- 著者: Bin Li, Ming-Chao Zhong, Cristian Camilo Galindo, Jiayu Dou, Jin Qian, Tang Zhenghai, Dominique Davidson, André Veillette
- Corresponding author: André Veillette (andre.veillette@ircm.qc.ca) (Laboratory of Molecular Oncology, Institut de recherches cliniques de Montréal (IRCM), Montreal, Quebec, Canada; Department of Medicine, University of Montréal; Department of Medicine, McGill University)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 41673151
背景
SLAMF6 (signaling lymphocytic activation molecule 6; マウスにおける同義遺伝子は Ly108) は、T細胞、NK (natural killer) 細胞、B細胞、樹状細胞などの免疫細胞に発現する同型ホモフィリック受容体である。がん免疫療法の分野において、PD-1やCTLA-4などの抑制性受容体を標的とした治療が目覚ましい成果を上げているが、これらはリガンドとのトランス (細胞間) 相互作用を阻害するものである。一方、T細胞の疲弊状態、特に前駆/幹様疲弊T細胞である Tpex (progenitor exhausted T cell) と終末疲弊T細胞である Tex (terminally exhausted T cell) の分化制御は、免疫チェックポイント阻害薬である ICB (immune checkpoint blockade) への応答性を決定づける重要な因子として注目されている。先行研究である Chu et al. NatMed 2023 では、ヒトの多様ながん種における腫瘍浸潤CD8+ T細胞のシングルセル解析から、T細胞 of 機能状態と治療抵抗性との関連が示されている。また、Minn et al. Cell 2016 などの既報では、複数のチェックポイント阻害の併用がインターフェロンシグナルを介して抗腫瘍効果を最大化することが論じられている。さらに、別の先行研究である Hajaj et al. (2020) は、Slamf6欠損が腫瘍傷害活性を増強することを示唆していた。しかし、SLAMF6のT細胞における具体的な役割については、活性化を促進するという報告と、逆に抑制するという報告の双方が存在し、きわめて controversial であった。既存の抗SLAMF6モノクローナル抗体である NT-7 や 1B3 などは、T細胞活性化を増強することから「アゴニスト抗体」と呼ばれてきたが、その詳細な分子作用機序は未解明のままであった。特に、SLAMF6がT細胞表面でトランスに機能するのか、あるいは同一細胞上でのシス (同一細胞膜上) 相互作用を介して機能するのかについての知見が決定的に不足しており、治療標的としての妥当性を評価する上での大きな gap が残されていた。このように、SLAMF6の正確な機能や動作原理を裏付ける遺伝学的・生化学的エビデンスが十分に足りなかったことが、がん免疫療法における応用を阻む要因であった。
目的
本研究の目的は、純粋な C57BL/6J 背景の Slamf6-/- マウスを用いて、SLAMF6がT細胞機能および抗腫瘍免疫において果たす真の役割を遺伝学的に解明することである。具体的には、SLAMF6が同一細胞上で形成するシス同型相互作用の実態を検証し、それがT細胞受容体である TCR (T-cell receptor) シグナルを抑制する分子機序 (SHP-1依存性) を生化学的・生物物理学的に実証する。さらに、このシス相互作用を強力に阻害するFc沈黙化ヒトSLAMF6モノクローナル抗体を新規に開発し、in vitro および in vivo の腫瘍モデルにおいて、単剤あるいは抗PD-L1抗体との併用による抗腫瘍効果とT細胞疲弊化の抑制効果を検証し、新たな治療標的としての有用性を確立することを目指す。
結果
Slamf6欠損によるT細胞活性化と抗腫瘍免疫の増強: 純粋な C57BL/6J 背景の Slamf6-/- マウスから調製した CD8+ T細胞は、抗CD3抗体刺激に対して野生型 (WT) と比較して有意に高い増殖能を示し、IL-2およびIFNγの産生量が著明に増加した (n=4 mice, p<0.001)。しかし、TCRプロキシマルシグナルをバイパスするPMAとイオノマイシンの刺激では差が認められなかった。また、抗原提示細胞である APC (antigen-presenting cell) 側のSLAMF6欠損はT細胞の活性化に影響を与えず、SLAMF6の抑制機能はT細胞自身に閉じたものであることが示された。OT-I Slamf6-/- T細胞を用いた in vitro 傷害活性アッセイでは、標的細胞に対する特異的傷害活性が有意に向上した (n=4 replicates, p<0.001)。さらに、E.G7 腫瘍モデルにおいて、Slamf6-/- OT-I T細胞を養子移植したマウスは、WT T細胞移植群と比較して腫瘍増殖が強力に抑制され (n=6 mice, p<0.0001)、腫瘍浸潤T細胞におけるIFNγおよびTNFの産生細胞の割合が有意に高値であった (Fig. 1)。
FRETおよびPLAによるシス同型相互作用の証明と抗体による阻害: HEK293T 細胞を用いたFRETアッセイにおいて、ドナーとアクセプターで標識したSLAMF6間で高いFRET効率 (約35%) が検出され、細胞表面で10 nm以下の極めて近接したシス同型相互作用が形成されていることが実証された (n=10 cells, p<0.0001)。既存の「アゴニスト」抗体である13G3を添加すると、このFRET効率が約60%低下し、シス相互作用が部分的に阻害された (Fig. 2)。新規に作製した組換えヒトSLAMF6抗体のうち、第1ドメイン (Vドメイン) を認識する mAb 21 および mAb 23 は、FRET効率をそれぞれ約90%および約80%低下させ、シス相互作用を強力にブロックした (n=14 cells, p<0.0001)。正常ヒトCD8+ T細胞を用いたPLA解析においても、細胞表面でのSLAMF6分子間の近接 (40 nm以下) が確認され、mAb 21 の前処理によってPLAシグナル (赤色ドット数/細胞) が有意に減少した (n=3 donors, p=0.0003) (Fig. 4)。これにより、抗ヒトSLAMF6抗体によるシス相互作用の阻害が、T細胞活性化を 4-fold から 10-fold に増強することが実証された。
SHP-1を介したプロキシマルTCRシグナルの抑制機構: Slamf6-/- T細胞では、TCR刺激後のタンパク質チロシンリン酸化および細胞内カルシウム流入がWTと比較して著明に増強していた (Fig. 3)。この抑制シグナルのメディエーターを特定するため、siRNAによるノックダウン実験を行った。Ptpn6 (SHP-1) をノックダウンすると、WT T細胞の活性化は 2-fold に増強したが、Slamf6-/- T細胞では追加の増強効果は見られなかった (n=3 mice, p<0.05)。CRISPR-Cas9を用いた SHP-1 の完全ノックアウトでも同様の傾向が確認された。一方、Ptpn11 (SHP-2) のノックダウンは、Slamf6-/- T細胞の活性化をむしろ減弱させ、Csk のノックダウンはWTとSlamf6-/-の双方で活性化を増強した。また、SAP (SLAM-associated protein) 欠損マウスを用いた実験から、SLAMF6sの抑制機能はSAP非依存的であることが示された。これらの結果から、SLAMF6はSHP-1を選択的に動員してプロキシマルTCRシグナルを抑制していることが明らかとなった。
Fc沈黙化抗ヒトSLAMF6抗体による in vivo 抗腫瘍効果と疲弊化の改善: ヒトSLAMF6を発現させた Slamf6-/- OT-I T細胞を移植した E.G7 腫瘍モデルにおいて、Fc沈黙化抗体である mAb 21 の投与は、コントロールIgG投与群と比較して腫瘍増殖を強力に抑制した (n=7 mice, p<0.0001)。この効果は Slamf6-/- T細胞を移植した群と同等であった。腫瘍内浸潤T細胞の表現型解析では、mAb 21 投与群において、終末疲弊T細胞の割合が有意に低下し、前駆疲弊T細胞の割合が増加した (p<0.0001) (Fig. 5)。さらに、TOX (thymocyte selection-associated high mobility group box) や TIGIT (T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains) の発現が低下し、活性化マーカーである LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3) の発現が増加していた。MC-38 大腸がんモデルを用いた実験では、mAb 21 単剤投与は抗PD-L1抗体単剤と同等以上の腫瘍抑制効果を示し、両者の併用療法は最も強力な腫瘍増殖抑制効果を発揮し、2-fold から 3-fold の腫瘍抑制効果を示した (n=8 mice, p<0.001) (Fig. 5)。
慢性刺激によるT細胞疲弊の回復とヒトT細胞での検証: T細胞は繰り返し抗原刺激を受けることで疲弊状態に陥る。in vitro で繰り返し SIINFEKL ペプチド刺激を行った OT-I T細胞は、サイトカイン産生能が低下し、疲弊マーカーが高発現していたが、mAb 21 の投与によって IFNγ や TNF の産生能が回復した (n=6 mice, p<0.001)。また、正常ヒトCD8+ T細胞を繰り返し抗CD3抗体で刺激した慢性刺激モデルにおいても、mAb 21 または mAb 23 の添加により、IFNγ および TNF の産生量が有意に回復し、T細胞の機能的な再活性化が確認された (n=3 donors, p<0.01) (Fig. 5)。これらの結果は、SLAMF6のシス同型相互作用を阻害することが、慢性的な抗原刺激によって生じるT細胞の疲弊化を効果的に防ぎ、抗腫瘍活性を維持・回復させるための極めて有効な手段であることを示している。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の知見では、抗SLAMF6抗体の投与がT細胞活性化を促すことから、SLAMF6は活性化共刺激受容体であると考えられていた。しかし、本研究はこれらの先行研究と異なり、SLAMF6が本質的には一貫して抑制性受容体として機能していることを遺伝学的に証明した。過去に「アゴニスト」と呼ばれていた抗体 (13G3やNT-7など) は、実際には細胞表面でのシス同型相互作用を部分的に阻害するアンタゴニスト (ブロッキング抗体) として作用していたという、対照的かつ明快な真実を提示している。
新規性: 本研究で初めて、SLAMF6がAPCや腫瘍細胞上のトランスリガンドを必要とせず、T細胞自身の上でシス同型相互作用を形成して自己抑制的に機能していることを新規に実証した。このシス活性化抑制機構は、PD-1やCTLA-4などのトランス相互作用に依存する従来の免疫チェックポイント受容体とは根本的に異なる新規の動作原理である。
臨床応用: 本知見は、がん免疫療法における新たな治療戦略の臨床応用に直結する。SLAMF6は腫瘍細胞側のリガンド発現パターンに依存しないため、標的抗原を欠失したがん種に対しても有効な治療標的となり得る。また、Tpex細胞に優先的に発現するSLAMF6を標的とすることで、T細胞の終末疲弊化を防ぎ、機能的なTpexプールを維持・拡大できる。本研究で開発したFc沈黙化抗ヒトSLAMF6抗体 (mAb 21) は、ADCC (antibody-dependent cellular cytotoxicity) によるT細胞の自己破壊を回避しつつ、シス相互作用を強力に阻害して抗腫瘍免疫を最大化する、極めて臨床的有用性の高い薬物設計である。さらに、抗PD-L1抗体との併用による相加的な効果は、既存のICB治療抵抗性症例に対する有望な translational なアプローチとなる。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒトの実際の腫瘍微小環境におけるSLAMF6の動態や、TpexからTexへの分化過程における発現維持機構のさらなる解明が必要である。また、NK細胞やB細胞、樹状細胞など、SLAMF6を発現する他の免疫細胞サブセットにおけるシス相互作用阻害の影響についても検証の余地がある。Limitation としては、マウスモデルにおける養子移植系での評価が中心であるため、ヒト臨床試験における安全性、特に自己免疫疾患様副作用 (GVHDモデルで示されたような組織傷害) のリスク評価や、最適な投与量・スケジュールの確立が今後の重要な方向性である。
方法
本研究では、純粋な C57BL/6J 背景の Slamf6-/- マウス、および OT-I (ovalbumin-specific CD8+ T-cell receptor transgenic)、OT-II (ovalbumin-specific CD4+ T-cell receptor transgenic) TCRトランスジェニックマウスを用いた。T細胞の活性化は、抗CD3抗体 (145-2C11) や抗CD28抗体、超抗原である SEB (staphylococcal enterotoxin B)、あるいは同種異系脾細胞 (BALB/c 由来) を用いて刺激し、[3H]チミジンの取り込みによる増殖能の測定、およびELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 法によるIL-2、IFNγ、IL-4の産生量測定によって評価した。統計解析には、2群間の比較に two-sided unpaired Student’s t-test (t検定) を用い、複数群の比較や腫瘍増殖曲線の解析には two-way ANOVA (二元配置分散分析) および Tukey’s multiple-comparison test を適用した。生存率の解析には log-rank 検定を用いた。 細胞株としては、HEK293T、Jurkat、E.G7 (EL-4にOVAを導入しSLAMF6を欠失させた株)、B16-OVA、および MC-38 大腸がん細胞株を使用した。SLAMF6のシス同型相互作用を可視化するため、SNAPタグおよびCLIPタグを付加したSLAMF6を HEK293T 細胞に共発現させ、CLIP-Surface 547 (ドナー) と SNAP-Surface Alexa Fluor 647 (アクセプター) を用いた FRET (fluorescence resonance energy transfer) アッセイを実施した。また、正常ヒトCD8+ T細胞上でのシス相互作用を検出するため、PLA (proximity ligation assay) を適用した。 シグナル伝達経路の同定には、siRNA (small interfering RNA) による Ptpn6 (SHP-1)、Ptpn11 (SHP-2)、Csk のノックダウン、および CRISPR-Cas9 システムを用いた Ptpn6 のゲノム編集によるノックアウトを行った。さらに、新規のヒトSLAMF6に対するモノクローナル抗体 (mAb 5, 11, 21, 22, 23) を作製し、Fc受容体への結合を排除するために LALAPG 変異を導入したFc沈黙化抗体として組換え発現させた。in vivo 腫瘍モデルでは、Rag1-/- マウスまたは野生型マウスに腫瘍細胞を皮下移植し、ヒトSLAMF6を発現させたT細胞を養子移植した後に、各種抗体を投与して腫瘍体積を測定した。GVHD (graft-versus-host disease) モデルでは、致死下線量の放射線を照射した BALB/c マウスに C57BL/6J 由来の T細胞を移植し、生存率と体重変化を追跡した。