• 著者: Anusha Kalbasi, Mito Tariveranmoshabad, Kevin Hakimi, Sarah Kremer, Katie M. Campbell, Juan M. Funes, Agustin Vega-Crespo, Giulia Parisi, Ameya Champekar, Christine Nguyen, Davis Torrejon, Daniel Shin, Jesse M. Zaretsky, Robert D. Damoiseaux, Daniel E. Speiser, Pedro P. Lopez-Casas, Marisol Quintero, Antoni Ribas
  • Corresponding author: Anusha Kalbasi (Department of Radiation Oncology, Jonsson Comprehensive Cancer Center, UCLA, Los Angeles, CA, USA)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-10-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33055240

背景

腫瘍細胞内因性IFN (interferon) シグナル経路は抗腫瘍免疫監視において不可欠であり、その欠損はICB (immune checkpoint blockade) の一次耐性および獲得耐性の主要メカニズムとして確立されている。メラノーマ患者においてJAK1およびJAK2の機能喪失変異がICB獲得耐性として発見され、これらの変異がPD-L1発現低下や抗原提示障害を介してT細胞応答を損なうことが示された (Zaretsky et al. NEnglJMed 2017)。またin vivoのCRISPRスクリーニングにより、IFN-γ経路遺伝子の欠損が抗CTLA-4療法への耐性を引き起こすことが確認されており (Ishizuka et al. Nature 2019)、さらにJAK1/2変異は原発性ICB耐性においても重要な役割を持つことが報告されている (Shin et al. CancerDiscov 2017)。

しかし、腫瘍内因性IFNシグナル欠損が、ICBとは作用機序の異なるACT (adoptive cell therapy) の有効性に対しても同様の抵抗性を与えるかどうかは不明であった。ACTにおけるT細胞の直接殺傷はMHC (major histocompatibility complex) I-抗原複合体を介したパーフォリン/グランザイム依存性機序によるため、腫瘍内IFNシグナルとは独立して作用しうると推測されていた。ヒトメラノーマにおいてMHC I発現がIFNに高度に依存していることは知られていたが、IFNシグナルが欠損した腫瘍においてMHC Iを非依存的に誘導しACT感受性を回復する手段はgap in knowledgeとして残されており、臨床的介入戦略が不足していた。

目的

JAK1・JAK2・IFNAR1 (interferon alpha/beta receptor 1) 欠損がICBおよびACTそれぞれに対してどのような抵抗性を与えるかをB16-F10マウスメラノーマのCRISPRモデルで比較検証し、JAK1欠損に伴うMHC I消失をIFNシグナル非依存的手段 (NLRC5過発現・BO-112腫瘍内注射) により回復させることでACT感受性を再獲得できるかを評価する。また、BO-112がMHC Iを誘導する分子メカニズムを同定することを目的とした。

結果

JAK1 KO (JAK2・IFNAR1ではなく) がACTおよびICBの両方に完全抵抗性を与える:対側性二腫瘍モデルでのXRT+抗PD-1+抗CTLA-4療法はWT腫瘍に有意な増殖遅延をもたらしたが (P<0.001, unpaired t test)、Jak2 KOおよびJak1 KO腫瘍では非照射側腫瘍の増殖遅延効果が消失した (Fig. 1B)。ACT試験では、pmel-1 T細胞はWTおよびJak2 KO腫瘍に対して有効な増殖抑制を示したが (P<0.01, 二元配置ANOVA)、Jak1 KO腫瘍に対しては完全に無効であり、Ifnar1 KO腫瘍に対しては有効性が保たれた (Fig. 1D)。in vitro共培養においても、IFN-α・IFN-γ前処理後のWT B16はpmel T細胞による殺傷に感受性を示したのに対し、Jak1 KO細胞はいずれのIFN前処理後でもT細胞殺傷に抵抗性であった (P<0.01, Fig. 1E)。Jak2 KO細胞はIFN-γ処理では抵抗性を示したが、IFN-α処理では感受性を保持した。これらの結果は、I型およびII型IFNシグナルの両方が欠損するJak1 KOのみが、T細胞による直接殺傷に対する完全抵抗性をもたらすことを示した。

ヒトメラノーマおよびJAK1変異患者においてMHC I発現がIFNに依存している:48株のヒトメラノーマ細胞株を解析したところ、IFN-α処理により85% (41/48株)、IFN-β処理により92% (44/48株)、IFN-γ処理により79% (38/48株) でMHC I表面発現の増加が認められた (Fig. 2A)。基礎MHC I発現が最低四分位の細胞株では、他の四分位より相対的なIFN-α誘導MHC I増加率が有意に高かった (P<0.05)。これはB16マウスメラノーマの「低基礎値・IFN誘導性」表現型がヒトメラノーマの一部にも当てはまることを示した。JAK1変異によるICB獲得耐性を発症した患者の再発腫瘍IHCでは、S100陽性メラノーマ細胞のMHC IとPD-L1の発現が消失しており、CD8陽性T細胞は腫瘍辺縁にまだ浸潤していたが腫瘍実質部のMHC I発現は検出されなかった (Fig. 2C)。JAK2変異患者の再発腫瘍でも同様のMHC I消失がS100陽性細胞に認められた (Fig. 2D)。これらのヒトデータはIFNシグナル欠損とMHC I消失の臨床的関連を支持するものであった。

NLRC5過発現がIFN非依存的にMHC Iを回復させACT感受性を再獲得:in vivo試験でRFP標識細胞のCD45陰性RFP陽性腫瘍細胞を解析すると、B16Jak1 KOはMHC Iを発現せず (B2m KO陰性対照と同様)、一方でWT・Ifnar1 KO・Jak2 KO細胞はすべてMHC Iを発現していた (Fig. 3B)。これはI型またはII型IFNシグナルのいずれかが存在すればin vivoでのMHC I発現が維持されることを示した。NLRC5 (nucleotide-binding oligomerization domain-like receptor caspase-recruitment domain 5, MHC class I transcriptional coactivator) をlentiviral vectorでJak1 KO B16細胞に導入すると、3回の独立細胞実験 (n=3) でIFN刺激なしにMHC I表面発現が回復した。Jak1 KO空ベクター細胞と比較してMHC I MFI (mean fluorescence intensity) が2.8-fold以上増加し、IFN-γ処理群と同等以上のレベルに達した (mean±SD, Fig. 3C)。PD-L1はNLRC5過発現により回復しなかった点が重要である。NLRC5-Jak1 KO細胞はin vitroでpmel T細胞のIFN-γ産生を誘発し (Fig. 3D)、in vivo ACT試験でも腫瘍増殖が有意に遅延した (P<0.05対空ベクター, Fig. 3E)。一方、WT B16へのNLRC5過発現はACT有効性を追加的に改善しなかった。

BO-112がPKR/TLR3→NF-κB経路を介してIFNおよびNLRC5非依存的にMHC Iを誘導しACT感受性を回復:BO-112腫瘍内注射はJak1 KO腫瘍においてACT (pmel T細胞) の腫瘍増殖抑制効果を有意に回復させたが (P<0.05, Fig. 4A)、B2m KO腫瘍 (MHC I陰性対照) ではACT感受性を回復させなかった (Fig. 4E)。これはBO-112の効果がMHC I依存的であることを示した。腫瘍サンプルのRNA-seqでは、pmel T細胞+BO-112群に特異的な700遺伝子が検出され、主成分分析で4治療群が明確に分離した (Fig. 4B・C)。Jak1 KO細胞をBO-112処理した6時間後のRNA-seqでは190遺伝子が有意に発現変動し (P<0.01, FDR<0.05, log2(fold change)>1.5、最小2.8-fold以上)、ハルマークIFN-γ応答・IFN-α応答・TNF-αシグナリングvia NF-κBが主要エンリッチ遺伝子セットとして同定された (Fig. 6A)。BO-112のMHC I誘導はNlrc5 KO B16Jak1 KOでも保持されており、NF-κB (nuclear factor kappa B) 阻害剤BMS-345541の投与量依存的に抑制され、Rela siRNAでも同様に阻害された (Fig. 7A・B)。dsRNAセンサー (PKR (protein kinase R)/TLR3 (Toll-like receptor 3)/IFIH1/DDX58) のsiRNAスクリーニングでは、PKRノックダウンのみがBO-112誘導MHC Iを完全に消失させ、TLR3ノックダウンは部分的に抑制し、Ifih1・Ddx58は効果を示さなかった (Fig. 7C)。PKR siRNAはBO-112処理後の核内NF-κB (p65) 移行を抑制することも確認された (Fig. 7D)。また、LPS (TLR4 (Toll-like receptor 4) アゴニスト) やCpGオリゴ (TLR9 (Toll-like receptor 9) アゴニスト)、通常製剤のpoly I:Cと比較して、BO-112はB16Jak1 KO細胞においてのみMHC Iを増強でき、dsRNA感知に特異的な効果であることが示された (Fig. 5G・H)。

考察/結論

本研究はJAK1欠損 (I型・II型IFNシグナルの完全消失) とJAK2欠損 (I型IFNシグナルは保持) では、ACT感受性に関して明確に異なる表現型をもたらすことを初めて実証した。これはこれまでの研究でIFNシグナル欠損が一括して免疫療法耐性因子として扱われてきた従来認識と異なり、JAK1・JAK2の機能的非等価性がACTという治療モダリティの文脈で特に重要であることを示した新規の知見である。ICB耐性との比較においては、JAK1・JAK2いずれの欠損もICBに抵抗性をもたらすが、ACTに対してはJAK1欠損のみが完全抵抗性を付与するという解離が観察された。この違いはIFNシグナルのMHC I経路への要件の差異に起因する — JAK2欠損腫瘍はI型IFNシグナルを介してMHC Iを維持できるため、ACTに対する感受性を保つ。

本研究で初めて示されたBO-112のIFN・NLRC5非依存的MHC I誘導機序は新規の概念的寄与を持つ。dsRNAセンサーPKRおよびTLR3がNF-κB (p65) を直接活性化してMHC I発現を誘導するという経路は、IFN-JAK-STATカスケードとは完全に独立した抗原提示経路として機能しうる。これはWest Nileウイルスが線維芽細胞においてIFN非依存的・NF-κB依存的にMHC Iを誘導するという報告とも一致する既報との整合性を持つ機序である。NF-κBがHLA-Aプロモーターを直接制御することが知られており、この軸がBO-112の主要エフェクター経路であることが本研究で確認された。

臨床応用の観点から、BO-112はすでに第I相臨床試験で固形腫瘍患者への腫瘍内投与の安全性が確立されており、抗PD-1耐性腫瘍への併用でも臨床応答が報告されている。JAK1変異腫瘍という特定のバイオマーカーを持つ患者サブグループにBO-112と養子T細胞療法 (TIL療法・TCR-T療法・CAR-T療法) を組み合わせる戦略は直接的な臨床的意義を持つ。また本研究の知見はCAR-T細胞療法がMHC I発現に依存せずに腫瘍を認識するため、JAK1変異腫瘍においてもCAR-T療法は有効である可能性を示唆する。

本研究にはいくつかの残された課題がある。第一に、B16メラノーマはin vitroでのMHC I基礎発現が低く、IFN誘導性が特に顕著なモデルであるため、基礎MHC I発現が十分な腫瘍においてBO-112のIFN非依存的MHC I誘導がどの程度寄与するかは明らかでない。第二に、BO-112の効果は注射した病変局所に限定されており、転移性疾患全体への適用には全身投与可能なdsRNAアゴニストの開発が今後の検討課題として挙げられる。第三に、JAK1・JAK2はIFNシグナル以外の経路 (例: JAK-STATを介したサイトカインシグナル) にも関与するため、本モデルで観察された表現型の一部がIFN経路外に起因する可能性は完全には排除できない。これらの点を踏まえた臨床試験の設計が今後の研究として求められる。

方法

動物・細胞モデル: B16-F10マウスメラノーマ細胞株 (ATCC) にCRISPR/Cas9でJak1 (Janus kinase 1) KO・Jak2 (Janus kinase 2) KO・Ifnar1 (interferon alpha/beta receptor 1) KO・B2m (beta-2 microglobulin) KO (MHC I陰性対照) を作製した。マウスはC57BL/6 (UCLA Animal Facility) およびpmel-1 TCR/Thy1.1トランスジェニックマウス (Jackson Laboratory) を使用した。ヒトメラノーマ48株のMHC I発現を基準値およびIFN-α/β/γ処理後に評価した。JAK1変異患者2例の腫瘍のIHC (immunohistochemistry; S100/MHC I/PD-L1/CD8) も解析に含めた。

in vivo ACT試験: B16-F10あるいはCRISPR改変細胞株 (5×10^5個) をC57BL/6マウス右側腹部に皮下接種し、腫瘍形成確認後 (約50 mm^3) にTBI (total body irradiation, 5 Gy) でリンパ球除去を行った。翌日にgp100特異的pmel-1 T細胞 (5.0×10^6個, 静脈内) +IL-2 (5万IU/日, 3日間, 腹腔内) を投与し腫瘍増殖を追跡した (n=5/群)。BO-112 (nanoplexed poly I:C, Highlight Therapeutics) は2.5 mg/kg腫瘍内注射を週2回・計3回投与した。

in vivo ICB試験: 対側性二腫瘍モデル (bilateral flank) でXRT (radiation therapy, 12 Gy, 片側) +抗PD-1+抗CTLA-4二重ICBを投与し、非照射側腫瘍増殖を評価した (n=4〜6/群)。

分子解析: RNA-seq (Illumina HiSeq3000, 50 bpシングルエンド)・CyTOF (cytometry by time of flight, 単細胞マス質量分析) を腫瘍サンプルに施行した。RNA-seqデータはHISAT2でmm9/GRCm38にアライメント後、HTSeq-Countsで定量し、DESeq2で差次発現解析 (Benjamini-HochbergによるFDR補正) を実施した。遺伝子セット解析はfgsea/msigdbrパッケージを用いた。siRNA (small interfering RNA) ノックダウン (Pkr/Tlr3/Ifih1/Ddx58/Rela対象) によるBO-112のMHC I誘導への影響をフローサイトメトリーで評価した。

統計: 群間比較に両側unpaired t test、腫瘍増殖経時変化に反復測定二元配置ANOVA (two-way ANOVA)、生存分析にlog-rank testを使用した。RNA-seqとマス質量分析の相関解析にはPearson相関係数を用いた (P<0.05を有意とした)。