- 著者: Jerby-Arnon L, Shah P, Cuoco MS, Rodman C, Su MJ, Melms JC, Leeson R, Kanodia A, Mei S, Lin JR, Wang S, Rabasha B, Liu D, Zhang G, Margolais C, Ashenberg O, Ott PA, Buchbinder EI, Haq R, Hodi FS, Boland GM, Sullivan RJ, Frederick DT, Miao B, Moll T, Flaherty KT, Herlyn M, Jenkins RW, Thummalapalli R, Kowalczyk MS, Cañadas I, Schilling B, Cartwright ANR, Luoma AM, Malu S, Hwu P, Bernatchez C, Forget MA, Barbie DA, Shalek AK, Tirosh I, Sorger PK, Wucherpfennig K, Van Allen EM, Schadendorf D, Johnson BE, Rotem A, Rozenblatt-Rosen O, Garraway LA, Yoon CH, Izar B, Regev A
- Corresponding author: Benjamin Izar, Aviv Regev
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30388455
背景
免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) はメラノーマをはじめとする複数のがん種で治療成績を大きく改善したが、多くの患者が内在性耐性を示し、その恩恵を受けられない現状がある。腫瘍へのT細胞浸潤(いわゆる「hot」腫瘍)は予後良好および治療応答と関連することが知られているが、その浸潤を規定する分子機構は依然として未解明であった。これまでのバルクゲノム解析や転写解析では、腫瘍の複雑な細胞組成を詳細に把握することに限界があり、悪性細胞そのものの細胞内プログラムとT細胞浸潤の関係を解明することは困難であった。例えば、Fridman et al. NatRevCancer 2012 は腫瘍微小環境の重要性を示唆したが、個々の細胞レベルでの相互作用は不明であった。また、Sharma et al. Science 2015 や Sharma et al. Cell 2017 はICI耐性の多様なメカニズムを概説したが、悪性細胞に内在するプログラムの特定には至っていなかった。近年の単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 技術の発展は、この課題解決に有望なアプローチとして期待されていたが、悪性細胞に内在するT細胞排除プログラムの全体像は依然として手薄である。
目的
本研究の目的は、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) と計算解析を統合し、悪性細胞に内在しT細胞排除と免疫回避を促進するがん細胞固有の耐性プログラムを同定することである。さらに、そのプログラムの臨床的意義を複数の独立コホートで検証し、CDK4/6阻害による薬理学的逆転の可能性をin vitroおよびin vivoモデルで評価することを目指した。
結果
T細胞排除・免疫耐性プログラムの同定とその分子的特性: 7,186の高品質scRNA-seqプロファイルと473例のTCGAバルクRNA-seqを統合した解析により、悪性細胞に固有のT細胞排除プログラムが同定された。このプログラムの抑制成分は、抗原提示・処理関連遺伝子 (B2M、HLA-A/B/C、TAPBP (TAP-binding protein); p = 3.26×10⁻¹⁰)、インターフェロン-γシグナリング (p = 2.94×10⁻⁹)、補体系 (CD59 (complement regulatory protein)、C4A; p = 1.13×10⁻⁸)、および免疫調節分子 (CD47 (cluster of differentiation 47)、CD58 (cluster of differentiation 58); p = 2.10×10⁻⁷) の発現低下を含むことが示された。一方、誘導成分はCDK4およびその下流のE2F標的、CDK7/Myc標的遺伝子群 (p < 1×10⁻¹⁷) を含むことが明らかになった (Figure 1E, Table S4A)。ICI耐性後腫瘍の悪性細胞は、未治療腫瘍と比較して同プログラムの発現が有意に亢進しており (cross-validation AUC = 0.83)、排除プログラムと治療後プログラムは高度に重複していた (p < 10⁻¹⁶)。このプログラムは特にぶどう膜メラノーマ(免疫特権部位)で著明に亢進しており (Figure 3A)、CD8⁺ T細胞に対するCRISPRスクリーンでも抑制成分の阻害がT細胞耐性を付与することが示された (p = 1.67×10⁻³)。プログラム内の誘導・抑制成分は単一細胞およびTCGAコホート全体でそれぞれ正の相関を示しつつ、互いに負に相関しており (Pearson r = -0.58, p = 6.19×10⁻¹⁸³) (Figure 3C, 3D)、MHC-I欠失、CDK/Myc活性化、SASP (senescence-associated secretory phenotype) 抑制が一体的に制御されることが示唆された。プログラムは増殖細胞でより顕著であるが、非増殖悪性細胞にも検出可能であり、細胞周期とは部分的にしか重複しない独立したエンティティとして評価された。
in situ coldニッチとの空間的関連、および治療前からの内在性発現: 19腫瘍、平均47万細胞の多重免疫蛍光t-CyCIF解析により、耐性プログラムを高発現する悪性細胞は空間的にT細胞が乏しいcoldニッチに局在することが確認された (p = 1.18×10⁻⁶) (Figure 4)。MHC class I低発現 (HLA-A; p = 8.35×10⁻¹⁸)、c-Jun低発現 (p = 1.41×10⁻¹³) およびp53高発現 (p = 5.25×10⁻³) の悪性細胞がcoldニッチと関連し、scRNA-seqとタンパクレベルの評価は良好に相関した (R = 0.57, p = 0.041)。重要なことに、同プログラムはICI投与前の未治療腫瘍においても検出可能であり(腫瘍の約80%で悪性細胞の約24%が陽性)、内在性耐性の分子的基盤であることが示唆された。ICI後には同プログラムが増強されたが (p = 7.41×10⁻³)、標的療法RAF/MEK阻害後には変化を認めず、ICI特異的な耐性プログラムであることが確認された。また、腫瘍間変動はプログラム変化の腫瘍内変動より有意に大きく (p < 4.98×10⁻¹⁴)、主たる差異が治療前からの腫瘍間固有差を反映していることが支持された。
複数独立コホートでの臨床予測能とCDK4/6阻害によるプログラム薬理学的逆転: TCGA 473例メラノーマでのOS解析では、同プログラムは予後不良と有意に関連し (T細胞浸潤レベルとの組み合わせで予測精度が有意に向上; p = 9.1×10⁻⁸)、47の代替プレディクターを上回った (Figure 5A)。独立コホート2 (抗PD-1療法前バイオプシー n = 112患者) では、PFS (p = 1.75×10⁻⁸、AUCは全プレディクター中最高)、客観的奏効 (OR) の予測、完全奏効 (CR) の予測 (p = 1.34×10⁻⁴) でそれぞれ優れた予測能を示し、47種の代替シグネチャーをすべて上回った (Figure 5D, 5E, 5F)。CDK4/6阻害剤アベマシクリブをRB1充足メラノーマ細胞株 (IGR37、UACC257) に投与したscRNA-seq解析 (23,000超細胞) では、免疫耐性高発現細胞の比率が10%から2%および0.6%に減少した。また、MITF分化プログラムの誘導 (p < 1×10⁻¹⁷)、DNMT1の抑制 (p < 2.23×10⁻¹⁰⁶)、SASPの誘導 (p < 3.33×10⁻¹⁶)、細胞老化(β-ガラクトシダーゼ活性上昇、形態変化)が確認された (Figure 6E, 6F, 6G, 6H)。RB1欠損株 (A2058) では効果を認めず、RB1依存性が確認された。B16マウスモデルでは、ICIに続いてICI+アベマシクリブを投与するフェーズド投与が腫瘍増殖を有意に抑制し生存を延長した (p < 0.001) (Figure 7B, 7C)。この効果はCD8⁺ T細胞枯渇により消失し (Figure S7E, S7F)、単剤アベマシクリブでは効果がなかったことから、免疫系との協調が必要であることが示された。
考察/結論
本研究は、scRNA-seqによってがん細胞固有のICI耐性プログラムを高解像度で同定し、その病態生理を転写、タンパク、空間、臨床の複数レベルで解明した点で画期的である。このプログラムはMHC class I低発現、CDK/Myc経路活性化、SASP抑制を統合的に制御し、T細胞浸潤そのものを阻害するがん細胞自律的な免疫回避機構として機能することが示された。重要な知見として、このプログラムが治療前から一部の腫瘍に内在しており、ICI治療に際して選択的に増幅されることが示された。これは、ICI耐性が適応的耐性(治療後の獲得)のみならず、内在的・細胞内在性の機序によることを強く支持する。
先行研究との違い: これまでの多くの研究が腫瘍微小環境の細胞組成に焦点を当ててきたのと異なり、本研究は悪性細胞そのものに内在するプログラムがT細胞排除を駆動することを示した。既存の免疫応答予測バイオマーカー(TMB、PD-L1発現、T細胞浸潤レベルなど)との比較では、同プログラムがより高い独立した予測能を持つことが示され、既存マーカーとの組み合わせにより予測精度がさらに向上した。
新規性: 本研究で初めて、CDK4/6がこの免疫耐性プログラムのマスターレギュレーターの一つとして機能することを新規に同定した。CDK4/6阻害剤との複合効果は、がん細胞増殖抑制のみならず、免疫原性細胞状態(MITF高発現、SASP誘導、DNMT1低発現)への変換を介する新たな治療戦略を提示している。アベマシクリブはRB1依存的にプログラムを逆転させ、自己TILとの共培養系でも免疫耐性を減弱させることができた。
臨床応用: 本プログラムは治療前バイオプシーから検出可能であり、複数の独立コホート(計112例以上)で抗PD-1療法のPFS、OR、CRを予測する優れたバイオマーカーとしての臨床的有用性を持つ。CDK4/6阻害剤アベマシクリブと免疫療法の併用は、in vivoモデルで相乗効果を発揮し、ICI抵抗性のメラノーマ患者に対する新たな治療選択肢として臨床応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、本プログラムがメラノーマ以外の固形腫瘍、特にICI応答性が低い腫瘍タイプにおいても同様の役割を果たすかどうかの検証が残されている。また、CDK4/6阻害剤とICIの最適な投与タイミングやレジメン、および長期的な効果と安全性プロファイルの評価も今後の研究で明らかにする必要がある。Limitationとして、本研究のscRNA-seqコホートは治療前とICI耐性後のサンプルが中心であり、治療応答群の経時的変化を詳細に追跡したデータが限定的であった点が挙げられる。
方法
本研究では、以下の多角的なアプローチを用いた。
- scRNA-seqデータ解析: 31例のメラノーマ患者由来33腫瘍(処置前15例、ICI耐性後15例、奏効後1例)から得られた7,186の高品質scRNA-seqプロファイルを解析した。これには、新たに収集された17腫瘍からの2,987細胞と、既報の16腫瘍からの4,199細胞が含まれる。細胞型は発現プロファイルとコピー数変異 (CNV) プロファイルに基づいて分類され、悪性細胞、CD8⁺ T細胞、CD4⁺ T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、がん関連線維芽細胞 (CAF)、内皮細胞が同定された (Figure 1C, 1D)。
- T細胞排除プログラムの同定: scRNA-seqデータとCancer Genome Atlas (TCGA) 由来のバルクRNA-seq 473例を統合し、悪性細胞プログラムとT細胞浸潤レベルの関連を同定するデータ駆動型アプローチを開発した (Figure 1B)。このアプローチでは、まずscRNA-seqでT細胞と悪性細胞のタイプ特異的シグネチャーを定義し、次にバルクRNA-seqでT細胞浸潤レベルを推定した。その後、悪性細胞シグネチャー内の遺伝子とT細胞浸潤レベルの相関から「シード排除プログラム」を定義し、scRNA-seqデータを用いてゲノムスケールに拡張した。統計解析にはPearson correlationを用いた。
- in situ空間的検証: 19腫瘍の組織切片に対し、多重免疫蛍光 (t-CyCIF) を用いた空間的プロテオミクス検証を実施した。14種類のタンパク質(6種類の細胞型マーカーと7種類の耐性プログラム成分)を染色し、平均47万細胞/画像で解析した。これにより、耐性プログラムを高発現する悪性細胞の空間的局在とT細胞浸潤との関連を評価した。
- 臨床応答予測能の検証: 独立した2つのコホートでプログラムの臨床的予測能を検証した。バリデーションコホート1 (n=26、90検体) では、ICIまたは標的療法を受けた患者の経時的サンプルをRNA-seqで解析した。バリデーションコホート2 (n=112) では、抗PD-1療法前の生検サンプルをRNA-seqで解析し、無増悪生存期間 (PFS) を追跡した。これらのコホートにおいて、47種類の代替プレディクターと比較して本プログラムの予測能を評価した。
- CDK4/6阻害によるプログラム抑制の評価: CDK4/6阻害剤アベマシクリブ (abemaciclib) によるプログラム抑制効果を評価した。3種類のメラノーマ細胞株(IGR37、UACC257、A2058)をアベマシクリブで処理し、23,000を超える細胞のscRNA-seq解析を行った。さらに、in vitroでの自己腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 共培養実験、およびB16マウスin vivoモデル(C57BL/6マウスを使用し、複数投与レジメン比較、CD8⁺ T細胞枯渇実験)を用いて、アベマシクリブと免疫療法との併用効果を評価した。