- 著者: Ziying Lin, Yutong Xu, Yaxiong Zhang, Qihua He, Jianrong Zhang, Jianxing He, Wenhua Liang
- Corresponding author: Wenhua Liang (liangwh@gird.cn), Jianxing He (drjianxing.he@gmail.com) (Department of Thoracic Surgery and Oncology, The First Affiliated Hospital of Guangzhou Medical University, Guangzhou, China)
- 雑誌: Oncotarget
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-02-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 26930715
背景
PD-L1 (programmed death-ligand 1) は、活性化T細胞上に発現するPD-1受容体と結合することで、T細胞の機能抑制やアポトーシスを誘導し、腫瘍の免疫回避における主要なチェックポイントとして機能する。このPD-1/PD-L1経路は、腫瘍微小環境においてT細胞の細胞傷害性を阻害し、T細胞の疲弊を引き起こすことが Greenwald et al により報告されている。さらに、PD-L1は単なるリガンドとしてだけでなく、FAS-FASL (Fas-Fas ligand) 経路を介した腫瘍細胞のアポトーシスを保護する逆シグナルを伝達する受容体としても機能し、腫瘍細胞の増殖と転移を促進する可能性が Sanmamed et al で示されている。このようなPD-L1の多面的な機能は、食道がん、消化管がん、膵臓がん、乳がん、肺がん、腎がんなど、様々な固形腫瘍において観察されている Incecco et al。
抗PD-1/PD-L1抗体療法は、メラノーマ、肺がん、腎がん、膀胱がんなど複数の固形腫瘍において持続的な臨床効果を示すものの、その奏効率は10–45%程度にとどまり、適切な患者選択が重要な課題であった。例えば、Herbst et al. Nature 2014 はPD-L1発現が抗PD-L1抗体MPDL3280A (atezolizumab) への応答と関連することを示唆したが、その詳細な臨床病理学的相関は未解明であった。また、Postow et al. JClinOncol 2015 は免疫チェックポイント阻害療法の広範な有効性を報告したが、PD-L1発現と予後不良因子との具体的な関連についてはさらなるエビデンスが不足していた。さらに、Yamane et al. AmJCancerRes 2015 は小細胞肺がんにおけるPD-L1発現を報告したが、他の固形腫瘍を含めた包括的な解析は手薄であった。
このように、PD-L1発現と臨床病理学的特徴の関連を解析した先行研究は複数存在するが、その結果は一貫せず、またサンプルサイズも比較的小さかった。PD-L1検出における抗体やカットオフ値の標準化が不足しているため、PD-L1ステータスを正確に特定することが困難であり、これが患者層別化の大きな課題となっていた。このような状況において、標準化された統合解析が患者層別化に有用な情報を提供する可能性が考えられた。本研究は、固形腫瘍におけるPD-L1発現と臨床病理学的特徴の関連性を包括的に評価し、PD-L1高発現患者を特定するためのより実用的な方法を提供することを目的とした。本研究は、PD-L1発現と臨床病理学的特徴の関連性に関する知識ギャップを埋めることを目指す。
目的
固形腫瘍におけるPD-L1発現の全体的な発現率とその変動因子を明らかにし、PD-L1発現と年齢、性別、腫瘍径、LNM (lymph node metastasis: リンパ節転移)、腫瘍分化度といった主要な臨床病理学的特徴との相関を包括的に解析することを目的とする。具体的には、大規模なメタアナリシスを通じて、PD-L1発現が腫瘍の進行性を示すバイオマーカーとして機能しうるか、また、PD-L1発現率が患者の出身地域や使用する抗体種によって異なるか否かを検証する。これにより、PD-1/PD-L1阻害療法の患者層別化に資する臨床的意義を明確にすることを目指す。本研究は、PD-L1発現と予後不良因子との関連性をより強固なエビデンスに基づいて確立し、治療応答予測バイオマーカーとしてのPD-L1の役割を評価することを目的とする。
結果
固形腫瘍全体のPD-L1発現率と抗体種および出身地域による変動: 61研究を統合した固形腫瘍全体のPD-L1発現率は44.5% (95% CI 37.5-51.6%) であった (Table 2)。がん種別の発現率は、甲状腺がんの10.7%からSCLC (small cell lung cancer: 小細胞肺がん) の71.6%まで幅広く、NSCLC (non-small cell lung cancer: 非小細胞肺がん) では51.7%、GC (gastric carcinoma: 胃がん) では49.2%、PC (pancreatic cancer: 膵臓がん) では47.6%、CRC (colorectal cancer: 大腸がん) では47.7%、HNC (head and neck cancer: 頭頸部がん) では54.4%であった (Table 2)。サブグループ解析では、ポリクローナル抗体使用時の発現率が57.2% (95% CI 49.8-64.6%) であったのに対し、モノクローナル抗体使用時では39.6% (95% CI 32.8-46.3%) と、ポリクローナル抗体で数値的に高い発現率が検出された (57.2% vs 39.6%)。また、アジア人患者におけるPD-L1発現率は52.3% (95% CI 46.9-57.6%) であったのに対し、非アジア人患者 (Caucasian) では32.7% (95% CI 24.3-41.1%) と、アジア人患者で数値的に高い発現率が認められた (52.3% vs 32.7%)。アジア人患者群では合計 n=4068 cases のデータが解析された。
年齢および性別とPD-L1発現との相関解析: 年齢とPD-L1発現の関連を解析した29研究 (n=3845例) では、高齢患者 (1909例) の43.0%がPD-L1陽性、若年患者 (1936例) の42.4%がPD-L1陽性であった (43.0% vs 42.4%)。年齢とPD-L1発現との間に有意な相関は認められず、OR 1.04 (95% CI 0.90-1.20, p=0.58) であった (Figure 2A)。同様に、性別とPD-L1発現の関連を解析した38研究 (n=6675例) では、男性患者 (4309例) の53.3%がPD-L1陽性、女性患者 (2366例) の59.3%がPD-L1陽性であった (53.3% vs 59.3%)。性別とPD-L1発現との間にも有意な相関は認められず、OR 1.13 (95% CI 0.99-1.29, p=0.06) であった (Figure 2B)。これらの結果は、PD-L1発現が一般的な人口統計学的特徴とは独立していることを示唆する。
腫瘍径大におけるPD-L1高発現との有意な相関: 腫瘍径とPD-L1発現の関連を解析した38研究 (n=6273例) では、腫瘍径大の腫瘍 (3417例) の57.6%がPD-L1陽性であったのに対し、小径腫瘍 (2856例) では37.5%であった (57.6% vs 37.5%)。腫瘍径大はPD-L1高発現と有意に相関し、OR 1.89 (95% CI 1.66-2.16, p<0.01) であった (Figure 2C)。この相関は、患者出身地域別のサブグループ解析でも一貫しており、アジア人患者群における腫瘍径大とPD-L1発現の相関は OR 1.75 (95% CI 1.48-2.08, p<0.01) であり、非アジア人患者群でも OR 2.13 (95% CI 1.73-2.62, p<0.01) と、いずれも極めて有意な相関を示した (Table 3)。
リンパ節転移陽性例におけるPD-L1発現の有意な上昇: LNM (lymph node metastasis: リンパ節転移) とPD-L1発現の関連を解析した34研究 (n=6300例) では、LNM陽性患者 (2530例) の53.5%がPD-L1陽性であったのに対し、LNM陰性患者 (3770例) では38.3%であった (53.5% vs 38.3%)。LNMの存在はPD-L1高発現と有意に相関し、OR 1.38 (95% CI 1.20-1.58, p<0.01) であった (Figure 2D)。サブグループ解析において、アジア人患者群でのLNMとPD-L1発現の相関は OR 1.53 (95% CI 1.26-1.87, p<0.01) であり、非アジア人患者群でも OR 1.24 (95% CI 1.02-1.50, p=0.03) と、両群で有意な相関が維持されていた (Table 3)。
腫瘍の低分化度とPD-L1高発現との一貫した相関: 腫瘍分化度とPD-L1発現の関連を解析した23研究 (n=4735例) では、低分化腫瘍 (Grade III; 1791例) の37.3%がPD-L1陽性であったのに対し、高分化/中分化腫瘍 (Grade I/II; 2944例) では29.9%であった (37.3% vs 29.9%)。低分化腫瘍はPD-L1高発現と有意に相関し、OR 1.71 (95% CI 1.48-1.98, p<0.01) であった (Figure 2E)。この相関は、使用抗体種によるサブグループ解析でも一貫しており、モノクローナル抗体使用群では OR 1.62 (95% CI 1.34-1.96, p<0.01)、ポリクローナル抗体使用群では OR 1.73 (95% CI 1.37-2.18, p<0.01) と、いずれも有意な相関が認められた (Table 3)。
IHC評価法およびカットオフ値別のサブグループ解析: IHC評価法 (陽性細胞割合 vs H-score) やカットオフ値の違いによる影響を検証するため、詳細なサブグループ解析を実施した。陽性細胞割合を評価指標とした研究 (35研究) におけるPD-L1発現率は42.8% (95% CI 31.5-54.2%) であり、H-scoreを用いた研究 (20研究) では47.7% (95% CI 40.5-54.9%) であった (Table 2)。さらに、陽性細胞割合のカットオフ値を5%とした群 (19研究) の発現率は34.3% (95% CI 26.5-42.1%) であったのに対し、10%とした群 (10研究) では56.5% (95% CI 49.5-63.6%) と数値的な差が認められた (Table 2)。しかし、腫瘍径、分化度、LNMとの有意な相関は、IHC評価法やカットオフ値のすべてのサブグループにおいて一貫して維持されていた (Table 3)。
考察/結論
本論文は、Lin, Liang & He (Guangzhou Medical University) グループが、17がん種9212例という当時最大規模のPD-L1臨床病理プール解析を実施し、PD-L1高発現腫瘍が腫瘍径大、リンパ節転移 (LNM)、低分化という予後不良因子と有意に相関することを実証した研究である。これらの臨床病理学的因子は進行がん患者と重なるため、進行固形腫瘍においてPD-1/PD-L1阻害療法が特に有用な層が存在することを示唆する。
先行研究との違い: これまでの個々の研究ではPD-L1発現と臨床病理学的特徴の関連は一貫せず、サンプルサイズも限定的であった。本研究は、これら先行研究の限界を克服し、より強固なエビデンスを提供した点で、これまでの報告と異なり、PD-L1発現の臨床的意義をより明確にした。特に、抗体種やカットオフ値の不均一性による異質性の高さを認識しつつも、サブグループ解析を通じて主要な結論の一貫性を示した点は重要である。
新規性: 本研究で初めて、PD-L1発現がLNM、腫瘍径大、低分化といった複数の進行性臨床病理学的特徴と一貫して関連すること、およびアジア人患者でPD-L1発現率が数値的に高い傾向があることを、大規模なメタアナリシスによって新規に明らかにした。これは、PD-L1の多面的な機能、すなわちFAS-FASL経路を通じた腫瘍細胞の抗アポトーシス作用や、炎症性サイトカイン (NF-κB、MAPK、PI3K、mTOR、JAK/STAT経路) を介した増殖促進作用が、低分化や転移との正の相関を説明しうるというメカニズム的考察を裏付けるものである。
臨床応用: 本知見は、PD-1/PD-L1阻害療法の患者層別化において、簡便な臨床病理学的因子を用いることの臨床応用可能性を示唆する。腫瘍径大、LNM陽性、低分化といった特徴を持つ患者は、PD-L1高発現である可能性が高く、免疫療法からより大きな利益を得られる可能性がある。また、アジア人患者における高発現率は、HBV (hepatitis B virus: B型肝炎ウイルス)、HPV (human papillomavirus: ヒトパピローマウイルス)、EBV (Epstein-Barr virus: エプスタイン・バー・ウイルス) などのウイルス関連腫瘍の頻度差を反映する可能性があり、地域別の免疫療法適応設計に臨床的含意を与える。これらの臨床病理学的パラメータは進行期や予後不良と関連するため、本結果は、既存の治療選択肢が限られている進行腫瘍患者に対する抗PD-1/PD-L1免疫療法の適用を合理化するものである。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究ではデータ不足のため実施できなかった腫瘍種別の詳細なサブグループ解析が残されている。また、TIL (tumor-infiltrating lymphocyte: 腫瘍浸潤リンパ球) におけるPD-1/PD-L1ステータスと臨床応答の相関、およびPD-L1発現と実際の免疫療法奏効率の前向き検証が今後の研究方向性として挙げられる。さらに、使用する抗体やカットオフ値の不統一が全体結果の異質性を高める要因となっており、標準化されたPD-L1検出法の確立が重要なlimitationとして明確に示された。PD-L1発現が腫瘍進行中に動的に変化する可能性も考慮すると、単一時点でのIHC検出によるPD-L1ステータス決定の信頼性も課題として挙げられる。
方法
PubMed、Embase、Cochraneデータベースを2015年7月まで系統的に検索した。検索キーワードには「PD-L1」「B7-H1」「CD274」「PD1」「CD279」「programmed cell death 1」を「cancer」「tumor」「carcinoma」と組み合わせて使用し、ヒトを対象とした研究に限定した。Google Scholarおよび関連レビューの参考文献リストも手動で検索した。包含基準は、IHC (immunohistochemistry: 免疫組織化学) によるPD-L1発現をPD-L1ステータス別に層別化した臨床病理学的データを報告した原著論文とした。中国語または英語で発表された研究に限定した。最終的に61研究 (9,212例、17がん種) を採用した。
データ抽出と方法論的品質評価は、QUORUM (Quality of Reporting of Meta-analyses: メタアナリシス報告品質) およびCochrane Collaborationのガイドラインに従った。抽出項目は、筆頭著者、出版年、腫瘍タイプ、患者特性、患者出身地域、一次抗体、PD-L1ステータス、PD-L1ステータス別に層別化された臨床病理学的特徴であった。データ解析の均一化のため、CRC (colorectal cancer: 大腸がん)、EC (esophageal cancer: 食道がん)、UCC (urothelial cell carcinoma: 尿路上皮がん) ではT1を小径、T2、T3、T4を大径と定義した。その他のがん種では、各研究の基準に従って大径腫瘍を定義した。腫瘍分化度については、Grade I/II (高分化/中分化) を良好な分化、Grade III (低分化) を不良な分化としてグループ化した。IHC評価はH-score (Hスコア) または陽性細胞の割合 (percentage) で行われた。すべての研究はNewcastle-Ottawaスケールを用いて評価され、高品質であると判断された。
統計解析にはStata 12.0とReview Manager 5.2を使用し、固定効果モデル (異質性が低い場合) または変量効果モデルを用いてオッズ比 (OR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。異質性の評価にはI²統計量を用いた。PD-L1発現率と抗体タイプ、患者出身地域、IHC評価方法との関連は独立t検定 (independent t-test) を用いて調査した。サブグループ解析は、患者の出身地域 (アジア人/非アジア人)、使用抗体種 (モノクローナル抗体/ポリクローナル抗体)、IHC評価法、カットオフ値別に実施した。すべてのCIは両側95%確率範囲であり、P値が0.05未満を有意とした。出版バイアスの評価にはBegg’s test (ベッグ検定) を用いたファンネルプロットを視覚的に評価した。本研究では、細胞株 (A549やH1299など) や動物モデル (C57BL/6Jマウスなど) は使用せず、ヒトの臨床データのみを対象とした。