• 著者: Vincent K. Lam, Jianjun Zhang, Carol C. Wu, Hai T. Tran, Lerong Li, Lixia Diao, Jing Wang, Waree Rinsurongkawong, Victoria M. Raymond, Richard B. Lanman, Jeff Lewis, Emily B. Roarty, Jack Roth, Stephen Swisher, J. Jack Lee, Don L. Gibbons, Vassiliki A. Papadimitrakopoulou, John V. Heymach
  • Corresponding author: John V. Heymach (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33388476

背景

血漿中循環腫瘍DNA (ctDNA) は非侵襲的液体生検バイオマーカーとして確立されており、NSCLCでは EGFR・ALK・ROS1・BRAF・MET・RET・ERBB2などのドライバー変異同定に用いられるほか、疾患モニタリング・微小残存病変 (MRD) 検出・早期がん発見への応用が急速に拡大している。Abbosh et al. は系統発生学的ctDNA解析により早期NSCLCの術後MRD検出への有用性を実証し (Abbosh et al. Nature 2017)、Liu et al. はメチル化シグナルを用いた多がん種早期検出プラットフォームの感度・特異度を確認した (Liu et al. AnnOncol 2020)。また、ctDNA由来腫瘍変異量 (TMB) が進行NSCLCにおける免疫療法応答の予測バイオマーカーとして有望であることも報告された (Gandara et al. NatMed 2018)。

しかしながら、ctDNAシェディング (腫瘍からのctDNA放出量) の規定因子については知識の gap in knowledge が残されており、特に進行NSCLCにおける定量的評価が手薄であった。早期NSCLCでは放射線学的腫瘍容積とctDNA variant allele frequency (VAF) の相関が個別の高感度アッセイで報告されていたが、転移性NSCLCにおける包括的な画像腫瘍量指標—CT体積・RECIST sum of longest diameters (SLD)・PET-CT由来のMTV (metabolic tumor volume) やTLG (total lesion glycolysis)—との定量的相関は記述されていなかった。また、主要ゲノムサブタイプ (EGFR・KRAS・TP53変異) がctDNAシェディングに独立して影響するかどうかも未解明であり、これらの不足がctDNAを用いたMRD検出・疾患モニタリング・早期がん検診の臨床実装の精度保証上の課題となっていた。

目的

進行NSCLC患者において、ctDNA VAFの規定因子として複数の放射線学的腫瘍量指標 (CT・PET-CT)、解剖学的転移パターン (内臓転移・CNS転移・胸水)、組織型、および主要ゲノムサブタイプ (EGFR・KRAS・TP53変異、EGFRコピー数増加) が独立して及ぼす影響を包括的に評価すること。

結果

コホートの概要と基本特性: 144例の内訳は女性78例 (54.2%)・男性66例 (45.8%) で、組織型は腺癌112例 (77.8%)・扁平上皮癌31例 (21.5%)・その他1例 (0.7%) であった (Table 1)。主要ゲノム変異の頻度はTP53変異53.5%、EGFR変異39.6%、KRAS変異22.9%、ALK融合2.8%であった。既治療例が68.1%を占め、ctDNA採取時点での病勢進行が多かった。ctDNA VAFの中央値は2.0% (範囲0〜72.5%) と全般的に低値であり、RECIST SLD中央値6.3 cm・CT体積中央値27.4 cm³であった。7例 (4.9%) で検出可能なsomatic変異を認めなかった。NCCN推奨バイオマーカーとしてMET増幅9例 (6%)・EGFR exon 20挿入6例 (4%)・MET exon 14 skipping 4例 (3%) 等が検出された。

腫瘍量とctDNA VAFの相関: 全コホートにおいてCT体積とctDNA VAFの相関が最も強く (Spearman rho=0.336、n=144、p<0.00001)、多変量回帰でも内臓転移・ゲノムサブタイプ補正後に独立した予測因子として残存した (HR 1.00、95% CI 1.00-1.00、p<0.001) (Fig 1A、Table 2)。RECIST SLDとの相関 (rho=0.414) も全コホートで有意であった (Fig 1B)。PET-CT評価が可能なサブグループ (n=69) では、SUVmax (rho=0.273) からRECIST SLD (rho=0.414) にわたるすべての画像指標がVAFと有意に正相関し、MTVとの相関はrho=0.36 (n=69、p=0.003) であった (Fig 1C)。解剖学的CT体積はPETベースの機能的腫瘍量指標と同等の相関精度を示し、臨床で広く用いられるRECIST SLDも同様の腫瘍量代替能を持つことが確認された。一方で相関係数は中等度に留まり (rho 0.27〜0.41)、腫瘍量以外の因子がctDNAシェディングに追加的に寄与することが示唆された。ゲノムサブタイプ別にCT体積との相関を解析すると、KRAS変異例で最も強く (rho=0.56、p<0.001)、TP53変異例 (rho=0.43、p<0.0001) がこれに続き、EGFR変異例では最も弱かった (rho=0.24、p=0.077)。

遺伝子型特異的なctDNA VAF差異: TP53変異群 vs 野生型群でVAFが有意に高値であった (Wilcoxon p<0.001、Fig 3A)。EGFR変異群・KRAS変異群では数値上は高い傾向があったが統計的有意差には達しなかった (p=0.17、p=0.16)。腫瘍量の交絡を排除するため、CT体積を三分位 (低: 中央値2.6 cm³、中: 28.3 cm³、高: 95.6 cm³) に層別して再解析したところ、TP53変異群およびEGFR変異群のVAF高値は腫瘍量スペクトラム全体で一貫して観察された (Fig 3B)。多変量Cox回帰では、TP53変異 (HR 1.45、95% CI 1.16-1.80、p=0.001)・EGFR変異 (HR 1.36、95% CI 1.08-1.71、p=0.009)・内臓転移 (HR 1.48、95% CI 1.16-1.91、p=0.002)・CT体積 (p<0.001) がすべて相互補正後も独立した予測因子として同定された (Table 2)。KRAS変異は単変量では有意でなく (HR 1.22、95% CI 0.91-1.64、p=0.178)、最終多変量モデルには残存しなかった。組織型 (腺癌vs扁平上皮癌) も有意でなかった (HR 0.94、95% CI 0.70-1.27、p=0.694)。治療中患者でのVAF低下の交絡を確認するサブグループ解析 (治療ナイーブ例のみ、治療中断1ヶ月以上例のみ) でも同様の遺伝子型別差異が確認された。

EGFRコピー数増加とシェディング: EGFR+腫瘍の28.3%でCNGを認めた。EGFR+/CNG+ vs EGFR+/CNG- (copy number gain-negative) 腫瘍でVAFが顕著に高値であり (ANOVA Tukey’s HSD、p≤0.00001)、一方でEGFR+/CNG-腫瘍のVAFはEGFR野生型/CNG-腫瘍と同程度であった (Fig 4A)。これはEGFR CNGがEGFR+腫瘍でのVAF上昇の主要な寄与因子であることを示す。EGFR+腫瘍においてTP53共変異の影響を検討したところ、EGFR+/TP53変異群とEGFR+/TP53野生型群の間でVAFに有意差はなく、TP53共変異は追加的なシェディング増加効果を持たなかった (Fig 4B)。

内臓転移とその他の因子の影響: 内臓転移 (肝・副腎・腎・脾転移と定義) を有する患者では腫瘍量が大きく (Wilcoxon p<0.001)、ctDNA VAFも有意に高値であった (p<0.001、Fig 2A)。多変量解析でも内臓転移は独立した予測因子であった (HR 1.48、95% CI 1.16-1.91、p=0.002)。CNS転移は数値上VAFが高い傾向を示したが統計的有意差には達しなかった (Wilcoxon p=0.100、Fig 2C)。胸水 (中等量以上) や両側粟粒状肺小結節 (10個超) はVAFに有意な影響を与えなかった。免疫療法既往・組織型はいずれも最終多変量モデルに残存しなかった。

考察/結論

本研究は進行NSCLC 144例を用いたctDNA腫瘍量相関の包括的解析として、これまでの研究の中で最大規模のコホートを用いた報告であり、CT体積・RECIST SLD・PET-CT由来のMTV・TLGなど複数の放射線学的腫瘍量指標すべてがctDNA VAFと有意に正相関することを示した。解剖学的CTによる腫瘍量評価がPETベースの機能的指標と対照的に同等の相関精度を示す点は、臨床で汎用されるCT/RECISTがctDNA shedding補正に利用可能であることを支持する。一方、相関係数が中等度に留まることは、腫瘍量以外の因子がシェディングに重要な追加的寄与をすることを意味し、本研究の新規な貢献はその因子として遺伝子型と転移部位を特定した点にある。

早期NSCLCでの既報では腫瘍量とctDNA VAFの相関が示されていたが、進行NSCLCで本規模の定量的・多因子的解析を行ったのは本研究で初めてであり、これまで報告されていない知見として、TP53変異とEGFR変異が腫瘍量・内臓転移を補正後もVAFを独立して規定することを示した。TP53変異による増加は細胞回転亢進・代謝活性増大を通じたDNA放出促進機序と整合し、EGFR CNGはEGFR+腫瘍全体のVAF上昇を主として駆動しており、EGFR変異そのものよりもCNG有無がシェディング量を規定していた。この機序により、EGFR CNG陽性腫瘍ではctDNA由来TMBやclonality推定が系統的に過大評価されるリスクがあり、免疫療法バイオマーカーとしてctDNA-TMBを用いる臨床現場での解釈には補正が必要となりうる。

これらの知見の臨床的意義として、ctDNAのMRD検出・疾患モニタリング・早期がん検診への臨床応用においてシェディング規定因子を考慮した感度評価と補正モデルの必要性が挙げられる。胸水や粟粒状肺結節を主病態とする患者ではシェディングが不十分でctDNA検出感度が低下する一方、内臓転移陽性例やEGFR CNG陽性例ではVAFが腫瘍量を過大評価するリスクがある。こうした遺伝子型・解剖学的特性を組み込んだin silicoシミュレーションが大規模スクリーニング試験の設計最適化に資すると考えられ、各遺伝子型サブグループにおけるアッセイ性能の橋渡し研究 (bench-to-bedside) として層別評価する前向き研究が求められる。

今後の研究に残された課題として、いくつかのlimitationがある。既治療例が68%を占めることから耐性変異 (MET増幅等) の交絡が排除しきれていない。KRASサブグループ (TP53・STK11・KEAP1・CDKN2A/B共変異による生物学的不均一性が知られる) の詳細な解析にはサンプルサイズが不十分であった。クローン性造血由来変異の定量的排除にも限界がある。更なる検討として、より大規模なコホートでのKRASサブグループ別シェディング解析、縦断的サンプリングによる治療応答とVAF変化の同時評価、およびシェディング規定因子を反映したctDNA-MRD感度補正モデルの開発が今後の研究として必要である。

方法

2015年11月〜2017年7月にテキサス大学MDアンダーソンがんセンターで商業的ctDNA検査を受けた進行NSCLC連続症例を後方視的に解析した (MDアンダーソンがんセンター倫理審査委員会承認)。画像評価可能な144例を選択し、統計比較に十分な症例数を確保するためEGFR・KRAS変異例を優先登録した。各患者からは単一時点のctDNAデータのみを解析対象とした。

ctDNA検査はGuardant360 (Guardant Health社、Redwood City、CA) により実施した。70〜73遺伝子を対象としたhybrid capture型次世代シーケンス (NGS) によるペアエンドシーケンス (フラグメント長160〜170 bp) で、平均カバレッジ8,000〜15,000×。単一ヌクレオチド変異・コピー数増幅・インデル・融合遺伝子を検出し、生殖細胞系列変異を既報手法にて定量的に排除した。解析に用いるVAFは各症例で検出されたすべての変異 (意義不明変異・同義置換を含む) の最大VAFと定義した。

腫瘍量は5種の放射線学的手法で定量化した。CT体積はシーメンス社syngo.viaソフトウェアによる半自動輪郭描出で算定し、RECIST SLD (最大5病変・臓器あたり2病変まで・リンパ節は短径1.5 cm以上を計上、RECIST version 1.1) も測定した。PET-CT評価が可能なサブグループ (n=69) ではMIM Software (medical imaging analysis platform、バージョン6) にてMTV・SUVmax (maximum standardized uptake value)・TLGを算定した。ctDNA採取から30日以内に撮影された画像のみを採用した。

統計解析はR (バージョン3.3.2) を使用した。ctDNA VAFのサブグループ比較にはWilcoxon ranked sum test・Kruskal-Wallis testを用いた。VAFと腫瘍量指標の相関評価にはSpearman相関係数 (rho) を算出した。多変量解析はCox比例ハザード回帰の段階的変数選択法を適用した。EGFR陽性 (EGFR+) 腫瘍内のCNG (copy number gain) 影響評価にはANOVA (analysis of variance) およびTukey’s honest significant difference (HSD) 検定を用いた。両側検定でp≤0.05を統計学的有意とした。