• 著者: Gang Chen, Alexander C. Huang, Wei Zhang, Gao Zhang, Min Wu, Wei Xu, Zili Yu, Jiegang Yang, Beike Wang, Honghong Sun, Houfu Xia, Qiwen Man, Wenqun Zhong, Leonardo F. Antelo, Bin Wu, Xuepeng Xiong, Xiaoming Liu, Lei Guan, ting Li, Shujing Liu, Ruifeng Yang, Youtao Lu, Liyun Dong, Suzanne McGettigan, Rajasekharan Somasundaram, Ravi Radhakrishnan, Gordon Mills, Yiling Lu, Junhyong Kim, Youhai H. Chen, Haidong Dong, Yifang Zhao, Giorgos C. Karakousis, Tara C. Mitchell, Lynn M. Schuchter, Meenhard Herlyn, E. John Wherry, Xiaowei Xu, Wei Guo
  • Corresponding author: Xiaowei Xu (xug@pennmedicine.upenn.edu, University of Pennsylvania, Philadelphia, USA); Wei Guo (guowei@sas.pennmedicine.upenn.edu, University of Pennsylvania, Philadelphia, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-08-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30089911

背景

PD-L1 (programmed death-ligand 1) は、がん細胞表面に発現し、PD-1陽性T細胞と結合することで免疫チェックポイントシグナルを誘導し、がんの免疫回避において中心的な役割を担うことが知られている Dong et al. NatMed 2002。抗PD-1抗体(pembrolizumabなど)は、転移性黒色腫を含む様々ながん種で顕著な有効性を示しているが Tumeh et al. Nature 2014、奏効率は20〜40%程度に留まることが報告されており Reck et al. NEnglJMed 2016、奏効予測バイオマーカーの確立は依然として重要な課題であった。

従来の腫瘍免疫抑制のモデルは、主に「腫瘍細胞表面のPD-L1が腫瘍局所でPD-1陽性T細胞を抑制する」というパラダイムに基づいていた。しかし、がん細胞が腫瘍局所を越えて全身性の免疫応答を抑制するメカニズムについては、依然として多くの点が未解明であった。近年、エクソソームなどの細胞外小胞が、がん細胞から放出され、遠隔の細胞と情報を伝達するナノサイズの小胞として注目されている Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014。これらのエクソソームがPD-L1を表面に搭載し、全身に放出することで新たな免疫抑制経路を形成する可能性が示唆されていたが、その機能的な実証や、臨床バイオマーカーとしての系統的な開発はこれまで不足していた。特に、治療に対する適応的な免疫抵抗性や、治療中のバイオマーカーの動態変化に関する知見は限られていた Zaretsky et al. NEnglJMed 2016。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の主たる目的は、転移性黒色腫細胞がPD-L1を表面に提示したエクソソームを産生し、全身循環に分泌することを実証することである。さらに、これらのエクソソームがCD8 T細胞の機能を抑制するメカニズムと、in vivoでの腫瘍促進効果を検証することを目指した。最終的に、転移性黒色腫患者において、血漿中の循環エクソソームPD-L1レベルがpembrolizumab治療の奏効予測バイオマーカーとなりうるかを、前向きに収集された臨床検体コホートを用いて評価することを目的とした。特に、治療前および治療中のエクソソームPD-L1の動態変化が、奏効予測にどのように寄与するかを明らかにすることに焦点を当てた。

結果

転移性黒色腫エクソソームへのPD-L1選択的搭載とIFNγによる調節: RPPAおよびウエスタンブロット解析により、転移性黒色腫細胞株 (n=3〜4 cell lines) 由来エクソソームにPD-L1が高度に検出され、原発黒色腫細胞由来エクソソームと比較して有意に高発現であることが示された (p=0.0224)。免疫電子顕微鏡により、エクソソームPD-L1が細胞外向きの膜トポロジーで機能的に提示されることが確認された (Fig. 1e)。IFNγ刺激によりエクソソームPD-L1量が著明に増加し (ELISAおよびウエスタンブロット、p<0.000002)、増加したエクソソームはPD-1への結合能が上昇した (Fig. 1g, i)。Hrs (ESCRT-0) のshRNAノックダウンによりエクソソームPD-L1が低下し細胞内PD-L1が増加し、Rab27AのノックダウンでもエクソソームへのPD-L1分泌が阻害された。これらの結果は、PD-L1がESCRT経路依存的にエクソソームに選択的に積荷され分泌されることを強く示唆する (Extended Data Fig. 1)。

エクソソームPD-L1によるCD8 T細胞の全身的抑制: MEL624-PD-L1過剰発現エクソソームをヒト末梢血CD8 T細胞に処置すると、CFSE希釈によるT細胞増殖が有意に抑制され (p<0.05)、Ki-67陽性率低下、granzyme B産生低下、IFNγ、IL-2、TNF産生の有意な減少が観察された (Fig. 3a)。この抑制効果は抗PD-L1抗体の事前処置でほぼ完全に消失した。同様の抑制効果は、内因性PD-L1を発現するWM9細胞由来エクソソームでも確認された (Extended Data Fig. 5e-h)。in vivo実験では、B16-F10 PD-L1 KDマウスモデルにおいて、野生型B16-F10由来エクソソームを投与すると腫瘍増殖が有意に促進され (n=7 mice/群、p<0.05、two-way ANOVA)、腫瘍内、脾臓、リンパ節のKi-67陽性PD-1陽性CD8 T細胞(増殖性抗腫瘍T細胞)の比率が有意に減少した (Fig. 3c)。これは、エクソソームPD-L1が腫瘍局所のみならず全身の免疫系を抑制することを示す重要なエビデンスである。抗PD-L1抗体でエクソソームを事前処置すると、この腫瘍促進効果は阻害されたが、IgGアイソタイプや抗CD63抗体では阻害されなかった (Fig. 3b)。

患者血漿中エクソソームPD-L1のバイオマーカー性能: 転移性黒色腫患者 (n=44 patients) の循環エクソソームPD-L1レベルは、健常者 (n=11 donors) と比較して有意に高値であった (p<0.05、unpaired t-test) (Fig. 2d)。ROC解析では、循環エクソソームPD-L1が総循環PD-L1、マイクロベシクルPD-L1、EV (extracellular vesicle) 除外PD-L1のいずれと比較しても最高のAUC (area under curve) を示し、メラノーマ患者識別に最適なパラメータであることが示された (AUC 0.8636) (Fig. 2g)。前治療時の循環エクソソームPD-L1は、pembrolizumab非奏効者 (NR, n=23 patients) で奏効者 (R, n=21 patients) より有意に高く (p<0.05)、高値であるほど客観的奏効率 (ORR) が低かった (Fig. 4a)。エクソソームPD-L1はIFNγレベル (n=27 patients) および総腫瘍負荷 (n=39 patients) とも正の相関を示した (Pearson相関、r=0.65 for IFNγ, r=0.62 for tumor burden) (Fig. 4f, g)。

治療中エクソソームPD-L1変化倍率による奏効予測: pembrolizumab治療開始後、奏効者 (n=19 patients) では3〜6週以内に循環エクソソームPD-L1の最大変化倍率が非奏効者 (n=20 patients) よりも有意に大きかった (p<0.05、paired t-test) (Fig. 4j)。CD8 T細胞の再活性化ピーク (3週時点のKi-67陽性PD-1陽性CD8 T細胞増加) はエクソソームPD-L1ピーク (6週時点) に先行し、両者は正の相関を示した (Extended Data Fig. 9b, c)。ROC解析により、3〜6週でのエクソソームPD-L1変化倍率2.43倍というカットオフが奏効・非奏効の識別に最適であることが示され (AUC 0.8263) (Fig. 4k)、2.43倍超の群では有意に高いORR (p<0.05)、優れた無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) が確認された (Fig. 4l)。このカットオフは、総循環PD-L1変化倍率、マイクロベシクルPD-L1変化倍率、EV除外PD-L1変化倍率のいずれよりも高い識別能を示した (Fig. 4k, m-o)。

考察/結論

本研究は、転移性黒色腫がPD-L1を搭載したエクソソームを全身循環に放出し、腫瘍局所のみならず全身の抗腫瘍T細胞応答を抑制するという、これまで十分に解明されていなかった「全身免疫抑制」機構を初めて包括的に実証した。この発見は、従来の「PD-L1は腫瘍細胞表面での局所的免疫抑制を担う」というパラダイムを根本的に拡張するものである。

先行研究との違い: PD-L1含有細胞外小胞の存在は、頭頸部がんや神経膠芽腫で個別に報告されていたが (Theodoraki 2018、Ricklefs 2018)、エクソソームへのPD-L1積荷機構(Hrs/ESCRTおよびRab27A依存性)、in vivoでの全身的T細胞抑制、そして前向き臨床コホートでのバイオマーカー性能という三要素を統合した研究は本論文が初である。特に「治療中のエクソソームPD-L1増加はT細胞再活性化に対するがん細胞の適応的免疫抵抗を反映し、pembrolizumab奏効の証拠となる」という逆説的知見は、これまでの報告とは異なり、本研究の重要な新規性である。CD8 T細胞の再活性化(Ki-67陽性PD-1陽性CD8 T細胞増加)がエクソソームPD-L1増加に先行するという時系列関係も重要な新知見であり、腫瘍が治療に「反応している」際に免疫抵抗を強化するという動的なダイナミクスを示した。

新規性: 本研究で初めて、エクソソームPD-L1が腫瘍局所だけでなく全身の免疫系を抑制するメカニズムを詳細に解明した。また、治療前の循環エクソソームPD-L1レベルが抗PD-1療法への奏効不良を予測する一方で、治療開始後のエクソソームPD-L1の増加が奏効を予測するという二相性のバイオマーカー特性を新規に同定した。この動的なバイオマーカーは、T細胞の再活性化に対する腫瘍の適応的応答を反映しており、従来の静的なバイオマーカーとは一線を画すものである。

臨床応用: 循環エクソソームPD-L1は液体生検として血液から非侵襲的に測定可能であり、腫瘍生検(侵襲的かつheterogeneityの問題がある)よりも優れた動的モニタリングが期待できる。ROC解析で決定されたカットオフ値2.43倍は、pembrolizumab治療3〜6週後の早期評価に利用可能であり、臨床現場での治療効果予測に貢献する可能性がある。さらに、エクソソームPD-L1が抗PD-L1抗体または抗PD-1抗体でブロック可能であることは、循環エクソソームPD-L1自体が新たな治療標的となりうる可能性を示唆する。本技術に関連する特許が出願されており、商業的開発も進行中であることから、近い将来の臨床応用が期待される。

残された課題: 本研究の主なlimitationとして、(1) 黒色腫患者コホートが単施設・39名と小規模であるため、より大規模・多施設前向き試験でのバイオマーカー検証が必要であること、(2) 肺がん、膀胱がん、頭頸部がんなど他がん種への拡張検証、(3) エクソソームPD-L1がPD-1以外にも作用するリガンド(B7、CD28関与など)の解析、(4) エクソソームPD-L1以外の免疫抑制分子(FasLなど)との相互作用の解明、(5) エクソソームPD-L1を標的とした治療戦略(抗体、阻害薬など)の前臨床・臨床開発が挙げられる。腫瘍PD-L1発現のheterogeneityおよび動的変化を考慮すると、エクソソームPD-L1は腫瘍生検よりも信頼性の高い腫瘍免疫状態のリアルタイム指標として位置づけられる可能性がある。

方法

本研究では、ヒト原発性および転移性黒色腫細胞株(WM35、WM793、WM902B、UACC-903、A375、WM9、WM164)から、差分遠心法を用いてエクソソームを精製した。精製されたエクソソームは、透過型電子顕微鏡 (TEM) およびナノ粒子追跡解析 (NTA) により形態とサイズが確認された。エクソソーム上のPD-L1発現は、RPPA (reverse phase protein array)、ウエスタンブロット、ELISA、および免疫電子顕微鏡を用いて詳細に解析された。

PD-L1発現の調節機構を調べるため、IFNγ (interferon-gamma) 刺激によるエクソソームPD-L1量の変化を評価した。また、Hrs (ESCRT-0サブユニット) およびRab27AのshRNAノックダウン実験を行い、PD-L1のエクソソームへの積荷および分泌経路を解析した Ostrowski et al. NatCellBiol 2010。in vivoでのエクソソームPD-L1の役割を評価するため、ヌードマウスにヒト黒色腫細胞を皮下異種移植し、循環エクソソームPD-L1レベルと腫瘍サイズの相関を検討した。

免疫抑制機能の評価には、フローサイトメトリーを用いて健常者 (n=11) と転移性黒色腫患者 (n=44) の循環エクソソームPD-L1レベルを比較し、ROC (receiver operating characteristic) 解析を実施した。さらに、内因性PD-L1発現陰性のMEL624細胞にPD-L1を過剰発現させたエクソソームを用いて、ヒト末梢血CD8 T細胞に対する抑制効果をin vitroで評価した。これにはCFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 増殖アッセイ、Ki-67およびgranzyme Bの発現解析、IFNγ、IL-2、TNF産生測定が含まれた。また、B16-F10 PD-L1ノックダウン (KD) マウスモデルを用いて、野生型B16-F10由来エクソソームの投与が腫瘍増殖に与える影響を検討した。

臨床バイオマーカーとしての評価では、pembrolizumab治療を受けた転移性黒色腫患者コホート (n=39、奏効者R: n=19、非奏効者NR: n=20) から、治療前、3週後、6週後にシリアル採血を行い、血漿中のエクソソームPD-L1を定量した。これらのデータに基づき、ROC解析により奏効予測のためのカットオフ値を決定し、客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) との相関を評価した。統計解析には、GraphPad Prism v.6.0を用い、D’Agostino-Pearson omnibus normality test、F-test、two-sided unpaired/paired Student’s t-tests、Mann-Whitney U-tests、Wilcoxon matched-pairs tests、Pearson’s r係数、two-way ANOVA、log-rank testが適用された。