• 著者: Heeke S, Gay CM, Estecio MR, Tran H, Morris BB, Zhang B, Tang X, Raso MG, Rocha P, Lai S, Arriola E, Hofman P, Hofman V, Kopparapu P, Lovly CM, Concannon K, De Sousa LG, Lewis WE, Kondo K, Hu X, Tanimoto A, Vokes NI, Nilsson MB, Stewart A, Jansen M, Horvath I, Gaga M, Panagoulias V, Raviv Y, Frumkin D, Wasserstrom A, Shuali A, Schnabel CA, Xi Y, Diao L, Wang Q, Zhang J, Van Loo P, Wang J, Wistuba II, Byers LA, Heymach JV
  • Corresponding author: Lauren A. Byers, John V. Heymach (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-01-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38278149

背景

小細胞肺がん (SCLC) は、全肺がんの約15%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍である。現在の標準治療はプラチナ製剤とエトポシドによる化学療法に、免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブまたはデュルバルマブを追加する併用療法であるが、未選択集団における治療成績の改善は限定的であり、2年生存率は20%未満にとどまっている Horn et al. NEnglJMed 2018Paz-Ares et al. Lancet 2019Howlader et al. NEnglJMed 2020。診断時に75-80%の症例が広汎型 (ES-SCLC) であり、利用可能な治療選択肢が極めて限られているため、バイオマーカー駆動型の精密医療の導入が強く望まれている。

近年、mRNAプロファイリングに基づき、SCLCが少なくとも4つの転写サブタイプに分類されることが明らかとなった Rudin et al. NatRevCancer 2019George et al. Nature 2015。これらのサブタイプは、優位な転写因子 (ASCL1優位型: SCLC-A、NEUROD1優位型: SCLC-N、POU2F3優位型: SCLC-P) または免疫炎症型 (SCLC-I) によって定義される Gay et al. CancerCell 2021。特にSCLC-Iサブタイプは、免疫チェックポイント阻害薬による最大の上乗せ効果と関連することが示されており、サブタイプ分類が治療選択の予測的価値を持つ可能性が示唆されている。しかし、SCLCの臨床的実装における最大の障壁は、検体の希少性である。SCLCの診断検体の多くは、細針吸引や気管支鏡生検による小量の組織に限られ、外科的切除が施行されることは稀である。このため、mRNA発現シグネチャーや多マーカー免疫組織化学 (IHC) などの従来のサブタイピング手法が適用可能な症例数が著しく限られるという課題があった Baine et al. JThoracOncol 2020。さらに、mRNAは保存されたSCLC検体で分解されやすく、日常的な臨床導入が制限される。

DNAメチル化は化学的安定性が高く、血漿中の細胞遊離DNA (cfDNA) においても保存されるため、液体生検によるSCLCサブタイピングのバイオマーカー候補として注目されていた Lo et al. Science 2021。SCLCは高い循環腫瘍DNA (ctDNA) 分率を特徴とし、液体生検への適性が高い Blackhall et al. LancetOncol 2018。また、エピゲノムがSCLCの転写プログラムを規定することから、DNAメチル化がサブタイプ特異的なパターンを持つ可能性が期待されていた Poirier et al. Oncogene 2015。しかし、これまでの研究では、直接比較するための腫瘍検体の欠如や、臨床的に検証された遺伝子発現ベースのサブタイピングに基づく患者の深いサブタイピングの欠如により、SCLCサブタイピングのルーチン実装が妨げられていた。これらの背景から、組織アクセスが制限されるSCLCにおいて、DNAメチル化を用いた堅牢かつ低侵襲なサブタイピング手法の開発が強く求められていたが、その臨床的有用性は未解明な点が多かった。特に、治療中のサブタイプ移行を液体生検で追跡する能力は不足しており、精密医療の実現に向けた課題として残されていた。

目的

本研究の目的は、SCLCの精密医療を推進するため、以下の4点を達成することである。 (1) RNA-seqデータに基づき、個々のSCLC検体を分類できる予測的SCLC分類器であるSCLC-GRC (Gene Ratio Classifier) を開発すること。 (2) Reduced Representation Bisulfite Sequencing (RRBS) によるゲノム網羅的DNAメチル化データを用いて、SCLCサブタイプを分類するDNAメチル化分類器であるSCLC-DMC (DNA Methylation Classifier) を構築し、その精度を検証すること。 (3) 血漿cfDNA向けに調整した分類器であるSCLC-cfDMC (circulating-free DNA Methylation Classifier) を開発し、液体生検からのSCLCサブタイピングの実現可能性を実証すること。 (4) 縦断的な液体生検サンプルを用いて、治療中のSCLCサブタイプの進化を追跡し、その臨床的意義を評価すること。 これらの目的を達成することで、SCLCにおける組織検体の制約を克服し、よりアクセスしやすいバイオマーカー駆動型治療の基盤を確立することを目指した。

結果

EpiCheckアッセイによる高精度なSCLC検出: EpiCheckアッセイによる血漿cfDNAからのSCLC検出能は、AUC 0.988 (95% CI 0.977-0.999) と極めて高い精度を示した (Figure 1A)。低カットオフ (EpiScore = 65) では感度100.0% (95% CI 92.9%-100.0%)、特異度83.8% (95% CI 79.8%-87.3%) を達成した。高カットオフ (EpiScore = 74) では感度94.0% (95% CI 83.5%-98.7%)、特異度94.9% (95% CI 92.3%-96.9%) が得られた。限局型 (LS-SCLC) および広汎型 (ES-SCLC) の両病期で高感度が示された。このSCLC検出アッセイは、既存の細胞学的診断や組織生検が困難な症例での補助的診断ツールとして有望である。

SCLC-GRCによるRNA-seqサブタイピング: 181遺伝子からなるSCLC-GRCにより、RNA-seqデータが得られた142例中136例 (96%) を明確にサブタイプ分類した (Figure 1B)。サブタイプ分布はSCLC-A: 53% (75/142)、SCLC-N: 18% (25/142)、SCLC-P: 15% (21/142)、SCLC-I: 11% (15/142) であり、IMpower133試験の分布と有意差なく一致した (chi-sq p=0.4186)。SCLC-A/Nは高い神経内分泌遺伝子発現 (CHGA、SYPなど) を示し、SCLC-P/Iは高いHLA遺伝子・腫瘍炎症スコア (TIS) 発現と高い免疫細胞浸潤を示した Yoshihara et al. NatCommun 2013。コンセンサス分布の解析により、SCLCサブタイプ間の腫瘍内不均一性が定量的に捉えられた。

サブタイプ特異的DNAメチル化パターンとエピゲノム制御: ゲノム網羅的メチル化解析では、SCLC-Pが低メチル化表現型、SCLC-Nが高メチル化表現型を示し、SCLC-A/Iは中間的な値であった (Figure 2A)。エピゲネティック酵素73遺伝子のうち47遺伝子 (64%) がサブタイプ間で有意差を示した。特に、DNMT1、DNMT3A、DNMT3B、MAT2Aの発現がサブタイプ間で異なり、SUV39H1がヒストンH3K9のトリメチル化を介してDNMT3A/B動員とDNAメチル化誘導をリンクする軸として同定された。これは、SUV39H1-DNMT3A/B軸がSCLCサブタイプ間のグローバルメチル化パターン差に寄与する候補経路であることを示唆する。また、一次腫瘍と細胞株のDNAメチル化パターンの不一致が確認された。SCLC-P細胞株では高メチル化表現型を示し、一次腫瘍との方向性が逆転した。これは、腫瘍微小環境の欠如がin vitro系のエピジェネティックランドスケープに大きく影響することを示唆する。

SCLC-DMCの分類精度と細胞株での検証: 独立テストセットにおけるSCLC-DMCの精度は95.8% (95% CI 78.9%-99.9%、Kappa=0.9286) と高い再現性を示した (Figure 3B)。RNA-seqデータが欠如し、従来のRNAベース分類が不可能であった30例に対しても追加サブタイピングが可能であった。SCLC細胞株を用いたin vitro検証では、n=59 cellsにおいて精度96.6% (95% CI 88.1%-99.6%) を達成した (Figure S7E)。SCLC-DMCはRNA-seq分類器と同等の精度を、より臨床的に汎用性の高いメチル化アッセイで実現した。

血漿cfDNAからのサブタイピング (SCLC-cfDMC): 7つのメチル化部位から算出したctDNA分率は、ULP-WGSとの高相関 (Pearson r=0.89、p<0.0001) を示し、cfDNAにおいてもDNAメチル化パターンが一次腫瘍を高度に反映することが確認された (Figure 3C)。SCLC-cfDMCの精度は、GRC分類との比較で100% (43/43)、組織DMCとの比較で93.3% (28/30) であった (Figure 3F)。これは、わずか7つのメチル化部位の情報からSCLCサブタイプを100%の精度で分類できることを意味し、液体生検ファーストのアプローチの実現可能性を示す画期的な結果である。健康なドナーのcfDNAと比較して、SCLC患者のベースラインcfDNAサンプルは明確に異なるクラスターを形成した。ctDNA分率が高いサンプル (第3・第4四分位) では、ctDNA分率が低いサンプル (第1・第2四分位) と比較して、健常者cfDNAとの相関が統計的に有意に低下した。

治療経過に伴うサブタイプ進化の縦断追跡: ベースラインと進行時血漿サンプルの比較により、多くの患者でサブタイプが治療経過中に変化することが示された (Figure 3G)。特にSCLC-AからSCLC-Iへのサブタイプスイッチが多数例で観察された。サブタイプスイッチを示した症例では、CXCL12、CIITA、STAT1、IFNRA1、IFNRA2、IFNGR1などの免疫関連遺伝子プロモーターのメチル化に顕著な変化が認められ、腫瘍-免疫クロストークの再活性化が示唆された。サブタイプスイッチの有無によるPFS (HR = 0.49、95% CI 0.11-2.24、p=0.35) およびOS (HR = 1.02、95% CI 0.27-3.9、p=0.98) には統計的有意差を認めなかった。H1876およびH2195のSCLC細胞株 (n=2 cells) を2 µMシスプラチンで9日間処理しても、免疫関連遺伝子のプロモーターメチル化に変化は認められず、エピゲノム可塑性には微小環境との相互作用が関与している可能性が示唆された。

薬剤応答予測と臨床アウトカムの整合性: 薬剤感受性解析では、SCLC-N細胞株はSCLC-Aと比較して、CDK阻害剤R-547 (Figure 4A) およびAuroraキナーゼ阻害剤CYC-116 (Figure 4B) に対してより高い感受性を示した。これは、DNAメチル化分類が薬剤応答予測能を保持することを示す重要な知見である。全生存期間の比較では、SCLC-A (HR = 1.01、95% CI 0.61-1.66、p=0.96) およびSCLC-N (HR = 1.02、95% CI 0.48-2.18、p=0.95) において、RNA-seq分類とDNAメチル化分類の間で統計的に同等の臨床アウトカムが示され、DNAメチル化分類の臨床的妥当性が確認された (Figure 4C, 4D)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来のmRNA-seqベースのサブタイピングが組織量の制約により臨床適用が困難であった点と異なり、DNAメチル化プロファイルを用いることで、極小の組織検体や血漿cfDNAからでも高精度にサブタイプ分類が可能であることを示した。特に、従来のNMF法がコホート単位での解析に限定されていたのに対し、本研究で開発されたSCLC-GRCおよびSCLC-DMCは個々の症例単位での分類を可能にした点が実用面で大きく異なる。

新規性: 本研究で初めて、DNAメチル化プロファイルがSCLCサブタイプ間で明確に異なることをゲノムワイドに示し、特にSCLC-Pが低メチル化、SCLC-Nが高メチル化表現型を示すことを同定した。また、SUV39H1-DNMT3A/B軸がSCLCサブタイプ特異的なエピゲノム維持機構に関与する可能性を新規に示した。さらに、縦断的液体生検により、治療中にSCLC-AからSCLC-Iへのサブタイプスイッチが起こりうることを初めて追跡可能であることを示した。

臨床応用: SCLC-I (免疫炎症型) が免疫療法への最大の上乗せ効果と関連することが既報で示されている中、本研究が縦断的液体生検でSCLC-AからSCLC-Iへのサブタイプスイッチを追跡可能であることを示した意義は大きい。フロントライン化学療法+免疫療法 (EP+IO) がSCLC-Iへのサブタイプ転換を誘導する可能性が示唆され、この転換の検出と臨床的活用が今後の重要課題となる。特に、SCLC-N細胞株がCDK阻害剤およびAuroraキナーゼ阻害剤に対して高い感受性を示したことは、DNAメチル化分類が薬剤応答予測能を保持することを示し、将来的にDNAメチル化分類を用いたサブタイプ別治療選択の臨床応用に期待が持てる。EpiCheckアッセイによるSCLC検出AUC 0.988は、低侵襲的なSCLC確定診断補助ツールとしての有望性を示し、組織生検が困難な症例での液体生検によるSCLC診断に直接応用できる可能性がある。

残された課題: 本研究の限界として、組織ベースアッセイの最小腫瘍含量要件が未規定であること、低ctDNA含量症例での分類精度への影響が未評価であること、希少サブタイプ (SCLC-P・SCLC-I) での検証症例が限られること、独立外部コホートでのプロスペクティブ検証が未実施であることが挙げられる。また、SCLC-P細胞株において一次腫瘍と逆のメチル化表現型が観察されたことは、細胞株モデルの限界を示唆しており、腫瘍微小環境の寄与を考慮したin vitro研究の必要性が今後の課題として残されている。

結論: DNAメチル化は腫瘍組織および血漿cfDNAの双方からSCLCの臨床的に意義のあるサブタイプを高精度に識別できる。SCLC-DMC (組織精度95.8%) およびSCLC-cfDMC (血漿精度100%) はRNA-seq分類と臨床アウトカムで同等の成績を示し、薬剤応答予測能も保持している。縦断的液体生検によるSCLCサブタイプ追跡は治療中のサブタイプ可塑性を明らかにし、精密医療実現のための動的バイオマーカー戦略として有望である。

方法

患者コホート: 本研究では、合計179例のSCLC患者を対象とした多施設共同研究を実施した。内訳はコホート1が105例、コホート2が74例であり、MD Anderson Cancer Center、Vanderbilt University、Hospital del Mar、Nice Hospitalなど、複数の国際施設から検体を収集した。RNA-seqデータは142例 (79%)、RRBSデータは124例 (69%) で取得可能であった。コホート2の一部のサンプルでは、RNAのみが提供され、DNA抽出用の組織がなかったため、組織メチル化データが得られなかった。すべての患者は書面によるインフォームドコンセントを提供し、ヘルシンキ宣言に準拠した。各検体には100個以上の腫瘍細胞が含まれていることが病理医によって確認された。

SCLC検出アッセイ (EpiCheck): 血漿cfDNAからのSCLC検出には、以前に開発されたメチル化感受性消化PCRベースのアッセイであるEpiCheckアッセイを使用した Gaga et al. EurRespirJ 2021。52例のSCLC患者 (うち50例が品質管理を通過) と398例の対照者 (うち395例が品質管理を通過) のコホートで評価した。検出限界であるLOD (limit of detection) は1:10,000、ブランク限界であるLOB (limit of blank) は1:249,281と決定された。

SCLC-GRC開発: RNA-seqデータに基づき、非負値行列因子分解 (NMF) から派生した181遺伝子のジーン比率分類器 (Gene Ratio Classifier) を開発した。この分類器は、500の機械学習モデルのコンセンサスに基づいており、50%以上のモデルが合意した場合にサブタイプを決定する設計とした。トレーニングには、George et al. Nature 2015 および Gay CM et al. (2021) のデータセットを組み合わせた Gay et al. CancerCell 2021

SCLC-DMC開発: RRBSデータに対して、ROC解析 (AUC > 0.8) を用いてサブタイプ関連メチル化部位を選択した。機械学習アルゴリズムであるxGB-DART (extreme gradient boosting with dropouts multiple additive regression trees) を使用し、LOOCV (leave-one-out cross-validation) により、サブタイプごとに500モデルを個別に訓練した。データセットは70%を訓練セット、30%を独立テストセットに分割した。モデルの過学習を防ぐため、細胞株データでもサブタイプと関連するDNA領域 (AUC > 0.7) をフィルタリングして、腫瘍内在性のシグナルに焦点を当てた。最終的に、各サブタイプにつき50のメチル化部位を選択した。検証には、ヒトSCLC細胞株である H1876、H2195、H1694、H446、H2171、H847、H82 などの細胞株モデルを用いた。

SCLC-cfDMC開発: 組織SCLC-DMCと同一のメチル化部位を使用し、血漿cfDNAで検出可能な部位に絞ってモデルを再フィットした。GRCで分類済みの43例を訓練コホートとして使用した。

ctDNA分率測定: 7つのメチル化部位から算出したctDNA分率と、超低パス全ゲノムシーケンシングであるULP-WGS (ultra-low pass whole genome sequencing) との相関を検証した。ctDNA分率の計算には、R^2 > 0.65、傾きが0.9~1.1、切片が-10~10の基準を満たす部位を選択した。

薬剤感受性解析: 400以上の薬剤のIC50値を、メチル化分類されたSCLC-AとSCLC-N細胞株間で比較した。H1876細胞株とH2195細胞株を2 µMシスプラチンで9日間処理し、DNAメチル化の変化を評価した。

統計解析: すべての解析はR v4.1.1で行われた。ゲノムのビンニングはBSgenome.Hsapiens.NCBI.GRCh38データベースを用いて100bpまたは100,000bpのタイル幅で行われた。DNAメチル化部位または領域の関連性はpROCパッケージを用いてROC解析で評価された。相関関係の評価には Pearson correlation および Spearman correlation を用いた。群間の差の計算には、特に明記しない限り、FDR補正を伴うWilcoxon検定が使用された。生存解析はカプラン・マイヤー解析 (Kaplan-Meier) とコックス比例ハザード比推定 (Cox regression) を用いて行われた。