制されることで、逆方向の抑制も成立する。DNAメチル化の除去は、IL-4遺伝子座の転写活性化に先行して起こるクロマチンリモデリングの後期段階で生じることが示され、遺伝子発現の安定化に寄与すると考えられた (Lee et al. 2002)。
FOG-1とROGによる転写後レベルのTH2制御: FOG1 (Friend of GATA-1) とROG (Repressor of GATA) はGATA3と物理的に相互作用し、GATA3の転写活性を抑制する。FOG1はGATA3のN末端Zincフィンガーと結合してTH2サイトカインのGATA3依存的転写を抑制し、FOG1過剰発現によりGATA3依存的なTH2サイトカイン産生が抑制される (Zhou et al. 2001, Kurata et al. 2002)。TH1条件下ではFOG1発現が維持され、GATA3機能を制限することが考えられた。ROGもGATA3結合タンパク質として同定され、その過剰発現はGATA3活性とTH2サイトカイン産生を減少させた (Miaw et al. 2000)。これらの因子は、TH2分化の微調整やTH1環境下でのTH2プログラムの抑制に寄与すると考えられた。
SelectionモデルとInstructionモデル:分化決定の二つの仮説: 当時、ヘルパーT細胞の分化決定には二つの主要な仮説が存在した。(1) Instructionモデル:IL-12またはIL-4シグナルが分化方向を直接指令する (Figure 1)。(2) Selectionモデル:ナイーブT細胞がランダムにTH1/TH2前駆体を生成し、適切な生存サイトカインにより選択的に増殖・拡大される (Figure 5a)。当時の証拠はどちらか一方を完全に支持するものではなく、両モデルが状況依存的に作動する可能性が示唆された。single-cell実験から、ナイーブT細胞の単一クローンからTH1/TH2両方の分化能が観察され (Sad and Mosmann 1994)、TH2前駆細胞(IL-4早期発現細胞)がナイーブ集団内に存在し、IL-4刺激により選択的拡大するというselection要素と、IL-12が未分化細胞にT-bet発現を誘導しTH1プログラムをinstruction的に付与するという要素が混在することが示された。細胞周期の進行は遺伝子サイレンシングに必要であり、分裂しない細胞は多能性を維持することが示唆された (Mullen et al. 2001, Bird et al. 1998)。
IL-12による負のInstruction (TH2サイレンシング): IL-12はT-bet誘導を通じたTH1促進のみならず、GATA3転写の直接抑制を介したTH2サイレンシングという「負のInstruction」機能も持つことが示された (Ouyang et al. 1998)。IL-12+STAT4シグナルがGATA3発現を転写レベルで低下させ、IL-4遺伝子座のDNase I感受性も失われることが報告された。この負のinstructionと正のinstruction(T-bet誘導)の二重機構により、IL-12はTH1分化を促進するとともにTH2分化を能動的に阻止することが示唆された (Figure 5b)。TGF-βもまた、GATA3とT-betの両方の転写をサイレンシングする能力を持つことが示された (Gorelik et al. 2002)。
考察/結論
先行研究との違い: 本レビューは、T-betとGATA3という「マスター転写因子」の概念を免疫分化研究に定着させた2002年時点での包括的体系化論文であり、単なるサイトカイン誘導による分化だけでなく、転写因子、エピジェネティクス、およびselectionとinstructionという分化決定のモデル論争を整理した点が、これまでの研究と対照的であり、重要な貢献である。特に、IL-12がTH1分化を促進するだけでなく、GATA3発現を抑制することでTH2分化を能動的にサイレンシングするという「負のInstruction」の概念は、従来の「IL-12 = TH1促進」という単純な理解を超えた二方向性制御を示し、TH1/TH2バランスがサイトカイン環境によるpositiveとnegativeの両方向の制御から生じることを明確にした。また、細胞周期の進行が遺伝子サイレンシングに不可欠であるという知見は、分化決定が単なるシグナル伝達だけでなく、細胞増殖と密接に連携していることを示唆し、従来の静的な分化モデルと異なり、動的なプロセスとして捉える必要性を提示した。
新規性: 本研究で初めて、GATA3がMBD2/NuRD複合体をIL-4遺伝子座から排除することで転写抑制を解除するという脱抑制モデルを提唱した。これはエピジェネティクスとサイトカインシグナルの接点として当時新規な知見であり、その後のTH2遺伝子座の開放性クロマチン形成機序の解析に発展した。また、GFI1がSTAT6下流でTH2細胞の選択的増殖を担うという発見は、instructionモデルとselectionモデルの融合を示唆するこれまで報告されていないメカニズムとして注目された。さらに、IL-23やIL-27といった新規サイトカインのTH1分化への関与が示唆されたことも、当時の知見を拡張する新規な要素であった。
臨床応用: 本知見は、ヘルパーT細胞の分化制御が感染症、アレルギー、自己免疫疾患の病態に深く関与していることを明確にし、これらの疾患に対する治療戦略開発の基礎となる。特に、がん免疫療法の基礎として、TH1偏向(T-bet高発現CD4+ T細胞)が抗腫瘍免疫に有利であり、腫瘍微微小環境でのTH2偏向が免疫抑制と腫瘍促進に関与するという現代的理解の出発点として、臨床的意義は大きい。T-betやGATA3の活性を標的とすることで、免疫応答のバランスを疾患治療に有利な方向にシフトさせる臨床応用の可能性を示唆する。例えば、アレルギー疾患ではGATA3の抑制、慢性感染症やがんではT-betの活性化が治療戦略として検討される。
残された課題: 2002年時点での残された課題として、TH17、Tfh、Tregなどの新たなヘルパーT細胞サブセットの同定が挙げられたが、これらはその後の10年間で続々と同定され、TH1/TH2二分法を超えた多様なヘルパーT細胞ネットワークとして研究が展開した。また、IL-27やIL-23のTH1分化における正確な作用機序、T-betの自己活性化の有無、およびIL-23が病原体応答と自己免疫応答のどちらに強く関与するのかといった点が今後の検討課題として挙げられた。さらに、in vitroでの知見をin vivoの生理的文脈にどのように適用するか、および抗原提示細胞からT細胞がどのようなinstructionまたはselectionシグナルを受け取るのかについても、今後の研究方向性として重要である。特に、ナイーブT細胞がどのようにして多様な細胞系譜のプロジェニーを生み出すのか、その初期段階の分子メカニズムの解明が今後の課題である。
方法
本レビューは、CD4+ Tヘルパー細胞のTH1/TH2分化決定を制御する転写因子、サイトカインシグナル伝達、およびエピジェネティック機構に関する2002年時点での主要な研究成果を網羅的に収集し、その分子メカニズムを体系的に統合することを目的とした。特定の実験的手法は用いず、既存の文献に基づき、TH1およびTH2細胞の発生における転写およびエピジェネティックなメカニズムを中心に、関連するサイトカインの役割を含めて体系的に解説した。文献検索には PubMed などのデータベースを活用し、T-betやGATA3といったマスター転写因子の同定とその機能的役割、IL-12やIL-4を介したSTAT経路の活性化、クロマチンリモデリングやDNAメチル化といったエピジェネティックな遺伝子発現制御、そしてIL-23やIL-27といった新規サイトカインの関与に焦点を当てて議論した。文献の選択基準(inclusion/exclusion criteria)として、査読付き学術誌に掲載された英文原著論文およびレビューを対象とし、信頼性の高いデータを厳選した。また、分化決定を説明するinstructionモデルとselectionモデルの概念を比較検討し、両者の統合的理解を提示した。さらに、in vitro での分化誘導実験系において汎用されるマウス系統(C57BL/6J や BALB/c)を用いた遺伝子欠損マウス研究のデータを統合し、生理的環境下における分化制御ネットワークを再構築した。本レビューにおけるエビデンスの評価には、定性的な文献レビューの標準的な手法に準じ、各報告の実験デザインや再現性を検証した。