• 著者: Peters S, Camidge DR, Shaw AT, Gadgeel S, Ahn JS, Kim DW, Ou SI, Pérol M, Dziadziuszko R, Rosell R, Zeaiter A, Mitry E, Golding S, Balas B, Noe J, Morcos PN, Mok T
  • Corresponding author: Peters S (Lausanne University Hospital, Lausanne, Switzerland); Mok T (Chinese University of Hong Kong, Hong Kong)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-06-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28586279

背景

ALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、NSCLC全体の約5%を占める特定の分子サブタイプであり、若年層や非喫煙者に多く見られる。この疾患に対する標準的な一次治療は、当初クリゾチニブであった。クリゾチニブは、PROFILE 1014試験 (Solomon et al. NEnglJMed 2014)において、プラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) においてハザード比 (HR) 0.45 (95% CI 0.35-0.60)、中央値PFS (mPFS) 10.9ヶ月という顕著な優越性を示し、一次治療としての地位を確立した。しかし、ALK陽性NSCLC患者は生涯にわたる中枢神経系 (CNS) 転移のリスクが高く (60〜80%)、診断時に脳転移を伴う頻度も高いことが報告されている (Toyokawa et al. CancerMetastasisRev 2015)。クリゾチニブはP糖タンパク質の基質であるため血液脳関門 (BBB) を透過しにくく、CNSが最初の疾患進行部位となることが多く、クリゾチニブのCNS制御における限界が主要な臨床的課題として残されていた。

アレクチニブ (CH5424802; 中外製薬/F. Hoffmann-La Roche) は、高選択的な第2世代ALK阻害剤として開発された。酵素アッセイでは1.9 nmol/Lという低いIC50値を示し、クリゾチニブよりも高い親和性を持つ。また、P糖タンパク質の基質ではないためBBBを容易に通過し、前臨床モデルでは脳内での高い薬物濃度と活性が確認されている (Kodama et al. CancerChemotherPharmacol 2014)。さらに、クリゾチニブ耐性変異 (L1196M、F1174L、C1156Y、G1269Aなど) に対しても活性を持つことが示されており、クリゾチニブ耐性NSCLC患者を対象とした第II相試験 (Gadgeel et al. LancetOncol 2014, Ou et al. JClinOncol 2016, Shaw et al. LancetOncol 2016)では高い奏効率 (ORR) が報告されていた。日本国内で実施された第III相J-ALEX試験 (日本人患者のみを対象) では、クリゾチニブに対するPFS優越性 (HR 0.34) が2017年初頭に既に報告されていた。

ALEX試験は、欧米およびアジアを含む国際多施設共同第III相試験として、アレクチニブとクリゾチニブの未治療ALK陽性NSCLCにおける初の大規模グローバル比較試験として設計された。クリゾチニブのCNS制御の限界という課題に対し、アレクチニブがCNS活性を持つことで、この不足を補い、より優れた治療選択肢となる可能性が未解明であった。本試験は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本試験の目的は、未治療のALK陽性進行NSCLC患者において、アレクチニブ600 mgを1日2回 (BID) 投与する群と、クリゾチニブ250 mgを1日2回 (BID) 投与する群の一次治療としての有効性および安全性を比較することである。主要評価項目は研究者評価によるPFSであり、副次評価項目として独立評価委員会 (IRC) 評価によるPFS、CNS進行までの期間、客観的奏効率 (ORR)、全生存期間 (OS)、および安全性を評価する。特に、クリゾチニブのCNS制御の限界という課題に対し、アレクチニブがCNS病変に対する効果において優位性を示すか否かを検証することが重要な目的であった。また、全患者を対象とした系統的な脳MRI評価を含む腫瘍評価を実施することで、CNS病変の正確な評価を行うことも目的の一つである。本研究は、ALK陽性NSCLC患者の一次治療における最適な治療戦略を確立するための重要なエビデンスを提供することを目指した。

結果

PFS (研究者評価、主要評価項目): 主要評価項目である研究者評価によるPFSにおいて、アレクチニブ群はクリゾチニブ群と比較して有意に長いPFSを示した。疾患進行または死亡イベントは、アレクチニブ群の152例中62例 (41%)、クリゾチニブ群の151例中102例 (68%) で発生した。アレクチニブ群のmPFSは未到達 (95% CI 17.7ヶ月〜評価不能) であったのに対し、クリゾチニブ群のmPFSは11.1ヶ月 (95% CI 9.1〜13.1) であった。ハザード比 (HR) は0.47 (95% CI 0.34-0.65; P<0.001) であり、アレクチニブが疾患進行または死亡のリスクを53%低減することを示した (Figure 2A)。12ヶ月時点でのPFS率は、アレクチニブ群で68.4% (95% CI 61.0-75.9)、クリゾチニブ群で48.7% (95% CI 40.4-56.9) であった。この結果は、アレクチニブがクリゾチニブに対し、未治療ALK陽性NSCLC患者の疾患進行を大幅に抑制することを示唆している。

PFS (IRC評価、副次評価項目): 独立評価委員会 (IRC) 評価によるPFSも、研究者評価の結果と一致した。アレクチニブ群のmPFSは25.7ヶ月 (95% CI 19.9ヶ月〜評価不能) であったのに対し、クリゾチニブ群のmPFSは10.4ヶ月 (95% CI 7.7-14.6) であった。HRは0.50 (95% CI 0.36-0.70; P<0.001) であり、IRC評価においてもアレクチニブの優越性が確認された。アレクチニブ群のmPFSはクリゾチニブ群の2.5倍以上であり、この結果はアレクチニブの持続的な抗腫瘍効果を裏付けている。

CNS進行までの期間 (IRC評価、副次評価項目): 全ITT集団 (ベースラインでのCNS転移の有無にかかわらず) における競合リスク分析の結果、CNS進行までの期間はアレクチニブ群で有意に長かった。CNS進行イベントは、アレクチニブ群で18例 (12%)、クリゾチニブ群で68例 (45%) で発生した。原因特異的ハザード比は0.16 (95% CI 0.10-0.28; P<0.001) であり、アレクチニブがCNS進行リスクを84%低減することを示した (Figure 2C)。12ヶ月時点でのCNS進行累積発生率は、アレクチニブ群で9.4% (95% CI 5.4-14.7)、クリゾチニブ群で41.4% (95% CI 33.2-49.4) であった。この劇的な差は、アレクチニブの優れたBBB透過性とCNS活性を明確に示している。

CNS奏効 (Table 2): ベースラインで測定可能CNS病変を有する患者におけるCNS客観的奏効率 (ORR) は、アレクチニブ群で81% (17/21例; 95% CI 58-95%)、クリゾチニブ群で50% (11/22例; 95% CI 28-72%) であった。CNS完全奏効 (CR) の割合は、アレクチニブ群で38% (8/21例)、クリゾチニブ群で5% (1/22例) と、アレクチニブ群で顕著に高かった。CNS奏効期間中央値 (mDOR) は、アレクチニブ群で17.3ヶ月 (95% CI 14.8ヶ月〜評価不能)、クリゾチニブ群で5.5ヶ月 (95% CI 2.1-17.3) であった。ベースラインで測定可能または測定不能CNS病変を有する患者全体では、CNS ORRはアレクチニブ群で59% (38/64例; 95% CI 46-71%)、クリゾチニブ群で26% (15/58例; 95% CI 15-39%) であった。CNS CRの割合は、アレクチニブ群で45% (29/64例)、クリゾチニブ群で9% (5/58例) であった。これらのデータは、アレクチニブがCNS病変に対して強力かつ持続的な効果を発揮することを示している。

全身ORRと奏効期間 (Table 2): 全身のORR (ITT集団) は、アレクチニブ群で82.9% (95% CI 76.0-88.5)、クリゾチニブ群で75.5% (95% CI 67.8-82.1) であった (P=0.09)。統計学的な有意差は認められなかったものの、アレクチニブ群で数値的に高い傾向が示された。CRの割合はアレクチニブ群で4% (n=6)、クリゾチニブ群で1% (n=2) であり、部分奏効 (PR) の割合はそれぞれ79%および74%であった。病勢安定 (SD) の割合はアレクチニブ群で6%、クリゾチニブ群で16%であった。奏効期間中央値 (mDOR) は、アレクチニブ群で評価不能 (95% CI 評価不能)、クリゾチニブ群で11.1ヶ月 (95% CI 7.9-13.0) であった。HRは0.36 (95% CI 0.24-0.53) であり、アレクチニブ群で奏効期間が有意に延長された。12ヶ月時点での奏効継続率は、アレクチニブ群で72.5% (95% CI 64.6-80.4)、クリゾチニブ群で44.1% (95% CI 34.5-53.6) であった。

OS (副次評価項目): データカットオフ時点で、ITT集団における死亡イベントは75例 (アレクチニブ群35例 [23%]、クリゾチニブ群40例 [26%]) であった。12ヶ月時点でのOS率は、アレクチニブ群で84.3% (95% CI 78.4-90.2)、クリゾチニブ群で82.5% (95% CI 76.1-88.9) であった。両群ともにmOSは評価不能であった (Figure 2D)。OSのHRは0.76 (95% CI 0.48-1.20; P=0.24) であり、この時点では統計学的な有意差は認められなかった。OSデータは未成熟であり、長期フォローアップによる成熟した解析が必要であるとされた。

安全性 (Table 3): 治療期間中央値は、アレクチニブ群で17.9ヶ月 (範囲0〜29ヶ月)、クリゾチニブ群で10.7ヶ月 (範囲0〜27ヶ月) であった。平均投与強度 (mean±SD) は、アレクチニブ群で95.6±10.3%、クリゾチニブ群で92.4±14.1%であった。任意のグレードの有害事象は両群ともに97%の患者で発生した。しかし、グレード3〜5の有害事象の発生率は、アレクチニブ群で41% (n=63) と、クリゾチニブ群の50% (n=76) よりも低かった。重篤な有害事象の発生率は、アレクチニブ群で28%、クリゾチニブ群で29%であった。致死的な有害事象はアレクチニブ群で3%、クリゾチニブ群で5%であった (クリゾチニブ群の2例は治験薬との関連が報告された)。有害事象による治療中止はアレクチニブ群で11%、クリゾチニブ群で13%であった。用量減量はアレクチニブ群で16%、クリゾチニブ群で21%であり、用量中断はそれぞれ19%および25%であった。アレクチニブ群で5%以上の差で多く認められた有害事象は、貧血 (20% vs 5%)、筋肉痛 (16% vs 2%)、血中ビリルビン増加 (15% vs 1%)、体重増加 (10% vs 0%)、筋骨格痛 (7% vs 2%)、光線過敏症反応 (5% vs 0%) であった。一方、クリゾチニブ群で多く認められた有害事象は、悪心 (48% vs 14%)、下痢 (45% vs 12%)、嘔吐 (38% vs 7%)、ALT増加 (30% vs 15%)、AST増加 (25% vs 14%)、末梢性浮腫 (28% vs 17%)、視覚障害 (12% vs 1%) であった。グレード3〜5のALT増加はクリゾチニブ群で15%、アレクチニブ群で5%であった。

考察/結論

試験の意義と先行研究との違い: ALEX試験は、未治療ALK陽性NSCLCの一次治療において、アレクチニブがクリゾチニブに対して大幅に優れたPFS (研究者評価HR 0.47 (95% CI 0.34-0.65, P<0.001)、IRC評価HR 0.50 (95% CI 0.36-0.70, P<0.001))、CNS制御 (HR 0.16 (95% CI 0.10-0.28, P<0.001)、CNS進行リスク84%低減)、および良好な安全性プロファイルを示した最初の大規模グローバル第3相試験である。この結果は、先行するJ-ALEX試験 (日本人集団、HR 0.34) の結果と合わせて、アジア人および非アジア人双方の集団においてアレクチニブの有効性を確立するものである。本研究は、クリゾチニブのCNS制御の限界という課題に対し、アレクチニブがCNS活性を持つことで、この不足を補い、より優れた治療選択肢となる可能性を明確に示した点で、これまでの治療パラダイムと異なる画期的な知見をもたらした。

新規性: 本試験で最もインパクトの大きい結果は、CNS進行リスクのHR 0.16 (84%低減) という数値であった。12ヶ月時点でのCNS進行累積発生率がアレクチニブ群で9.4%に対し、クリゾチニブ群で41.4%という大きな差は、クリゾチニブのBBB透過性の限界をアレクチニブが効果的に補完できることを明確に示した。特に、ベースラインで測定可能CNS病変を有する患者におけるCNS完全奏効率がアレクチニブ群で38% vs クリゾチニブ群で5%という圧倒的な差は、アレクチニブの頭蓋内制御能力の優位性を強調している。これは、ALK陽性NSCLC患者において、CNS転移に対する治療効果を系統的に評価した大規模グローバル試験としては本研究で初めて明確に示された結果であり、その新規性は非常に高い。

臨床応用: ALEX試験の結果を受けて、2017年11月に米国食品医薬品局 (FDA) がアレクチニブをALK陽性NSCLCの一次治療として承認し、クリゾチニブに代わって世界的な一次治療標準となった。NCCN、ESMO、ASCOなどの主要なガイドラインでも、アレクチニブは上位推奨として位置づけられている。本知見は、ALK陽性NSCLC患者の治療戦略に大きな変革をもたらし、臨床現場での患者アウトカム改善に直結するものである。CNS転移の予防と治療におけるアレクチニブの優位性は、患者のQOL向上と長期生存に大きく貢献すると考えられる。

残された課題: 本解析時点ではOSデータは未成熟であり、長期フォローアップによる成熟したOSデータが必要であった (後続のアップデート解析でHR 0.76から改善の可能性が示唆された)。また、アレクチニブ耐性機序として、ALK G1202R「ソルベント・フロント変異」やALK遺伝子増幅、EGFR/KRASなどのバイパス変異が確認されており (Gainor et al. CancerDiscov 2016)、これら耐性機序への対応が今後の検討課題として残されている。この問題は、第3世代ALK阻害剤であるロルラチニブ (CROWN試験、未治療一次治療でアレクチニブと比較) に委ねられ、CROWN試験ではアレクチニブを対照としてロルラチニブがさらに優れたPFS (HR 0.28) とCNS制御 (12ヶ月CNS無増悪率96% vs 60%) を示した。アレクチニブとロルラチニブの最適なシークエンシング戦略は、現在進行中の研究課題である。本研究のlimitationとして、非盲検試験であること、およびOSデータの未成熟性が挙げられる。

方法

試験デザイン: 本試験はALEX (BO28984、ClinicalTrials.gov識別番号: NCT02075840) と名付けられた国際多施設共同無作為化非盲検第3相試験であり、世界98施設で実施された。試験デザインは、アレクチニブ群とクリゾチニブ群を1:1で比較する並行群間比較試験であった。

対象患者: 組織学的または細胞学的に進行NSCLCと診断され、中央検査でVENTANA ALK (D5F3) 免疫組織化学 (IHC) アッセイによりALK陽性が確認された患者が対象とされた。年齢は18歳以上、ECOGパフォーマンスステータスは0〜2、測定可能病変 (RECIST v1.1に準拠)、および十分な肝機能、腎機能、骨髄機能を有することが条件であった。無症候性の脳転移または軟膜転移を有する患者も登録可能であったが、CNS放射線治療が完了している場合は登録の14日以上前に終了している必要があった。過去に全身治療を受けている患者は除外された。

無作為化: 患者はアレクチニブ群とクリゾチニブ群に1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、ECOGパフォーマンスステータス (0または1 vs 2)、人種 (アジア人 vs 非アジア人)、およびベースラインでのCNS転移の有無によって層別化された。この層別化により、両群間の患者背景のバランスが保たれるように設計された。

患者背景 (Table 1): 合計303名の患者が登録され、アレクチニブ群に152例、クリゾチニブ群に151例が割り付けられた。両群間でベースライン特性は良好にバランスが取れていた。年齢中央値はアレクチニブ群で58歳、クリゾチニブ群で54歳であった。女性患者の割合はそれぞれ55%および58%、アジア人患者の割合はそれぞれ45%および46%であった。腺癌の割合はアレクチニブ群で90%、クリゾチニブ群で94%であった。ベースラインでCNS転移を有する患者の割合は、アレクチニブ群で42% (n=64)、クリゾチニブ群で38% (n=58) であった。非喫煙者の割合はそれぞれ61%および65%であった。追跡期間中央値はアレクチニブ群で18.6ヶ月、クリゾチニブ群で17.6ヶ月であった。

治療: アレクチニブ群の患者にはアレクチニブ600 mgを1日2回、食事とともに経口投与された。クリゾチニブ群の患者にはクリゾチニブ250 mgを1日2回、経口投与された。治療は疾患進行、許容できない毒性、同意撤回、または死亡まで継続された。孤立した無症候性のCNS進行が認められた場合、治験責任医師の判断により局所治療後に治験薬の投与を継続することが可能であった。クロスオーバーは許可されなかった。

評価項目: 主要評価項目は、研究者評価によるRECIST v1.1に基づくPFSであった。副次評価項目には、IRC評価によるPFS (階層的検定の最初の副次評価項目)、IRC評価によるCNS進行までの期間 (競合リスクモデルを使用)、ORR、OSが含まれた。すべての患者において、8週ごとに脳MRIを含む系統的な腫瘍評価が実施された。CNS奏効期間、全身奏効期間、安全性プロファイルも評価された。

統計設計: 主要評価項目であるPFSの検出力80%を達成するためには、170件の疾患進行または死亡イベントが必要とされた (クリゾチニブ群のmPFSを10.9ヶ月、アレクチニブ群で16.8ヶ月への改善、HR 0.65を想定)。主要評価項目で統計学的有意差が認められた後、副次評価項目は階層的検定戦略を用いて順次評価された。PFSの比較は層別化ログランク検定を用いて行われた。データカットオフは2017年2月9日であった。CNS進行までの期間の解析では、非CNS進行および死亡という競合リスクを考慮した原因特異的ハザード関数に基づく層別化ログランク検定が用いられた。Kaplan-Meier法によりPFSおよびOSが推定され、Cox比例ハザード回帰モデルによりハザード比が算出された。