• 著者: Daniel L. Barber, E. John Wherry, David Masopust, Baogong Zhu, James P. Allison, Arlene H. Sharpe, Gordon J. Freeman, Rafi Ahmed
  • Corresponding author: Rafi Ahmed (Emory University)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2006
  • Epub日: 2006-02-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 16382236

背景

慢性ウイルス感染症では、抗原特異的CD8 T細胞が機能的に障害される現象、すなわちT細胞疲弊 (T cell exhaustion) が広く観察される。この現象は、マウスのリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV) 慢性感染モデルで最初に詳細に記述され、その後、ヒト免疫不全ウイルス (HIV)、B型肝炎ウイルス (HBV)、C型肝炎ウイルス (HCV) など、世界中で5億人以上が罹患する慢性感染症患者においても確認されている。疲弊したT細胞は、サイトカイン産生能力、増殖能力、および細胞傷害性において顕著な低下を示し、感染病原体の排除を困難にする主要な要因となる。しかし、このT細胞疲弊の根底にある分子メカニズムは、これまで十分に解明されていなかった。

CD28ファミリーに属する抑制性受容体であるPD-1 (Programmed Death 1、PDCD1) は、T細胞の活性化を負に制御する重要な分子として注目されていた。PD-1のリガンドには、広範に発現するPD-L1 (B7-H1) と、主にマクロファージや樹状細胞に発現するPD-L2 (B7-DC) が存在する。PD-1は、その細胞質ドメインに存在する免疫受容体チロシンベーススイッチモチーフ (ITSM) を介して、SHP-1およびSHP-2といったチロシンホスファターゼをリクルートし、T細胞受容体 (TCR) シグナル伝達経路の近位シグナル伝達分子を脱リン酸化することで、TCRシグナルを減弱させ、T細胞の活性化とサイトカイン産生を抑制することが知られている。例えば、Freeman et al. JExpMed 2000は、PD-1がB7ファミリーの新規メンバーによって結合されることでリンパ球活性化の負の制御につながることを報告している。また、Dong et al. NatMed 1999は、B7-H1がT細胞の増殖とIL-10分泌を共刺激することを示した。さらに、PD-1遺伝子の破壊がループス様自己免疫疾患を引き起こすことは、Nishimura et al. Immunity 1999によって報告されており、PD-1が自己反応性T細胞の制御において重要な役割を果たすことが示唆されている。

しかし、慢性ウイルス感染におけるT細胞疲弊の文脈において、PD-1経路が具体的にどのような機能的役割を担っているのか、そしてその経路を標的とすることで疲弊したT細胞の機能を回復させ、ウイルス制御を達成できるのかについては、これまで未解明な点が残されていた。特に、持続的な抗原刺激下でT細胞がどのように応答性を調節するのか、その分子メカニズムは不明であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。慢性ウイルス感染におけるT細胞疲弊の分子メカニズムは、依然として十分に理解されておらず、効果的な治療戦略の開発を妨げる要因となっていた。この分野には、T細胞疲弊を可逆的な状態として捉え、その機能を回復させる具体的な方法論が不足していたのである。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の主要な目的は、慢性LCMV感染モデルにおける疲弊CD8 T細胞の機能障害において、PD-1経路が果たす具体的な役割を分子レベルで解明することである。具体的には、疲弊T細胞におけるPD-1の発現パターンを特定し、PD-1/PD-L1経路のin vivoでの遮断が、疲弊したT細胞の機能回復とウイルス制御に及ぼす影響を評価する。さらに、CD4 T細胞のヘルプが存在しない、より重度のT細胞疲弊状態下においても、PD-1/PD-L1遮断がCD8 T細胞の機能回復とウイルス排除を促進できるかを検証する。最終的に、PD-1経路の阻害が、慢性ウイルス感染症に対する新たな免疫学的治療戦略として有効である可能性を実証することを目指す。また、CTLA-4経路との比較を通じて、慢性感染におけるT細胞疲弊の主要な制御メカニズムを特定することも目的とする。本研究は、PD-1経路の阻害が、慢性ウイルス感染症に対する新たな免疫学的治療戦略として有効である可能性を実証することを目指す。

結果

PD-1は疲弊CD8 T細胞に選択的に高発現する: Affymetrix全ゲノムマイクロアレイ解析により、慢性LCMV感染マウス(感染後60日以上)の疲弊したウイルス特異的CD8 T細胞において、PD-1 mRNAが顕著に高発現していることが発見された (Fig. 1b)。これは、急性LCMV感染後の機能的メモリーT細胞ではPD-1発現が検出されず、急性感染後に一過性発現したPD-1が急速にダウンレギュレートされるのとは対照的であった (Fig. 1c)。この結果は、PD-1の高発現が慢性感染における機能的に疲弊したCD8 T細胞の明確な特徴であることを示唆する。また、慢性感染マウスの脾細胞上ではPD-L1も高発現しており、特にウイルス感染細胞で顕著であった (Fig. 1d)。このことから、疲弊したCD8 T細胞がPD-1を高発現するだけでなく、そのリガンドも感染細胞上でアップレギュレートされており、PD-1/PD-L1経路が慢性LCMV感染におけるT細胞機能の制御に重要な役割を果たす可能性が示唆された。本解析には、n=3 miceから分離したCD8 T細胞が用いられた。

PD-L1遮断によるT細胞機能回復とウイルス制御: 慢性LCMV感染マウス(感染後23-37日、n=10 mice以上/群)に抗PD-L1抗体を投与したところ、MHC class Iテトラマー(GP33、GP276、NP396の3種)で測定したウイルス特異的CD8 T細胞数が有意に増加した (p=0.02) (Fig. 2a)。サイトカイン産生能も改善し、IFN-γおよびTNF-αを産生できるT細胞の割合が未処置群と比較して有意に増加した (p=0.01) (Fig. 2b)。最も重要な所見として、抗PD-L1処置群では、血清 (p=0.0016)、脾臓 (p=0.003)、肝臓 (p=0.0084)、肺 (p=0.0076)、腎臓 (p<0.0001) の全組織においてウイルス量が有意に減少し、多くのマウスで感染が排除された (Fig. 2c)。治療マウスは感染解消後も健康を維持し、明らかな疾患の兆候は認められなかった。対照的に、急性LCMV感染マウスへの抗PD-L1投与ではT細胞応答の増加やウイルス量の変化は認められず、PD-1経路が慢性感染特異的にT細胞疲弊を制御する主要なメカニズムであることが確認された。この実験はn=4 mice/groupで実施された。

CD4 T細胞ヘルプ非存在下での有効性(helpless CD8 T細胞モデル): CD4 T細胞を枯渇させたモデル(より重度のT細胞疲弊を示す)においても、PD-L1遮断は高度に有効であった。脾臓におけるDb GP276-286特異的CD8 T細胞数は、抗PD-L1処置群で未処置群の約7倍に増加し (p<0.0001)、Db GP33-41特異的細胞でも約4倍に増加した (p<0.0001) (Fig. 3a, b)。脾臓に加え、肝臓、肺などの非リンパ組織および腸管上皮内リンパ球 (IEL) でもウイルス特異的CD8 T細胞数の増加が確認された (Fig. 3c)。BrdU取り込み解析では、未処置群では55%以上のT細胞がBrdU陰性であったのに対し、処置群では90%以上の細胞がBrdU陽性となり、蛍光強度も著明に増加した。Ki67発現率も未処置群の19%から処置群では60%に上昇し、3倍以上の増加を示した (Fig. 3d)。IFN-γ産生能を持つDb GP276-286特異的CD8 T細胞の割合は、未処置群の20%未満から処置群では50%以上に改善した (p<0.0001) (Fig. 3e)。直接ex vivo細胞傷害活性([51]Cr放出アッセイ、E:T ratio 100:1)は未処置群では検出不能であったが、処置群では明確に回復した (Fig. 3f)。脱顆粒能も劇的に増加した (Fig. 3g)。これらの機能回復はウイルス制御に繋がり、脾臓 (p=0.008)、肝臓 (p<0.0001)、肺 (p=0.0002)、血清 (p=0.003) の全組織でウイルス量の有意な減少が確認された (Fig. 3h)。これらの結果は、PD-L1遮断がCD4 T細胞ヘルプ非存在下においても、疲弊したCD8 T細胞の機能を効果的に回復させ、ウイルス排除を促進することを示す。この実験にはn=7 mice/group以上が用いられた。

PD-1+細胞のみがPD-L1遮断に応答する: CFSE標識した慢性感染マウス由来の疲弊T細胞を慢性感染マウスに移入し、抗PD-L1抗体を投与したところ、脾臓、肝臓、肺、IELを含む全ての組織で顕著な増殖が確認された (Fig. 4a)。多くのドナー細胞はCFSE希釈が背景レベルに達しており、8回以上の細胞分裂を遂げたことを示唆する。さらに、PD-1陽性およびPD-1陰性のCD8 T細胞をソーティングし、それぞれを慢性感染マウスに移入した実験では、抗PD-L1投与はPD-1陽性集団(疲弊T細胞を含む)の機能のみを回復させ、PD-1陰性集団(ナイーブT細胞を含む)には効果がなかった (Fig. 4c)。この結果は、PD-L1遮断が既存の疲弊T細胞を直接再活性化することを明確に実証する。抗PD-L1処置を中止した後も、増加したT細胞数は数週間にわたり安定して維持された。これは、断続的な遮断療法がT細胞数を段階的に増加させる可能性を示唆する。

CTLA-4遮断との差異とPD-L1-/-マウスの知見: 同一の慢性感染モデルにおいて、抗CTLA-4抗体(クローンUC10-4F10-11または9D9.1.1.7)単独投与はT細胞機能にもウイルス制御にも効果がなかった。また、抗PD-L1抗体との併用でも相乗効果は認められなかった。慢性感染下でCTLA-4 mRNAも上昇しているにもかかわらず、この結果は、慢性感染におけるT細胞疲弊においてPD-1経路が主要な抑制メカニズムであることを示唆する。さらに、PD-L1欠損(PD-L1-/-)マウスをLCMV Armstrong株(急性感染)で感染させた場合、野生型マウスと同様に正常なCD8 T細胞応答とウイルス排除が達成された (Fig. 5a)。しかし、clone 13株(慢性感染)で感染させた場合、PD-L1-/-マウスは免疫病理学的損傷により死亡した (Fig. 5b)。この知見は、PD-1/PD-L1軸が持続的な高レベルの抗原刺激下でT細胞の過剰な活性化を制御し、免疫病理から宿主を保護するために進化的に獲得されたメカニズムであることを示唆する。同時に、病原体がこの抑制経路を利用して宿主内での持続感染を確立している可能性も示唆された。

考察/結論

本研究は、PD-1が慢性ウイルス感染における疲弊CD8 T細胞の特異的マーカーであると同時に、その機能的疲弊を積極的に媒介する主要な分子経路であることを初めて直接的に実証した。

先行研究との違い: これまでの研究では、T細胞疲弊の分子機構は「TCRシグナルの慢性的な減弱」として漠然と捉えられていたが、本論文はPD-1/PD-L1という具体的な分子経路を疲弊の主要制御因子として同定した点で、これまでとは異なるアプローチを提供した。また、抗CTLA-4抗体による遮断が効果を示さなかったことは、慢性ウイルス感染におけるT細胞疲弊の主要なメカニズムがCTLA-4ではなくPD-1経路であることを示し、がん免疫療法における各免疫チェックポイントの異なる役割と適応症に応じた標的選択の重要性を示唆する点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、Affymetrix全ゲノムマイクロアレイ解析によって疲弊CD8 T細胞におけるPD-1の選択的高発現を同定し、in vivoでの抗PD-L1抗体による遮断が、疲弊したT細胞の増殖、サイトカイン産生、殺傷能力を回復させ、ウイルス排除を促進することを実証した。特に、CD4 T細胞ヘルプが欠如した、より重度の疲弊状態においても、PD-L1遮断が7倍ものT細胞増殖回復と複数臓器でのウイルス排除(腎臓でp<0.0001を含む)をもたらしたことは新規な発見である。さらに、PD-1陽性細胞のみがPD-L1遮断に応答するという結果は、PD-L1遮断が既存の疲弊T細胞を直接再活性化することを明確に示し、疲弊T細胞を「不可逆的に機能不全」ではなく「可逆的な機能抑制状態」として再定義した点で画期的である。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法における抗PD-1および抗PD-L1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブなど)の開発を直接的に推進した科学的基盤となった。慢性ウイルス感染症、特にHIV感染者のCD4 T細胞減少に相当する状況でもPD-L1遮断が有効であったことは、HIV感染治療への応用可能性を示唆する。また、疲弊T細胞の増殖能制限が治療的ワクチンの主要な失敗原因であることを示し、PD-1/PD-L1遮断との併用による治療ワクチンや養子T細胞療法の効力増強という新たな研究方向性を提示した。抗PD-L1抗体処置を中止した後も増加したT細胞数が安定して維持されたという結果は、断続的な遮断療法の最適化設計への直接的な臨床的含意を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究の知見をがんモデルや他の慢性感染症モデルへ拡張検証することが挙げられる。また、PD-L1-/-マウスが免疫病理学的損傷により死亡したという結果は、PD-1経路が「過剰な免疫応答による免疫病理からの保護」という生理的役割を持つことを示しており、がん免疫療法における免疫関連有害事象 (irAE) のリスクを予見するものである。したがって、PD-1/PD-L1遮断療法の導入に際しては、自己免疫リスクの慎重なモニタリング戦略が残された課題となる。さらに、PD-L1とPD-L2の個々の役割の分離、および間欠的投与プロトコルの最適化も今後の研究で解明すべき点である。

方法

本研究では、C57BL/6マウスを用いて、LCMV Armstrong株(急性感染、感染後1週間以内にウイルス排除)とLCMV clone 13株(慢性感染、持続感染を確立)の2つの感染モデルを用いた。これら2株はゲノム全体でわずか2アミノ酸しか異ならず、T細胞エピトープに影響を与えないため、急性および慢性感染における同一のCD8 T細胞応答を追跡することが可能であった。

T細胞疲弊の分子メカニズムを解析するため、Affymetrixマイクロアレイを用いて、慢性感染マウス(感染後60日以上)の疲弊したLCMV特異的CD8 T細胞と、急性LCMV感染後の機能的メモリーCD8 T細胞の全ゲノム遺伝子発現プロファイルを比較した。

in vivoでのPD-1/PD-L1経路の機能的役割を評価するため、慢性感染マウス(感染後23-37日)に抗PD-L1遮断抗体(クローン10F.5C5または10F.9G2、200 μgを3日ごとに腹腔内投与)を投与した。対照群にはラットIgG2bアイソタイプコントロール抗体を投与した。治療期間中および治療後に、以下のパラメーターを評価した。

  • ウイルス特異的CD8 T細胞数: MHC class Iテトラマー(GP33、GP276、NP396)を用いて、脾臓、肝臓、肺、腸管上皮内リンパ球 (IEL) における抗原特異的CD8 T細胞の頻度と総数をフローサイトメトリーで測定した。
  • サイトカイン産生能: ウイルス特異的ペプチド刺激後の細胞内IFN-γおよびTNF-α産生をフローサイトメトリーで解析した。
  • 増殖能: 5-ブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みおよびKi67発現をフローサイトメトリーで測定し、T細胞の増殖活性を評価した。
  • 直接細胞傷害活性: [51]Cr放出アッセイを用いて、標的細胞に対するウイルス特異的CD8 T細胞の殺傷能力を評価した。
  • 脱顆粒能: 抗CD107a/b抗体を用いたフローサイトメトリーにより、T細胞の脱顆粒を測定した。
  • 組織ウイルス量: 血清、脾臓、肝臓、肺、腎臓におけるウイルス量をプラークアッセイまたは定量的PCRで測定した。

さらに、CD4 T細胞を枯渇させた「helpless」モデル(より重度のT細胞疲弊状態)においても、同様の実験プロトコルでPD-L1遮断の効果を検証した。

PD-L1遮断が既存の疲弊T細胞に直接作用するかを検証するため、CFSE標識した慢性感染マウス由来の疲弊T細胞を慢性感染マウスに養子移入し、抗PD-L1抗体を投与した後の増殖を追跡した。また、PD-1陽性およびPD-1陰性のCD8 T細胞をソーティングし、それぞれを慢性感染マウスに移入してPD-L1遮断の効果を比較した。

比較対照として、抗CTLA-4抗体(クローンUC10-4F10-11または9D9.1.1.7)単独投与および抗PD-L1抗体との併用投与も実施し、その効果を評価した。

PD-1/PD-L1経路の生理的役割を理解するため、PD-L1欠損(PD-L1-/-)マウスをLCMV Armstrong株およびclone 13株で感染させ、T細胞応答と生存率を観察した。

統計解析には、群間の比較にt検定やMann-Whitney U検定が用いられた。生存曲線はKaplan-Meier法で解析された。