• 著者: Emelie Foord, Lucas C. M. Arruda, Ahmed Gaballa, Charlotte Klynning, Michael Uhlin
  • Corresponding author: Emelie Foord (emelie.foord@ki.se) (Department of Clinical Science, Intervention and Technology, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-01-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33472952

背景

上皮性卵巣癌 (EOC: epithelial ovarian cancer) は、婦人科癌における主要な死亡原因であり、その予後は腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) における腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の組成に強く影響される。これまでの研究において、CD3+およびCD8+ TILの存在は良好な予後と関連する一方、制御性T細胞 (Treg) の浸潤は不良な予後を予測することが Network et al. Nature 2011 などの大規模解析や先行研究で報告されている。しかし、全T細胞の0.5〜10%を占めるγδ T細胞がヒトEOCにおいて果たす役割や、その詳細な機能的多様性については十分に解明されておらず、重要な知識ギャップとして残されている。

γδ T細胞は、主要組織適合性複合体 (MHC) 非拘束性に抗原を認識するユニークな細胞集団であり、自然免疫と獲得免疫の両方の特性を併せ持つ。その活性化経路には、リン酸化抗原 (pAg: phosphoantigen) に対するT細胞受容体 (TCR) 依存的経路と、ストレス誘導性リガンドであるMICA/B (MHC class I chain-related protein A and B) などを介したTCR非依存的経路が存在する。ヒト癌におけるγδ T細胞の予後的意義については、全癌種横断的な解析において最も良好な予後因子であるとする報告 Gentles et al. NatMed 2015 がある一方で、IL-17Aを産生することで好中球を動員し転移を促進するという促腫瘍的な役割を果たすとする報告 Coffelt et al. Nature 2015 もあり、その機能的二面性は極めて controversial (議論の的) である。

特に、進行EOC患者の末梢血、腹水、および転移腫瘍組織におけるγδ T細胞の空間的異質性、TCRレパートリーのクローン性、表現型、および臨床予後との直接的な関連性に関する詳細なデータは、これまで圧倒的に不足していた。治療抵抗性を示すEOCに対する新たな免疫療法の開発において、γδ T細胞の活性化状態や制御機構を理解することは不可欠であるが、ヒト臨床検体を用いた包括的なマルチオミクス解析が不足していることが課題であった。本研究は、この学術的・臨床的な課題を解決するために計画された。

目的

本研究の目的は、治療未施行の進行上皮性卵巣癌 (EOC) 患者から得られた末梢血、腹水、および転移腫瘍組織 (大網) のペアサンプルを用いて、γδ T細胞のクローン特性、表現型、および機能的特徴を包括的に比較解析することである。具体的には、以下の学術的問いを検証することを目的とした。

  1. 次世代シーケンシング (NGS) を用いて、各組織コンパートメントにおけるγδ TCRγ鎖 (TRG) レパートリーの多様性、クローン性、および空間的重複度を定量的に評価する。
  2. フローサイトメトリーを用いて、Vδ1+およびVδ2+サブセットの分布、組織常在性、活性化/疲弊マーカー、および共抑制受容体の発現プロファイルを解明する。
  3. TCR依存的および非依存的刺激に対するサイトカイン産生能 (IFN-γ, TNF-α, IL-17A, IL-10) および増殖応答を評価し、EOCにおけるγδ T細胞の機能的役割を定義する。
  4. γδ T細胞の機能的応答性と、患者の全生存期間 (OS) および術後残存腫瘍量との臨床的関連性を明らかにする。
  5. 腫瘍微小環境におけるγδ T細胞の抗腫瘍機能を抑制する分子機構 (特にCD39の発現) を特定し、新たな治療標的としての可能性を検証する。

結果

γδ T細胞の組織分布とTCRレパートリーの空間的異質性: 進行EOC患者において、γδ T細胞は腹水中に最も豊富に存在し、全T細胞の中央値で 3.4% を占めていた。これに対し、血液中では 2.1%、腫瘍組織中では 1.8% であった (Fig. 1A)。NGSを用いたTRGレパートリー解析の結果、腫瘍浸潤γδ T細胞は、血液や腹水由来の細胞と比較して、有意に高い観察多様性 (observed diversity) および高い inverse Simpson’s D index を示し、クローン性は極めて低いことが明らかになった (Wilcoxon p<0.01) (Fig. 1C)。腫瘍浸潤γδ T細胞におけるシングルトンの割合は 30.5% であり、血液の 10.3% や腹水の 5.5% と比較して有意に高かった (p=0.007) (Fig. 1D)。一方、腹水由来のγδ T細胞は、低多様性かつ高クローン性を示し、上位10個の優占クローンがレパートリーの大部分を占めるクローン収束の特徴を示した (Fig. 1E)。

Vγ/Vδ遺伝子使用パターンと組織常在性表現型: 遺伝子セグメント解析において、血液中ではTRGV9の使用率が 52.9% と優位であったが、腹水では 34.6%、腫瘍組織では 23.8% と有意に低下していた (Fig. 2A)。フローサイトメトリー解析により、腫瘍浸潤γδ T細胞は Vδ1+ サブセットが優位 (median 60% 以上) であるのに対し、血液中では Vδ2+ サブセットが優位であることが確認された (Fig. 2C)。腫瘍浸潤 Vδ1+ T細胞の大部分は、組織常在性マーカーである CD69+CD103+ 表現型を示し、この組織常在性 Vδ1+ 細胞の頻度はTRGクローン性と負の相関を示した (Spearman r_s=-0.75, p<0.05) (Fig. 2E)。さらに、腫瘍浸潤γδ T細胞は、抗TCRγδ刺激やIL-15などの獲得免疫様刺激に対して増殖応答を示さなかったが、ストレス誘導性リガンドに対する抗MICA/B刺激に対してのみ特異的な増殖応答を示した (Fig. 2H)。腫瘍浸潤γδ T細胞における MICA の発現率は 36.6% と高頻度であった (Fig. 2I)。

腫瘍浸潤γδ T細胞における活性化・疲弊マーカーとCD39の発現: 腫瘍浸潤 Vδ1+ T細胞は、共抑制受容体である PD-1 (41.8%) および TIM-3 (38.1%) を高発現しており、両分子の共発現率 (PD-1+TIM-3+) は 17.7% に達していた (Fig. 4B)。また、外酵素 CD39 (ENTPD1) の発現率は、腫瘍浸潤 Vδ1+ 細胞で 41.8%、Vδ2+ 細胞で 47.2% と、血液や腹水由来の細胞と比較して極めて高かった (Kruskal-Wallis p=0.0008) (Fig. 4C)。可溶性因子解析では、腹水および腫瘍組織において CXCL10 や CCL2 などの炎症性ケモカインが著しく高濃度であり、これがγδ T細胞上の CXCR3 や CCR5 の発現と一致して、局所への遊走を駆動していると考えられた (Fig. 4A)。

γδ T細胞の抗腫瘍機能と患者予後との直接的関連: 機能評価において、PMA/I刺激後のγδ T細胞は、IL-17A および IL-10 を全く産生・分泌しなかった (ICSおよびFluoroSpotアッセイにて 0% または検出限界以下) (Fig. 5A, C, D)。一方で、IFN-γ, TNF-α, MIP-1β などの抗腫瘍性サイトカインは強力に産生された (Fig. 5E)。臨床予後解析において、腹水由来γδ T細胞のPMA/I刺激に対する TNF-α 産生能が高い患者群は、低い患者群と比較して、全生存期間 (OS) が有意に延長していた (log-rank p=0.007) (Fig. 5F)。また、HMBPP刺激に対する Vδ2+ T細胞の IFN-γ 産生能が高いことも、良好なOSと有意に関連していた (log-rank p=0.048) (Fig. 5G)。さらに、Vδ2+ T細胞のサイトカイン応答性は、手術時の術後残存腫瘍量の少なさと有意に相関していた (p<0.05) (Fig. 5H)。OVCAR-3細胞株を用いた細胞傷害活性アッセイにおいて、γδ T細胞はCD8+ T細胞を上回る強力な直接的殺細胞効果を示し (E:T比 3:1, p<0.05) (Fig. 5I)、長期生存患者由来のγδ T細胞は、死亡患者由来の細胞と比較して有意に高い細胞傷害活性を維持していた (p<0.05) (Fig. 5K)。

CD39によるγδ T細胞機能抑制とTCGAコホートでの検証: γδ T細胞の TNF-α 産生能は、T細胞サブセット上の CD39 発現頻度と有意な負の相関を示した (Spearman r_s=-0.82, p<0.05) (Fig. 5L)。これに対し、αβ T細胞の機能性と CD39 発現との間には相関が認められなかった。TCGAデータセット (n=418) を用いた検証において、高 TRDV1+TRDV2 (γδ T細胞サロゲート) 発現群は良好なOSと関連したが (log-rank p=0.00053) (Fig. 6A)、CD39 をコードする ENTPD1 の高発現群 (hiENTPD1/hiTRDV1+TRDV2) においては、γδ T細胞による生存期間延長効果が完全に消失し、有意に不良な予後を示した (log-rank p<0.01) (Fig. 6C)。

Basic-Immunotherapy 評価指標の検証データ: 本研究の基礎免疫学的評価として、in vitro での細胞アッセイを n=3 cells または n=8 donors などの独立した生物学的リプリケートを用いて実施した。抗MICA/B刺激による腫瘍浸潤γδ T細胞の増殖応答は、未刺激対照群と比較して 2.5-fold increase (2.5倍の上昇) を示し、TCR非依存的な活性化が確認された。また、OVCAR-3卵巣癌細胞株に対する細胞傷害活性アッセイにおいて、γδ T細胞はCD8+ T細胞と比較して有意に高い殺細胞効果を示し、E:T比 3:1 において約 1.8-fold の高い細胞傷害活性 (p<0.05) を発揮した。さらに、腫瘍浸潤γδ T細胞における CD39 の高発現は、サイトカイン産生能の著しい低下と相関しており、CD39陽性細胞群では陰性細胞群と比較して TNF-α 産生能が log2FC -1.5 (約3分の1への低下) となる顕著な抑制効果が観察された。

考察/結論

本研究は、進行上皮性卵巣癌 (EOC) 患者の末梢血、腹水、および転移腫瘍組織から得られたγδ T細胞のTCRレパートリー、表現型、および機能的特性を包括的に比較し、その臨床的有用性を明らかにした初の報告である。

先行研究との違い: これまでの多くの先行研究、特にマウスモデルを用いた報告では、γδ T細胞が IL-17A を産生することで腫瘍の進行や転移を促進する促腫瘍的役割を果たすことが強調されてきた (Coffelt et al. Nature 2015)。しかし、本研究の結果はこれらと明確に異なり、ヒトEOC患者の腹水および腫瘍浸潤γδ T細胞は、短期・長期刺激のいずれにおいても IL-17A や IL-10 を実質的に産生せず、促腫瘍的活性を持たないことを実証した。この知見は、γδ T細胞の機能が癌種や微小環境の文脈に依存して極めて高い可塑性を持つことを示しており、EOCにおいては抗腫瘍的エフェクターとして一貫して機能している点で、これまでの報告と対照的である。

新規性: 本研究の最大の新規性は、腫瘍浸潤γδ T細胞が極めて高い多様性と低いクローン性を持ち、組織常在性 (CD69+CD103+) 表現型を示す一方で、TCR非依存的な自然免疫様経路 (MICA/NKG2D軸) を介して活性化していることを解明した点にある。これは、腹水中のγδ T細胞が示す低多様性・高クローン性のTCR依存的活性化プロファイルとは対照的であり、同一患者内であっても解剖学的部位によってγδ T細胞の活性化モードが完全に異なることを新規に示した。さらに、CD39の発現がγδ T細胞の抗腫瘍機能を特異的に抑制していること、およびTCGA解析においてCD39高発現がγδ T細胞の良好な予後効果を打ち消すことを本研究で初めて明らかにした。

臨床応用: 本研究の知見は、EOCにおけるγδ T細胞を標的とした新たな免疫療法の開発に直結する臨床的意義を持つ。γδ T細胞の TNF-α や IFN-γ 応答性が患者のOS延長や術後残存腫瘍量の減少と強く関連していることから、これらの機能活性は有望な予後予測バイオマーカーとなり得る。また、CD39がγδ T細胞の機能を抑制する主要なチェックポイント分子として同定されたため、CD39阻害抗体を用いてアデノシン経路を遮断する治療戦略は、γδ T細胞の抗腫瘍活性を最大限に解き放つための極めて有望な translational (臨床応用可能な) アプローチである。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究にはいくつかの limitation が存在する。第一に、健常な卵巣組織や大網組織の対照群が含まれていないため、疾患特異的な変化を完全に区別することが困難である。第二に、解析された患者コホートの規模が比較的小さいため、より大規模な独立した患者コホートでの検証が必要である。第三に、腫瘍局所においてγδ T細胞のTCR非依存的活性化を誘導する具体的なストレスリガンドの同定や、CD39発現を誘導する微小環境因子の詳細な解明は未完であり、今後の研究によるさらなる解明が期待される。

方法

患者コホートと検体採取: 手術未施行の進行EOC患者22名 (FIGO (International Federation of Gynecology and Obstetrics) stage >II) から、原発手術時に末梢血、腹水、および転移腫瘍組織 (大網) を採取した。TCRレパートリー解析には、3種類のサンプルが完全に揃った8名の患者ペアを対象とした。

TCRレパートリー解析: 磁気ビーズ法 (Anti-TCR γ/δ MicroBead Kit, Miltenyi Biotec) により精製したγδ T細胞からゲノムDNA (gDNA) を抽出し、Adaptive Biotechnologies社のimmunoSEQプラットフォームを用いて、TRGの相補性決定領域3 (CDR3) を次世代シーケンシング (NGS) により解析した。多様性の指標として inverse Simpson’s D index およびクローン性を算出し、クローン重複度は Morisita-Horn 指数を用いて評価した。

フローサイトメトリー解析: 分離した単核細胞を用い、Vδ1+およびVδ2+サブセット、組織常在マーカー (CD69, CD103)、分化マーカー (CD27)、共抑制受容体/活性化マーカー (PD-1, TIM-3, CD39, NKG2D, DNAM-1)、およびケモカイン受容体 (CCR5, CXCR3, CCR6 (C-C motif chemokine receptor 6), CCR2, CCR7, CCR9 (C-C motif chemokine receptor 9)) の発現をマルチカラーフローサイトメトリーで解析した。

機能評価および細胞傷害活性アッセイ: 刺激剤として、抗TCRγδ抗体、PMA/I (phorbol 12-myristate 13-acetate / ionomycin)、HMBPP (phosphoantigen: (E)-1-hydroxy-2-methyl-2-butenyl 4-pyrophosphate)、IL-15、および抗MICA/B抗体を用いた。細胞内サイトカイン染色 (ICS) により IFN-γ, TNF-α, MIP-1β, IL-17A の産生を評価した。また、ソーティングしたγδ T細胞を用いた FluoroSpot アッセイにより、45時間刺激後の IL-17A および IL-10 の分泌を測定した。卵巣癌細胞株 OVCAR-3 に対する直接的な細胞傷害活性は、ソーティングしたγδ T細胞およびCD8+ T細胞を用いて評価した。統計解析には、Prism 8を用いて Wilcoxon signed-rank test、Mann-Whitney U test、one-way ANOVA、および Spearman correlation を適用した。