• 著者: Peter J. Peters, Jacques J. Neefjes, Viola Oorschot, Hidde L. Ploegh, Hans J. Geuze
  • Corresponding author: Jacques J. Neefjes (Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, Netherlands); Hidde L. Ploegh (Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, Netherlands)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 1991
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 1847504

背景

T細胞への抗原提示は、MHCクラスI分子が内因性ペプチドを提示する経路と、MHCクラスII分子が外来性ペプチドを提示する経路の二つに大別され、これらの経路の違いは細胞内輸送経路の差異によって厳密に規定される。MHCクラスI分子は小胞体 (ER) でペプチドを結合した後、ゴルジ体 (Golgi) を経由して細胞膜へと輸送される構成的分泌経路を辿ることが、Townsend et al. (1985) や Neefjes et al. (1990) などの先行研究で詳細に示されていた。一方、MHCクラスII分子はインバリアント鎖 (invariant chain) と複合体を形成してERを出た後、外来性ペプチドと会合する特定の細胞内コンパートメントへ向かうと考えられていたが、その具体的な輸送経路や最終的な目的地コンパートメントの性質については、当時まだ未解明な点が多かった。

当時の主要な論争点の一つは、MHCクラスII分子と外来ペプチドの会合が、細胞膜に近い「早期エンドソーム」で起きるのか、あるいはより深部の「後期エンドソーム/リソソーム関連区画」で起きるのかという点であった。Guagliardi et al. (1990) は、EBV形質転換B細胞において早期エンドソームが抗原会合部位であると報告していた。しかし、本研究グループは、ヒトEBV形質転換B細胞株 (JY7細胞株) を用いた超低温免疫電子顕微鏡 (cryoimmuno EM) による詳細な解析を通じて、Guagliardi et al. (1990) とは異なる結論に至る可能性を見出していた。ヒトB細胞株はMHCクラスII分子を大量に発現するため、その細胞内局在を定量的に解析する上で最適なモデル系であると考えられた。MHCクラスII分子の輸送経路と抗原提示部位の特定は、自己免疫疾患、ワクチン開発、移植免疫、HIV感染におけるCD4+ T細胞応答の理解に不可欠な基礎知識であり、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。特に、MHCクラスII分子がリソソーム関連コンパートメントへ輸送されるという仮説は、リソソームが単なる分解の最終ステーションではなく、抗原提示のようなより複雑な細胞プロセスにも関与しうるという、これまでの知見とは異なる新たな機能を示唆するものであり、その検証が強く求められていた。このような背景から、MHCクラスII分子の正確な細胞内輸送経路と抗原提示部位の特定に関する詳細な情報が不足していた。

目的

本研究の目的は、EBV形質転換B細胞 (JY7細胞株) において、MHCクラスI分子とMHCクラスII分子がゴルジ複合体 (Golgi complex) 内のどの段階で輸送経路を分岐するかを、二重免疫金標識法を用いて形態学的に可視化し、その分岐点を明確に同定することである。さらに、MHCクラスII分子が最終的に到達する「MIIC (MHC class II compartment)」と命名されたコンパートメントの生化学的・形態学的性質を詳細に解析することを目指した。具体的には、MIICがリソソーム関連区画であること、エンドサイトーシス経路との接続の時系列、およびMHCクラスII分子がエンドサイトーシスではなくバイオシンセティック経路 (de novo合成経路) でMIICに到達することを定量的に実証する。最終的に、MIICが外来抗原の提示に関与できる解剖学的・機能的根拠を形態学的に確立し、抗原提示におけるリソソームの新たな役割を提唱することを目的とした。

結果

MHCクラスIおよびクラスII分子のトランスゴルジ網 (TGR) における分岐の同定: 二重免疫金標識法による定量解析の結果、MHCクラスII分子の細胞内区画別分布 (金粒子数/5 μm²) は、粗面小胞体 (RER) で4、ゴルジ体で37、TGRで97、MIICで403、エンドソームで8であった。これに対し、MHCクラスI分子はRERで17、ゴルジ体で158、TGRで48、MIICで4、エンドソームで17と分布し、MIICにはMHCクラスI分子がほとんど存在しないことが示された (Table 1)。MIIC内でのクラスIIとクラスIの金粒子数の比は403:4であり、MIICがMHCクラスII分子に選択的な区画であることが定量的に証明された。TGR領域では、直径80-100 nmの電子透過性小胞がMHCクラスII陽性またはMHCクラスI陽性のいずれかとして個別に存在し、同一小胞に両者が共存するケースは観察されなかった。この結果は、TGR膜レベルでMHCクラスI分子とMHCクラスII分子が分別されて輸送されることを形態学的に強く支持するものである (Fig. 1Ad, 2c)。この定量解析は、n=30 cellsの中央細胞プロファイルの電子顕微鏡像から約2,000個の金粒子を計数して行われた。

MIICへのMHCクラスII分子のバイオシンセティック輸送の実証: タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミド (CHX: 100 μg/ml) 処理実験では、タンパク質合成阻害後にMIIC内のMHCクラスII金粒子が経時的に減少することが示された (Fig. 1Ag)。各時点でn=300 cellsのカウントにより、CHX添加後2時間以内にMIIC標識が有意に減少し、最長9時間処理でもMIICからMHCクラスII分子は完全には消失しなかった。これは、CHX処理細胞における細胞内輸送の部分的障害に起因すると考えられる。細胞膜のMHCクラスII標識強度は、CHX添加後少なくとも6時間は一定に維持された。ブレフェルジンA (ER出口阻害薬) 処理でも同様の結果が得られた。これらのデータは、MHCクラスII分子がエンドサイトーシス経路ではなく、バイオシンセティック経路でMIICに到達することを明確に実証した。CHX処理下でMIICのMHCクラスII陽性小胞 (TGR近傍の80-100 nm電子透過性小胞) が2時間以内に消失したことから、これらの小胞はMHCクラスII分子のMIICへの輸送中間体であると位置付けられた。

MIICのリソソーム関連コンパートメントとしての位置付け: MIICは、リソソーム関連膜タンパク質であるLAMP-1 (lysosome-associated membrane protein 1) (++) とCD63 (++) の両方に対して強い標識強度を示した (Fig. 4b, c)。また、リソソーム酵素であるβ-ヘキソサミニダーゼもMIICに存在した (+) (Fig. 4d)。一方、後期エンドソームマーカーであるCI-MPRおよびCD-MPRはMIICにはほとんど検出されなかった (MIICで11粒子/5μm²に対し、後期エンドソームで149粒子/5μm²と約13倍の差があった)。この結果から、MIICは後期エンドソームとは異なるリソソームの近縁区画として位置付けられた。DAMP (弱塩基) を用いた実験では、MIICは中程度の酸性を示し、後期エンドソームやリソソームと比較してやや弱い酸性環境であることが示された (Fig. 5)。各細胞断面あたり平均7個のMIICが存在し、直径は200-300 nmであった。

MIICとエンドサイトーシス経路の接続の時系列プロファイル: 4種類のエンドサイトーシストレーサーを用いた実験では、トランスフェリン (早期エンドソームマーカー、60分間) はMIICに到達しなかった (Fig. 2a)。BSA (60分間) はMIICに3%未満しか検出されなかった (Fig. 2b)。HRP (60分間) はMIICの約50%に到達した (Fig. 2c)。最も精密なカチオン化フェリチン (CF) パルスチェイス実験では、10分間パルス直後 (0分チェイス) にはMIICに到達せず (n=10 cellsで確認)、20分間チェイス後もMIICはほぼ陰性であった。しかし、50分間チェイス後にはMIICの約30%にCFが到達した (Fig. 2h)。この時系列データは、MIICへのエンドサイトーシストレーサーの到達に50分以上を要することを示し、MIICが後期エンドサイトーシス経路の後段に位置することを定量的に実証した。

多胞体 (MVB) との関係: プロテアーゼ阻害剤 (ロイペプチン、アプロチニン、アンチトリプシン) 処理下では、MHCクラスIおよびクラスII分子を含む多胞体 (MVB) が多数観察された (Fig. 1Af)。このMVBでは、MHCクラスIとクラスIIの比率が細胞表面と同様であり、細胞表面分子の分解中間体であると解釈された。これとは対照的に、MIICのMHCクラスII標識強度はプロテアーゼ阻害剤処理によって変化しなかった。この観察は、MIICとMVBが異なるコンパートメントであるものの、密接に関連することを示唆した。また、コーティッドピット (coated pits) の95%以上 (n=1,000 cellsで計数) はMHCクラスI・II陰性であり、MHC分子の自然なエンドサイトーシスは非常に限定的であることも示された。

考察/結論

本研究は、EBV形質転換B細胞 (JY7細胞株) において、MHCクラスII分子がゴルジ複合体内のトランスゴルジ網 (TGR) でMHCクラスI分子と早期に分離し、LAMP-1およびCD63陽性のリソソーム関連コンパートメントであるMIIC (MHC class II compartment) へバイオシンセティック経路で輸送されることを、超低温免疫電子顕微鏡法と定量解析により明らかにした。

先行研究との違い: Guagliardi et al. (1990) が主張した「早期エンドソームが抗原提示部位である」という説に対し、本研究はより厳密な形態学的・定量的解析により、MIICがリソソーム近縁の後期区画であることを示した点で対照的である。カチオン化フェリチン (CF) の時系列データ (10分→20分→50分でMIICへの到達) により、MIICが後期エンドサイトーシス経路の後段に位置することが実証され、外来ペプチドとの会合はリソソーム関連区画で起きるという現在の定説を確立した。

新規性: 本研究で初めて、TGRレベルでのMHCクラスI/II分子の分岐を、金粒子密度の定量データ (MHCクラスII: MIIC=403 vs MHCクラスI: MIIC=4粒子/5μm²) で客観的に証明した。また、シクロヘキシミド (CHX) 処理実験によりMHCクラスII分子のMIICへのバイオシンセティック輸送を実証した点、およびCFの動態解析 (50分で約30%のMIICに到達) によりMIICのエンドサイトーシス系における後期配置を定量的に示した点は、これまで報告されていない新規な知見である。これらの実験的アプローチの組み合わせが、当時の免疫学における根本的な問いに答えるものであった。

臨床応用: 本研究が確立した「MHCクラスII抗原提示はリソソーム関連区画で外来ペプチドと会合する」というモデルは、自己免疫疾患の病態理解、効果的なワクチン設計、移植免疫、およびHIV感染におけるCD4+ T細胞応答の理解の基盤となっている。この基礎科学的知見は、将来的な免疫療法開発や疾患診断への臨床応用において重要な意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、MIICからの細胞表面へのMHCクラスII分子の出口メカニズム、ペプチド結合に必要な分子的要件、および他の抗原提示細胞 (樹状細胞やマクロファージなど) におけるMIIC相当区画の解析が挙げられる。特に、MIICが多胞体 (MVB) と密接に関連するという本研究の示唆は、後年のエクソソーム研究への直接的な橋渡しとなり、MIICがエクソソームバイオジェネシスの中心的な場として再定義されるきっかけとなった。本研究のlimitationとして、MIICからのMHCクラスII分子の排出経路や、ペプチド結合の分子機構に関する詳細な解明が不足している点が挙げられる。

方法

EBV形質転換ヒトB細胞株 (JY7細胞株) を実験モデルとして使用した。細胞は2%グルタルアルデヒドまたは1%アクロレインと2%ホルムアルデヒドの混合液で固定後、超薄クライオセクション (約100 nm厚) を作製した。免疫金標識法では、MHCクラスI分子 (10 nm金粒子) とMHCクラスII分子 (15 nm金粒子) の二重標識を中心に、LAMP-1、CD63、β-ヘキソサミニダーゼ、カテプシンD (cath.D)、CI-MPR (cation-independent mannose 6-phosphate receptor)、CD-MPR (cation-dependent mannose 6-phosphate receptor)、ガラクトシルトランスフェラーゼ (galactosyltransferase) などの複数の細胞内コンパートメントマーカーに対する抗体を用いて多重標識実験を行った。抗体は通常1:500に希釈し、Protein A-金複合体と反応させた。二重または三重標識の場合、金標識後に0.5%グルタルアルデヒドで5分間処理し、非特異的結合を防いだ。

エンドサイトーシス経路の解析には、トランスフェリン (60分間インキュベート)、BSA (ウシ血清アルブミン、60分間インキュベート)、HRP (西洋ワサビペルオキシダーゼ、60分間インキュベート)、およびカチオン化フェリチン (CF: 10分間パルス後、0分、20分、50分チェイス) の4種類のエンドサイトーシストレーサーを使用した。CFはそれ自体が電子密度を持つため、一部のセクションでは酢酸ウラニルによるコントラスト染色を行わなかった。

MHCクラスII分子のMIICへのバイオシンセティック輸送を検証するため、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミド (CHX: 100 μg/ml) をJY7細胞に添加し、異なる時点でMIIC内のクラスII金粒子数を定量した。各時点でのMIIC内のクラスII金粒子数は、n=300 cellsの電子顕微鏡像から計数された。同様に、ERからのタンパク質輸送を阻害するブレフェルジンA (Brefeldin A) 処理も行った。電子顕微鏡観察はJEOL 1200 EXを用いて実施された。

細胞内区画の酸性度を評価するため、弱塩基であるDAMP (3-(2,4-dinitroanilino)-3-amino-N-methyldipropylamine) を用いた免疫電子顕微鏡法を実施し、酸性コンパートメントへのDAMPの蓄積を検出した。プロテアーゼ阻害剤 (ロイペプチン 10 μg/ml、アプロチニン 5 μg/ml、アンチトリプシン 5 μg/ml) を一晩添加する実験も行い、多胞体 (MVB) の形成とMHC分子の分解経路への影響を評価した。これらの定量データは、各コンパートメントにおける金粒子数/5 μm²として表され、約2,000個の金粒子がn=30 cellsの代表的な中央細胞プロファイルから計数された。統計解析には、各群間の比較にStudent t-testを用いた。