- 著者: Sarah Moran, Daniel L. Adams, Carolyn Hall, Hamid Katki, Paul Chaiken, Chris Gallagher, Shamus Carr, Lin Xiao, Christina Wu, Ara Vaporciyan, Boris Sepesi, David Hong, Maura Gillison, John Heymach, George Blumenschein, Charles Lu, Bonnie Glisson, Vassiliki Papadimitrakopoulou, Anne Tsao, Mourad Tighiouart, Benedito Carneiro, Alain Algazi, Joaquin Garcia-Abreu, Timothy Jenkins, Igor Puzanov, Gary Richardson, Madeleine Duvic, Christos Couphos, Jeffrey Sosman, Zhaoyi Wang, Daniel Haber, Mehmet Toner, David Miyamoto, Sharon Helman, Salil Bhatt, Dennis Slater, Ravi Bhatt, Olatunji Alese, Consuelo Bura, Minggui Pan, Mark Stewart, Fabrice Ambrogelly, Cynthia Soto, Wei Zhou
- Corresponding author: Daniel L. Adams (Creatv MicroTech, Inc.)
- 雑誌: JCO Precision Oncology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2023-01-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 36516370
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: pembrolizumab, nivolumab, atezolizumab等) は、再発転移性非小細胞肺癌 (rmNSCLC) の重要な治療選択肢として確立されているが、全ての患者が均等に治療ベネフィットを享受できるわけではない。腫瘍組織におけるPD-L1発現は、免疫組織化学 (IHC) を用いて評価され、ICI治療の予測バイオマーカーとして臨床で利用されている。しかし、この評価は単一時点でのものであり、腫瘍内不均一性や治療によるPD-L1発現の動的な変化を十分に反映できないという限界がある。例えば、高PD-L1発現 (≥50%) の患者は、pembrolizumabと化学療法の併用により12ヶ月全生存期間 (OS) が24.9%改善することが報告されているが、低PD-L1発現 (<1%) や中間PD-L1発現 (1-49%) の患者でも、それぞれ9.5%および20.6%の12ヶ月OS改善が認められることが示されており、静的な組織PD-L1評価だけではICI治療の恩恵を完全に予測できないことが明らかになっている Gandhi et al. NEnglJMed 2018。
さらに、化学療法や放射線療法によってPD-L1発現が動的に上昇することが複数の研究で示されており、治療中のPD-L1変化をモニタリングすることが、治療反応の予測において重要な意義を持つ可能性が示唆されている Chen et al. Nature 2018。しかし、腫瘍組織の再生検は侵襲性が高く、費用もかかり、患者への負担が大きいため、治療中に複数回実施することは現実的ではない。このため、低侵襲でリアルタイムにPD-L1発現の変化を評価できる新しい手法が求められていた。
液体生検は、末梢血から循環腫瘍細胞 (CTC) や癌関連マクロファージ様細胞 (CAML: cancer-associated macrophage-like cells) などの循環腫瘍関連細胞 (TAC: tumor-associated cells) を分離し、その上でPD-L1発現を評価する手法であり、これらの課題を克服する可能性を秘めている。これまでの研究では、CTCやCAML上のPD-L1発現が、化学放射線療法単独の患者において予後と関連する可能性が示唆されていたが、ICI治療を受けている患者におけるTAC PD-L1発現の動態変化が、治療反応を予測する能力については未解明であった。特に、ICI治療と放射線療法の併用は、PD-L1発現を誘導し、相乗効果をもたらす可能性が指摘されているが、この動態を液体生検で捉えることの臨床的有用性はまだ確立されていなかった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。従来の組織生検では、検出率が低く、動的な変化を捉えることが不足していたため、より早期に治療効果を予測できるバイオマーカーの必要性が高まっていた。
目的
本研究の目的は、再発転移性非小細胞肺癌 (rmNSCLC) 患者において、循環腫瘍関連細胞 (TAC) 上のPD-L1発現の縦断的モニタリングが、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療(放射線療法併用または非併用)に対する治療反応、具体的には無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を予測するかどうかを評価することである。特に、治療開始前 (T0) と治療開始後 (T1) のPD-L1発現の変化、すなわちPD-L1のアップレギュレーションが、ICI治療群と非ICI治療群でどのように生存アウトカムと関連するかを比較し、液体生検に基づく動的バイオマーカーとしてのTAC PD-L1の予測的意義を明らかにすることを目指した。本研究は、ICI治療の恩恵を受ける患者を早期に特定し、治療戦略の最適化に貢献する新しいバイオマーカーの確立を目指す。
結果
患者背景と検体採取: 本研究には合計82例のrmNSCLC患者が登録された。ICI群の年齢中央値は66歳 (範囲45-81歳)、非ICI群は63歳 (範囲45-78歳) であった。性別分布は両群でほぼ同等であり、ICI群で男性59% (24/41)、非ICI群で男性56% (23/41) であった (Table 1)。組織型はICI群で腺癌51.2% (21/41)、扁平上皮癌19.5% (8/41)、非小細胞肺癌 (NSCLC) 29.3%であった。非ICI群では腺癌65.9% (27/41)、扁平上皮癌21.9% (9/41)、NSCLC 12.2%であった。放射線治療モダリティは、ICI群でIMRT 31.7%、VMAT 34.1%、陽子線14.6%など多様であった。脳転移の割合も両群で類似しており、ICI群46%、非ICI群42%であった。合計164検体が予定されていたが、6例がT1前に離脱し、14例がいずれかの時点で採血できなかったため、最終的に142検体が採取・処理された。このうち571個のTACがイメージングされ、ICI群で360個、非ICI群で211個であった。TAC全体の検出率は94% (134/142検体) と高かった。
T0時点のPD-L1発現と生存の関連: ICI群において、T0時点でTACが検出された検体の87% (26/30例) が低PD-L1発現、13% (4/30例) が高PD-L1発現を示した。T0時点での高TAC PD-L1発現は、ICI群のPFS (ハザード比 [HR] 0.35; 95% CI 0.1-1.9; P=.4191) およびOS (HR 0.36; 95% CI 0.1-1.9; P=.4332) と有意な関連を示さなかった (Table 2)。非ICI群においても、T0時点のTAC PD-L1発現とPFS (HR 1.18; 95% CI 0.5-2.5; P=.8947) およびOS (HR 0.79; 95% CI 0.3-1.9; P=.7493) の間に有意な関連は認められなかった (Table 3)。これらの結果は、治療開始前の静的なTAC PD-L1発現が、ICI治療の予測バイオマーカーとしては不十分であることを示唆する。
T1時点のPD-L1発現とPFS・OS: ICI群のT1検体では、60% (21/35例) が低PD-L1発現、40% (14/35例) が高PD-L1発現を示した。T1時点での高TAC PD-L1発現は、ICI群におけるPFSの有意な短縮と関連した (HR 3.19; 95% CI 1.4-7.3; P=.0112)。T1時点での低PD-L1発現群のmPFSは17ヶ月であったのに対し、高PD-L1発現群では4.8ヶ月であった (Figure 1A)。OSについても、T1時点での高PD-L1発現は不良な傾向を示した (HR 2.17; 95% CI 0.9-5.1; P=.1221)。低PD-L1発現群のmOSは21ヶ月であったのに対し、高PD-L1発現群では5.9ヶ月であった (Figure 1B)。一方、非ICI群では、T1時点でのTAC PD-L1発現の高低とPFS (HR 1.10; 95% CI 0.5-2.3; P=.9371) およびOS (HR 1.44; 95% CI 0.6-3.3; P=.5185) の間に有意な差は認められなかった (Figure 1)。
T0からT1へのPD-L1上昇とPFS・OS: T0からT1にかけてTAC PD-L1発現が上昇 (低から高へ変化) した患者は、ICI群においてPFSが有意に不良であった (HR 3.49; 95% CI 1.5-8.3; P=.0091)。PD-L1上昇群のmPFSは4.8ヶ月であったのに対し、非上昇群では20ヶ月であった (Figure 2A)。OSについても、PD-L1上昇群で不良な傾向が認められ (HR 2.61; 95% CI 1.0-6.6; P=.0716)、特に18ヶ月時点では有意に不良であった (HR 3.05; 95% CI 1.2-7.9; P=.0410)。PD-L1上昇群のmOSは5.9ヶ月であったのに対し、非上昇群では22ヶ月であった (Figure 2B)。この解析では、T0とT1の両方の検体が得られたICI群の32例の患者が対象となった。
非ICI群でのPD-L1上昇と生存: 非ICI治療群では、T0からT1へのTAC PD-L1発現の上昇の有無とPFS (HR 0.84; 95% CI 0.4-2.0; P=.8569) およびOS (HR 1.51; 95% CI 0.6-4.0; P=.5529) の間に有意な関連は認められなかった (Figure 2)。mPFSはPD-L1上昇群で10ヶ月、非上昇群で8.1ヶ月であり、mOSはPD-L1上昇群で16ヶ月、非上昇群で9.9ヶ月であった。この結果は、TAC PD-L1動態の予測的意義がICI療法に特異的であることを支持する。
多変量解析とサブグループ解析: ICI群の多変量解析では、T1時点の高PD-L1発現 (P=.5425)、PD-L1上昇 (P=.2594)、およびTスコア (P=.0369) の3変数が単変量解析で有意な関連を示したが、多変量解析ではTスコアのみが独立した有意な予測因子であった (Table 2)。T1時点のPD-L1スコアを3群 (スコア1、2、3) に分けて解析したところ、PD-L1スコア2のICI患者 (n=5 patients) は、スコア1のICI患者 (n=21 patients) と比較して、PFS (HR 5.21; 95% CI 1.9-14; P=.00343) およびOS (HR 6.25; 95% CI 1.9-21; P=.00738) が有意に良好であった。利用可能な組織PD-L1染色データはICI群の46% (19/41例) に限定されたが、この部分集団では組織PD-L1 ≥50% vs <50%とPFS (HR 2.24; P=.3450) およびOS (HR 1.88; P=.6693) の間に有意差は認められなかった (Table 2)。
考察/結論
本研究は、再発転移性非小細胞肺癌 (rmNSCLC) 患者において、循環腫瘍関連細胞 (TAC) 上のPD-L1発現の縦断的モニタリングが、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療(放射線療法併用または非併用)への反応を予測することを示した初のプロスペクティブ研究である。
新規性: 本研究で初めて、治療開始前 (T0) から治療開始後 (T1) へのTAC PD-L1発現の上昇が、ICI治療群においてのみPFSおよびOSと有意に不良な関連を示し、非ICI治療群では関連しないという治療特異的なパターンを同定した。この結果は、観察された予測能がICI治療に真に関連したバイオマーカーシグナルであることを強く示唆する。
先行研究との違い: 従来の組織PD-L1評価では、本研究でも示されたように、全体の半数未満の患者にしかデータが得られず (ICI群で46%)、かつICI群での組織PD-L1と生存の関連が示されなかった。これは、静的な組織生検が持つ予測能の限界を示しており、動的な液体生検アプローチが従来の評価と異なり、治療中の免疫微小環境の変化をリアルタイムに捉える上で優位性を持つことを示唆する。T1時点での高PD-L1発現 (スコア2の場合にHR 5.21) やPD-L1上昇 (HR 3.49) が不良予後と関連するという解釈として、PD-L1の適応的上昇 (adaptive immune resistance) が継続中の免疫逃避機構を血中で反映している可能性が考えられる。これは、治療によって誘導される炎症反応がPD-L1発現を増加させ、腫瘍細胞が免疫細胞からの攻撃を回避しようとするメカニズムと一致する。
臨床応用: CTACの縦断的PD-L1モニタリングは、治療開始後約1ヶ月という早期の時点で治療反応評価を可能にする。この早期かつリアルタイムな評価能は液体生検の独自の強みであり、臨床現場において、ICI治療の恩恵を受ける可能性のある患者を特定し、治療効果が低い患者では早期に治療戦略の変更を検討するための意思決定支援ツールとして応用できる可能性がある。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、サンプルサイズが比較的小さく (各群41例、ペア検体分析対象は32例)、多変量解析ではCTAC PD-L1動態が独立した有意変数とならなかった点が挙げられる。これは、より大規模なコホートでの検証が必要であることを示唆する。また、CTAC検出技術の標準化、臨床的に異質な放射線モダリティ (IMRT、VMAT、SBRT、陽子線) の混在、および放射線量の違い (65 Gy未満 vs 65 Gy以上) が結果に影響を与えた可能性も残された課題である。今後の検討課題として、より大規模な前向き試験での検証、ICIの種類別や放射線療法の有無による層別解析、CTAC PD-L1動態の生物学的メカニズムのさらなる解明 (例えば、IFN-γ誘導性adaptive resistanceとの関連) が必要である。本研究は、CTACを用いた液体生検がrmNSCLCにおける治療効果の動的モニタリングを可能にするという概念実証を提供し、臨床的意思決定支援ツールとしての発展可能性を示唆するものである。
方法
本研究は、病理学的に確認された再発転移性非小細胞肺癌 (rmNSCLC) 患者82例を対象とした前向き単盲検パイロット研究である。患者は2013年7月から2021年10月にかけて募集され、ICI治療群41例と非ICI治療群41例に分けられた。ICI治療群の内訳は、pembrolizumabが28例 (68.3%)、nivolumabが10例 (24.4%)、atezolizumabが3例 (7.3%) であった。非ICI治療群は、放射線療法単独または化学療法との併用療法を受けた患者で構成され、ICIは使用されなかった。
末梢血検体は、治療開始前 (T0) および治療開始後約30日 (T1) の2時点で各7.5 mL採取された。採取された血液は、CellSieve Microfiltration Assayを用いてTACを分離するために処理された。分離されたTACは、免疫細胞化学法によりPD-L1、CK18、CK19、CD45抗体を用いて染色され、PD-L1発現が評価された。PD-L1発現スコアは、ピクセル強度に基づいて定量化され、低 (1) または高 (2/3) の二値に変換された。TACsはOlympus BX51WI蛍光顕微鏡とCarl Zeiss AxioCamモノクロカメラを用いて画像化された。
主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) であり、副次評価項目は全生存期間 (OS) であった。T0からT1へのPD-L1発現の増加 (PD-L1 upregulation) とPFSおよび18ヶ月/24ヶ月OSとの関連は、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて解析された。統計的検出力計算に基づき、90%の検出力と両側α=0.05を達成するためには32例のサンプルサイズが必要とされ、20%の脱落率を考慮して各群40例を目標に設定した。Kaplan-Meier曲線によるPFSおよびOSの定義は、T0からRECIST基準に基づく病勢進行または死亡までの期間とし、24ヶ月をエンドポイントとした。Kaplan-Meierプロットの有意性はログランク検定により評価された。中央値の比較にはノンパラメトリックk標本検定が用いられた。多変量解析では、T1時点のPD-L1発現、T0からT1へのPD-L1上昇、Tスコアなどの変数が含まれた。なお、本研究ではMD Anderson Cancer CenterおよびUniversity of Maryland Greenebaum Cancer Centerの施設内倫理委員会承認を得て、患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した。