• 著者: Soura Chakraborty, Jhuma Pramanik, Gustavo Alviter-Raymundo, Christopher J. Ward, Sanu K. Shaji, Yumi Yamashita-Kanemaru, Fatma Abo Zakaib Ali, Debasis Banik, Ziwei Zhang, Clara Veiga-Villauriz C, Natalie Z. M. Homer, Joanna Simpson, Sofia Laforest, Shanlin Tong, Qiuchen Zhao, James Roy, Muhammad Iqbal, Andrew Conway Morris, Michael A. Chapman, Rahul Roychoudhuri, Hosni Hussein, David Klenerman, Kourosh Saeb-Parsy, Bidesh Mahata
  • Corresponding author: Bidesh Mahata (bm562@cam.ac.uk) (Department of Pathology, University of Cambridge, Cambridge, UK)
  • 雑誌: Signal Transduction and Targeted Therapy
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-02-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41956993

背景

固形腫瘍の免疫療法において、NK細胞は細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) とともに主要なエフェクターとして期待されているが、腫瘍微小環境 (TME) の多様な免疫抑制シグナルによって機能が損なわれることが知られている Zou. Nat Rev Cancer 2005。グルココルチコイドはステロイド系免疫抑制薬として全身性の作用が知られているが、TME内でのde novoステロイド生合成や不活性型コルチゾンから活性型コルチゾールへの変換が局所的なグルココルチコイド富化ニッシュを形成し、NK細胞機能を障害するかどうかは未解明であった。先行研究では、グルココルチコイドがT細胞の免疫抑制に関与することが報告されているが Mahata et al. Nat Commun 2020、NK細胞に対する局所的な影響については詳細な定量データが不足していた。また、CAR-NK細胞療法は固形腫瘍において免疫抑制性TMEへの感受性により奏効が限定されており、コルチゾール耐性工学的戦略の開発が求められていた。特に、肺がんは世界的に罹患率の高い疾患であり Leiter et al. Nat Rev Clin Oncol 2023、非小細胞肺がん (NSCLC) や小細胞肺がん (SCLC) において治療用グルココルチコイドの使用が予後不良と関連することが示唆されている Drakaki et al. Oncoimmunology 2020。さらに、一部の肺がん細胞株がステロイド生合成酵素を発現し、グルココルチコイドを産生することが報告されている Merk et al. Genes Immun 2023。しかし、肺がんTMEにおけるコルチゾールの具体的な量と、それが腫瘍浸潤NK細胞に与える影響については、これまで十分に探索されていなかった。本研究は、この知識ギャップを埋め、コルチゾールが豊富なTMEにおけるNK細胞機能不全のメカニズムを解明し、新たな治療戦略を開発することを目的とした。

目的

肺がんTMEにおけるコルチゾールの分布、産生源、および腫瘍浸潤NK細胞機能への影響を定量的に解析する。さらに、グルココルチコイド受容体 (GR) であるNR3C1遺伝子をCRISPR-Cas9システムで欠失させることによりコルチゾール耐性を付与したCEACAM5特異的CAR (chimeric antigen receptor)-NK細胞を作製し、その治療効果を評価することを目的とする。具体的には、コルチゾールが豊富なTMEにおいて、NR3C1欠損CAR-NK細胞が従来のCAR-NK細胞と比較して、NK細胞の細胞傷害活性、サイトカイン産生、PI3K-AKT-NFκBシグナル伝達、および低酸素ストレス応答にどのような影響を与えるかをin vitroおよびin vivoで検証する。

結果

コルチゾールは肺がんTMEの最豊富ステロイド: 34患者のLC-MS/MS解析により、コルチゾールは平均42.47 ng/g (腫瘍組織) で最も高濃度であり、次いでプレグネノロン (24.7 ng/g)、コルチゾン (9.7 ng/g)、コルチコステロン (4.38 ng/g) の順であった (Fig. 1a, b)。複数のステロイドクラス (グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲストゲン) が検出されたが、がん病期による有意な差は認められなかった。この結果は、肺がんTMEがコルチゾールを豊富に含む免疫抑制環境であることを明確に示している。

TIL-NK細胞のGR発現と機能抑制の相関: NSCLCのscRNA-seq解析 (GSE127465; n=7 patients) で、腫瘍浸潤NK細胞は末梢血NK細胞と比較してコルチゾール応答スコアが有意に高値 (p<2×10^−16, Wilcoxon検定) であった (Fig. 1d, e)。GR高発現TIL-NK細胞はエフェクター機能スコア (PRF1, GZMB, IFNG, TNF, NKG7等) が低値 (p=3.8×10^−10) で、機能不全スコア (NR4A1, NR4A2, NR4A3, SOCS1, NFATC1, CBLB等) が高値 (p=0.00069) であった (Fig. 1f, g)。GSEA解析ではコルチゾールがHallmark低酸素遺伝子シグネチャーをNK細胞で顕著に誘導した (NES=1.76, p=0.0004) (Fig. 1h)。GR高発現NK細胞では低酸素応答スコアも高値 (p<2×10^−16) であり、コルチゾール応答スコアと低酸素応答スコアに正の相関 (ρ=0.29, p=4.5×10^−24, Spearman) が観察された (Fig. 1i, j)。これらの結果は、グルココルチコイドがNK細胞の細胞傷害活性を減弱させ、低酸素ストレスを増幅させることを示唆している。

CAF・マクロファージがコルチゾール産生の主要ハブ: 103患者224,611細胞のscRNA-seq統合解析 Prazanowska et al. Sci Data 2023 で、CYP11A1 (de novo生合成) は主にT細胞、骨髄細胞、線維芽細胞、マクロファージ、がん細胞に発現し、HSD11B1 (コルチゾンからコルチゾールへの再活性化酵素) は癌関連線維芽細胞 (CAF) (特にiCAF) とM2様腫瘍関連マクロファージ (TAM) に優位に発現していた (Fig. 2b, c, d)。HSD11B1+ TAMはキセノバイオティクス代謝経路亢進、p53/EMT/TNFα-NFκBシグナルの抑制を示し、IL4I1、CHI3L1等の免疫抑制メディエーターを産生する高度免疫抑制性集団として同定された (Fig. 2g, h)。TCGA LUSCコホートではHSD11B1高発現が全生存期間と逆相関する傾向を示した (p=0.05)。CAFサブセットでは、HSD11B1発現は炎症性CAF (iCAF) に主に局在し Salcher et al. CancerCell 2022、免疫抑制性および腫瘍支持性メディエーター (SEPP1, SOD3, MGP, EMILIN1, CXCL12, TGFB1, SERPINF1, IL15RA) を発現し、NFκB活性の低下を伴うことが示された。HSD11B1+ iCAFは、HSD11B1とCYP酵素の発現亢進を通じて活性型ステロイドのリサイクリングを促進し、IL6、IL33、CXCL12、TNFSF14、PTGER2/4などのサイトカインを分泌し、インターフェロンプログラムを抑制することが明らかになった (Supplementary Fig. 3g)。HSD11B1+ iCAFが豊富な腫瘍では、CD8+ T細胞およびNK細胞の疲弊が増加しており (Supplementary Fig. 3h)、この間質細胞集団が肺TMEの広範な免疫抑制的再プログラミングに関与していることが示唆される。

GR阻害が腫瘍浸潤NK細胞機能を回復: LLC-OVAマウスモデル (n=15 mice per group) でのミフェプリストン投与 (GR阻害) は、腫瘍増殖を有意に抑制し (p<0.0001, two-way repeated-measures ANOVA) (Fig. 3a)、TIL-NK細胞の細胞傷害活性を回復させた。GR阻害群では、TIL-NK細胞においてTNFα、IFNγ、パーフォリン、DNAM1、NKG2D、CD69などの活性化マーカーの発現が増加し、抑制性受容体KLRG1の発現が減少した (Fig. 3b)。GSEA解析では、GR阻害により急性炎症応答、タイプII免疫応答、IL-1およびIL-18産生、ERKカスケードの活性化が観察され、P38MAPKカスケードおよびステロイド異化プロセスは抑制された (Fig. 3d, e)。特に、PI3Kシグナル伝達経路の顕著な上方制御が認められ (p=0.035, Wilcoxon test) (Fig. 3f)、グルココルチコイド曝露下で抑制されていた主要な活性化経路が回復したことを示唆する。肺転移モデルにおいても、GR阻害はLLC-OVA細胞の肺転移を有意に減少させ (Fig. 3g)、腫瘍浸潤NK細胞のIFNγ、CD107a、DNAM1の発現を増加させた (Fig. 3h)。これらの結果は、GR阻害が腫瘍特異的にNK細胞の抗腫瘍機能を回復させることを明確に示している。

NR3C1 KO CEACAM5-CAR-NK細胞のコルチゾール耐性機序: CRISPRによるNR3C1遺伝子欠失により、コルチゾール富化環境下 (1 µMヒドロコルチゾン) でもPI3K-AKT-NFκBシグナル伝達が維持され、エフェクターサイトカイン産生能が保持された (Fig. 5g)。また、低酸素ストレスシグネチャーが有意に軽減された。コルチゾール曝露下での細胞傷害活性は、通常CAR-NK細胞と比較して有意に高く維持され (p=0.0130) (Fig. 5b)、IFNγおよびTNFα産生も持続した (Fig. 5c)。48時間のコルチゾール曝露後、通常CAR-NK細胞では疲弊マーカーPD-1が有意に増加したが、NR3C1-KO CAR-NK細胞では疲弊の兆候が見られず、細胞傷害活性を維持した (Fig. 5d, e)。転写プロファイリングでは、NR3C1-KO CAR-NK細胞において接着マーカー (ITGAX, ITGAM, SLAMF7, ITGAL, ICAM4) および活性化マーカー (CD244, CD226, LY9, IL2RB, CD69) の発現が上昇し、抑制マーカー (PDCD1, KLRD1, CTLA4, KLRC1) の発現が低下した (Fig. 5f)。さらに、NR3C1-KO CAR-NK細胞ではCX3CR1およびCXADRなどのケモカイン受容体や複数の走化性因子の発現が亢進しており、グルココルチコイド存在下でも他の免疫細胞をTMEにリクルートする能力が高いことが示唆された。

in vivo肺転移モデルでの優越性: コルチゾール耐性CAR-NK細胞はNSG SGM3マウスを用いた肺転移モデル (n=6 mice per group) において、通常CAR-NK細胞と比較して優れた腫瘍制御と有意に低い腫瘍負荷を達成した (p=0.001, two-way repeated-measures ANOVA) (Fig. 6b, c)。組織病理学的検査でも、NR3C1-KO CAR-NK細胞治療群で有意に低い転移負荷が確認された (p=0.0027) (Fig. 6d)。フローサイトメトリー解析では、NR3C1-KO CAR-NK細胞がグランザイムBおよびCD107aの有意に高い発現を維持し、グルココルチコイド曝露下での持続的な細胞傷害活性化を示した (Fig. 6e)。CAR-NK細胞およびNR3C1-KO CAR-NK細胞の肺における存在量は同程度であったが、NR3C1-KO CAR-NK細胞は機能的優位性を示した。治療群マウスの血清中プロ炎症性サイトカイン濃度は低く、サイトカインストームのリスクが低いことが示唆された (Fig. 6g)。これらの結果は、NR3C1-KO CAR-NK細胞がin vivoのステロイドが豊富な環境下でも強力な抗腫瘍効果を発揮することを示している。

考察/結論

本研究は、肺がんTMEにおけるコルチゾールをNK細胞機能抑制の新規軸として定量的に確立した。これまで報告されていない独自の発見として、NK細胞が機能抑制と低酸素ストレス増幅という二重の障害を受けることを明らかにした。先行研究と異なり、本研究はCAFおよびM2様TAMにおけるHSD11B1 (hydroxysteroid 11-beta dehydrogenase 1) を介したコルチゾンからコルチゾールへの「ステロイドリサイクリング」機構を詳細に解明した。この機構は、全身性ステロイド投与 (支持療法) とTME内免疫抑制が相乗的に増幅される可能性を示唆しており、ステロイドを含む支持療法の時機・量の最適化に臨床的含意を与える。

NR3C1 (glucocorticoid receptor) CRISPR欠失によるコルチゾール耐性付与は、既存のCAR-NK作製プロセスに組み込み可能な単純な改変でありながら、コルチゾール富化固形腫瘍環境での機能維持を実現するという実装上の優位性がある。本アプローチはCEACAM5 (Carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 5) 高発現の肺がん (NSCLC、SCLC) に特異的なターゲティングを提供するが、CEACAM5は結腸がん、胃がん、膵がんでも高発現するため、他腫瘍種への臨床応用が期待される。NR3C1-KO (NR3C1欠損) CAR-NK細胞は、in vivo肺転移モデルにおいて、全身性デキサメタゾン曝露下でも優れた腫瘍制御を達成し、ステロイドが豊富な微小環境における治療的レジリエンスを実証した。これらの細胞は、in vivoで少なくとも2週間持続し、全身に分布しながらも、全身性炎症や明らかな組織病理学的変化を伴わず、安全なプロファイルを示した。

残された課題として、in vivoでのNR3C1-KO CAR-NK細胞の長期安全性プロファイル、他のグルココルチコイド受容体サブタイプ (GR-β等) の関与、および治療的グルココルチコイド (irAE管理用) との同時使用下での有効性検証が必要である。また、CEACAM5が健康組織にも発現するため、抗原密度の系統的なプロファイリングとCAR-NK活性化動態との関係を解明することが、治療効果と潜在的なオフターゲット効果を予測する上で重要となる。今後の研究では、この戦略を初代NK細胞やiPSC由来NK細胞に拡張し、in vivoでの持続性、記憶能、およびホーミング能力を評価することが望まれる。

方法

ステロイドプロファイリング: 肺がん患者34例の腫瘍組織を対象に、LC-MS/MS (液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析) によるターゲット定量を実施し、コルチゾール、プレグネノロン、コルチゾン、コルチコステロン等の絶対濃度を測定した。さらに、20例の患者サンプルで広範なステロイドプロファイリングを実施し、複数のステロイドクラスの存在を評価した。scRNA-seq解析: 肺がん患者7例 (GSE127465) および103例 (複数データセット統合: GSE148071, KU_loom, GSE153935, GSE131907, GSE136246, GSE119911, GSE127465) の計224,611細胞のscRNA-seqデータを解析した。腫瘍浸潤NK細胞のGR (グルココルチコイド受容体) 発現、コルチゾール応答スコア、GR下流標的遺伝子、低酸素応答スコアを評価した。また、HSD11B1 (コルチゾンからコルチゾールへの変換酵素) およびCYP11A1 (コレステロールからプレグネノロンへのde novo合成酵素) の細胞種別発現を解析した。in vivo薬理学的GR阻害実験: LLC-OVA皮下腫瘍モデル (C57BL/6Jマウス) を用い、ミフェプリストン (60 mg/kg 隔日経口投与) 投与群と対照群の腫瘍浸潤NK細胞 (TIL-NK細胞) 機能および腫瘍増殖を比較した。コルチゾール耐性CAR-NK作製: CEACAM5特異的CARコンストラクトをCRISPR-Cas9システムでNR3C1遺伝子を欠失させた一次NK細胞に導入した。NR3C1遺伝子のエクソン2およびエクソン5を標的とするsgRNAを用いてCRISPR-Cas9による遺伝子欠失を実施し、シングルセルクローニングとサンガーシーケンスにより完全なNR3C1欠損を確認した。コルチゾール曝露下でのPI3K-AKT-NFκB活性、エフェクターサイトカイン産生、低酸素ストレスシグネチャー、および細胞傷害活性を評価した。in vivo有効性: NSG SGM3マウスを用いた肺転移モデルにおいて、NR3C1-KO (NR3C1欠損) CEACAM5-CAR-NK細胞、通常CAR-NK細胞、および対照群の腫瘍負荷、生存期間、およびCAR-NK細胞の生体内分布を比較した。デキサメタゾン (10 mg/kg) と組換えヒトIL-2 (10,000 U/マウス) を隔日投与し、ステロイドが豊富なTMEを模倣した。統計解析: 統計解析には、GraphPad Prism 10またはRを使用し、unpaired two-tailed Student’s t test、Wilcoxon rank-sum test、またはtwo-way ANOVAを適用した。差次的発現遺伝子の同定にはDESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014 を、機能的濃縮解析にはGSEA Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005 を用いた。