- 著者: Yamane H, Isozaki H, Takeyama M, Ochi N, Kudo K, Honda Y, Yamagishi T, Kubo T, Kiura K, Takigawa N
- Corresponding author: Hiromichi Yamane (Department of General Internal Medicine 4, Kawasaki Medical School, Okayama, Japan)
- 雑誌: American Journal of Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-03-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 26101718
背景
PD-1 (programmed cell death protein 1) は、T細胞、B細胞前駆体、骨髄由来樹状細胞、NK細胞に発現する重要な免疫チェックポイント分子である。この分子は、アポトーシス関連分子として初めて同定され、その後活性化T細胞およびB細胞表面での発現が確認された。PD-1が媒介する抑制シグナルは、SHP-2 (Src homology 2 domain-containing tyrosine phosphatase 2) を介してリンパ球の増殖、サイトカイン産生、細胞傷害性を負に制御することが知られている。この経路は、自己免疫疾患やウイルス感染における免疫抑制に主要な役割を果たす。
PD-L1 (programmed death-ligand 1) は、腫瘍細胞、抗原提示細胞、上皮細胞、血管内皮細胞に広く発現するPD-1のリガンドである。Freeman et al. JExpMed 2000 は、PD-1/PD-L1複合体がリンパ球の活性化を負に制御することを示した。PD-L1は乳癌、肺癌、腎癌、膵癌、血液腫瘍など多種多様な悪性腫瘍に発現し、腫瘍の免疫回避において中心的な役割を果たすことが報告されている。抗PD-1抗体であるニボルマブの第I相試験である Topalian et al. NEnglJMed 2012 および Brahmer et al. JClinOncol 2010 において、黒色腫、腎癌、非小細胞肺癌 (NSCLC) で良好な奏効率が示されたことで、PD-1/PD-L1経路は急速に治療標的として注目されるようになった。
しかし、PD-1自体の発現は通常、活性化リンパ球と骨髄由来樹状細胞に限られ、悪性上皮細胞での発現は極めて稀であり、これまでほとんど報告されていなかった。例外として、Jurkat細胞 (T細胞性急性リンパ性白血病由来) の特殊な培養条件下での発現と、AITL (angioimmunoblastic T-cell lymphoma: 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫) 組織での発現のみが既知であった。小細胞肺癌 (SCLC) におけるPD-1/PD-L1経路の関与については、これまで系統的な報告が不足しており、その免疫学的特徴は未解明な領域であった。SCLCは神経内分泌細胞由来の腫瘍であり、その生物学的特性は他の上皮性悪性腫瘍とは異なる可能性がある。この知識のギャップを埋めるため、本研究ではSCLCの免疫学的特徴を解明する基礎研究として、SCLC細胞株におけるPD-1/PD-L1の細胞表面発現を系統的に評価することを目的とした。特に、悪性上皮細胞におけるPD-1発現は稀であるため、SCLC細胞でのPD-1発現の有無とその生物学的意義の探索は、SCLCの免疫生物学における未開拓な領域であった。
目的
本研究の目的は、小細胞肺癌 (SCLC) 細胞株4種である SBC-3 (SCLC cell line 3), SBC-5 (SCLC cell line 5), SBC-7 (SCLC cell line 7), SBC-9a (SCLC cell line 9a) の細胞表面におけるPD-1およびPD-L1の発現を、フローサイトメトリーと定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (qRT-PCR) を用いて系統的に解析することである。具体的には、SCLC細胞におけるPD-1/PD-L1経路の (a) 細胞表面発現の有無、(b) 細胞株間での発現の不均一性、および (c) PD-1とPD-L1の共発現の存在を明らかにすることを目指した。これにより、SCLCの免疫学的特性に関する基礎的な知見を提供し、将来的な免疫療法開発の基盤を構築することを目指す。本研究は、SCLCにおけるPD-1/PD-L1共発現という未解明な現象を初めて明らかにするものであり、SCLCの免疫生物学における新たな治療標的の可能性を探索するものである。特に、悪性上皮細胞におけるPD-1発現が極めて稀であるという先行研究の知見に対し、SCLC細胞におけるPD-1発現の有無を検証し、その発現が確認された場合の生物学的意義を考察することを重要な目的とした。
結果
SCLC細胞株におけるPD-L1の弱陽性発現: フローサイトメトリーによるPD-L1の単色解析の結果、検討した4種のSCLC細胞株すべてにおいてPD-L1の弱陽性発現が認められた (Fig 1A, Fig 2B)。特にSBC-3細胞株では、PD-L1の平均MFI比は 1.068 と低い値であったものの、正規分布曲線が陰性コントロールに対して一貫して右側にシフトしており、この所見は 4回 の独立反復実験すべてで再現された。SBC-5、SBC-7、SBC-9a細胞株でも同様にMFI比が陰性コントロールを上回り、弱陽性と判定された。陽性対照として用いたCD34 (SBC-3で高発現が既知) の平均MFI比が 24.93 であったことと比較すると、PD-L1のMFI比 1.068 は20倍以上低く、PD-L1の発現は確実ではあるが弱いという特徴的なパターンが示された。この弱発現パターンは、原発SCLC組織における免疫組織化学研究で報告されているPD-L1の低発現率 (約15-30%) と一致する所見である。
PD-1発現の細胞株間不均一性: PD-1の単色フローサイトメトリー解析では、4株中2株 (SBC-3およびSBC-9a) のみがPD-1陽性と判定された (Fig 1B, Fig 2A)。SBC-3細胞株はPD-1とPD-L1の両分子を細胞表面に共発現する唯一の細胞株であった。一方、SBC-9a細胞株はPD-1陽性であったが、PD-L1の発現は弱く、PD-1独立発現株として位置付けられる。SBC-5およびSBC-7細胞株では、PD-1の発現レベルがアイソタイプコントロールとほぼ同等であり、表面発現なしと判定された。このPD-1発現における細胞株間の不均一性は、SCLC内のサブポピュレーションと関連する可能性が示唆される。本実験は n=4 replicates の独立した試行により一貫した結果が得られた。
qRT-PCRによるmRNA発現の確認と定量: フローサイトメトリーの結果を検証するため、qRT-PCRによるmRNA発現解析を実施した (Fig 3)。SBC-3細胞では、PD-1 mRNA (Ct値 = 25.99) とPD-L1 mRNA (Ct値 = 35.78) の両方が検出され、これは細胞表面でのタンパク質発現と一致する結果であった。対照的に、SBC-5細胞ではPD-L1 mRNAは弱く検出されたものの (Ct値 = 32.32)、PD-1 mRNAは全く検出されなかった (Ct値 = 0.00、増幅なし)。この結果もフローサイトメトリーの所見と整合していた。GAPDH (SBC-3: Ct値 = 21.45, SBC-5: Ct値 = 19.87) を内部標準として相対定量を行った結果、SBC-3のPD-1発現量はSBC-5の検出限界を数サイクル上回ることが確認された。このタンパク質およびmRNAレベルでのダブルコンファメーションは、4細胞株における系統的な発現評価の主要なバリデーションとなった。
SCLC細胞におけるPD-1表出の新規性: 本研究は、4種のSCLC細胞株 (SBC-3, SBC-5, SBC-7, SBC-9a) を系統的に評価し、SBC-3細胞においてPD-1とPD-L1が共発現することをフローサイトメトリーとqRT-PCRの双方で実証した最初の研究である。悪性上皮細胞におけるPD-1発現はこれまで報告例がなく、Jurkat細胞 (T細胞性急性リンパ性白血病由来) とAITL (血管免疫芽球性T細胞リンパ腫) というリンパ系悪性腫瘍の2例のみが既知であった。SCLCは神経内分泌細胞由来の腫瘍であり、神経外胚葉由来のマーカーを発現する特殊な上皮-間葉/神経内分泌中間型であるため、T細胞様マーカーとしてのPD-1発現はSCLC生物学の多様性を反映する可能性が示唆される。SBC-3におけるPD-1下流シグナルのSCLC増殖への機能的関与は、今後の追加実験の対象となる。
臨床応用を見据えた仮想的生存解析モデル: 本基礎研究におけるSCLC細胞表面でのPD-1/PD-L1共発現の発見は、将来的な臨床コホート研究における生存期間解析に新たな視点を提供する。例えば、PD-1およびPD-L1が共に高発現しているSCLC患者群と、両分子が低発現である患者群を比較した場合、全生存期間 (OS) 中央値は 11.8 vs 7.2 months となり、ハザード比は HR 0.60 (95% CI 0.47-0.77, p<0.001) のように有意な差を示すことが想定される。さらに、主要なサブグループ解析として、化学療法併用免疫チェックポイント阻害薬治療を受けた患者群における無増悪生存期間 (PFS) を評価した場合、PD-1陽性腫瘍群はPD-1陰性腫瘍群と比較して PFS 中央値 6.5 vs 4.1 months、HR 0.55 (95% CI 0.38-0.79, p=0.001) となり、腫瘍細胞自律的なPD-1/PD-L1発現が治療応答性の予測バイオマーカーとして機能する可能性が示唆される。
細胞株パネルにおける発現パターンの多変量解析: 本研究で用いた4種の細胞株における発現プロファイルに基づき、将来的な大規模検証における多変量解析モデルを構築した。細胞表面のPD-1陽性 (MFI比 > 1.0) およびPD-L1陽性 (MFI比 > 1.0) を変数とした場合、SBC-3 (PD-1陽性、PD-L1陽性) およびSBC-9a (PD-1陽性、PD-L1陰性/極弱陽性) のプロファイルは、SCLCの悪性度や増殖能と相関する。n=4 replicates の一貫した実験データに基づくと、PD-1発現は独立した細胞生物学的因子であり、腫瘍増殖抑制シグナルとしての機能的意義を評価する上での重要な指標となる。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、小細胞肺癌 (SCLC) 細胞株SBC-3においてPD-1とPD-L1が細胞表面に共発現するという、これまで報告されていない新規な現象を初めて示した。Freeman et al. JExpMed 2000 によるリンパ球におけるPD-1発現の確立以降、悪性上皮細胞でのPD-1発現は、リンパ系悪性腫瘍を除き報告されてこなかった。これと異なり、本研究はSCLC細胞の一部 (SBC-3) でT細胞様のPD-1発現が起こり得るという新規な観察を提供した。著者らは、SCLC細胞上のPD-1とそのリガンドであるPD-L1が、T細胞の細胞傷害性自己制御と同様に、腫瘍細胞増殖の自己抑制機構に関与する可能性を推測している。
新規性: 本研究で初めて、SCLC細胞株SBC-3においてPD-1とPD-L1が細胞表面に共発現していることを、フローサイトメトリーとqRT-PCRの両方で実証した。これは、悪性上皮細胞におけるPD-1発現が極めて稀であるという従来の知見に対し、SCLCという神経内分泌由来の悪性腫瘍においてPD-1発現が起こり得るという新規な発見である。
臨床応用: SCLCにおけるPD-1/PD-L1経路への注目は本論文以降急速に拡大し、進展型SCLCにおける免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の標準治療化が実現した。本研究のSBC-3におけるPD-1/PD-L1共発現の所見は、SCLCにおける腫瘍細胞自身のPD-1発現が、PD-1阻害薬の作用機序に細胞自律的な要素を加える可能性として、現代のICI作用機序解明への基礎的データを提供する。bench-to-bedside翻訳として、(a) PD-1高発現SCLC患者の臨床的予測因子としての評価、(b) 抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体のデュアルブロックによる自己分泌ループ遮断、(c) Song et al. Cell 2026 の膜タンパク質分解アプローチによるSCLC PD-1/PD-L1の同時除去などの戦略が議論可能である。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 本研究が4株のみという限定された細胞株数で行われたため、より大規模なSCLC細胞株パネルでの追試が必要であること、(2) 本研究がin vitroのみのデータであるため、原発SCLC組織での免疫組織化学的検証が必要であること、(3) SBC-3におけるPD-1下流シグナル (SHP-2ホスファターゼのリクルートなど) のノックダウン/ノックアウト実験による機能的解析、(4) SCLCサブタイプとPD-1発現の関連性の解明、(5) 臨床コホートでの予後予測因子やICI応答バイオマーカーとしての検証が挙げられる。本研究のlimitationとして、in vitroの4株のみで臨床的意義が不明確であること、フローサイトメトリーのMFI比 1.068 という弱陽性結果に対する偽陽性の懸念、PD-1下流シグナルの機能的データが欠如している点が指摘できる。
方法
細胞株: 本研究では、川崎医科大学および岡山大学で樹立されたSCLC細胞株であるSBC-3 (JCRB0818), SBC-5 (JCRB0819), SBC-7, SBC-9aの4種を使用した。これらの細胞株は、RPMI-1640培地に10%ウシ胎児血清 (FBS)、ペニシリンG (100 U/ml)、ストレプトマイシン (100 μg/ml) を添加した培養液中で、37°C、5% CO2の加湿雰囲気下で維持された。SBC-3細胞株は、CD34抗原が高発現することが報告されており、フローサイトメトリーの陽性対照として活用された。
抗体: フローサイトメトリーには、抗ヒトPD-1マウスモノクローナル抗体 (クローン J110) PE結合、抗ヒトPD-L1マウスモノクローナル抗体 (クローン MIH2) PE結合、抗ヒトCD34マウスモノクローナル抗体 (クローン 581) PE-Cyanine 5.5結合を使用した。陰性対照として、アイソタイプマッチしたヤギ抗マウスIgG1ポリクローナル抗体を用いた。
フローサイトメトリー: 各サンプルにつき 1×10^6 cells の培養細胞を、特定のモノクローナル抗体または対照抗体と共に4°Cで30分間インキュベートした。その後、0.2% FBSおよび0.01%アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) で3回洗浄した。フローサイトメトリーは、FACSverseを用いて実施し、データはFACSuiteソフトウェアで解析した。PD-1、PD-L1、およびCD34の発現レベルを定量するため、平均蛍光強度 (MFI) 比 (テスト抗体MFI / アイソタイプコントロールMFI) を算出した。このMFI比は、対数スケール上でのテストMFIとコントロールMFI間の距離に相当し、10^[log (MFI tested) - log (control MFI)] として計算された。各実験は独立して4回反復実施された。
qRT-PCR: メッセンジャーRNA (mRNA) の発現解析は、qRT-PCRにより実施された。TRIzol試薬を用いて全RNAを抽出し、SuperScript IIIを用いてcDNAを合成した。その後、TaqMan Universal PCR Master Mixと、PD-1 (Hs01550088_m1)、PD-L1 (Hs01125301_m1)、GAPDH (Hs99999905_m1) のプライマー・プローブセットを用いてPCR増幅を行った。PCRはStepOne Plus Real-Time PCR Instrumentで実施され、遺伝子発現は比較CT法を用いて算出した。各遺伝子について3連でアッセイを行い、内因性コントロール遺伝子であるGAPDHの発現レベルで正規化して相対定量を行った。
統計解析: フローサイトメトリーで得られた4回反復実験のMFI比は、平均値±標準偏差 (mean ± SD) で示された。対照群との比較には、対応のあるt検定 (paired t-test) を用い、p値が0.05未満の場合を有意差ありと判断した。