- 著者: Jeffrey J. Ishizuka, Robert T. Manguso, Collins K. Cheruiyot, Kevin Bi, Panda A, Iracheta-Vellve A, Miller BC, Du PP, Yates KB, Dubrot J, Buchumenski I, Comstock DE, Brown FD, Ayer A, Kohnle IC, Pope HW, Zimmer MD, Sen DR, Lane-Reticker SK, Robitschek EJ, Griffin GK, Collins NB, Long AH, Doench JG, Kozono D, Levanon EY, Haining WN
- Corresponding author: W. Nicholas Haining (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA; Broad Institute of Harvard and MIT, Cambridge, MA, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2019
- Epub日: 2018-12-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 30559380
背景
がん免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害剤 (immune checkpoint blockade: ICB) は、多くのがん種において劇的な治療効果をもたらしてきた。しかし、依然として過半数の患者は初期治療に反応しないか、あるいは治療経過中に耐性を獲得する。この治療抵抗性の主な機序として、腫瘍細胞における抗原提示経路の障害 (例: B2M (beta-2-microglobulin) 変異によるMHCクラスI発現消失) や、IFN (interferon) シグナル経路の欠損 (例: JAK1/JAK2変異) が知られている。Tumeh et al. Nature 2014 や Zaretsky et al. NEnglJMed 2016、Gao et al. Cell 2016 などの先行研究は、これらの耐性メカニズムの理解を深めてきた。しかし、これらの獲得耐性を克服する有効な治療戦略はこれまで確立されておらず、臨床における大きな課題であった。すなわち、抗原提示能を喪失した腫瘍細胞を効率的に排除する手法については、依然として決定的なアプローチが不足しているという深刻なナレッジギャップ (knowledge gap) が存在していた。
また、Manguso et al. Nature 2017 によるプール型 in vivo CRISPRスクリーニングにおいて、RNA編集酵素である ADAR1 (adenosine deaminase acting on RNA 1) を標的とする sgRNA (single-guide RNA) が、免疫能保持マウスの腫瘍において著しく枯渇することが示されていた。ADAR1は、二本鎖RNA (double-stranded RNA: dsRNA) 内のアデノシンをイノシンへと変換する (A-to-I editing) 酵素であり、自己由来のdsRNAを非自己 (ウイルス等) と誤認識して自然免疫経路が暴走するのを防ぐブレーキとして機能している。しかし、腫瘍細胞におけるADAR1の喪失が、どのように抗腫瘍免疫を活性化し、ICBに対する耐性を克服し得るのかという具体的な分子機序や免疫学的動態は未解明のままであった。腫瘍細胞における自然免疫リガンドの認識制御と、獲得免疫耐性の克服を結ぶシグナル経路には大きな知識ギャップが存在しており、これを埋めるための基礎研究が不足していた。
目的
本研究の目的は、腫瘍細胞におけるRNA編集酵素ADAR1が、抗腫瘍免疫を抑制する内在性の免疫チェックポイントとして機能しているかを検証することである。具体的には、ADAR1の欠失がIFN誘導性の自己dsRNAのA-to-I編集を減少させ、dsRNAセンサーである PKR (protein kinase R, 別名 Eif2ak2: eukaryotic translation initiation factor 2-alpha kinase 2) および MDA5 (melanoma differentiation-associated protein 5, 別名 Ifih1) を介した自然免疫シグナルを脱抑制するかを明らかにする。さらに、この自然免疫活性化機構が、B2MやJAK2の欠損といった抗原提示能の喪失に起因するICB獲得耐性を克服し、非MHCクラスI依存的な抗腫瘍免疫を誘導できるかを治療モデルを用いて評価することを目指す。
結果
ADAR1欠損によるICB感作とTMEの著明な炎症化: in vitro において、Adar1-null B16細胞は対照細胞と同等の増殖能を示し、ADAR1自体は細胞の生存に必須ではないことが示された (n=9 replicates)。また、T細胞を欠く免疫不全 NSG マウスにおいては、Adar1-null腫瘍と対照腫瘍の増殖速度に有意な差は認められなかった。しかし、免疫能保持 C57BL/6J マウスにおいては、抗PD-1抗体治療を施した Adar1-null 腫瘍が対照群と比較して極めて顕著な腫瘍退縮と生存期間の延長を示した (p<0.0001, log-rank test; Fig 1c)。この治療感受性増強効果は、CT26大腸がんモデルおよび Braf/Pten メラノーマモデルでも同様に再現された (Extended Data Fig 1c)。TMEのフローサイトメトリー解析 (n=8 mice) では、未治療の Adar1-null 腫瘍において CD45+ 全免疫細胞浸潤が有意に増加しており (p<0.01)、特に CD8+ T細胞 (p<0.005) の割合が著明に上昇していた (Fig 2a, b)。さらに、TME内の IFNβ および IFNγ のタンパク質レベルも有意に上昇しており、IFNβは 2.5-fold increase (p<0.01) を示し、CD8+ T細胞浸潤は 3.0-fold increase (p<0.005) に達していた (Fig 2f)。
IFN誘導性SINEのA-to-I編集不全とPKR/MDA5経路の活性化: RNAシーケンシング解析により、対照細胞ではIFN刺激に伴い A-to-I 編集イベントおよびハイパーエディティング (hyper-editing) が著しく増加するのに対し、Adar1-null細胞ではこれらが完全に抑制されることが示された (p<0.0001; Fig 4a)。特に、ゲノム中の SINE (short interspersed nuclear element) 領域に存在するIFN誘導性転写産物において、A-to-I 編集の低下が顕著であった。in vitro において、Adar1-null細胞 (n=3 cells) は IFNβ または IFNγ 刺激を受けると、対照細胞と異なり著しい増殖抑制 (p<0.0001) とアポトーシスの誘導 (p<0.01) を起こし、同時に自ら IFNβ を分泌した (Fig 3b, c, e)。IFNβ選択圧下でのゲノムワイドCRISPRスクリーニングにより、Adar1-null細胞の増殖停止を回避させる遺伝子として PKR (Eif2ak2) が同定された (Fig 4d)。遺伝子欠損実験により、PKRの欠損はIFN誘導性の増殖停止を完全に消失させたが、IFNβ分泌には影響しなかった。逆に、MDA5 (Ifih1) または MAVS の欠損は、IFNβの分泌を完全に消失させたが、増殖停止は阻害しなかった (Fig 4e)。in vivo において、ADAR1、PKR、MDA5の三重欠損 (TKO) 腫瘍 (n=5 mice) では、抗PD-1抗体に対する感受性化およびTMEの免疫細胞浸潤が完全に消失した (Fig 4f, g)。これにより、ADAR1欠損による抗腫瘍効果は、PKRを介した「腫瘍増殖停止」と、MDA5-MAVSを介した「TMEの炎症化」という、互いに独立した二つの自然免疫感知経路によって駆動されていることが証明された (Fig 4h)。
抗原提示能喪失によるICB獲得耐性の克服: B2m 欠損B16腫瘍は、MHCクラスI発現が完全に消失しており (Fig 5a)、CD8+ T細胞による認識を受けないため、抗PD-1抗体およびGVAX併用療法に対して完全な耐性を示した (Fig 5c)。しかし、Adar1 と B2m を同時に欠損させた二重欠損 (DKO) 腫瘍 (n=5 mice) においては、この治療耐性が完全に克服され、多くの腫瘍が消失した (Fig 5c)。同様の耐性克服効果は、H2-K1 欠損、Nlrc5 欠損、および Jak2 欠損モデルでも確認された (Extended Data Fig 10b)。一方で、IFNシグナル伝達自体を遮断する Jak1 欠損モデルにおいては、ADAR1を欠損させても治療感受性の回復は認められなかった (Fig 5c)。B2m/Adar1 二重欠損腫瘍のTMEを解析したところ、MHCクラスI非依存的に腫瘍を傷害し得る γδ T細胞、granzyme B+ CD4+ T細胞、および NK細胞の浸潤が有意に増加していた (それぞれ p<0.05, p<0.001, p<0.0001; Fig 5d)。さらに、ヒトのがんゲノムアトラス (TCGA) データベースを用いた解析 (n=356 patients) において、腫瘍のハイパーエディティング指数と、炎症応答シグネチャおよび免疫浸潤スコアとの間に有意な負の相関が認められた (r2=-0.249, p=1.98E-06; Extended Data Fig 8a)。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の免疫チェックポイント研究は、主にT細胞側に発現するPD-1やCTLA-4などの膜受容体シグナルに焦点を当ててきた。これに対し、本研究は腫瘍細胞側の核酸編集酵素であるADAR1が、内在性の免疫チェックポイントとして機能していることを解明した点で、これまでのパラダイムと大きく異なる。さらに、従来の定説ではICBの有効性は CD8+ T細胞によるMHCクラスIを介した抗原提示に絶対的に依存するとされてきたが、本研究はADAR1欠損によって十分な腫瘍内炎症が惹起されれば、B2M欠損などの抗原提示能を喪失した耐性腫瘍であっても、γδ T細胞やNK細胞などの非古典的免疫細胞を動員・活性化することで排除可能であることを示した。この知見は、Sade-Feldman et al. NatCommun 2017 などが報告した抗原提示不活性化による耐性獲得機構を、自然免疫の脱抑制という全く異なるアプローチで打破できることを意味している。
新規性: 本研究は、腫瘍細胞においてADAR1を喪失させることで、IFN誘導性の自己由来dsRNA (主にSINE領域由来) が未編集のまま蓄積し、これが強力な免疫活性化リガンドとして機能することを本研究で初めて実証した。このdsRNA蓄積が、PKRを介した直接的な腫瘍細胞の増殖停止・アポトーシス経路と、MDA5-MAVSシグナルを介したI型IFN分泌およびTMEの炎症化経路という、相補的な二重の自然免疫感知システムを駆動することを新規に同定した。これは、Chiappinelli et al. Cell 2015 が示したエピジェネティック薬によるdsRNA誘導機構とも合流する、がん治療におけるdsRNA感知経路の重要性を決定づける発見である。
臨床応用: 本研究の成果は、ICB不応答性または獲得耐性を示すがん患者に対する新規治療戦略の臨床応用に強く結びついている。ADAR1を標的とする小分子阻害薬の開発は、腫瘍特異的に「冷たい腫瘍 (cold tumor)」を「熱い腫瘍 (hot tumor)」へと変貌させる画期的な免疫感作薬となる可能性を秘めている。また、Ribas et al. Cell 2017 が示したオンコリティックウイルス療法や、放射線療法、TLR (Toll-like receptor) アゴニストなど、TMEにおいてIFN産生を促す既存の治療法とADAR1阻害薬との併用は、極めて高い相乗効果をもたらす臨床的有用性が期待される。さらに、Newman et al. NatMethods 2015 や Yoshihara et al. NatCommun 2013 などの手法を用いたTMEの免疫プロファイリングと組み合わせることで、ADAR1活性やRNAエディティング指数を、治療奏効性を予測するバイオマーカーとして臨床現場で活用する道が開かれる。
残された課題: 今後の検討課題として、全身投与可能な高活性かつ選択的なADAR1阻害薬の創薬が挙げられる。ADAR1の全身性欠損は正常組織において自己免疫疾患様のアポトーシスや炎症を引き起こすリスクがあるため、腫瘍選択的なデリバリー技術や、正常細胞への毒性を回避し得る安全な治療窓 (therapeutic window) の設定が必要である。また、ヒトの肺がんや他のがん種において、どの程度のADAR1阻害がdsRNA感知経路を十分に活性化するかの閾値を解明すること、および McGranahan et al. Cell 2017 が指摘するような、HLA (human leukocyte antigen) アレル喪失を伴う複雑なヒト腫瘍微小環境における非古典的免疫細胞の動態をさらに詳細に検証することが、今後の重要な研究方向性である。
方法
マウスB16メラノーマ細胞、CT26大腸がん細胞、および Braf/Pten メラノーマ細胞にCas9を発現させ、sgRNAを用いて ADAR1 p150アイソフォームまたは p110/p150の両アイソフォームをノックアウトした (Adar1-null細胞)。これらの細胞を免疫不全 NSG (NOD.Cg-Prkdc^scid Il2rg^tm1Wjl/SzJ) マウスおよび免疫能保持 C57BL/6J マウスの右 flank に皮下移植し、腫瘍増殖および抗PD-1抗体治療 (100 ug/mouse、計3回投与) に対する応答を比較した。腫瘍微小環境 (tumor microenvironment: TME) の解析には、フローサイトメトリー、免疫組織化学 (IHC) 染色、および CD45+ 免疫細胞 7,406個を対象とした単一細胞RNAシーケンシング (single-cell RNA-seq: scRNA-seq) を用いた。scRNA-seqデータの解析には、Satija et al. NatBiotechnol 2015 に記載された Seurat パッケージおよび Dobin et al. Bioinformatics 2013 の STAR アライナーを使用した。
IFNβ (1,000 U/ml) または IFNγ (100 ng/ml) 刺激下での遺伝学的依存性を解析するため、Adar1 と Ifnar2、Ifngr1、Stat1、Eif2ak2 (PKRをコード)、Ifih1 (MDA5をコード)、Ddx58 (RIG-Iをコード)、Mavs の二重欠損 (DKO) および三重欠損 (TKO) 細胞株を作製し、in vitro での増殖抑制、アポトーシス (Annexin V/7-AAD染色)、および ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) によるIFNβ産生量を定量した。また、IFNβ刺激条件下でのゲノムワイドCRISPRスクリーニングを実施し、増殖停止に関与する必須遺伝子を同定した。抗原提示経路の障害によるICB耐性モデルとして、B2m、H2-K1、Nlrc5、Jak1、Jak2 をそれぞれ欠損させたB16細胞株を作製し、ADAR1欠損との組み合わせによる耐性克服効果を GVAX (GM-CSF発現全がん細胞ワクチン) および抗PD-1抗体併用療法下で評価した。統計解析には、2群間比較として Student’s t-test (両側) を、生存曲線比較として log-rank test を使用した。