- 著者: Yuka Maeda, Hiroyoshi Nishikawa, Daisuke Sugiyama, Danbee Ha, Masahide Hamaguchi, Takuro Saito, Megumi Nishioka, James B. Wing, Dennis Adeegbe, Ichiro Katayama, Shimon Sakaguchi
- Corresponding author: Shimon Sakaguchi (shimon@ifrec.osaka-u.ac.jp); Hiroyoshi Nishikawa (nisihiro@ifrec.osaka-u.ac.jp) (Immunology Frontier Research Center (IFReC-WPI), Osaka University, Osaka 565-0871, Japan)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-12-18
- Article種別: Original Article
- PMID: 25525252
背景
自然発生型Treg細胞 (FoxP3+CD25+CD4+) が免疫学的自己寛容と恒常性の維持に必須であることは確立されていたが、Treg細胞が自己反応性T細胞を長期にわたってどのように制御するのかは未解明であった。特に、一時的なTreg細胞による抑制が応答T細胞の細胞運命 (活性化・アナジー・無視) に長期持続的な影響を与えるかという問いは未解答であった。先行研究では、T細胞の疲弊 (exhaustion) が慢性ウイルス感染や腫瘍環境で報告されており (例えば、Barber et al. Nature 2006、Wherry et al. NatImmunol 2011)、自己反応性T細胞の制御機構との関連が示唆されていたが、健常人における自己反応性CD8+ T細胞の存在とその機能・表現型については不明な点が多かった。また、自己免疫疾患である尋常性白斑患者では自己反応性T細胞の存在が知られていたが、健常人における生理的な自己寛容維持機構における自己反応性T細胞の役割は十分に理解されておらず、この領域には知識のギャップが残されていた。特に、Treg細胞を介した自己反応性T細胞のアナジー誘導メカニズムについては、詳細な分子機構が不足しており、さらなる研究が必要とされていた。
目的
本研究の目的は、Treg細胞が自己反応性CD8+ T細胞をアナジー状態に誘導できるかをin vitroで検証することである。さらに、健常人末梢血中に自己皮膚抗原 (Melan-A/MART-1) に反応する自己反応性CD8+ T細胞が存在するかを直接検出し、その表現型および機能を詳細に特徴付けることを目指した。これにより、Treg細胞を介した自己寛容維持機構の新たな側面を明らかにすることを目的とした。
結果
Treg細胞が低親和性自己反応性CD8+ T細胞をアナジーに誘導: Treg細胞非存在下では、Melan-A特異的CD8+ T細胞はペプチド刺激後10日間で増殖拡大し、IFNγ、TNFα、IL-2産生を伴う活性化を示した。一方、Treg細胞存在下では、Melan-A Tet+CD8+ T細胞は1回分裂後に増殖停止 (proliferation-aborted) し、増殖細胞が減少し、増殖停止細胞が増加した (Treg細胞数に比例)。これらの増殖停止細胞は低テトラマー染色強度を示し、これは低TCR親和性を反映していると考えられた (TCR-αβ鎖量は変化なし)。機能的には、IFNγ、TNFα、IL-2産生が著明に低下し、再刺激でも増殖不能かつサイトカイン低産生という安定したアナジー状態を示した (Fig. 1D, E)。このTreg誘導アナジーは、CMV特異的CD8+ T細胞 (メモリーT細胞) では観察されず、TCR親和性およびT細胞の分化状態に依存的であることが示された (n=5 independent experiments)。
アナジーCD8+ T細胞のユニークな表現型:CTLA-4+CCR7+・BCL2低下: マイクロアレイ解析により、アナジーTet+CD8+ T細胞は活性化T細胞、ナイーブT細胞、および疲弊T細胞とは明確に異なる遺伝子発現プロファイルを示すことが明らかになった (Fig. 2A)。特に、共抑制分子であるCTLA-4 (cytotoxic T lymphocyte-associated antigen-4) の発現が著明に上昇し、アポトーシス抑制分子であるBCL-2 (B cell lymphoma-2) の発現が低下していた (Fig. 2B)。PD-1 (programmed cell death protein 1) や他のアナジー関連分子 (GRAIL、CBL-B、EGR-2) の発現に有意差はなく、疲弊T細胞とは異なる状態であることが示唆された。フローサイトメトリー解析では、アナジー細胞の90%以上がCTLA-4+CCR7+のナイーブ様表現型 (CCR7+CD45RA+) を示し、活性化T細胞 (CCR7-) や疲弊T細胞 (CCR7-/CD45RA-/BAT3+) とは異なることが確認された (Fig. 2D)。CTLA-4およびPD-1の遮断抗体は、アナジー細胞の増殖不能やサイトカイン低産生を救済できなかった (n=5 independent experiments)。
DC共刺激低下がTreg非依存的にアナジーを誘導する: Treg細胞はAPC上のCD80/CD86発現を低下させることが示唆された (Fig. S7A)。未成熟DC (imDC) または高用量CTLA-4Ig (100 µg/ml) を用いたMelan-Aペプチド刺激により、Treg細胞非依存的に増殖停止したCTLA-4+CCR7+低親和性アナジー細胞が生成された (Fig. 3A)。CTLA-4Igの用量増加に比例してアナジー細胞のCTLA-4発現が増強され、CCR7発現は安定していたことから、共刺激レベルがアナジーの程度を規定することが示唆された (Fig. S8A, B)。この結果は、Treg細胞がAPCの共刺激機能を制御することでアナジーを誘導するというメカニズムを支持するものであり、共刺激シグナルがアナジー誘導の重要な因子であることが示された (n=5 independent experiments)。
健常人末梢血に低親和性CTLA-4+CCR7+アナジー自己反応性CD8+ T細胞が存在する: 直接ex vivoでMelan-AテトラマーによるCD8+ T細胞の染色を行った結果、健常人 (n=10 donors) のPBMC中には約0.03%のMelan-A Tet+CD8+ T細胞が存在することが確認された (Fig. 4B)。これは白斑患者 (n=10 patients) の約0.1%と比較して低い割合であった。健常人のTet+CD8+ T細胞の約2/3はCCR7+CD45RA+のナイーブ表現型を示し、低テトラマー染色強度 (低TCR親和性) であった (Fig. 4C, D)。これらの細胞は、白斑患者のTet+CD8+ T細胞や健常人のTet-CD8+ T細胞、活性化CD8+ T細胞、Treg細胞よりも高いCTLA-4発現を示し、CD45RA+画分の約90%がCTLA-4+CCR7+二重陽性であった (Fig. 4F, G)。機能的には、これらの細胞はIFNγ、TNFα、IL-2をほとんど産生しなかった (Fig. 4H)。健常人のナイーブCD8+ T細胞をCTLA-4+画分とCTLA-4-画分に分離してMelan-A刺激を行った結果、刺激前のTet+細胞の約95%がCTLA-4+画分に含まれていたが、これらの細胞は低増殖性でBCL2発現が低下し、刺激後に死亡傾向を示した (Fig. 4I, J, L)。一方、CTLA-4-画分は初期にはTet+細胞が5%未満であったが、刺激後に増殖してTet+細胞の約95%を占めるようになった (n=3 independent experiments)。
考察/結論
本論文は、健常人末梢血中に低親和性、CTLA-4+CCR7+アナジー表現型の自己反応性CD8+ T細胞が生理的に存在することを初めて実証した。この発見は、Treg細胞が自己反応性CD8+ T細胞のアナジー誘導を通じた長期的な自己寛容の維持に積極的な役割を果たすという、Treg細胞の作用機序に関する理解を更新するものである。
先行研究との違い: これまでのT細胞疲弊に関する研究 (例えば、Wherry et al. NatImmunol 2011) とは対照的に、本研究で同定されたアナジー状態のT細胞は、CCR7+CD45RA+のナイーブ様表現型、CTLA-4高発現、BCL2低下を示し、PD-1非依存性である点で疲弊T細胞とは明確に区別される。これは、免疫寛容の維持における異なる阻害機構の存在を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、健常人において自己抗原特異的なアナジーCD8+ T細胞が存在し、その特徴的な表現型と機能がTreg細胞によって誘導されることを明らかにした。このアナジー誘導は、TCR親和性やT細胞の分化状態、APCの共刺激レベルに依存的であるという新規の知見が得られた。
臨床応用: 本知見は、がん免疫療法の観点からも重要な臨床的意義を持つ。抗CTLA-4抗体 (イピリムマブ) が、Treg細胞からCD80/CD86を奪うtrans-endocytosisを解除することでTreg細胞の機能を抑制し、抗腫瘍免疫を増強する可能性が示唆される。また、健常人でもメラノーマ自己抗原であるMelan-Aに対してアナジーCD8+ T細胞が存在するという知見は、メラノーマワクチンや免疫療法において、これらのアナジー状態を解除する戦略の根拠となる。CTLA-4の発現がアナジー細胞のマーカーであるにもかかわらず、CTLA-4遮断がアナジーを解除しないという結果は、CTLA-4遮断の主要な標的がアナジー細胞ではなくTreg細胞であることを示唆する。
残された課題: 今後の検討課題として、他の自己反応性CD8+ T細胞 (腫瘍抗原特異的T細胞を含む) においても同様のアナジー誘導現象が確認されるか、アナジー状態の分子スイッチの同定、アナジー解除による腫瘍免疫増強と自己免疫リスクのバランスをどのように取るか、そしてTreg細胞がどの組織でアナジーを誘導するのかが残されている。
方法
HLA-A*0201陽性健常人から末梢血単核球 (PBMC) を分離し、Melan-A26-35ペプチドをパルスした自己抗原提示細胞 (APC) と共に10日間培養した。この培養系にTreg細胞を段階的に添加し、CFSE増殖アッセイとMHCテトラマー (Melan-A) を用いて、Melan-A特異的CD8+ T細胞 (Tet+CD8+ T細胞) の増殖、表現型、および機能を解析した。遺伝子発現プロファイルの比較のため、活性化T細胞、アナジーT細胞、ナイーブCD8+ T細胞からRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を実施した。Treg細胞非依存的なアナジー誘導機序を検討するため、未成熟樹状細胞 (imDC) または高用量のCTLA-4Ig (cytotoxic T lymphocyte-associated antigen-4 immunoglobulin、CD80/CD86共刺激分子の遮断) を用いて、CD8+ T細胞の応答を評価した。健常人 (n=10 donors) と尋常性白斑患者 (n=10 patients) のPBMCを直接ex vivoでMelan-Aテトラマーで染色し、Tet+CD8+ T細胞の表現型 (CCR7/CD45RA/CTLA-4) および機能 (IFNγ/TNFα/IL-2産生) をフローサイトメトリーで比較した。さらに、健常人からCTLA-4+ナイーブCD8+ T細胞とCTLA-4-ナイーブCD8+ T細胞を分離し、1:1で混合後、Melan-A刺激を行い、Melan-A特異的細胞の局在と応答を解析した。細胞株としては、ヒトPBMC由来の細胞を用いた。統計解析にはStudent’s two-tailed paired t testを用いた。