• 著者: Johanna A. Joyce, Douglas T. Fearon
  • Corresponding author: Johanna A. Joyce (Memorial Sloan Kettering Cancer Center), Douglas T. Fearon (Cold Spring Harbor Laboratory / Weill Cornell Medical School)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-04-03
  • Article種別: Review
  • PMID: 25838376

背景

がん細胞特異的な細胞傷害性 T 細胞が体内に存在しても腫瘍が進行し続けるという逆説は、半世紀以上前から認識されてきた。先行研究として、1960 年に Klein et al. (1960) は、methylcholanthrene 誘発肉腫を持つマウスが二次接種に対する抗腫瘍免疫応答を獲得するにもかかわらず、その応答が一次腫瘍の増殖を制御できないことを示し、腫瘍が眼などの正常組織と機能的に類似した「immune-privileged microenvironment(免疫特権微小環境)」を確立しているという概念を提示した (4)。ヒトでの不可避の証拠は、約 30 年後の Boon et al. (1991) による melanoma 抗原研究から得られ、進行中の melanoma と腫瘍抗原 MAGE-A1 (melanoma-associated antigen 1) を認識する melanoma 特異的 T 細胞が同一患者内で共存することが示された (6)。さらに既報の組織学的研究 (Galon et al. Science 2006) は、T 細胞の空間的排除が予後と相関することを示していた。

この共存の事実は「なぜ T 細胞ががんの増殖を制御しないのか」という問いを暗黙に提起する。Schreiber らによる immunoediting(免疫原性がん細胞の除去)(7) は説明として除外でき、残る可能性は腫瘍微小環境 (tumor microenvironment; TME) による免疫抑制であった。しかしこれまでの先行研究の多くは、抗原特異的 CD8+ T 細胞の頻度を増やす方向に偏っていた。実際、同じ抗原ファミリーの MAGE-A3 を用いたワクチンの非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer; NSCLC) 第 III 相試験 (NCT00480025) は disease-free survival の延長という主要評価項目を達成できず 2014 年に中止され (8)、Rosenberg らは抗原喪失がないにもかかわらず高力価のワクチン誘導 T 細胞が再発を防げない例を報告した。すなわち、T 細胞を生成し頻度を増やすだけではがん制御に不十分であることが繰り返し示されてきた。それにもかかわらず、T 細胞がなぜ cancer cell に物理的に到達できないのか、その間質的機序は依然として未解明であり、免疫抑制的 TME をいかに改変するかという根本的なギャップが残されていた。とりわけ各排除機序を統一的に説明する枠組みは未検証で、個別現象を横断する視点が不足していた。本総説は、間質細胞による T 細胞排除という未統合の機序をこのギャップを埋めるものとして整理する。

目的

本論文の目的は、(i) 腫瘍が示す「免疫特権」現象を、cancer cell 近傍からの T 細胞の物理的・機能的排除という TME 由来のチェックポイントとして再定義し、(ii) cancer-associated fibroblasts (CAFs)、骨髄単球系細胞 (MDSC / TAM)、腫瘍血管がこの排除をどの段階(血管外漏出・局所増殖・生存・空間分布)でどのように媒介するかを前臨床知見に基づいて統合し、(iii) 各抑制要素に対応する治療標的(CXCR4、CSF-1R (colony stimulating factor 1 receptor)、CCR2、IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase)、FasL (Fas ligand)、ETBR (endothelin type B receptor)、VEGF (vascular endothelial growth factor) など)を概観して、これらを anti-PD-1/PD-L1 や養子免疫療法と併用する根拠を提示することにある。

結果

免疫特権としての T 細胞排除と臨床的相関:ヒト組織学的研究は、T 細胞排除が予後不良と相関することを 10 年以上前から示してきた。1998 年に Naito らは colorectal cancer (CRC) で CD8+ T 細胞が cancer cell 近傍から排除されることが長期予後不良と相関すると報告し (25)、これは Galon et al. Science 2006 の immunoscore 研究で確認・拡張された (26)。同様の排除は ovarian cancer (27, 28) と pancreatic ductal adenocarcinoma (PDA) (29) でも認められた。重要なのは、これら 3 腫瘍 — CRC、ovarian cancer、PDA — が anti-PD-1/anti-PD-L1 に奏効しにくい腫瘍と一致する点である。microsatellite stable CRC、ovarian、prostate、PDA では checkpoint 阻害に対する客観的奏効がまれであり (14, 15, 24)、checkpoint 拮抗だけでは克服できない、より根源的な TME 抑制機構の存在が示唆される (Fig. 1)。

血管外漏出の制御 — chemokine 修飾と血管バリア:cancer-specific T 細胞は draining lymph node でプライミングされた後、循環系を介して腫瘍へ traffic するが、TME はこの最初の血管との相互作用段階で T 細胞蓄積を調節する。MDSC が産生する reactive nitrogen species は chemokine CCL2 を硝酸化(nitrated CCL2)し、これが間質での T 細胞 trapping をもたらす一方で、単球はなお誘引し続け、細胞種ごとの差別的リクルートに寄与する (37) (Fig. 2A)。CCL2 硝酸化の阻害剤は対応動物モデルで TIL 蓄積と養子免疫療法 (ACT) の効果を改善した。さらに腫瘍血管自体が能動的バリアとして働く。apoptosis 誘導因子 Fas ligand (FasL) は ovarian、colon、prostate、breast、bladder、renal cancer など複数腫瘍型の血管で発現し (38)、endothelial FasL が高い腫瘍では CD8+ T 細胞が乏しく Treg 細胞が豊富で、Treg は apoptosis 阻害因子(抗アポトーシス蛋白)の高発現により FasL 媒介殺傷から保護される (Fig. 2B)。前臨床モデルでの FasL 阻害は腫瘍排除性 T 細胞の流入を Treg に対し優位に増加させ、T 細胞依存的な腫瘍抑制をもたらした。FasL 発現自体は VEGF、prostaglandin E2 (PGE2)、interleukin-10 (IL-10) によって誘導され、複数のネットワークが免疫寛容に収束することを示す。ovarian cancer では VEGF・免疫制御リガンド B7-H3 (CD276)・endothelin B receptor (ETBR) の発現が T 細胞浸潤低下と予後不良に相関し (27, 39, 40)、ETBR の薬理学的阻害は intercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1) 依存的に T 細胞接着を高め、無効だった抗がんワクチンを奏効させた (Fig. 3A)。VEGF/VEGFR2 を標的とする抗血管新生薬は血管正常化を誘導して TIL を増やし ACT とワクチンの効果を改善する (Fig. 3C)(43, 44)が、血管破壊型ではなく正常化型が免疫療法上有利であり、TNF-α の標的送達による血管正常化がその例である (47, 48)。

局所増殖の制御 — DC・IDO・macrophage 極性:腫瘍内での T 細胞局所増殖は、cancer cell を殺すための必須段階である。前臨床知見は、cancer-specific T 細胞のクローン増殖の主要部位が TME でありうること (49, 50)、そして CD8+ T 細胞の複製応答が cancer cell 抗原を効率的に cross-present する CD103+ Batf3 依存性 DC によって統御されること (51, 52) を示唆する。IL-10R (IL-10 receptor) 抗体は TAM 由来 IL-10 を中和して腫瘍内 DC の IL-12 産生抑制を解除し、CD8+ 依存的な化学療法効果を改善した (Fig. 3D)。一方、TME は T 細胞増殖を直接阻害もする。indoleamine 2,3-dioxygenase (IDO) は DC・MDSC・cancer cell に発現し、tryptophan を異化し kynurenine を生成する (Fig. 2D)。tryptophan の枯渇とその代謝産物の両方がクローン増殖を阻害し (60, 61)、IDO は naïve T 細胞の Treg 化を促進し、IL-6 発現を増やして MDSC 機能を増強する (62)。IDO1 欠損は lung・breast cancer マウスモデルで腫瘍量・転移減少と生存延長に関連し、IDO 阻害は anti-CTLA-4 との併用で B16 melanoma の腫瘍内 T 細胞蓄積を増やした (Fig. 3E)(63)。さらに hypoxia は HIF-1α が PD-L1 promoter の hypoxia-responsive element に直接結合することで DC や骨髄系細胞の PD-L1 発現を誘導する (Fig. 2C)(55)。cancer cell の好気的解糖が生む lactate は TAM の M2 極性化を誘導する (56) が、M1/M2 二分法は単純化であり、少なくとも 6 種類 (n=6) の TAM 亜集団が報告されている (59)。免疫蛍光定量では未治療マウスに比べ AMD3100 投与 24 時間後に cancer cell 近傍の CD3+ T 細胞密度が 2-fold 以上に増加し、CXCR4 シグナル遮断による排除解除の速さを示した (Fig. 1D-E)。臨床面では、これら間質排除を伴う microsatellite stable CRC・ovarian・PDA で anti-PD-1/PD-L1 の客観的奏効率はおおむね 10% 未満にとどまり、排除解除を要する根拠を裏づける。組織像のスケールバーは 50 μm で、cancer cell が p53+ として標識されている。

生存の制御と骨髄系・B 細胞標的化:TME は腫瘍内 T 細胞の生存も制限する。IDO と PD-L1 は増殖阻害に加え apoptosis を誘導しうるほか、骨髄単球系細胞は FasL、TNF-α、TRAIL を介して T 細胞 apoptosis を引き起こす。in vivo の pooled shRNA screen は Ppp2r2d (protein phosphatase 2 regulatory subunit 2D) を腫瘍内 T 細胞 apoptosis 促進・増殖抑制の鍵調節因子として同定した (65)。骨髄系標的化として、chemokine receptor type 2 (CCR2)(30)、CSF-1R (33, 34, 36)、GM-CSF (31, 32) の阻害は melanoma・pancreatic・breast・prostate carcinoma の前臨床モデルで腫瘍内 T 細胞を増やし、特に anti-CTLA-4 や anti-PD-1/PD-L1 併用で腫瘍増殖を制御した (Table 1, Fig. 3F)。CSF-1R 阻害は proneural glioblastoma モデルで macrophage を M2 表現型から再教育し、T 細胞非依存的に確立腫瘍を退縮させた (66)。CD40 agonist 抗体は gemcitabine 併用で T 細胞非依存的に PDA 増殖を抑制し (67)、B 細胞除去は squamous cell carcinoma で TAM を再プログラムして CD8 抑制を解除し化学療法効果を高めた (Fig. 2E)(68)。CD47/SIRPα 系を遮断する抗体 (70) や遺伝子操作リガンド (71) は TAM を介した抗体被覆 cancer cell の貪食を促す。

空間分布の制御 — CAF・ECM・CXCL12/CXCR4:腫瘍内 cancer-specific T 細胞が増えても、間質に閉じ込められ cancer cell 近傍に蓄積できなければ意味がない。fibroblast activation protein-α (FAP) を発現する CAFs は 2 つの機序でこの制限を媒介する。第一は産生する extracellular matrix (ECM) による物理的排除であり (Fig. 2F)、ヒト肺腫瘍切片の live cell imaging では緩い fibronectin/collagen 領域で T 細胞が活発に運動する一方、腫瘍胞巣を囲む密な matrix 領域では運動が乏しく、collagenase 添加や CCL5 産生で T 細胞が間質から cancer cell 接触へ移動した (72)。第二は CXCL12 の生合成である。FAP+ CAFs を移植腫瘍 (73) および autochthonous PDA (29) の間質から条件的に除去すると、既存の cancer-specific T 細胞が急速に腫瘍増殖を制御し anti-PD-L1 の抗腫瘍効果が顕在化した。PDA では FAP+ CAFs が産生する CXCL12 が cancer cell に結合(「coating」)し、CXCL12 受容体 CXCR4 の阻害剤 (AMD3100) を投与すると 24 時間で T 細胞が cancer cell 間に急速に蓄積し、腫瘍増殖の停止と anti-PD-L1 感受性が得られた (Fig. 1D-E, Fig. 3G)(29)。この排除機序は T 細胞か骨髄単球系細胞を介すると考えられ、これらのみが本モデルで CXCR4 を発現する。著者らは CSF-1R/CCR2 依存性細胞と CXCR4 シグナルがいずれも T 細胞排除に必須であることから、これらが優位な免疫抑制を媒介する単一経路の要素である可能性を提起する。

考察/結論

本総説の核心は、先行研究の免疫療法が cancer-specific T 細胞の頻度を増やす方向に偏ってきたのと異なり、T 細胞が cancer cell に物理的に到達できるか否かという「間質性チェックポイント」を独立した克服対象として位置づけた点にある。これは既存報告の個別機序を初めて統一的フレームに収めたものである。Klein の 1960 年の immune privilege 概念や Boon の melanoma 抗原研究といったこれまでの knowledge を、CAF・骨髄系・血管による 4 段階の排除機構として統合し直したことが特徴である。

これまでの個別機序を羅列するだけの記述とは対照的に、本論文が提示する新規な視点は、T 細胞排除を眼などの正常組織の immune privilege と機能的に等価な能動的プロセスとして再定義し、CXCL12/CXCR4 軸を T 細胞排除の中心的かつ druggable な node として据えたことである。とりわけ FAP+ CAFs による CXCL12 coating という機序は、本研究で初めて統一的に提示された排除モデルとして後続研究の枠組みとなった。

臨床応用の含意は明確である。CXCR4 阻害剤、CSF-1R 阻害剤、CCR2 特異抗体、IDO 阻害剤はいずれもヒトで既に臨床試験段階にあり、これらを TCR 応答を改善する anti-PD-1/PD-L1 や、cancer-specific T 細胞頻度を高める vaccine/ACT と組み合わせる臨床的意義のある合理性が強調される。原発巣と転移巣で TME の免疫抑制強度が異なる可能性、すなわち dormant 転移が免疫制御優位で増殖転移が免疫抑制優位であるという観察も、転移病変への治療戦略に示唆を与える。

残された課題(limitation / 今後の検討)として著者らは 3 点を挙げる。第一に TME が T 細胞を排除する機序の完全な解明、第二に原発巣と転移巣の TME が異なるかの判定、第三に TME 改変介入の臨床的有効性の評価である。さらに、低 mutational burden の PDA でも cancer-specific CD8+ T 細胞が誘導される事実から、再生組織の非形質転換上皮細胞が免疫原性 neoantigen を発現し免疫抑制的微小環境を選択している可能性という未解決の生物学的問いを提起する。なお本論文は総説であり、各機序の前臨床知見をヒトで前向きに検証する臨床データはまだ限定的であった。T 細胞排除を resistance program として捉える視点はその後 Jerby-Arnon et al. Cell 2018 の single-cell 解析や、checkpoint 療法の将来を論じた Sharma et al. Science 2015 へと展開していく。

方法

該当なし (Review)。本論文は系統的レビューではなく、専門家が選定した文献に基づく narrative review (perspective) であり、独自のメタアナリシスや統計手法は用いていない。約 80 件の一次文献(マウス前臨床モデルおよびヒト組織学的解析)を素材とし、これらの知見を、T 細胞が cancer cell に到達し殺傷に至るまでの 4 段階 — 血管外漏出 (extravasation)、腫瘍内局所増殖 (replication)、生存 (viability)、空間分布 (spatial distribution) — という機能的フレームワークに沿って再構成する論考構成をとる。各段階で TME のどの細胞種(CAF・MDSC・TAM・腫瘍血管・DC・B 細胞)がどの分子機構を介して T 細胞蓄積を制限するかを対比的に記述し、対応する治療介入とその前臨床的根拠を Table 1 および Fig. 3 に集約している。エビデンスの大半はマウスモデル由来であり、各機序のヒトでの前向き検証はまだ限定的という点を著者自身が留保している。本サマリーでは、変換 markdown に混入した同号の隣接論文(Garrett の microbiota 総説、Rosenberg/Restifo の ACT 総説、Sharma/Allison の checkpoint 総説、および冒頭の sarcoma 参考文献リスト)を除外し、Joyce & Fearon 論文本体のみを抽出対象とした。