• 著者: Marcus Ruscetti, Josef Leibold, Matthew J. Bott, Myles Fennell, Amanda Kulick, Nelson R. Salgado, Chi-Chao Chen, Yu-jui Ho, Francisco J. Sanchez-Rivera, Judith Feucht, Timour Baslan, Sha Tian, Hsuan-An Chen, Paul B. Romesser, John T. Poirier, Charles M. Rudin, Elisa de Stanchina, Eusebio Manchado, Charles J. Sherr, Scott W. Lowe
  • Corresponding author: Scott W. Lowe (lowes@mskcc.org) (Department of Cancer Biology and Genetics, Sloan Kettering Institute, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-12-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30573629

背景

KRAS変異肺癌において、MEK阻害薬とCDK4/6阻害薬の併用は、RAS-MAPKシグナルとCyclin D/RB経路の両方を遮断することで、相乗的な増殖抑制効果が期待される。しかし、免疫能が乏しいNSGマウスではその効果が著明に減弱することが報告されており、免疫系の抗腫瘍応答への寄与が示唆されていた。細胞老化 (cellular senescence) は強力な腫瘍抑制機構として知られ、特定の治療によって誘導されると、老化関連分泌表現型である SASP (senescence-associated secretory phenotype) を介して免疫調節機能を発揮することが、Coppé et al. (2008) や Krizhanovsky et al. (2008) などの先行研究によって明らかになってきた。また、RBタンパク質は細胞周期制御と細胞老化に重要な役割を果たすことが Serrano et al. (1997) らの先行研究で報告されている。しかし、分子標的薬によって誘導されるSASPとNK細胞 (natural killer cell) による免疫監視の機能的関連は未解明な点が多く、KRAS変異肺癌における分子標的薬と免疫応答の相互作用については、さらなる研究が必要であるというギャップが残されている。特に、どのようなSASP因子がNK細胞の活性化や集積を直接制御しているのか、その詳細な分子メカニズムに関する知見は不足しており、治療誘導性の細胞老化が先天性免疫を介して非細胞自律的に腫瘍を退縮させる具体的なプロセスは不明であった。このように、分子標的薬が惹起する細胞老化プログラムと自然免疫系との相互作用における詳細な機序は、これまで十分に解明されておらず、治療戦略を最適化するための知見が不足しているという課題が存在した。

目的

本研究の目的は、MEK阻害薬であるトラメチニブ (trametinib) とCDK4/6阻害薬であるパルボシクリブ (palbociclib) の併用療法が、KRAS変異肺癌の腫瘍制御に及ぼす細胞自律的および非細胞自律的効果を詳細に解析することである。特に、治療によって誘導される細胞老化プログラムが、どのようなSASP因子を介してNK細胞による免疫監視機構を活性化し、腫瘍退縮に寄与するのか、その詳細な分子機序を同系移植マウスモデルおよび遺伝子改変マウスモデルを用いて明らかにすることを目指した。

結果

MEK+CDK4/6阻害の相乗的増殖抑制と免疫系依存性: Trametinibとpalbociclibの併用は、ヒトKRAS変異細胞株 (A549, H2030, HCC15) において、単剤よりも相乗的にRB脱リン酸化と増殖抑制を誘導した (Fig. 1A)。KRAS変異NSCLC PDXモデル (MSK-LX27) を用いたin vivo実験では、併用療法が単剤よりも腫瘍増殖を有意に抑制した (p<0.05)。このPDXモデルでは、併用療法群の腫瘍体積は、治療開始28日後で平均約500 mm³であったのに対し、trametinib単剤群では約1500 mm³、palbociclib単剤群では約2000 mm³であった (n=5 mice per group) (Fig. 1B)。KP同系移植モデルを用いた生存解析では、併用療法が単剤と比較して有意な生存期間延長をもたらしたが (p<0.001)、免疫不全NSGマウスでは併用療法の効果が著明に減弱した (n=8 mice per group) (Fig. 1E)。これは、併用療法の効果に免疫系が寄与することを示している。

NK細胞の選択的増加とMDSC減少: 併用療法投与後の腫瘍内免疫プロファイリングでは、CD45+免疫細胞の全体的な腫瘍浸潤が増加した。特に、NK細胞の有意な増加 (p<0.001) と、骨髄由来抑制細胞である MDSC (myeloid-derived suppressor cell) の有意な減少 (p<0.001) が併用療法群で観察された (Fig. 1F, G)。併用療法群では、CD45+細胞中のNK1.1+細胞の割合が 2.8-fold increase に相当する平均約8%に増加したのに対し、単剤群では約2-3%であった (n=4 mice per group) (Fig. 1G)。CD4+およびCD8+ T細胞は肺および脾臓で増加したが、活性化マーカー (CD69, KLRG1, CD107a) の変化は認められず、T細胞の選択的活性化は生じていなかった。一方、NK細胞は成熟・活性化表現型 (CD107a+、成熟NK関連遺伝子発現増加) を示した (Fig. 1G)。

併用療法によるRB媒介性細胞老化とNFκB依存性SASP誘導: 併用療法投与後のKP腫瘍細胞では、SA-β-gal陽性細胞が有意に増加し (p<0.001)、RB脱リン酸化を介した細胞周期停止と細胞老化プログラムが誘導された (Fig. 2A)。A549細胞では、併用療法によりSA-β-gal陽性細胞が約60%に増加したのに対し、単剤では約10-20%であった (n=3 replicates) (Fig. 2A)。この細胞老化は NFκB (nuclear factor kappa B) シグナル活性化と関連し、TNF-α、ICAM-1、およびNKG2Dリガンドの発現増加を伴った (Fig. 2D, E)。RNA-seq解析では、併用療法群でSASP関連遺伝子の発現が単剤群と比較して有意に高かった (log2FC 1.8以上) (Fig. 2C)。p65 (NFκB) 抑制によりSASP因子の誘導が抑制され、NK細胞傷害活性が低下した (n=3 replicates) (Fig. 3A, B)。

NK細胞傷害とTNF-α・ICAM-1が併用効果に必須: NK1.1抗体によるNK細胞除去は、併用療法を受けたKPマウスの生存期間を有意に短縮した (p<0.001) (Fig. 1H)。NK細胞除去群の生存期間中央値は併用療法単独群の約半分であった (n=8 mice per group)。TNF-α中和抗体もNK細胞除去と同等の生存期間短縮効果を示し、腫瘍内活性化NK細胞の減少と関連した (p<0.001) (Fig. 3D, E)。ICAM-1/LFA-1経路の阻害は、in vitroでのNK細胞傷害活性を著明に抑制した。Live cell imagingおよびクロム放出アッセイにより、併用療法で処理されたKP腫瘍細胞は、対照細胞と比較して有意に高いNK細胞傷害感受性を示すことが確認された (p<0.001) (Fig. 2F)。例えば、A549細胞では、併用療法によりNK細胞による腫瘍細胞傷害活性が 3.5-fold increase に増強され、腫瘍細胞殺傷率が約60%に達した (n=3 replicates) (Fig. 2F)。

KP GEMM自然発癌モデルでの確認: μCTで腫瘍モニタリングが可能なKP GEMMマウスにおいて、併用療法後に腫瘍縮小が確認された (Fig. 4B, C)。しかし、NK1.1抗体、TNF-α中和抗体、またはICAM-1遮断抗体を併用した群では腫瘍縮小効果が消失し、病勢進行が認められた (Fig. 4C)。併用療法+アイソタイプ対照群では、腫瘍体積が平均約-50%減少したのに対し、NK1.1抗体併用群では約+20%増加した (n=6 mice per group) (Fig. 4C)。生存曲線解析でも、併用療法+アイソタイプ対照群は、単剤群や併用療法+NK/TNF-α/ICAM-1遮断群と比較して有意に生存期間が延長した (log-rank p<0.001) (Fig. 4D)。長期生存者は併用療法+アイソタイプ対照群でのみ観察された。

考察/結論

本研究は、MEK阻害薬とCDK4/6阻害薬の併用という細胞増殖抑制性 (cytostatic) 分子標的薬が、腫瘍細胞のRB媒介性細胞老化による細胞自律的増殖抑制に加え、NFκB依存性SASPを介したNK細胞免疫監視という非細胞自律的抗腫瘍機構を活性化することを実証した。

先行研究との違い: これまでの研究では、MEK阻害薬やCDK4/6阻害薬がT細胞機能を調節する可能性が示唆されていたが、本研究はT細胞の選択的活性化は認めず、NK細胞が主要なエフェクター細胞として機能することを示した点で、これまでの報告とは対照的である。特に、NK細胞はネオアンチゲン認識を必要としないため、MHCクラスI発現が低下した腫瘍に対しても有効な免疫監視を提供しうるという点で、T細胞中心の免疫療法とは異なるアプローチを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、分子標的薬によって誘導される細胞老化が、NFκB依存性SASPを介してNK細胞による腫瘍細胞傷害を促進するという新規のメカニズムを明らかにした。これは、これまで報告されていない、細胞老化と先天性免疫応答の直接的な機能的連携を示すものである。

臨床応用: 本知見は、KRAS変異肺癌に対する分子標的薬と免疫療法の合理的な組み合わせ戦略に重要な臨床的含意を与える。細胞老化誘導型分子標的薬がNK細胞監視を誘導するという本機構は、既存のT細胞チェックポイント阻害療法と相補的な役割を果たす可能性があり、臨床応用への展開が期待される。SASP因子であるTNF-αとICAM-1がNK細胞による腫瘍細胞傷害に必須であるという発見は、SASPの有益な側面 (NK細胞免疫監視) と有害な側面 (炎症促進、転移促進) の文脈依存的な機能分離の重要性を示唆し、SASPを標的とした治療戦略の開発に繋がる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒトKRAS変異NSCLC患者における本機序の検証 (NK細胞機能、SASP因子、治療前後の腫瘍内免疫変化) が挙げられる。また、本機序を活用した組み合わせ療法 (MEK+CDK4/6阻害薬に加えて、抗CD16抗体やIL-15などのNK細胞活性化薬を併用する戦略) の開発が期待される。Limitationとして、本研究は主にマウスモデルと細胞株を用いたものであり、ヒト臨床での再現性を確認する必要がある。

方法

In vitro増殖抑制および細胞老化解析: KRAS変異ヒト肺癌細胞株である A549, H2030, および HCC15 (human lung carcinoma 15) 等の細胞株、ならびに小細胞肺癌細胞株などの解析において、先行研究 Poirier et al. Oncogene 2015 と同様の細胞培養技術を応用し、trametinib単剤、palbociclib単剤、または両薬剤の併用による増殖抑制効果を評価した。細胞老化の指標として、SA-β-gal (senescence-associated beta-galactosidase) 染色、老化関連ヘテロクロマチン焦点の蓄積、Lamin B1の発現低下、および細胞老化マーカーである DEC1 (deleted in esophageal cancer 1)、DCR2 (decoy receptor 2)、CDKN2Bの発現増加を解析した。

In vivo腫瘍モデル:

  1. PDXモデル: KRAS変異非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者由来異種移植 (PDX) モデルである MSK-LX27 (Memorial Sloan Kettering lung xenograft 27) および MSK-LX68 (Memorial Sloan Kettering lung xenograft 68) モデルを免疫不全NSG (NOD-scid IL2Rgnull) マウスに移植し、両薬剤のin vivo効果を評価した。
  2. 同系移植モデル: Kras G12D/+;Trp53 -/- (KP) マウス由来腫瘍細胞をC57BL/6免疫能保持マウスまたはNSGマウスに静注し、オルトトピック肺腫瘍を形成させた。1週後から治療を開始し、腫瘍増殖と生存期間を評価した。
  3. 遺伝子改変マウス (GEMM) モデル: Kras LSL-G12D/wt;Trp53 flox/flox (KP GEMM) マウスに、DuPage et al. NatProtoc 2009 に記載された気管内アデノウイルスCre投与法を用いて自然発癌を誘導し、マイクロCT (μCT) で腫瘍をモニタリングした。NK1.1抗体、TNF-α (tumor necrosis factor-alpha) 中和抗体、ICAM-1 (intercellular adhesion molecule-1) 遮断抗体投与群との生存期間を比較した。

免疫プロファイリングとSASP解析: 腫瘍内免疫細胞浸潤をフローサイトメトリーで解析した。RNAシーケンス (RNA-seq) データの処理には、Bolger et al. Bioinformatics 2014 のTrimmomatic、Dobin et al. Bioinformatics 2013 のSTAR、および Anders et al. Bioinformatics 2015 のHTSeqを用いて発現定量を行い、SASP関連遺伝子の発現プロファイルを解析した。統計解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法およびログランク (log-rank) 検定を用いた。