• 著者: Graça Raposo, Hans W. Nijman, Willem Stoorvogel, Reina Liejendekker, Cecile V. Harding, Cornelis J. M. Melief, Hans J. Geuze
  • Corresponding author: Hans J. Geuze (Department of Cell Biology, Utrecht University, Utrecht, The Netherlands)
  • 雑誌: Journal of Experimental Medicine
  • 発行年: 1996
  • Epub日: 1996-03-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 8642258

背景

主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスII分子は、B細胞、樹状細胞、マクロファージといった抗原提示細胞 (APC) において、後期エンドソーム/リソソームコンパートメントであるMHCクラスII濃縮コンパートメント (MIIC) に集積することが知られていた。MIICは、新規に合成されたMHCクラスII分子が細胞膜へと輸送される過程でペプチドローディングを受ける主要な部位である。このMIICは、多数の内部小胞を含む多胞体 (MVB) 様構造を呈し、その限界膜と内部小胞の両方にMHCクラスII分子が存在することが、Peters et al. Nature 1991 による免疫電子顕微鏡を用いた詳細な解析により解剖学的に記述されてきた。

一方、赤血球前駆細胞 (reticulocyte) の成熟過程において、MVBの内部小胞が細胞外に分泌される現象は「エキソソーム」と名付けられ、Pan et al. JCellBiol 1985Harding et al. JCellBiol 1983 によって報告されていた。しかし、当時のエキソソームは、細胞が不要な膜タンパク質を廃棄するための機構、あるいは単なる細胞デブリとして捉えられており、その免疫学的機能については全く想定されていなかった。MHCクラスII分子が細胞表面に到達する経路についても、MIICからの輸送経路は不明な点が多かった。例えば、マクロファージではクラスII濃縮食胞リソソームから派生する小胞がMHCクラスII分子を形質膜に輸送する可能性が示唆されていたが、他のAPCではそのような小胞は同定されていなかった。また、トランスゴルジネットワーク由来の小胞による輸送も考えられたが、いずれの経路についても確固たる証拠は不足していた。

本研究の背景には、MHCクラスII分子の細胞内輸送経路の未解明な部分と、エキソソームの生理的役割、特に免疫学的機能に関する知識のギャップが存在した。MIICが内部小胞を多数含む構造であるにもかかわらず、その内部小胞が細胞外に放出され、かつそれが機能的な役割を持つ可能性は、当時ほとんど検討されていなかった。この知識の不足が、本研究の動機付けとなった。

目的

本研究の目的は、EBV形質転換Bリンパ芽球様細胞株 (B-LCL) において、MHCクラスII濃縮コンパートメント (MIIC) 由来の内部小胞が細胞外へ分泌される現象を詳細に解明することである。具体的には、以下の3点を検証することを目的とした。

  1. B-LCLがMIIC由来の内部小胞を細胞外へ放出する現象を、免疫電子顕微鏡を用いて形態学的に確認すること。これにより、MIICが単なる分解コンパートメントではなく、エキソサイトーシスに関与する可能性を評価する。
  2. 分泌された小胞がMHCクラスII分子を安定的に保持しているか、またその分子構成が形質膜とは異なる独自のプロファイルを持つかを、生化学的手法(ウェスタンブロット、表面ビオチン化)を用いて解析すること。特に、MHCクラスII分子がペプチド結合型であるかを確認する。
  3. 分泌された小胞が、抗原特異的なMHCクラスII拘束性T細胞応答を直接惹起する能力を持つかを、機能アッセイ(T細胞ハイブリドーマ/クローンを用いたIL-2産生および増殖応答の評価)により検証すること。これにより、これらの小胞が単なる細胞デブリではなく、機能的な抗原提示単位として作用しうるかを明らかにする。

これらの検証を通じて、エキソソームがin vivoにおける抗原提示に重要な役割を果たす可能性を提示することを最終的な目的とした。

結果

MVB由来小胞の細胞外分泌を電子顕微鏡で確認: 免疫電子顕微鏡観察により、B-LCLのRN細胞において、MIICの限界膜が形質膜と融合し、内部小胞 (intraluminal vesicle, ILV) を細胞外へ放出するエキソサイトーシス像が明確に捉えられた (Fig. 2)。放出された小胞は直径約60-90 nmの均一な円形小胞であり、超遠心分離で単離した後のホールマウント電子顕微鏡でも同様の形態を示した (Fig. 3C)。これらの小胞は、細胞内の多胞性MIICに存在する小胞と形態的に酷似していた (Fig. 1)。また、RN細胞が取り込んだBSAG粒子がMIICに蓄積した後、エキソサイトーシスプロファイル内で再外部化されることが確認され (Fig. 2A, B)、MIICが分泌コンパートメントとして機能することを示唆した。BSAGは20分のチェイス後にMIICに検出され、50分のチェイス後にはエキソサイトーシスプロファイル内に豊富に存在した。

MHCクラスII分子が分泌小胞に高度に濃縮される: 免疫電子顕微鏡による解析では、HLA-DR分子が分泌された小胞膜に強く局在することが示された (Fig. 2)。ウェスタンブロット解析では、分泌小胞画分 (70,000gペレット) は親細胞ライセートと比較してMHCクラスII分子が顕著に濃縮されていることが確認された (Fig. 3A, レーン6)。ショ糖密度勾配遠心分離後の解析では、MHCクラスII分子は1.13 g/mlの平衡密度に浮上し、コンパクトなペプチド結合型として存在することが示された (Fig. 3B)。これは、分泌小胞が単なる細胞デブリではなく、MHCクラスII分子を搭載した膜小胞であることを強く支持する。MHCクラスI、LAMP-1、不変鎖などの関連分子も検出され、これらの小胞がMIIC/MVBの内部膜に由来することを示唆した。一方で、形質膜および初期エンドソームのマーカーであるトランスフェリン受容体 (TfR) は、細胞ライセートには検出されたものの、エキソソーム画分にはほとんど検出されなかった (Fig. 4A)。さらに、表面ビオチン化による解析では、エキソソームと形質膜とでタンパク質組成が大きく異なることが示され (Fig. 4B)、エキソソームが形質膜の単なる脱落片ではないことが裏付けられた。

新規合成MHCクラスII分子の放出 kinetics: [35S]メチオニンによる代謝標識実験では、新規合成されたMHCクラスII分子が細胞からエキソソーム画分へと放出される kinetics が解析された (Fig. 5A)。パルス標識直後、細胞内のMHCクラスIIはSDS不安定なα/β-不変鎖複合体として存在したが、6時間のチェイス後にはSDS安定なコンパクト型へと変換された。エキソソーム画分では、6時間後にはごく少量の35S-MHCクラスIIが検出され、12時間および24時間のチェイス後にはその量が増加した。24時間後には、新規合成されたMHCクラスII総量の10 ± 4% (n=5 experiments) がエキソソームとして培養液中に回収された。対照的に、新規合成された35S-TfRは24時間のチェイス後もエキソソーム画分には全く検出されず (Fig. 5B)、MHCクラスIIのエキソソームへの選択的な取り込みが示された。

エキソソームが抗原特異的T細胞応答を直接惹起: 精製したエキソソームが抗原提示能力を持つかを検証するため、抗原提示アッセイを実施した。HSP65タンパク質またはその由来ペプチド418-427で前処理したRN細胞由来のエキソソームは、HLA-DR15拘束性T細胞クローン2F10を抗原特異的に活性化し、IL-2産生および増殖応答を誘導した (Fig. 6C, D)。HLA-ミスマッチのJY細胞由来エキソソームや、ペプチド非提示条件下ではT細胞応答は誘導されなかった。この応答は抗HLA-DR抗体によって完全に阻害されたが、抗HLA-DP抗体では阻害されず (Fig. 6, 三角と丸のシンボル)、応答がMHCクラスII-ペプチド複合体に依存することを示した。半最大T細胞応答を誘導するのに必要なエキソソーム量は、抗原前処理細胞から分泌されたエキソソームの場合、24時間で3 x 10^5個の細胞から分泌された量に相当した (Fig. 6D)。これは、細胞による抗原提示と比較して約10-20倍効率が低いと推定されたが、エキソソームが機能的な抗原提示単位として作用しうる初の実験的証拠であった。マウスB細胞株TA3由来のエキソソームも、RNase由来ペプチドを提示することで、WA.23 T細胞ハイブリドーマのIL-2分泌を特異的に刺激した (Fig. 7)。WA.23 T細胞ハイブリドーマは10^5 cells/wellで播種され、IL-2分泌はCTLL細胞バイオアッセイで測定された。これらの結果は、ヒトおよびマウスのB細胞が、T細胞を特異的に刺激する能力を持つエキソソームを分泌することを示している。

考察/結論

本研究は、Bリンパ球がMHCクラスII分子を搭載した小胞(エキソソーム)を分泌し、それが抗原特異的なT細胞応答を誘導する能力を持つことを世界で初めて示した画期的な論文である。この発見は、エキソソームが単なる細胞廃棄機構ではなく、細胞間コミュニケーションにおける情報伝達単位として機能するという、当時としては全く新規な概念を確立した。

先行研究との違い: これまでの研究では、Pan et al. JCellBiol 1985Harding et al. JCellBiol 1983 が赤血球前駆細胞におけるエキソソームの分泌現象を報告していたが、その免疫学的機能には踏み込んでいなかった。本研究は、MHCクラスII分子とペプチドを運搬し、T細胞応答を引き起こすという「情報伝達単位としての小胞」の概念を確立した点で、これまでの報告とは対照的である。また、MHCクラスII分子の細胞表面への輸送経路が不明であったが、MIICからのエキソサイトーシスによる小胞放出という新規経路を提示した。

新規性: 本研究で初めて、以下の3点において重要な新規性を示した。第一に、多胞体 (MVB) の内部小胞が細胞外に放出されるエキソサイトーシス現象を、免疫電子顕微鏡を用いて直接的に捉えたことである。第二に、分泌された小胞がMHCクラスII濃縮コンパートメント (MIIC) 由来であり、MHCクラスII分子をペプチド結合型で高度に濃縮していることを、形態学的および生化学的に明確に示したことである。第三に、純化されたエキソソーム単独で、抗原特異的かつMHCクラスII拘束性のT細胞応答を惹起する機能アッセイを完結させたことである。これは、細胞外小胞が機能的な抗原提示単位として作用しうることを示す初の実験的証拠であり、エキソソーム研究の基礎を築いた。

臨床応用: 本知見は、エキソソームがin vivoでの抗原提示に重要な役割を果たす可能性を示唆し、その後の免疫学および癌治療における臨床応用に大きな影響を与えた。例えば、リンパ節の濾胞や局所微小環境において、MHCクラスII-ペプチド複合体が細胞接触なしに拡散する機構、濾胞樹状細胞表面へのMHCクラスII移送経路、あるいは「クロスドレッシング」を含む間接的なT細胞プライミング機構としてのエキソソームの役割が示唆された。後の研究では、腫瘍由来エキソソームを用いた樹状細胞ワクチンや、樹状細胞由来エキソソーム (Dex) を用いた癌免疫療法の臨床試験 (Zitvogel et al. 1998, Théry et al. 2002) へと発展した。さらに、腫瘍エキソソームを介したPD-L1免疫回避 (Poggio et al., Cell 2019)、薬剤耐性伝播、転移ニッチ形成など、ほぼすべてのエキソソーム関連癌免疫学研究が本論文を起点として展開されている。

残された課題: 本論文時点では、エキソソーム分泌の分子機構(例: Rab27a/b、ESCRT経路など)は未解明であった。また、腫瘍由来エキソソームの免疫抑制作用や、リキッドバイオプシーとしての応用可能性も未着手であった。これらの残された課題は、その後の研究によって大きく発展し、エキソソーム研究の多様な方向性を示唆している。本論文は、エクソソーム研究領域の引用古典として、30年以上にわたり引用され続けている。

方法

細胞株と抗体: ヒトEBV形質転換B細胞株RN (HLA-DR15+) およびJY (HLA-DR15-) を用いた。T細胞クローン2F10 (HLA-DR15拘束性、HSP65抗原由来ペプチド418-427認識) およびマウスB細胞株TA3 (H-2k,d) とリボヌクレアーゼ(90-105)-I-Ek特異的T細胞ハイブリドーマWA.23を用いた。抗体として、抗HLA-DR、抗不変鎖、抗MHCクラスI、リソソームマーカー (LAMP-1、CD63)、後期エンドソームマーカー、トランスフェリン受容体 (TfR) に対する抗体を使用した。

エキソソームの単離と精製: RN細胞を培養し、培養上清から差動遠心分離法により小胞画分を単離した。具体的には、細胞を除去するため300gで2回遠心分離した後、1,200gで10分、10,000gで30分、70,000gで60分、100,000gで60分と段階的に超遠心分離を行った。70,000gペレットをエキソソーム画分として回収し、一部は電子顕微鏡観察用に、残りはさらにショ糖密度勾配遠心分離 (2-0.25 Mショ糖勾配、100,000gで15時間) により精製した。タンパク質濃度はBCAアッセイで測定した。

免疫電子顕微鏡: RN細胞を5nm金粒子標識BSA (BSAG) で10分間パルスインキュベートし、細胞外BSAGを除去後、37℃で10分、20分、50分、80分とチェイスインキュベートした。細胞はパラホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドで固定後、超薄切片作製および免疫金標識を行った。単離したエキソソームも同様にグリッドに載せ、固定、免疫標識、染色を行った。MHCクラスII、LAMP1、CD63などの分子の局在を評価した。

生化学的解析:

  1. ウェスタンブロット: 単離した小胞画分および細胞ライセート中のMHCクラスII、MHCクラスI、TfR、LAMP-1などのタンパク質の発現をウェスタンブロットで確認した。MHCクラスIIの定量はPhosphorImagerを用いて行った。
  2. 表面ビオチン化: 細胞および精製エキソソームの表面タンパク質をSulfo-NHS-biotinでビオチン化し、免疫沈降後に125I-ストレプトアビジンを用いたウェスタンブロットで解析し、形質膜とのタンパク質組成の違いを比較した。
  3. 代謝標識: RN細胞を[35S]メチオニンで45分間パルス標識し、その後様々な時間でチェイスした。細胞およびエキソソーム画分からMHCクラスIIおよびTfRを免疫沈降し、SDS-PAGEおよびフルオログラフィーで解析した。

抗原提示アッセイ:

  1. ヒトB細胞由来エキソソーム: HLA-DR15陽性RN細胞およびその培養上清から単離したエキソソームを、M. leprae由来HSP65タンパク質 (50 µg/ml) またはHSP65由来ペプチド418-427 (5 µg/ml) で前処理した。これらをHLA-DR15拘束性T細胞クローン2F10と共培養し、[3H]チミジン取り込みを指標にT細胞の増殖応答を測定した。抗HLA-DR抗体 (B.8.11.2) および抗HLA-DP抗体 (B7.21) を添加し、MHCクラスII拘束性を確認した。
  2. マウスB細胞由来エキソソーム: マウスB細胞株TA3から単離したエキソソームを、リボヌクレアーゼ(90-105)ペプチド (10 µM) と共にWA.23 T細胞ハイブリドーマと培養し、IL-2分泌をCTLL細胞バイオアッセイで測定した。統計解析には、Student t-testを用いた。