- 著者: John T. Poirier, Eliot E. Gardner, Noam Connis, Andre L. Moreira, Elisa de Stanchina, Christine L. Hann, Charles M. Rudin
- Corresponding author: Charles M. Rudin (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
- 雑誌: Oncogene
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-03-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 25746006
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の10〜15%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍である Jemal et al. CACancerJClin 2011。急速な増殖、早期転移、そして化学療法に対する初期感受性とその後の急速な耐性獲得が特徴であり、進行期における患者の5年生存率は1%未満と極めて低い。標準治療であるシスプラチンとエトポシドの併用療法は30年以上変更がなく、新たな治療標的の同定が喫緊の課題である Lara et al. JClinOncol 2009。近年の包括的なゲノム解析により、CREBBP、EP300、MLL、MLL2などのクロマチン修飾因子におけるホットスポット変異や、SOX2の遺伝子増幅が同定されているが Rudin et al. NatGenet 2012、これらの遺伝子変異が部位特異的なDNAメチル化や標的遺伝子発現に与える影響は未解明であった。また、SCLCにおけるエピジェネティクス、特にDNAメチル化のゲノムワイドな役割については、これまで包括的に研究されてこなかった。
先行研究として、Kalari et al. (2013) は18例の原発SCLC腫瘍と5例のSCLC細胞株を対象に、ターゲット型CpGアイランドアレイを用いたDNAメチル化パターン解析を実施した。この研究では、HAND1 (heart and neural crest derivatives expressed 1) や REST (RE1 silencing transcription factor) などの神経内分泌特異的転写因子遺伝子、あるいは HOXD (homeobox D) クラスターなどのポリコーム遺伝子を含む73遺伝子に特異的なDNAメチル化ピークが同定された。しかし、この研究は使用された技術の解像度が比較的低く、サンプル数も限られていたため、腫瘍と正常肺組織を確実に区別することは困難であった。さらに、これらのサンプルに対する相補的な遺伝子解析が不足しており、DNAメチル化と遺伝子変異の統合的な理解には至っていなかった。
SCLCは高い可塑性とクローン形成能を持ち、高い幹細胞性を示す疾患である。DNAメチル化は遺伝子発現のエピジェネティックな主要制御メカズムの一つであり、CpGアイランドの過剰メチル化はヒストン修飾の二次的なリクルートメントを促進し、安定した遺伝子サイレンシングを引き起こす。癌において、遺伝子変異、欠失、DNAメチル化など、異なるメカニズムによって主要な経路が変化しうることが複数の研究で示されている TCGA et al. Nature 2012 Network et al. Nature 2012 Network et al. Nature 2012。SCLCにおけるDNAメチル化パターンのより明確な理解は、癌特異的なバイオマーカーの発見や、統合的な遺伝子・エピジェネティック解析を通じた臨床的に標的可能な薬剤標的および経路の特定に繋がる可能性がある。
本研究は、これらの先行研究の限界を克服し、SCLCにおけるゲノムワイドなDNAメチル化の理解を単一塩基解像度で大幅に拡張することを目的とした。特に、SCLCの病因と分類におけるエピジェネティクスの役割は未開拓であり、疾患の不均一性をエピジェネティックな観点から解明することが不足していた。
目的
本研究の目的は、Illumina Human Methylation 450k BeadChipを用いた単一塩基解像度DNAメチル化プロファイリングにより、SCLC原発腫瘍、患者由来異種移植片 (PDX) モデル、および細胞株におけるDNAメチル化パターンを包括的に解析することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。
- PDXおよび細胞株が原発SCLC腫瘍のDNAメチル化パターンをどの程度忠実に維持しているかを評価し、前臨床モデルとしてのエピジェネティックな忠実性を比較する。
- SCLCと正常肺組織間で差異的にメチル化された領域および個々のCpG部位を同定し、それらが遺伝子発現とどのように相関するかを明らかにする。
- DNAメチル化および遺伝子発現データに基づき、組織学的に区別できないSCLC内に存在する異なる疾患サブタイプを同定し、その特徴を明らかにする。
- SCLCにおける高レベルのプロモーターメチル化に寄与する可能性のあるクロマチン修飾因子を特定し、特にヒストンメチルトランスフェラーゼであるEZH2 (enhancer of zeste homolog 2) がSCLCにおいて治療標的となりうるかを前臨床モデルで検証する。
結果
PDXモデルにおけるエピジェネティック忠実度の維持: 主成分分析 (PCA) および非教師あり階層クラスタリングの結果、6種類のPDXのうち4種類が原発SCLC腫瘍と密接にクラスタリングした。一方、7種類のSCLC細胞株はすべて原発腫瘍とは異なるクラスターに属した (Figure 1b, c)。Concordance at the top (CAT) 解析では、PDXは原発SCLCとの高い一致度 (有意閾値 q<1×10⁻⁶ で98%の一致) を維持したが、細胞株ではプローブリストのサイズが大きくなるにつれて一致度が急速に低下した (Figure 1d, e, f)。この結果は、細胞株が長期培養によってエピジェネティックなドリフトを蓄積するのに対し、PDXは複数回の継代後も原発腫瘍のエピジェネティック状態を維持することを示唆する。
SCLCと正常肺組織における差異的メチル化と遺伝子発現相関: SCLCと正常肺組織間で差異的にメチル化されたCpGサイトの解析では、最も有意なメチル化イベントはSCLCにおける過剰メチル化であった (Figure 2a)。過剰メチル化されたCpGは転写開始点 (TSS) から500 bp以内のプロモーター近傍に集積する傾向が見られた (Figure 2b)。DNAメチル化の73%は遺伝子発現と負の相関を示し (遺伝子サイレンシング型)、遺伝子発現と正の相関を示す低メチル化CpGは遺伝子ボディ内に多く分布していた (p=0.016、Wilcoxon rank-sum test) (Figure 2c, d)。bump-hunting法により、494の領域にわたる4,033個のユニークなCpGが有意な差異的メチル化領域として同定された。特に、がん遺伝子BCL2は正常肺ではメチル化され発現がサイレンスされているが、SCLCでは可変性を示し、classic subtype PDXでは低メチル化とBcl-2高発現が強く相関していた (p<0.0001、Spearman相関テスト) (Figure 2e, f)。
3つのエピジェネティックサブタイプの同定: k-meansコンセンサスクラスタリングにより、原発SCLC n=34例のDNAメチル化および遺伝子発現データから、3つの安定したサブタイプが同定された (Figure 3a, b)。
- SCLC-M1サブタイプ: ASCL1高発現、NEUROD1低発現を特徴とする。
- SCLC-M2サブタイプ: ASCL1低発現、NEUROD1高発現を特徴とする。
- SQ-Pサブタイプ: 肺扁平上皮癌のprimitive squamous型に類似したプロファイルを示し、M1/M2サブタイプと比較して全体的なプロモーターメチル化が有意に低く、メチル化プロモーター数が少なかった (Wilcoxon rank-sum test) (Figure 4d, e)。遺伝子発現に基づくSQ-Pクラスターの6例すべてがDNAメチル化SQ-Pクラスターと一致した (Figure 3c)。 注目すべきは、TP53変異およびRB1不活化といったSCLCのホールマーク遺伝子病変は、これらすべてのサブタイプでほぼ普遍的に存在しており、エピジェネティックサブタイプは遺伝子変異とは独立して存在することが示された (Figure 5a)。SCLC M1/M2サブタイプにおけるCpGアイランドプロモーターのメチル化レベルは、TCGAの他の腫瘍種と比較しても最も高いレベルに属していた (Figure 4h)。
EZH2高発現とプロモーターメチル化の相関: クロマチン修飾因子であるEZH2は、SCLCにおいて正常肺と比較して412倍以上高発現しており (Figure 6a)、TCGAデータセットを用いた解析では、複数の癌腫におけるEZH2発現中央値とメチル化プロモーター数との間に有意な正の相関が認められた (Spearman rho) (Figure 6b)。SCLCにおけるEZH2発現レベルは、TCGAの他の原発腫瘍や癌細胞株百科事典 (CCLE) の細胞株と比較しても最高レベルに匹敵した (Figure 6c)。ウェスタンブロットにより、n=17例のSCLC PDXのうち15例 (88%) でEZH2タンパク質の発現が検出された (Figure 7a)。EZH2はE2Fの既知の標的遺伝子であり、SCLCで普遍的に見られるRB1機能喪失によるE2F活性化がEZH2の過剰発現を駆動している可能性が示唆された。
EZH2阻害剤によるin vitroおよびin vivo腫瘍増殖抑制効果: Ex vivo試験において、LX92 (SCLC PDXモデル) 由来の培養細胞にEZH2阻害剤であるEPZ-5687、GSK343、UNC1999 (各1 μM、n=3 replicates) を7日間投与した結果、3剤すべてがresazurin変換アッセイにおいて有意な細胞増殖抑制効果を示した (two-way ANOVA、Dunnett補正) (Figure 7b)。特にEPZ-5687はH3K27me2レベルを最も強力に減少させた (Figure 7c)。 In vivo試験において、LX92 PDX担癌マウス (n=10 mice/group) に、経口投与可能なEZH2阻害剤EPZ-6438 (100 mg/kg、1日1回または2回) を投与したところ、顕著な腫瘍増殖抑制効果が認められ、良好な忍容性を示した (Figure 7d)。投与43日目の薬力学的解析では、最も良好な応答を示した腫瘍群 (TGI > 中央値) において、EZH2タンパク質の低下とH3K27me2およびH3K27me3の顕著な減少が確認された (Figure 7e)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、Kalari et al. (2013) の先行研究と異なり、47例の広範に特徴付けられたSCLC検体 (34例の原発腫瘍、6例のPDX、7例の細胞株) を対象に、Illumina Human Methylation 450k BeadChipによる単一塩基解像度DNAメチル化プロファイリングを実施した。これにより、485,577個のCpG座位を解析し、4,033個のユニークな差異的メチル化領域を同定した。先行研究が73遺伝子のみの解析に留まっていたのに対し、本研究はゲノムワイドな解像度と網羅性を大幅に向上させ、正常肺と腫瘍を確実に区別することに成功した。
新規性: 本研究で初めて、患者由来異種移植片 (PDX) が原発SCLC腫瘍のDNAメチル化パターンを高い忠実度 (有意閾値 q<1×10⁻⁶ で98%の一致度) で維持する一方、SCLC細胞株では長期培養によるエピジェネティックなドリフトが著しいことを新規に明らかにした。これは、細胞株で観察される不可逆的な遺伝子発現変化が、エピジェネティックな調節異常に起因する可能性が高いことを示しており、PDXモデルが原発腫瘍のエピジェネティック状態をより正確に反映する優れたin vivoモデルであることを支持する。また、組織学的に区別できないSCLC内に、ASCL1およびNEUROD1の発現パターンや全体的なメチル化レベルが異なる3つのエピジェネティックサブタイプ (SCLC-M1、SCLC-M2、SQ-P) が存在することを初めて示した。
臨床応用: SCLCにおけるEZH2の顕著な過剰発現 (正常対照比412倍) と、それがプロモーターCpGアイランドの広汎なメチル化と強く相関するという発見は、EZH2がSCLCにおける有望な治療標的となる可能性を示唆する。実際に、EZH2阻害剤EPZ-6438がSCLC PDXモデルにおいて顕著な腫瘍増殖抑制効果を示したことは、EZH2阻害がSCLCの臨床応用において有効な治療戦略となりうることを示唆する。SCLCで普遍的に見られるRB1機能喪失によるE2F活性化がEZH2過剰発現を駆動するという機序的連鎖は、EZH2-RB1-E2F経路を標的とした治療戦略開発の基盤を提供する。
残された課題: 今後の検討課題として、同定されたエピジェネティックサブタイプの臨床的予後的意義の検証、および患者選択バイオマーカーの確立が挙げられる。また、本研究のlimitationとして、原発腫瘍のサンプル数 (n=34) が比較的小さいことが挙げられる。TP53およびRB1変異はすべてのサブタイプに普遍的に存在するため直接の遺伝子標的としては不適切であるが、エピジェネティクスサブタイプに依存した治療戦略 (例:ASCL1高発現のM1サブタイプやNEUROD1高発現のM2サブタイプ、あるいはSQ-Pサブタイプに特化した治療アプローチ) の開発が今後の重要な方向性となる。
方法
本研究では、合計47例のSCLC検体を解析対象とした。内訳は、新鮮凍結原発SCLC腫瘍34例 (うち24例は対応する正常肺組織のDNAも利用可能)、6種類の患者由来異種移植片 (PDX) モデル、および7種類のSCLC細胞株である。原発腫瘍検体には、エクソーム変異、コピー数変異、およびRNA-seqデータが付属していた。本研究は前臨床トランスレーショナル研究であり、特定の臨床試験登録番号 (NCT) は付与されていない。
DNAメチル化解析には、Illumina Human Methylation 450k BeadChipを使用し、ヒトゲノム内の485,577個のCpG座位を測定した。解析では、検出p値が0.01未満のデータポイントを除外し、XおよびY染色体由来のプローブを除外した後、473,864個のユニークなプローブを対象とした。メチル化レベル (β値) は、メチル化プローブと非メチル化プローブのシグナル強度から算出され、分母に100の定数を加えて正規化した。プローブの染料バイアスは内蔵のコントロールプローブを用いて正規化された。
データ解析には、RのBioconductorスイートが用いられた。主成分分析 (PCA) は、正常肺サンプルを除外したクォンタイル正規化データに対して実施された。サブタイプ同定のため、情報量の多いプローブ (標準偏差 > 0.2) を用いて、非教師あり階層クラスタリング (Spearman相関係数に基づく) およびk-meansコンセンサスクラスタリングが適用された。クラスタリングの安定性、シルエット幅、累積分布関数の曲線下面積の変化、および予測されるサブタイプの生物学的意義に基づいて最適なクラスター数が決定された。
差異的メチル化領域の同定には、「bump-hunting」法が用いられた。これは、局所的なメチル化の一貫した腫瘍特異的差異を持つ領域を特定するのに有用なアプローチである。遺伝子発現との相関解析では、各CpGのβ値と、そのプロモーターに関連する遺伝子の発現量との間のSpearman順位相関係数が算出された。RNA-seqデータはlog2 counts per millionに変換された。
EZH2発現とプロモーターメチル化との相関は、TCGA (The Cancer Genome Atlas) データセットを用いて評価された。EZH2タンパク質発現は、17例のSCLC PDXパネルにおいてウェスタンブロットにより検出された。
EZH2阻害剤の前臨床効果検証は、ex vivoおよびin vivoで行われた。
- Ex vivo試験: LX92 PDX由来の培養細胞に、EZH2阻害剤であるEPZ-5687、GSK343、UNC1999 (各1 μM) を7日間毎日投与し、resazurin変換アッセイにより細胞生存率を評価した。EZH1、EZH2、H3K27me2 (ヒストンH3リジン27ジメチル化)、H3K27me3 (ヒストンH3リジン27トリメチル化) のタンパク質レベルはウェスタンブロットで評価された。
- In vivo試験: LX92 PDX担癌マウス (無胸腺ヌードマウス、腫瘍体積約150 mm³で投与開始、n=10 mice/group) に、経口投与可能なEZH2阻害剤EPZ-6438 (100 mg/kg、1日1回または2回) を43日間投与した。腫瘍体積とマウス体重は週2回測定された。薬力学的解析のため、最終投与2時間後に腫瘍組織を採取し、ウェスタンブロットによりEZH1、EZH2、H3K27me2、H3K27me3のタンパク質レベルが評価された。腫瘍増殖抑制効果 (TGI) が中央値以上の腫瘍とそれ以下の腫瘍でプールし、薬力学的応答との相関を評価した。統計学的有意差の判定には、two-way ANOVA (二元配置分散分析) およびDunnett多重比較検定が用いられた。