Article data

  • 著者: Marta Luksza, Nadeem Riaz, Vladimir Makarov, Vinod P. Balachandran, Matthew D. Hellmann, Alexander Solovyov, Naiyer A. Rizvi, Taha Merghoub, Arnold J. Levine, Timothy A. Chan, Jedd D. Wolchok, Benjamin D. Greenbaum
  • Corresponding author: Marta Luksza / Benjamin D. Greenbaum (Institute for Advanced Study, Princeton / Icahn School of Medicine at Mount Sinai)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-11-08
  • Article種別: 基礎研究 (数理モデリング、バイオインフォマティクス解析)
  • PMID: 29132144

背景

免疫チェックポイント阻害 (immune checkpoint blockade, ICB) は CTLA-4 や PD-1/PD-L1 を標的とする抗体療法であり、複数のがん腫で長期生存例をもたらした。しかし持続的な臨床的恩恵を受けるのは一部の患者に留まり、奏効予測バイオマーカーの確立が課題であった。

非同義体細胞変異に由来するネオアンチゲン (neoantigen) は腫瘍特異的な変異ペプチドであり、MHC class I 分子に提示されて T 細胞に非自己として認識される新規エピトープである (Schumacher et al. Science 2015)。複数の臨床研究で変異数・ネオアンチゲン数の多い腫瘍が ICB に奏効しやすいことが報告された。黒色腫における抗 CTLA-4 治療 (Snyder et al. NEnglJMed 2014) や NSCLC における抗 PD-1 治療 (Rizvi et al. Science 2015) においてネオアンチゲン数と全生存期間・奏効率との相関が示された。さらに McGranahan らはクローナルなネオアンチゲン (clonal neoantigen) がサブクローナルなネオアンチゲンより T 細胞免疫原性・ICB 奏効と強く関連することを示し、腫瘍内不均一性 (intratumoral heterogeneity) が応答を制限しうることを示唆した。

しかし「ネオアンチゲン数」はすべてのネオアンチゲンを等価と仮定する粗い代理指標であり、各ネオアンチゲンの免疫原性の「質的差異」を反映できないという本質的な限界があった。具体的には、(1) MHC への提示効率 (変異型 vs 野生型ペプチドの結合親和性の差分)、(2) TCR 認識確率 (既知免疫原性エピトープとの配列類似性)、(3) 腫瘍クローン構造を考慮した重み付けの 3 要素を同時に組み込んだ定量的モデルは存在しなかった。一方、インフルエンザや HIV など急速進化する病原体では、免疫選択圧を考慮した数理的 fitness モデルが進化ダイナミクスを正確に予測することが実証されており、同様の枠組みを腫瘍免疫に適用することで ICB 応答予測が実現できるという仮説を本研究は提示した。この gap in knowledge の解消が本研究の動機である。

目的

各ネオアンチゲンの MHC 提示振幅 A (変異型・野生型ペプチドの IC50 比) と TCR 認識確率 R (IEDB 既知エピトープとの配列類似性に基づくロジスティック関数) の積 recognition potential (A × R) を定義し、腫瘍クローン構造で重み付けした数理的 fitness モデルにより ICB 後の全生存期間を予測する。抗 CTLA-4 治療黒色腫コホート 2 件 (計 167 例) および抗 PD-1 治療 NSCLC コホート (34 例) の 3 独立コホートで外部交差検証を行い、単純なネオアンチゲン数モデルに対する優位性を検証する。

結果

所見1:3独立コホートにおける全生存期間の有意な層別化 (Fig. 2)

n(τ) の中央値で患者を二分割した Kaplan-Meier 生存分析において、3 コホートすべてで有意な層別化が達成された。黒色腫コホート 1 (Snyder、n=64、anti-CTLA-4): 独立交差検証での log-rank P=0.0049、一致パラメータ (a=26、k=4.87、τ=0.09) 使用時は P=0.00026。黒色腫コホート 2 (Van Allen、n=103、anti-CTLA-4): 独立検証 P=0.0026。NSCLC コホート (Rizvi、n=34、anti-PD-1): 独立検証 P=0.0062 (Fig. 2a-c)。3 コホートで同一パラメータセットによって有意な予測が達成されたことは、モデルの生物学的普遍性と汎化性能を支持する。なお NSCLC コホートの全生存期間データは Rizvi ら原著には未掲載の新規データであり、原著の無増悪生存期間データとは独立した検証である。n(τ) 低値群 (腫瘍の免疫的 fitness が低い、すなわち ICB による抑制が強い) が全生存期間の有意な延長を示したことは、モデルの予測方向性の妥当性を支持する。

所見2:完全モデル (A × R) の部分モデル・ネオアンチゲン数モデルに対する優位性 (Fig. 2d-f)

単一要素のみの部分モデルとの比較で、A と R の両方が必要であることが実証された。A のみのモデル (MHC 親和性比のみ): いずれのコホートでも中央値分割での有意な患者層別化を達成しなかった。R のみのモデル (TCR 認識確率のみ): 同様に有意な層別化なし。単純ネオアンチゲン数モデル (全ネオアンチゲンに均一な fitness コストを付与): いずれのコホートでも中央値分割で有意な患者分離を達成しなかった。完全モデル (A × R × クローン構造) のみが 3 コホートすべてで有意な予測を達成した。感度解析として変異型 IC50 のみ、野生型 IC50 のみをそれぞれ用いた variant モデルも予測力が低下し、A = IC50_WT / IC50_MT という比 (差分) を用いることの重要性が示された。また、変異型と野生型の IC50 差は単一点変異により最大 10,000-fold に達することがあり (Extended Data Fig. 1)、振幅 A が広いダイナミックレンジを持つことが確認された。腫瘍を均一クローン (homogenous) と仮定したモデルに対してもクローン構造考慮モデルが一貫して高スコアを示し、immunodominance と subclonal heterogeneity の考慮が重要であることが示された。

所見3:応答者 vs 非応答者の腫瘍進化ダイナミクス予測 (Fig. 3)

原著研究で定義された応答者・非応答者分類を用いた Kolmogorov-Smirnov 検定では、τ=0.09 において 3 コホートすべてで応答者群が非応答者群より有意に小さい n(τ) を示した: Van Allen コホート P=0.0016、Snyder コホート P=0.00084、NSCLC コホート P=0.00071。応答者の n(τ) は τ の広範な範囲にわたって非応答者より低く (Fig. 3)、特定のパラメータ設定に依存しないモデルの robustness が確認された。τ → 0 の極限 (各クローンの平均 fitness の重み付け平均) でも有意な患者分離が維持されたことから、予測力は進化的な時間スケール設定より、免疫相互作用の捕捉能力にはるかに依存することが示唆された。

所見4:腫瘍微小環境統合による予測精度向上 (Extended Data Fig. 7)

転写データが利用可能な Van Allen コホートの n=40 例において、細胞溶解活性スコア (CYT: perforin および granzyme B の TPM 幾何平均) をモデルの認識ポテンシャルに追加振幅として組み込んだ。CYT 単独での患者分離は P=0.04 であった (Van Allen 原著と一致)。CYT 統合完全モデルは P=0.043 から P=0.0025 へと生存予測精度が改善した。CIBERSORT による CD8 T 細胞分画と CYT の間には Pearson r=0.938 の強い正相関が認められ (n=40 例)、CYT が T 細胞浸潤状態の妥当な代理指標であることが確認された。この結果はネオアンチゲン fitness スコアと TME の細胞溶解活性が相補的な情報を提供することを示す。

所見5:感度解析によるモデルの生物学的特異性の検証

モデルの予測力の生物学的基盤を 3 種類の感度解析で確認した。(a) IEDB エピトープの変更: 陽性 T 細胞アッセイで検証されていない IEDB エピトープ 4,657 種を代替使用した場合、両黒色腫コホートで予測力が消失した。追加配列によるサイズ効果ではなく、陽性検証エピトープの質的重要性が示された。(b) HLA タイプのランダム化: 各患者の HLA タイプを無作為置換してネオアンチゲンを再予測すると、有意な患者分離が消失した (10 iterations)。MHC 提示の患者 HLA 特異性がモデルの予測に本質的であることが示された。(c) IEDB 配列サブサンプリング: 配列数を 10-90% でサブサンプリングすると予測力は単調に低下し、Van Allen コホートでは 70% 以下で有意水準を下回った。これら 3 つの感度解析は、モデルの予測力が (i) HLA 特異的 MHC 提示と (ii) 免疫原性エピトープとの配列類似性という 2 つの生物学的因子に依存することを実証した。

考察/結論

本研究は、腫瘍免疫療法応答の予測において「ネオアンチゲンの数」ではなく「質」——MHC 提示効率と TCR 認識確率の積——が本質的決定因子であることを数理的に定式化した。先行研究 (Snyder et al. NEnglJMed 2014Rizvi et al. Science 2015) では単純なネオアンチゲン数や変異バーデンが ICB 応答の代理指標として用いられてきたが、本研究はこれらの先行研究の指標と異なり、各ネオアンチゲンの免疫原性の量的差異と腫瘍クローン構造の両方を組み込んだ prediction framework を構築した。3 独立コホート (計 201 例) で同一パラメータによる有意な予測を達成したことは、このアプローチの汎化性能を支持する。

新規性の観点では、本研究で初めて MHC 提示振幅 A と TCR 認識確率 R を組み合わせた recognition potential が腫瘍 ICB 応答の定量的予測に有効であることが示された。振幅 A を変異型ペプチドの単独 IC50 ではなく野生型との IC50 比として定義する発想は、中枢性トレランスによる TCR レパートリーの pruning を間接的にモデル化するものであり、単純な binding affinity スコアとは novel な概念的差異がある。また、病原体進化 fitness モデル (インフルエンザ、HIV 進化予測で実証済み) と同一の数理的枠組みを腫瘍免疫ダイナミクスに適用したことも、これまで報告されていない概念的革新である。IEDB エピトープとの配列類似性を非自己性の代理指標とする手法は、宿主の既存免疫を前提とせず、一般性が高い。

臨床応用への含意は多岐にわたる。第一に、ネオアンチゲン fitness スコアによる患者層別化は、ICB 適応患者選択のための予測バイオマーカーとしての臨床的意義を持つ。現行の腫瘍変異量 (TMB: tumor mutational burden) による層別化を補完または超える可能性がある。第二に、低 fitness スコアのネオアンチゲン (TCR 認識確率が低い) を除外し、高 fitness ネオアンチゲンのみを標的とするネオアンチゲンワクチン設計への活用が期待される。第三に、ICB 後の獲得耐性のメカニズム解析として、高 fitness ネオアンチゲンを持つクローンが免疫選択的に排除され、低 fitness または neoantigen loss クローンが残存・増殖するという動態予測が可能となる。CYT との統合 (P=0.043 → P=0.0025) は、TME 情報の組み込みによって bench-to-bedside 橋渡しの精度がさらに向上することを示す。

残された課題は以下の通りである。本モデルには (i) ネオアンチゲン同定パイプラインの不確実性 (2 つのコホート間で同一パイプラインを使用したが、今後の汎用性は要検証)、(ii) プロテアソーム処理効率や MHC ペプチドロード安定性の未考慮 (NetCHOP 導入試験では予測力が低下)、(iii) CD4 T 細胞経路・MHC class II 提示の不考慮、(iv) 訓練コホートが黒色腫・NSCLC に限定されるという limitation がある。また訓練コホートは n=34-103 と小規模であり、大規模コホートでの独立再現検証が今後の検討として必要である。更なる検討として、腸内細菌叢情報・MHC 安定性・patient-specific TCR レパートリー配列データの統合によるモデル精度向上、および前向き観察研究でのモデルの臨床的有用性評価が重要である。

方法

数理モデルの設計: 腫瘍を複数の遺伝的クローンからなる集団として捉え、ICB 下での各クローン α の有効増殖率 (fitness) Fα を算出する。Fα はそのクローン内の dominant neoantigen の recognition potential で定義される: Fα = -max(Ai × Ri)。腫瘍全体の予測相対集団サイズは n(τ) = Σ Xα exp(Fα × τ) で表される (Xα: クローン α の初期頻度、τ: 特性時間スケール)。n(τ) が小さいほど免疫的 fitness が低く ICB による抑制が強いことを示し、全生存期間の良好な予後と対応する。

振幅 A の定義: MHC class I 分子への MT (mutant type、変異型) と WT (wild type、野生型) ペプチドの予測結合親和性 (IC50) の比として定義する (A = IC50_WT / IC50_MT)。変異型が強く、野生型が弱く結合する場合に大きな値となる。MHC 結合親和性は NetMHC 3.4 で予測し、変異型ペプチドの IC50 < 500 nM を条件とする 9 残基長ペプチドを解析対象とした。振幅 A は中枢性トレランスによって野生型ペプチドに反応性の TCR が除去されておらず、変異型 neoantigen を認識できる TCR が repertoire 中に残存している確率の代理指標として解釈される。アンカーポジション 2・9 が非疎水性の野生型残基を持つネオアンチゲンは MHC 親和性予測の信頼性が低いとして除外した。

TCR 認識確率 R の定義: IEDB (Immune Epitope Database and Analysis Resource) に登録された陽性 T 細胞アッセイで検証済みの 2,552 種クラス I 制限エピトープとの BLOSUM62 (Blocks Substitution Matrix 62) ギャップなしアライメントスコアに基づくロジスティック関数で推定する。アライメント閾値 a=26 (平均 6.8 アミノ酸長)、傾き k=4.87 のシグモイド関数を用い、スコア 25 以下で認識確率 < 0.01、スコア 27 以上で > 0.99 となる強非線形依存性を実装する。この手法は宿主の既存免疫を前提とせず、既知免疫原性エピトープとの配列類似性を非自己性の代理指標として利用する。

クローン構造の組み込み: PhyloWGS (likelihood に基づくクローン系統樹再構成ツール) を用いてエクソーム解析データから腫瘍クローン樹を再構成し、各クローンの初期頻度 Xα を推定した。Immunodominance の概念に従い、各クローンには recognition potential が最大の dominant neoantigen の fitness 効果のみを割り当てた。上位 5 尤度樹の加重平均で n(τ) を算出した。

検証データセット と統計: (1) Snyder らの黒色腫コホート (n=64、anti-CTLA-4)、(2) Van Allen らの黒色腫コホート (n=103、anti-CTLA-4)、(3) Rizvi らの NSCLC コホート (n=34、anti-PD-1)。コホート間独立クロスバリデーション: 一方の黒色腫コホートで訓練し他方で検証、両黒色腫コホートで訓練して NSCLC で検証。生存分析は log-rank 検定 (n(τ) 中央値二分割)、応答者・非応答者分離は Kolmogorov-Smirnov 検定で評価した。腫瘍微小環境 (tumor microenvironment, TME) の統合として CYT (cytolytic score: perforin + granzyme B TPM の幾何平均) を振幅 A に乗じるサブ解析を転写データ取得の n=40 例 (Van Allen コホート) で実施した。