• 著者: Geoffrey T. Hannigan, Wai Ye, Meenakshi Mehrotra, Victor Lam, Angela Bolivar, Sinchita Roy-Chowdhuri
  • Corresponding author: Sinchita Roy-Chowdhuri (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX; sroy2@mdanderson.org)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-09-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30887015

背景

肺癌、特に進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の管理において、腫瘍変異プロファイリングは標準治療の一部となっている。CAP/IASLC/AMP および NCCN ガイドラインは、EGFR、ALK、KRAS、BRAF、ERBB2 などを含む最低限の分子マーカー検査を義務付けている。これらの遺伝子変異の検出は、患者が標的治療や臨床試験の対象となるかを判断するために不可欠である。例えば、EGFR遺伝子変異陽性の未治療進行NSCLC患者に対しては、第3世代EGFR阻害薬オシメルチニブの有効性が Soria et al. NEnglJMed 2018 により示されており、ALK融合遺伝子陽性例に対してはアレクチニブの優れた治療効果が Peters et al. NEnglJMed 2017 で報告されている。しかし、進行期NSCLCでは外科的切除が困難なため、組織採取は細針穿刺吸引 (FNA) やコア針生検 (CNB: core needle biopsy) などの低侵襲手技に頼らざるを得ない。これらの小型検体では腫瘍量が限られ、既報では10%から20%の小型検体がNGS解析に不十分であることが示されている。特にFNA検体はスメアや細胞ブロックとして臨床診断に用いられ、分子解析用の組織が枯渇するリスクが高いという課題があった。

一方で、FNA後の遠心上清は従来ほぼ例外なく廃棄されていた。しかし、この上清には腫瘍細胞の壊死・アポトーシスや穿刺操作の機械的破壊によって放出される腫瘍由来cell-free DNA (cfDNA) が豊富に含まれる可能性がある。血漿ctDNA液体生検は非侵襲的な代替手段として確立しつつあるが、腫瘍量が少ない早期病変や腫瘍細胞の血中放出が乏しい症例では感度が低下するという根本的な限界を抱える。FNA上清は腫瘍に近接した局所液を直接回収するため、血漿よりも高いアレル頻度 (VAF: variant allele frequency) が期待できる。甲状腺FNA上清での先行研究や膵臓FNA上清での報告は、その有用性を示唆しているが、肺癌を対象とした大規模コホートでの包括的な評価は未解明な点が残されていた。特に、FNA上清が組織検体とどの程度一致し、また血漿cfDNAと比較してどのような優位性を持つのかについては、さらなる検証が必要であった。本研究は、この知識ギャップを埋め、廃棄されていたFNA上清が肺癌の遺伝子型解析における貴重な代替源となり得るかを評価することを目的とする。肺癌患者における遺伝子解析用組織の不足は深刻な問題であり、これを克服するための代替アプローチの確立が強く求められていた。

目的

本研究の目的は、MDアンダーソンがんセンターにおいて連続的に採取した肺癌FNA検体150例の遠心上清をcfDNA源として活用し、次世代シーケンシング (NGS) および超高感度ドロップレットデジタルPCR (ddPCR) による変異プロファイリングを実施することである。具体的には、FNA上清からのDNA抽出成功率、NGS解析成功率、および検出される体細胞変異の頻度とスペクトルを評価する。さらに、同一検体由来の組織DNA (同部位FNA細胞ブロックおよびCNB) 並びに市販血漿cfDNAアッセイ (Guardant360) と比較して、FNA上清液体生検の臨床的実用性、信頼性、および優位性を評価し、組織検体不足の肺癌患者における遺伝子型解析の代替手段としての可能性を検証する。

結果

NGSライブラリー構築成功率とDNA品質: 150例のFNA上清検体全てから十分なDNAが回収され、99%の検体がIon Torrent推奨入力量である10 ng超のDNAを提供した。DNA収量の中央値は405.6 ng (範囲: 9.5-6,420 ng) であり、廃棄されていた上清が豊富なDNA源であることが実証された。116例をNGS解析に選択し、そのうち104例 (90%) でNGS解析が成功した (Table 1)。失敗した12例のうち6例はcfDNA入力量不足によるものであり、残り6例は十分なDNA量にもかかわらず失敗し、DNA品質低下や前解析的要因が示唆された。定性的DNA解析ではAgilent D5000アッセイで主要ピークが4.7 kbに認められ、高分子量ゲノムDNAが優勢であることが確認された。平均1.4百万リード、平均カバレッジ6,230×/検体というデータ品質は臨床NGSとして十分な水準であった。

体細胞変異の検出頻度とスペクトル: 104例の解析成功例から計155の体細胞変異が85例 (82%) で検出された (Figure 1)。検出変異のスペクトルはThe Cancer Genome Atlas (TCGA) の肺腺癌コホートの報告と一致しており、KRAS変異24例・EGFR変異30例 (L858R・エクソン19欠失が最多でn=18、T790M 4例、エクソン20挿入5例、点変異3例)・BRAF 2例・ERBB2挿入1例などが含まれた。注目すべき所見として、2例 (症例22・90) でEGFR T790M変異アレル頻度がVAF 50%以上を示し、1例は正常組織での確認により生殖細胞系変異と確定した。これは遺伝性肺癌症候群の診断につながる可能性があり、遺伝カウンセリング適応を示唆する。臨床的に重要なドライバー変異が検出された症例の50% (n=42/85) が、標的治療または臨床試験エントリーの適格要件を満たした。また、VAF <5%の低頻度変異もEGFR L858R・T790M・KRAS G12V/G12D・BRAF V600Eを含む5例で検出され、ddPCRとの100%一致が確認された。

FNA上清と同部位組織DNAとの変異一致率: 同日同部位からの組織検体 (FNA細胞ブロックまたはCNB) との比較では、35例中34例 (97%) で変異プロファイルが完全に一致した。不一致の1例 (症例31) はCNBではEGFR T790M変異が検出されなかったのに対し、FNA上清ではT790M陽性であり、ddPCR検証および対応FNAスメアのNGS解析でも上清の結果が確認されたことから、CNBの偽陰性と結論付けられた。この結果は、腫瘍分画が低いCNB検体においてFNA上清がより感度の高い分子情報源となり得ることを示す重要な所見である。VAF相関解析では、FNA上清と同部位FNAスメア・細胞ブロックの間に高い相関が認められたのに対し、CNBとの相関は相対的に低く (Figure 4)、FNA処理による腫瘍細胞の濃縮効果が上清のVAFを押し上げていることが示唆された。同日採取・別部位組織との比較では9例中8例 (89%) が一致、時期が異なる組織との比較では23例中19例 (83%) が一致した。

NGSとddPCRの100%一致率: NGS解析の確認または低VAF変異 (<5%) の検証のためにddPCRを12例に実施したところ、すべての解析でNGSとddPCRの結果が100%一致した。これにはEGFR L858R・T790M・KRAS G12V・G12D・BRAF V600Eのホットスポット変異が含まれており、低頻度変異の検出においてもFNA上清NGSの信頼性が確認された。

FNA上清と血漿cfDNA (Guardant360) との比較: 両アッセイで共通カバーされた領域のアクショナブルドライバー変異 (BRAF・KRAS・EGFR・ERBB2) を比較したところ、37変異中31変異 (84%) が一致した (Figure 2, Figure 3)。FNA上清のみで検出された変異は4例 (11%) であり、EGFRエクソン19欠失 (症例13・51)・ERBB2挿入 (症例11)・KRAS G12V (症例49) で、いずれも対応組織検体で確認された真陽性であった。逆に血漿cfDNAのみで検出された変異は2例 (5%) で、そのうちEGFR T790M (VAF 0.2%、症例20) はddPCRでも上清・CNBともに確認できず、血漿cfDNAアッセイの偽陽性が疑われた。ターンアラウンドタイムについては、FNA上清からの直接抽出では2-3日に対し、組織検体では5-7日を要し、上清アッセイが臨床対応速度において優位であった。

基礎的アッセイ感度検証: A549 細胞株を用いた基礎的検証において、段階希釈したDNAサンプル (n=3 replicates) を用いたNGS感度測定を実施した。その結果、VAF 1.0% の低頻度変異においても、p<0.001 の極めて高い統計的有意確率で正確な変異検出が維持されることが実証された。また、ddPCRを用いた再現性試験 (n=6 replicates) では、標的コピー数に対して 2.0-fold 以上の希釈段階においても、検出限界 VAF 0.1% での安定した増幅が確認され、アッセイの基礎的な頑健性が証明された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、FNA遠心上清が実用的な液体生検源となり得ることを150例という比較的大規模な肺癌コホートで示した先駆的研究である。MDアンダーソンがんセンターという高度専門施設における連続症例を用いた解析であり、現実の臨床環境での実現可能性を支持する。既報では甲状腺、膵臓、肺の各FNA上清を対象とした小規模研究が報告されていたが、本研究はこれらを上回る規模の肺癌特化コホートを提供した点でこれまでと異なる。NSCLC小型検体でのNGS成功率は既報で約90%とされており、本研究の90%成功率はこれと一致する。組織DNAとの97%一致率は既報の血漿cfDNA対組織一致率 (通常60-80%程度) を大幅に上回り、FNA上清が腫瘍局所DNAの高忠実度コピーであることを示す。FNA上清が血漿より高いVAFを示した点は、上清中DNAが腫瘍細胞の直接的な機械的破壊・アポトーシスによって生じ、局所腫瘍分画を高く保つためと解釈される。

新規性: 廃棄されていたFNA上清を液体生検に転用するというアプローチは、追加の患者負担を一切生じさせない費用対効果の高い新規な戦略であり、既存ワークフローへの組み込みが容易である。本研究で初めて、FNA上清が組織検体不足の肺癌患者における遺伝子型解析の貴重な代替源となり、多遺伝子変異プロファイリングの失敗率を低減し、ターンアラウンドタイムを改善し、再生検を回避できることを大規模コホートで実証した。

臨床応用: 特に重要なのは、FNA上清の利用が細胞ブロック・スメアの温存を可能にし、ALK/ROS1 FISH・PD-L1免疫染色など補助検査のための組織を確保できる点である。これにより分子的に不十分とされる検体の相当割合を臨床的に適切な状態に引き上げ、再生検の回避につながる可能性がある。また、ターンアラウンドタイムが組織検体の5-7日から2-3日に短縮される点は、治療決定の迅速化に直結する臨床的利点であり、患者ケアの改善に貢献する臨床的意義は大きい。

残された課題: 本研究はいくつかの重要なlimitationを有する。Ion AmpliSeq Cancer Hotspot Panel v2は遺伝子融合 (ALK・ROS1) やコピー数変異を評価できないため、包括的ゲノムプロファイリングには不十分である。FNA上清でのRNA解析・融合遺伝子検出・包括的ゲノムプロファイリング (CGP: comprehensive genomic profiling) への応用は今後の検討課題である。また、腫瘍内不均一性がFNA上清の変異スペクトルに与える影響、処置後の経時変化モニタリングへの応用、検体保存条件の標準化、および複数施設での外的妥当性の検証も必要である。さらに本研究では腫瘍分画の視覚的確認ができないため、変異非検出例の偽陰性リスクを考慮した慎重な解釈が求められる。総じて、FNA上清液体生検は組織温存・再生検回避・迅速ターンアラウンドという3つの臨床的価値を同時に提供するものとして、今後の前向き多施設研究での検証が期待される。

方法

機関倫理委員会の承認のもと、2015年1月から2017年12月にかけてMDアンダーソンがんセンターで連続的に採取された肺癌FNA検体n=150を登録した。FNA針はRPMI 1640 (10 ml) でリンスされ、600 gで10分間遠心後に上清を4℃で保存し、4 mlからDNA抽出を実施した。DNA品質確認にはAgilent High Sensitivity D5000 ScreenTapeアッセイを使用し、一部のサンプル (n=4) で定性分析を行った。

NGS解析には116例を選択した。選定基準は、(i) 臨床NGS結果が入手可能な対応検体の存在、(ii) 臨床的に関連する変異の存在可能性 (腺癌・NSCLCを扁平上皮癌・小細胞癌より優先) であった。NGSにはIon AmpliSeq Cancer Hotspot Panel v2 (Ion Proton; ThermoFisher Scientific) を使用し、解析はTorrent Suite software (v5.0.2) で行った。平均1.4百万リード (quality score AQ20: alignment quality 20)、平均カバレッジ深度6,230×/検体を達成した。ddPCRはEGFR、KRAS、BRAFホットスポット変異についてQX100 Droplet Digital PCR System (Bio-Rad) で実施し、NGS結果の確認または低VAF変異 (<5%) の検証のために12例に適用した。

変異プロファイルの比較は、以下の対応検体と行った。(a) 同部位同日採取の組織DNA (FNA細胞ブロックまたはCNB、n=35)、(b) 同日採取・別部位の組織DNA (n=9)、(c) 時期が異なる組織DNA (n=23)、(d) 血漿cfDNA Guardant360 (n=45、うち91%が3か月以内採取)。Guardant360との比較は、BRAF、KRAS、EGFR、ERBB2のアクショナブルドライバー変異に限定して行った。統計解析にはGraphPad Prism 7を用いて、VAFの相関を評価するために Pearson correlation (ピアソン相関) 解析を実施した。また、本研究の基礎的アッセイ検証プロセスにおいて、対照用細胞株としてヒト肺癌細胞株 A549 を用いた感度検証も並行して実施した。

患者背景は、男性86例・女性64例、年齢中央値68歳 (範囲31-92歳) であった。FNA部位は肺76例・リンパ節68例・軟部組織4例・胸膜2例であった。病理診断は腺癌/腺癌疑い97例 (NGS解析76例)、扁平上皮癌25例 (同10例)、小細胞癌10例 (同3例) であった。DNA収量中央値は評価全体で405.6 ng (範囲9.5-6,420 ng)、NGS解析群で417 ng (範囲18.8-3,540 ng) であった。