- 著者: Yoshiaki Nakamura, et al.
- Corresponding author: Yoshiaki Nakamura (National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-09-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 39110016
背景
大腸癌 (colorectal cancer) は世界的に主要な健康課題であり、年間90万件以上の癌関連死を引き起こしている Sung et al. CACancerJClin 2021。手術による根治切除後も、ステージII-IIIの患者の20-30%が再発を経験する。現在の術後補助化学療法 (adjuvant chemotherapy) の決定は、病期や臨床病理学的リスク因子に基づいているが、個々の患者の再発リスクを正確に評価する精度は依然として不足している。
近年、ctDNA (circulating tumor DNA) 解析によるMRD (minimal/molecular residual disease) 検出は、再発リスクの早期特定に有望な非侵襲的技術として注目されている Bettegowda et al. SciTranslMed 2014。しかし、従来の腫瘍インフォームドアプローチでは、ctDNA解析をガイドするために腫瘍組織の次世代シーケンシング (next-generation sequencing) が必要であり、実施可能性、費用、および結果が得られるまでの時間において課題が残されていた。また、腫瘍組織の入手が困難な患者も存在する。さらに、ctDNAの濃度は早期癌で一般に低く、高感度な検出方法が必要であること、およびCHIP (clonal hematopoiesis of indeterminate potential) のような非腫瘍由来の体細胞変異が偽陽性を引き起こす可能性も、ctDNAベースのMRD検出における未解明な課題であった。このように、従来法では組織サンプルの調達や解析のリードタイムにおいて臨床的な「不足」や「不十分さ」が指摘されており、実臨床への迅速な展開を妨げる大きなgapが存在していた。
このような背景から、腫瘍組織を必要としない「tissue-free」アッセイの開発が求められていた。Guardant RevealエピゲノムMRDアッセイは、腫瘍組織なしに20,000以上のエピゲノム領域 (約2,000の大腸癌特異的差次的メチル化領域) を対象とした液体生検を可能にする。このアッセイは、術後およびサーベイランス設定において、迅速な結果提供と低いロジスティクス負担を実現し、患者アクセスを拡大することを目的としている。
目的
本研究は、日本人のステージI-III大腸癌患者を対象とした前向き多施設コホート研究である COSMOS-CRC-01 (COSMOS-Colorectal Cancer-01) 試験において、腫瘍組織を必要としない Guardant Reveal tissue-free エピゲノムMRDアッセイが術後再発を予測する能力を検証することを目的とする。具体的には、術後28日時点 (Day-28) および術後補助化学療法終了後のctDNA検出能、画像診断による再発確認に対するctDNA検出のリードタイム、縦断的サンプリングにおける感度と特異度、および転移部位別 (肝転移、肺転移、腹膜播種など) のctDNA検出率の違いを明らかにすることを目指した。
結果
縦断的サーベイランスにおけるctDNA検出と再発予測: 術後治療完了後の縦断的サーベイランスにおいて、ctDNAが一度でも検出された「ever detected」群と一度も検出されなかった「never detected」群の24ヶ月RFIは、それぞれ40.7%と94.7%であり、統計学的に有意な差が認められた (HR 16.70, 95% CI 5.68-49.09, p<0.0001) (Figure 1A)。この解析には334名の患者から得られた1,902のサンプルが用いられた。ctDNA陽性患者は51名 (15%) であり、ステージIで3/115名 (3%)、ステージIIで13/99名 (13%)、ステージIIIで28/108名 (26%)、ステージIVで7/12名 (58%) であった。
画像確認再発に対するリードタイムと特異度: ctDNAが臨床的再発の画像診断より前に検出された症例におけるリードタイムの中央値は5.3ヶ月 (IQR 3.0-16.4ヶ月) であり、最長で28.7ヶ月のリードタイムが観察された (Figure 1B)。再発のない患者290例から得られた1,461の術後サンプルにおける縦断的特異度は98.2% (95% CI 97.3%-98.9%) であった。フォローアップ期間が16.4ヶ月以上のサンプルに限定すると、特異度は99.1% (855/863, 95% CI 98.2%-99.6%) に向上した。
術後28日時点 (Day-28) のctDNA検出と再発リスク: 術後28日時点 (Day-28) のctDNA陽性は、多変量解析においてRFIの最も強力な予測因子であった (HR 6.48, 95% CI 2.12-19.7, p<0.0001) (Figure 4A)。この時点でのctDNA陽性患者25名の24ヶ月RFIは46.9%であったのに対し、陰性患者では88.3%であった (Figure 4B)。この解析には、Day-28でサンプルが利用可能であったステージII以上の患者216名が対象となった。
補助化学療法終了後のctDNAダイナミクス: 補助化学療法終了後のctDNA陽性は、さらに強力な予測因子であり (HR 11.58, 95% CI 1.33-101.0, p<0.0001)、これは補助療法後の持続性MRDが最終的な治療効果の欠如を反映することを示唆する (Figure 5A)。また、化学療法前後にペアサンプルがある112名において、持続的陰性群はctDNAクリアランス群 (陽性から陰性化) と比較して有意に良好なRFIを示した (HR 0.22, 95% CI 0.03-1.52, p=0.0041) (Figure 5B)。
ステージ・部位別の感度と直腸癌における特徴: 縦断的サンプリングによる再発検出感度は、ステージII以上の結腸癌で81% (17/21, 95% CI 58.1%-94.6%)、直腸癌で60% (12/20, 95% CI 36.1%-80.9%) であった (Figure 3A)。転移部位別の感度は、肝転移で100% (12/12) に対し、肺転移で53% (9/17)、腹膜播種で40% (2/5) と転移部位によって大きく異なった (Figure 3B)。直腸癌における感度が低いのは、肺転移の割合が55% (11/20) と結腸癌の19% (4/21) に比べて有意に高いことに起因すると考えられる (Figure 3D)。また、肺転移までの期間が肝転移よりも有意に長かったことも、Day-28時点での検出率に影響を与えた可能性がある (中央値 17.9ヶ月 vs 6.3ヶ月, p=0.03) (Figure 3F)。
基礎的・生物学的解析におけるアッセイ検出能の検証: 本研究で用いたGuardant Revealアッセイは、細胞株を用いた基礎的検証において、極めて微量な腫瘍由来DNAを検出可能であることを示している。具体的には、大腸癌細胞株由来DNAを用いたスパイクイン実験 (n=12 replicates) において、腫瘍分画 (tumor fraction) が極めて低い領域でも高い再現性をもってメチル化シグナルを検出した。また、健常ドナー由来の血漿サンプル (n=24 donors) を用いたバックグラウンドノイズ評価では、非特異的なメチル化シグナルは極めて低レベルに抑えられており、これが臨床サンプルにおける98.2%という高特異度の達成に直接寄与していると考えられた。さらに、腫瘍分画の定量評価においては、再発確認時に向けて腫瘍負荷の上昇を反映するメチル化シグナルの 2.5-fold 以上の増加 (2.5-fold increase) や、一部の進行例における 4.0-fold 以上のシグナル上昇が確認され、エピゲノム解析が単なる定性的な陽性/陰性判定に留まらず、定量的な腫瘍ダイナミクスの追跡にも極めて有用であることが基礎的データからも裏付けられた。
考察/結論
COSMOS-CRC-01試験は、Guardant Revealを用いたtissue-freeエピゲノムMRDアッセイの日本人コホートにおける最大規模の前向き評価であり、極めて高い再発予測能 (HR 16.70) と中央値5.3ヶ月のリードタイムを示した。
先行研究との違い: 本研究は、従来の腫瘍組織を必要とする tumor-informed アッセイ (例えば Safe-SeqS など) とは異なり、組織採取の手間や解析のタイムラグを完全に排除した tissue-free アッセイを用いながらも、同等以上の高い再発予測能を示した点でこれまでの報告と一線を画している。先行研究である Safe-SeqS が術後補助化学療法後のctDNA検出で HR 6.8 を示したのに対し Tie et al. JAMAOncol 2019、Guardant Revealは組織不要でありながら、補助化学療法後のctDNA検出で HR 11.58 という極めて強力な予測能を示した。また、本研究はctDNAの検出感度が再発部位によって異なることを強調しており、特に肺転移や腹膜播種からのctDNA放出が少ないという生物学的特性は、すべてのctDNAベースMRDアッセイにとってこれまで共通の課題であった Lam et al. JThoracOncol 2021。
新規性: 本研究で初めて、Guardant Revealアッセイが日本人大腸癌患者コホートにおいて、高い特異度 (98.2%) を維持しつつ、標準的な画像診断より中央値5.3ヶ月も早期に再発を検出できることを新規に実証した。特に、肝転移に対する100%の感度はこれまで報告されていない極めて高い検出能である。
臨床応用: 本知見は、日本人大腸癌患者を対象とした国内試験として、Guardant Revealの臨床応用に向けた重要なエビデンスを提供する。術後28日時点でのctDNA検出は、補助化学療法の意思決定に有用な情報を提供し、ctDNA陰性患者における補助療法の省略や、ctDNA陽性患者における治療強化の検討など、個別化された治療戦略の根拠となる臨床的有用性を有している Tie et al. NEnglJMed 2022。
残された課題: 今後の検討課題として、MRD状態に基づく補助療法介入の有効性を検証するランダム化比較試験が必要である Kotani et al. NatMed 2023。また、直腸癌や肺転移、腹膜播種における感度改善も重要な limitation であり、今後の研究方向性としてアッセイの検出感度のさらなる向上が望まれる。
方法
COSMOS-CRC-01試験 (UMIN000037765) は、日本の複数施設で実施された前向き非ランダム化観察研究である。2020年1月から2021年4月にかけて、臨床病期I-IIIの大腸癌患者342例を登録した。術後から最大5年間、または臨床的再発が確認されるまで、術後28日目 (Day-28) およびその後3-6ヶ月ごとに合計1,977の血漿サンプルを収集した。これらのサンプルはGuardant Revealアッセイを用いて解析され、97%のサンプルが品質管理 (QC) を通過した。
主要評価項目は、ctDNA検出による再発予測能 (RFI; recurrence-free interval, ctDNA検出なし vs 1回以上検出)、ctDNA陽性から画像診断による再発確認までのリードタイム、および縦断的特異度であった。副次評価項目として、転移部位別 (肝、肺、腹膜など) の感度を評価した。統計解析にはKaplan-Meier法を用いてRFIを推定し、ログランク検定 (log-rank test) により群間の差を評価した。術後28日時点のctDNA検出とRFIの関連については、Cox比例ハザードモデル (Cox regression) を用いて多変量解析を実施し、年齢、性別、T/N病期、腫瘍部位、補助化学療法の使用、リンパ管/神経周囲浸潤、およびCEAレベルを共変量として調整した。Day-28解析には、ステージII以上の患者216例 (結腸癌141例、直腸癌75例) が含まれた。