- 著者: Seth B. Coffelt, Kelly Kersten, Chris W. Doornebal, Jorieke Weiden, Kim Vrijland, Cheei-Sing Hau, Niels J. M. Verstegen, Metamia Ciampricotti, Lukas J. A. C. Hawinkels, Jos Jonkers, Karin E. de Visser
- Corresponding author: Karin E. de Visser (Division of Immunology, Netherlands Cancer Institute, Amsterdam)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-03-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 25822788
背景
転移は乳癌患者の主要な死因であり、癌細胞と微小環境の相互作用が転移カスケードの各段階で決定的な役割を果たすことが知られている。特に、局所および遠隔臓器における免疫細胞とそのメディエーターが転移形成を促進することが報告されている (Quail et al. NatMed 2013)。臨床的には、乳癌患者の血液中で好中球増多が予後不良と相関することが示されてきた (Noh et al. 2013, Azab et al. 2012)。しかし、循環好中球がどのようなシグナルによって全身的に動員・活性化され、どのようなメカニズムで転移を促進するのかは未解明な点が多かった。
これまでの研究では、好中球が転移に対して促進的または抑制的な役割を果たすという相反する報告があり、その機能はcontroversialであった (Granot et al. CancerCell 2011, Kowanetz et al. 2010)。例えば、VEGFR1陽性造血幹細胞が転移前ニッチを形成することが示唆されている (Kaplan et al. Nature 2005)。また、MMP9がVEGFR1を介して肺特異的転移に関与することや (Hiratsuka et al. CancerCell 2002)、腫瘍が誘発するケモカインの上方制御が骨髄細胞の肺転移前ニッチへの動員を決定することも報告されている (Hiratsuka et al. 2006)。しかし、これらの知見は好中球の全身的な動員と活性化の全体像を説明するには不足しており、腫瘍がどのように全身性炎症を誘導し、それが転移にどのように寄与するのかというメカニズムは不明なままであった。
IL-17やG-CSFなどのサイトカイン軸が感染症や炎症性疾患において好中球の展開を調節することは知られていたが (Cai et al. 2011, Mei et al. 2012, Sutton et al. 2009)、乳癌転移におけるこれらのサイトカインの役割は十分に検討されていなかった。特に、腫瘍がどのようにして全身性炎症を誘導し、それが転移にどのように寄与するのかというメカニズムは不明なままであった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の目的は、自発乳癌マウスモデル (K14cre;Cdh1^F/F;Trp53^F/F = KEPマウス) を用いて、腫瘍誘導性の全身性好中球拡大の分子機構と転移促進機能を詳細に解析することである。具体的には、IL-1βからγδT細胞、IL-17、G-CSFへと続くサイトカイン軸が好中球の動員と機能にどのように関与するかを同定し、そのメカニズムを解明することを目指した。さらに、好中球がiNOS (inducible nitric oxide synthase) を介したCD8+ T細胞の抑制を通じて転移を促進するという仮説を検証し、このγδT細胞/IL-17/好中球軸が乳癌転移の新たな治療標的となりうる可能性を提示することを目的とした。最終的には、このメカニズムがヒト乳癌においても関連性を持つかどうかの予備的評価も行った。
結果
腫瘍誘導性の全身性好中球拡大と未熟化: KEP腫瘍担癌マウスでは、CD45+CD11b+Ly6G+Ly6C+F4/80-好中球が骨髄、血液、脾臓、肺、リンパ節で全身的に拡大することが確認された (Extended Data Fig. 1b, d)。腫瘍サイズが0 mm2から100 mm2に増大するにつれて、肺における好中球の割合は約6%から40%へと顕著に増加した (Fig. 1b)。原発腫瘍の外科的切除後には、好中球数が速やかに正常レベルに減少したことから (Extended Data Fig. 1g)、この好中球拡大が腫瘍によって駆動されることが示された。核形態解析では、KEPマウスの好中球においてバンド核、環状核、非分葉核といった未熟細胞の特徴が増加しており、骨髄から未熟好中球が循環系に放出されていることが示唆された (Extended Data Fig. 3e)。
好中球の転移促進機能と時期特異性: anti-Ly6G抗体による好中球枯渇は、原発腫瘍の増殖 (腫瘍体積)、腫瘍組織像、微小血管密度のいずれにも影響を与えなかった (Extended Data Fig. 2d, e, f)。しかし、好中球枯渇は肺転移結節数およびリンパ節転移陽性率を有意に減少させた (n=11 mice/群、p<0.05) (Fig. 1c)。時期特異性解析では、原発腫瘍増殖中の早期相における好中球枯渇のみが多臓器転移を有意に減少させ (n=9 control mice, 11 early phase mice, 14 late phase mice; p<0.05)、原発腫瘍切除後の晩期相での枯渇は無効であった (Fig. 1d)。転移巣の結節サイズは両群間で差がなかったことから (Extended Data Fig. 2g)、好中球は転移の確立という早期段階を支援し、転移後の増殖には関与しないことが示唆された。
iNOS介在性のCD8+ T細胞抑制: 循環好中球のRNA-seq解析により、WTとKEPマウス間で100個の差次的に発現する遺伝子が同定された (Extended Data Fig. 4a)。その中で、Nos2 (iNOSをコードする遺伝子) は、KEP好中球においてWT好中球と比較して150倍以上の最大上昇を示した (Fig. 2a)。Prok2 (Bv8)、S100a8、S100a9といった転移関連遺伝子も著明に上昇していた。KEP由来好中球は、ex vivoにおいてCD3/CD28刺激下でのナイーブ脾臓CD8+ T細胞の増殖を有意に抑制し、この抑制効果はiNOS阻害剤L-NMMAの添加により完全に解消された (n=7-8 replicates/群; p<0.01) (Fig. 2b)。in vivoでは、好中球枯渇により肺CD8+ T細胞のエフェクター表現型 (CD62L-CD44+) およびIFN-γ+細胞の割合が顕著に増加した (n=6 mice/群; p<0.05) (Fig. 2c)。さらに、好中球とCD8+ T細胞の同時枯渇は、好中球単独枯渇による転移抑制効果を消失させた (n=11 control mice, 16 anti-Ly6G mice, 8 anti-Ly6G+CD8 mice; p<0.01) (Fig. 2d)。これらの結果は、好中球がiNOSを介したCD8+ T細胞抑制を通じて転移を促進するという因果関係を機構的に確立した。
γδT/IL-17/G-CSF軸の同定: KEP腫瘍担癌マウスの血清では、IL-17AおよびG-CSFレベルが有意に上昇した (Fig. 3a)。anti-IL-17A中和抗体投与はG-CSF血清レベルを低下させたが、anti-G-CSF抗体はIL-17Aレベルに影響しなかったことから、IL-17がG-CSFの上流に位置することが確認された (Fig. 3a)。IL-17AおよびG-CSFのいずれかを阻害すると、循環好中球数が減少し、cKIT+好中球の割合が低下し、好中球の表現型が変化した (Fig. 3b, c)。CD3+ T細胞の細胞内サイトカイン染色により、γδT細胞 (特にVγ6+サブセットのCD27-IL-17産生型) がCD4+ T細胞よりも高レベルのIL-17Aを発現し、主要なIL-17産生源であることが示された (Fig. 4a, b)。anti-γδTCR抗体投与により、IL-17AおよびG-CSFの血清レベル低下、循環好中球数の減少、好中球のiNOS誘導型表現型の消失、そして肺およびリンパ節転移の有意な減少が確認された (n=10 control mice, 9 anti-γδTCR mice; p<0.001) (Fig. 4c, d, e, i)。γδT細胞欠損Tcrd-/-マウスを用いた移植実験でも、肺転移の有意な減少が確認された (n=9 mice/群; p<0.01) (Fig. 4j)。これらのデータは、IL-17産生γδT細胞がG-CSF誘導性の好中球拡大と表現型変化、そして転移を駆動することを示している。
IL-1βの役割と上流機構: anti-IL-23p19抗体はIL-17A産生γδT細胞の割合、G-CSF血清レベル、好中球拡大のいずれにも影響しなかったが、anti-IL-1β中和抗体はこれら全てを有意に抑制した (n=5-6 mice/群; p<0.05) (Fig. 4f, g, h)。腫瘍内でのIl1b発現解析では、マクロファージが最大のIl1b産生細胞であることが示された (Extended Data Fig. 8c, d)。リンパ球欠損Rag1-/-マウスでは、IL-17AおよびG-CSFの低下、好中球数の減少、好中球表現型の変化、肺およびリンパ節転移の減少が確認され (n=50 Rag1+/- mice, 32 Rag1-/- mice; p<0.001) (Fig. 3d, e, f, g)、リンパ球由来IL-17が好中球拡大と転移の必須ドライバーであることが確立された。
ヒト乳癌との相関: ヒト乳癌患者の末梢血においても、IL-17+ γδT細胞と循環好中球数の間に正の相関が示唆され (Extended Data Fig. 7a)、KEPモデルで同定されたカスケードのヒト乳癌への関連性が支持された。
考察/結論
本研究は、乳癌の原発腫瘍がIL-1βを介してIL-17産生γδT細胞を活性化し、これがG-CSF依存的な好中球の全身性拡大と活性化を引き起こすことで、iNOSを介したCD8+ T細胞抑制を誘導し、転移カスケードの早期段階を促進するという全身性炎症カスケードを初めてメカニスティックに確立した。
新規性: これまで、好中球が転移に果たす役割はcontroversialであったが、本研究で初めて、好中球が転移の確立という早期段階に特異的に関与し、転移後の増殖には関与しないという時期特異性を明らかにした。また、Nos2遺伝子がKEP好中球で150倍以上に強く誘導され、iNOSが好中球の免疫抑制機能の中心的実行因子であることを定量的に示したことは新規の発見である。このγδT細胞/IL-17/好中球軸の同定は、乳癌転移における免疫抑制の新たなメカニズムを提示する。
先行研究との違い: 従来の研究では、好中球の転移促進機能が転移前ニッチ形成におけるVEGFR1+骨髄細胞の動員やMMP9誘導といった側面で注目されてきたが (Kaplan et al. Nature 2005, Hiratsuka et al. CancerCell 2002)、本研究は、IL-17産生γδT細胞を介した全身性炎症とCD8+ T細胞抑制という、より上流かつ広範なメカニズムを解明した点で、これまでの報告とは対照的である。また、TGF-βが好中球の表現型を調節するという報告もあるが (Fridlender et al. CancerCell 2009)、本研究ではIL-17誘導性のG-CSFがより主要な役割を果たすことを示唆している。
臨床応用: 本研究で同定されたγδT細胞/IL-17/好中球軸は、乳癌転移の新たな治療標的となる可能性を秘めている。具体的には、抗IL-17抗体 (セクキヌマブなど)、抗G-CSF抗体、iNOS阻害剤、CXCR1/2阻害剤、またはγδT細胞を標的とする治療法が、ネオアジュバント設定での転移予防効果を示す可能性がある。特に、化学療法時に予防的にG-CSFが投与されることがあるが、これがIL-17軸を介して好中球を活性化し、転移を促進するリスクがあるという本研究の示唆は、化学療法レジメンの設計において臨床的に重要な懸念事項となる。
残された課題: 今後の検討課題としては、(1) ヒト乳癌患者におけるIL-17+ γδT細胞と循環好中球数の相関およびその予後予測能の前向き検証、(2) 化学療法誘発G-CSFが転移リスクに与える影響の臨床的評価、(3) 本研究で同定されたメカニズムが他の癌種 (例: 肺癌) においても汎用性を持つかどうかの検討、(4) 免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) との併用によるCD8+ T細胞の免疫抑制解除の最適化、(5) 転移前ニッチにおける好中球の具体的な機能 (Prok2、S100a8/9などを介したメカニズム) のさらなる解明が挙げられる。これらの課題を解決することで、本研究の知見がより広範な臨床応用へと繋がるだろう。
方法
本研究では、K14cre;Cdh1^F/F;Trp53^F/F (KEP) 自発乳癌マウスと野生型 (WT) littermateマウスを用いて、免疫細胞の表現型解析を行った。KEPマウスは、FVB/Nバックグラウンドにバッククロスされた。また、KEP由来腫瘍断片をWT FVB/N受容マウスに同所性移植する転移モデルを確立し、転移への影響を評価した。リンパ球欠損Rag1-/-マウスおよびγδT細胞欠損Tcrd-/-マウスも使用され、KEP腫瘍断片を移植して転移形成を評価した。
好中球枯渇実験では、anti-Ly6G抗体 (初回400 μg、その後週3回100 μg) を腹腔内投与し、好中球の枯渇を誘導した。この枯渇は、原発腫瘍増殖中 (早期相) と原発腫瘍切除後 (晩期相) の異なる時期に分けて実施され、肺およびリンパ節転移への影響を評価した。好中球枯渇の有効性は、フローサイトメトリーによる血液中のCD11b+Gr1high細胞の定量により確認された (Extended Data Fig. 2c)。
循環好中球のRNAシーケンス (RNA-seq) 解析は、WTマウス (n=5 mice) とKEP腫瘍担癌マウス (n=10 mice) から分離したLy6G+好中球を用いて実施された。RNAはTrizol法で抽出し、Illumina TruSeq RNA Sample Preparation Kitを用いてライブラリを調製後、Illumina HiSeq 2000 Systemでシーケンスした。TopHatでマウス参照ゲノムにアラインメントし、HTSeq-countで遺伝子発現量を定量した。Limmaパッケージを用いて、p値0.05をカットオフとして差次的に発現する遺伝子を同定した。
iNOSの機能解析のため、KEP由来好中球とWT由来脾臓CD8+ T細胞を共培養し、CD3/CD28刺激下でのCD8+ T細胞増殖を評価した。iNOS阻害剤L-NMMA (0.5 mM) を添加し、その効果を検討した。in vivoでは、好中球枯渇が肺CD8+ T細胞の表現型 (CD62L-CD44+およびIFN-γ+) に与える影響をフローサイトメトリーで解析した。さらに、好中球とCD8+ T細胞の同時枯渇実験を行い、好中球の転移促進におけるCD8+ T細胞抑制の因果関係を検証した。
サイトカイン軸の同定のため、anti-IL-17A、anti-G-CSF、anti-γδTCR、anti-IL-1β中和抗体を投与し、血清中のIL-17AおよびG-CSFレベル、循環好中球数、好中球の表現型、および転移への影響を評価した。
肺およびリンパ節転移は、サイトケラチン8 (cytokeratin 8) 免疫染色により定量された。肺転移結節数は、各動物の1枚の肺切片で計数され、結節サイズはImageJを用いて測定された。リンパ節転移は、サイトケラチン8陽性転移の有無に基づいて陽性または陰性と判定された。統計解析にはGraphPad Prism version 7を使用し、Mann-Whitney U-test、Kruskal-Wallis test、Fisher’s exact testなどが適用された。