- 著者: Mina Gaga, Georgios Stratakos, Eleni Routsi, Ivan Calkovska, et al.
- Corresponding author: Mina Gaga (Athens Chest Hospital, Athens, Greece)
- 雑誌: European Respiratory Journal
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-08-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 33122336
背景
肺がんは世界的に主要な癌死因であり、早期発見が患者の予後改善に不可欠である。低線量胸部CT (LDCT) スクリーニングは肺がん死亡率を20〜24%低減することが示されているが、偽陽性率が高い (National Lung Screening Trial (NLST) 試験では偽陽性率96%) という課題がある Aberle et al. N Engl J Med 2011。この高い偽陽性率は、不必要な侵襲的検査や患者の不安を引き起こす原因となる。血液ベースのバイオマーカーがLDCTの補完検査として機能すれば、陽性予測値 (PPV) を高め、不必要な精査を減らす可能性を秘めている Cohen et al. Science 2018。DNAメチル化は、肺がんにおいて早期から変化するエピゲノム修飾の一つであり、特定のCpGサイトのメチル化パターンが肺がん検出のバイオマーカーとして有望視されている Kristensen et al. Clin Chem 2009。Lung EpiCheckは、6つの肺がん特異的メチル化マーカーからなるcfDNA血液検査として開発されたが、欧州およびアジア (中国) の多民族高リスク集団での外部バリデーションはこれまで報告されておらず、その臨床的有用性については未解明な点が残されていた。既存の血液検査では、ステージI肺がんの感度が約40% (22〜71%) と報告されており (Doseeva et al. 2015, Cohen et al. 2018)、より高感度な早期検出マーカーの開発が不足していた。
目的
肺がん高リスク個人 (喫煙歴、COPDなど) を対象とした欧州および中国の多施設コホートにおいて、Lung EpiCheckの肺がん検出性能をバリデーションすること。また、既存のリスク因子やLDCTとの組み合わせによる診断性能の向上を評価することを目的とする。
結果
欧州バリデーションコホートにおける診断性能: 欧州バリデーションコホートにおけるLung EpiCheckのROC-AUCは0.882 (95% CI 0.846〜0.918) であった (Figure 1b)。LCO (EpiScore ≧ 60) を適用した場合、全肺がん合算の感度は87.2% (95% CI 81.3〜91.7%)、特異度は64.2% (95% CI 55.6〜72.2%) であった。HCO (EpiScore ≧ 70) では、感度74.3% (95% CI 67.2〜80.5%)、特異度90.5% (95% CI 84.3〜94.9%) を示した (Table 3)。ステージI NSCLCの感度はLCOで78.4% (95% CI 61.8〜90.2%)、HCOで62.2% (95% CI 44.8〜77.5%) であった。このコホートでは、n=179の症例とn=137の対照が解析された。
中国バリデーションコホートにおける診断性能: 中国バリデーションコホートにおけるROC-AUCは0.899 (95% CI 0.809〜0.989) であり、欧州コホートと同等の高い識別能が確認された (Figure 1c)。LCOでは感度76.7% (95% CI 59.1〜88.2%)、特異度93.3% (95% CI 68.0〜99.9%) を示し、HCOでは感度56.7% (95% CI 39.2〜72.6%)、特異度100.0% (95% CI 78.1〜100.0%) であった (Table 3)。ステージI NSCLCの感度はLCOで70.0% (95% CI 34.8〜93.3%)、HCOで30.0% (95% CI 6.7〜65.2%) であった。このコホートでは、n=30の症例とn=15の対照が解析された。
ステージ別および組織型別の感度: 欧州コホートにおいて、ステージI NSCLCのLCO感度は78.4%であり、早期肺がんの検出感度が比較的高いことが示された。ステージIIでは85.7%、ステージIIIでは89.8%、ステージIVでは89.2%と、病期が進むにつれて感度が向上する傾向が見られた (Table 3)。小細胞肺がん (SCLC) では、LCOおよびHCOともに感度100.0% (95% CI 78.2〜100.0%) という非常に高い検出率が得られた (Table 3)。これは、SCLCに特徴的なメチル化異常がLung EpiCheckマーカーに強く反映されることを示唆する。NSCLCの組織型別では、腺がんと扁平上皮がんの間で感度に有意な差は認められなかった (p>0.05)。
既存のリスク因子との組み合わせによる予測精度の向上: 多変量解析により、年齢、喫煙状況 (喫煙年数、禁煙年数)、性別、COPDなどの既存の肺がんリスク因子にLung EpiCheckのEpiScoreを加えることで、肺がん予測のAUCが有意に向上することが示された。リスク因子単独でのAUCは0.852 (95% CI 0.805〜0.900) であったが、Lung EpiCheckを追加することでAUCは0.942 (95% CI 0.913〜0.971) に達し、p<0.0001の有意な改善が認められた (Figure 3)。この解析は、喫煙情報が完全に利用可能なn=242名の患者サブセットで実施された。Lung EpiCheckの陽性結果は、既存のリスク因子とは独立して肺がんの存在を示すことが示され、LCOでオッズ比 (OR) 18.2 (95% CI 7.2-45.7, p<0.0001)、HCOでOR 23.7 (95% CI 10.1-55.5, p<0.0001) であった (Figure 2)。
腫瘍サイズと感度の相関: NSCLCにおいて、Lung EpiCheckの感度は腫瘍サイズと有意に相関することが示された (LCOでp<0.001、HCOでp<0.0001)。特に、ステージI NSCLCで腫瘍径が20mm以下の症例においても、LCOで欧州コホートで68.8% (n=11/16)、中国コホートで60.0% (n=3/5) の感度を示し、微小な早期がんの検出能力が示唆された (Table 3)。この結果は、腫瘍サイズが小さい場合でも検出が可能であることを示唆する。
考察/結論
本研究は、Lung EpiCheckの欧州および中国の多施設バリデーションにより、肺がん高リスク者スクリーニングにおけるメチル化血液検査の臨床的有用性を実証した。AUC 0.882〜0.899、ステージI NSCLC感度78.4% (LCO)、SCLC感度100.0% (LCO)、および既存のリスク因子との組み合わせによるAUC 0.942という結果は、Lung EpiCheckがLDCTスクリーニングの補完検査として有望であることを強く示唆する。
先行研究との違い: これまでの血液ベースの肺がんバイオマーカー研究 (例: Chabon et al. Nature 2020) は、主に単一民族コホートやトレーニングセットでの性能評価に留まることが多かった。本研究は、欧州と中国という異なる民族・地域にわたる多施設コホートでLung EpiCheckの性能を検証し、両コホートで同等の高い診断性能を維持した点で、これまでの報告とは対照的である。この民族・地域を超えた性能の維持は、本マーカーパネルの汎用性を示す重要な知見である。
新規性: 本研究で初めて、6つのメチル化マーカーからなるLung EpiCheckが、既存の臨床リスク因子と組み合わせることで、肺がんの予測精度を大幅に向上させることを新規に実証した。特に、LDCTスクリーニングの対象となる高リスク集団において、この血液検査がLDCTの陽性予測値を高め、不必要な侵襲的精査を減少させる可能性を示したことは、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、肺がんスクリーニングの効率とアクセスを改善する上で、極めて高い臨床的意義を持つ。簡便で安価な血液検査であるLung EpiCheckは、LDCTスクリーニングへの患者のコンプライアンスを向上させ、スクリーニングの対象となる高リスク集団を拡大する可能性を秘めている。陽性結果が出た患者をLDCTに誘導することで、診断までの時間を短縮し、早期治療介入に繋がる可能性が考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究が症例対照研究であるため、選択バイアスが存在する可能性がある。対照群はLDCTスクリーニングを受けておらず、追跡調査も行われていないため、無症状の肺がん症例が含まれている可能性が否定できない。したがって、無症状の高リスク者を対象とした前向き大規模スクリーニング試験において、LDCTとLung EpiCheckの組み合わせの臨床的有効性 (不要な侵襲的検査の減少、早期がん発見率の向上) を証明することが残された課題である。また、Lung EpiCheckスコアが検出するのは特定の6マーカーの変化であり、腫瘍内不均一性や一部の稀なサブタイプでは感度が低い可能性も今後の研究で評価する必要がある。
方法
本研究は、欧州 (ギリシャ、チェコ、イタリア、スペイン、英国など) および中国の肺がん高リスク者を対象とした多施設国際共同症例対照研究 (NCT02373917) として実施された。肺がん患者および高リスク良性群から血液を採取し、Lung EpiCheckアッセイ (6メチル化マーカー統合スコア) を測定した。まず、欧州のトレーニングコホート (症例n=102、対照n=265) を用いて、パネルマーカーとアルゴリズムを定義した。その後、欧州バリデーションコホート (症例n=179、対照n=137) と中国バリデーションコホート (症例n=30、対照n=15) でアッセイの性能を検証した。Lung EpiCheckのカットオフ値は、高感度を優先する低カットオフ (LCO: EpiScore ≧ 60) と、高特異度を優先する高カットオフ (HCO: EpiScore ≧ 70) の2種類を設定した。主要評価指標は、ROC曲線下面積 (AUC) と、各カットオフにおける感度および特異度であった。統計解析には、連続変数にはWilcoxonの順位和検定、カテゴリ変数にはカイ二乗検定を用いた。また、年齢、喫煙状況、COPDなどの既存のリスク因子とLung EpiCheckを組み合わせた多変量解析を行い、予測精度の向上を評価した。病期別 (ステージI〜IV) および組織型別 (非小細胞肺がん (NSCLC): 腺がん、扁平上皮がん、小細胞肺がん (SCLC)) の感度解析も実施した。腺がんの分類は、Travis et al. JThoracOncol 2011 の国際多分野分類に従った。