• 著者: Christopher Abbosh, Nicolai J. Birkbak, Gareth A. Wilson, Mariam Jamal-Hanjani, Tudor Constantin, Raheleh Salari, John Le Quesne, David A. Moore, Selvaraju Veeriah, Rachel Rosenthal, et al.
  • Corresponding author: Charles Swanton (Francis Crick Institute; UCL Cancer Institute, London, UK)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-04-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28445469

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) は、世界的にがん関連死の主要な原因であり Jemal et al. CACancerJClin 2011、その治療成績の改善は喫緊の課題である。特に、原発巣切除後の再発予測と補助化学療法の適応決定は、個々の患者の予後を大きく左右する重要な要素であるが、現状のTNM病理ステージ分類のみでは精密な層別化が困難である。補助化学療法は、Pignon et al. JClinOncol 2008 のポールドアナリシス (LACE) によれば、全生存期間 (OS) をわずか5%改善するに過ぎず、治療を受けた患者の約20%が急性毒性を経験することが報告されている。この限られた生存利益は、腫瘍内不均一性 (intratumor heterogeneity: ITH) が低い低腫瘍量疾患の脆弱性を反映している可能性がある。

乳がんや大腸がんにおける先行研究では、術後血漿中のctDNA検出が、術後再発リスクの高い患者を臨床的パラメータよりも早期に特定できることが示されている。例えば、Newman et al. NatMed 2014 や Tie et al. (2016) は、それぞれ乳がんおよびステージII大腸がんにおいて、ctDNA解析が微小残存病変 (minimal residual disease: MRD) の検出と再発予測に有用であることを報告している。しかし、早期NSCLC(特にステージI〜II)においては、腫瘍量が少なくctDNA濃度が極めて低いため、従来の標的シーケンスでは感度が不十分であり、非侵襲的に腫瘍の進化的動態を追跡する能力は未確立であった。この領域には依然として知識の不足が残されている。

腫瘍組織の多領域エクソームシーケンス (multi-region exome sequencing: M-seq) は、腫瘍進化とITHを詳細に把握する上で強力なツールであるが、侵襲性が高く、反復的な評価には適さないという課題がある。一方、ctDNA解析は、腫瘍全体の遺伝情報を血漿から非侵襲的に取得できる可能性を秘めている。このギャップを埋めるため、本研究では、腫瘍の系統発生解析 (phylogenetic analysis) に基づき、腫瘍全細胞に共通するクローナル変異を標的とすることで感度を最大化できるという仮説を立て、早期NSCLCにおけるctDNA解析の有用性を検証する必要があった。特に、術後のMRDを特定し、ゲノム特性を明らかにすることで、再発リスクの高い患者のみに治療を集中させ、転移性再発の種となる進化するサブクローンを標的とする新たな治療戦略を開発するための知識が不足していた。

目的

本研究の目的は、TRACERx (Tracking Non-Small-Cell Lung Cancer Evolution Through Therapy (Rx), NCT01888601) 研究に登録された非小細胞肺がん (NSCLC) 患者コホートにおいて、腫瘍多領域シーケンスから系統発生的に選択したクローナル体細胞変異に基づく個別化ctDNA追跡アッセイ (multiplex-PCR NGS) を構築し、以下の3つの主要な目的を実証することである。

  1. 術前ctDNA検出の規定因子の解明: 早期NSCLCにおけるctDNA検出に影響を与える臨床病理学的因子を特定すること。
  2. 術後再発の分子的早期予測: 術後血漿中のctDNAプロファイリングにより、画像診断による再発確認よりも早期にNSCLCの再発を予測する能力を評価すること。
  3. 補助化学療法抵抗性クローンのリアルタイム追跡: 補助化学療法中のctDNA動態を追跡し、治療抵抗性を示す腫瘍サブクローンの出現と進化を非侵襲的に特性評価すること。

これらの目的を達成することで、早期NSCLC患者の術後管理において、ctDNA駆動型の精密医療アプローチの実現可能性を示すことを目指した。

結果

術前 ctDNA 検出率と組織型依存性: 術前血漿サンプルにおいて、96例中46例 (48%) で2つ以上のSNVが検出され、ctDNA陽性と判定された。さらに12例で1つのSNVが検出された。組織型別では、肺扁平上皮癌 (LUSC) の31例中30例 (97%)、その他のNSCLCの7例中5例 (71%) がctDNA陽性であったのに対し、肺腺癌 (LUAD) では58例中11例 (19%) にとどまった (Figure 2a)。ステージIのLUSCでは17例中16例 (94%) が陽性であったが、ステージIのLUADでは39例中5例 (13%) に過ぎなかった。多変量解析により、非腺癌組織型 (OR 40.76, 95% CI 4.55-365.14, p=0.001)、リンパ管浸潤 (OR 5.84, 95% CI 1.07-32.03, p=0.042)、高Ki67増殖指数 (OR 1.40, 95% CI 1.05-1.84, p=0.022) がctDNA検出の独立した予測因子として同定された。PET FDG集積度もctDNA検出を予測し (AUC=0.84, p<0.001, n=92 patients)、検出された腫瘍のPET TBR (tumor-to-background ratio) 中央値は9.01、未検出の腫瘍では3.64であった。LUADにおけるドライバー変異 (KRAS, EGFR, TP53) はctDNA検出と関連しなかった (p>0.4)。

腫瘍体積と ctDNA 量の定量的関係: ctDNA陽性患者46例中37例でCT体積解析が可能であり、腫瘍体積とクローナルSNVの平均血漿VAFは有意に相関した (Spearman’s ρ=0.63, p<0.001, n=37 patients) (Figure 3a)。線形モデルによれば、腫瘍体積10 cm³の場合、クローナルSNVの平均血漿VAFは0.1% (95% CI: 0.06-0.18%) と予測された。1 cm³あたり9.4×10⁷個の腫瘍細胞が含まれると仮定すると、VAF 0.1%は3億20万個の腫瘍細胞負荷に相当する。低線量CTスクリーニングで検出可能な直径4 mm (体積0.034 cm³) の結節では、理論上VAF 1.8×10⁻⁴%と推計され、現行プラットフォームの検出限界の外縁に位置する。サブクローナルSNVについては、共有サブクローン (複数腫瘍領域に存在) の57例中35例 (61%) がctDNAで検出されたのに対し、私的サブクローン (単一領域のみ) では80例中26例 (33%) にとどまった (p<0.001)。検出されたサブクローンの推定有効体積の中央値4.06 cm³ (範囲0.31〜49.20 cm³) は、未検出サブクローンの1.70 cm³ (範囲0.21〜24.11 cm³) より有意に大きく (p<0.001)、サブクローン体積がctDNA検出の重要な規定因子であることが示された (Figure 3c)。

術後 ctDNA と再発予測 (縦断コホート): 縦断コホート24例(再発14例、再発なし10例)のブラインド解析において、確定再発14例中13例 (93%) でCT画像診断による再発確認前または同時にctDNA陽性が検出された (Figure 4a-g)。再発のない10例では1例のみ (10%) がctDNA陽性となり、高い特異度を示した。ctDNA陽性からCT確定再発までの中央値リードタイムは70日 (範囲10〜346日) であり、4例ではリードタイムが6ヶ月を超えた。2例では、ctDNA検出がCT画像診断で不確定なNSCLC再発を157日 (CRUK0004) および163日 (CRUK0045) 先行して検出された。CRUK0029では、術後ctDNAが検出され続け、術後54日で頭蓋内転移と診断されたが、CT画像では頭蓋外病変は認められなかった (Figure 4e)。

補助化学療法抵抗性クローンの追跡: 補助化学療法中のctDNA動態追跡により、CRUK0080、CRUK0004、CRUK0062の3例では、術後30日以内にctDNAが検出可能であり、補助化学療法中にも検出SNV数が増加し続け、1年以内に再発した (Figure 4a-c)。これは治療抵抗性クローンの選択圧を非侵襲的に捉えたことを意味する。CRUK0004では、ctDNAが再発前157日から陽性化し、再発サブクローンにERBB2 (HER2) 増幅 (15コピー以上、三倍体背景) が同定され、潜在的な治療標的の同定が可能であることを示した (Figure 4b)。一方、CRUK0013では術後72時間のctDNAが20 SNV陽性、補助化学放射線療法前に13 SNV陽性であったが、治療後51日で陰性化し、術後688日の時点でも再発なく、補助化学放射線療法への応答がctDNAで確認された (Figure 4h)。

転移設定での系統発生追跡 (PEACE post-mortem): 死亡24時間後の剖検解析が可能だったCRUK0063では、原発腫瘍5領域、再発生検 (術後467日)、6転移領域 (術後857日) のM-seqデータを統合した103-SNVアッセイパネルにより転移サブクローンを縦断追跡した。全7転移領域は単一の祖先サブクローン (cluster 8) に由来し、6転移領域が後にcluster 12を共有した (Figure 6a, b)。術後151日のctDNAでは2つのクローナルSNVが検出され、19-SNVパネルの検出より189日早く陽性化した。緩和的放射線化学療法への反応としてクローナルVAFの低下が確認されたが、死亡90日前に傍大動脈転移の進行に対応するSNV増加が観察された (Figure 6c)。この増加は、傍大動脈転移に特異的なサブクローン (cluster 5および9) の検出と一致した。この解析では、103個のSNVをテストしたため、偽陽性率を制御するためにSNV検出閾値が調整された。

考察/結論

本研究は、腫瘍多領域WESに基づく系統発生的設計の個別化ctDNAアッセイ (TRACERx multiplex-PCR NGS) が、早期NSCLC (ステージI〜III) の術前・術後管理に有用であることを初めて実証した画期的な研究である。術前ctDNA検出率48%は組織型依存的であり (LUSC 97% vs LUAD 19%)、小径腫瘍では感度の限界が存在するものの、術後のMRDモニタリングにおけるリードタイム中央値70日は臨床的に意義深い。

先行研究との違い: これまでのctDNA研究の多くが進行がんや転移性がんを対象としていたのに対し、本研究は手術適応の早期NSCLCへの適用を拡張した点で独自性を持つ。特に、腫瘍の系統発生ツリーに基づき、すべての腫瘍細胞に共通するクローナル変異を標的とすることで感度を最大化するという設計概念は、その後のMRDモニタリングの標準的アプローチに発展した。また、単一変異ではなく2つ以上のSNV検出を陽性閾値とすることで、タイプIエラーを最小化しながら感度99%・特異度99.6%を両立させた点も方法論上の重要な貢献である。乳がんや大腸がんにおけるMRD ctDNAの先行研究と一致する観察が肺がんでも確認されたことで、液体生検アプローチの適用範囲が拡大した。

新規性: 本研究で初めて、早期NSCLCにおけるctDNA検出の臨床病理学的規定因子(非腺癌組織型、リンパ管浸潤、高Ki67増殖指数、PET FDG集積度)を同定した。また、腫瘍体積とctDNA VAFの間に明確な定量的関係があることを示し、ctDNA検出の理論的限界を推定したことも新規な知見である。さらに、補助化学療法中の治療抵抗性クローンの出現をリアルタイムで追跡し、ERBB2増幅のような潜在的な治療標的を非侵襲的に同定できることを示した点は、ctDNA駆動型治療研究の新たなアプローチを提供する。

臨床応用: 現在、補助化学療法のみでOS改善が5%にとどまる現状において、ctDNA陽性患者 (MRD確認患者) への治療強化(例:補助免疫療法追加)や、ctDNA陰性患者への過剰治療回避は合理的な精密医療戦略となる。ctDNAが同定した抵抗性クローン(例:ERBB2増幅)に対する標的治療の可能性も示唆され、臨床現場での個別化治療への道を開く。費用面では、1患者あたり個別アッセイ設計と5血漿サンプル解析で約1,750ドル(2017年時点)と見積もられており、個別化設計の臨床普及には経済的障壁があるものの、その臨床的有用性はコストを上回る可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、個別化アッセイには腫瘍WES解析が前提であるため、その普及にはコストと時間的な制約がある。また、低線量CTで検出可能な4 mm結節レベルの超早期NSCLCでは、理論上ctDNA検出感度に限界があること、LUADでの術前検出率が19%と低いことが挙げられる。これらの課題を克服するためには、さらなる技術開発と大規模な検証研究が必要である。本研究はTRACERxコンソーシアムの基盤研究として、後続の大規模観察・介入試験の礎となり、肺がんにおけるctDNA MRDモニタリング研究の方向性を形成した。

方法

本研究では、TRACERx研究に登録された100例のNSCLC患者(ステージI〜III)を対象とした。このコホートは、Jamal-Hanjani et al. NEnglJMed 2017 で報告された100例のコホートと同一である。すべての患者からインフォームドコンセントを取得し、研究は独立した倫理委員会(13/LO/1546)の承認を得て実施された。

腫瘍多領域エクソームシーケンスと系統発生解析: 各患者の原発腫瘍から複数領域の組織サンプルを採取し、全エクソームシーケンス (WES) を実施した。これにより、腫瘍内不均一性 (ITH) を考慮した系統発生ツリーを構築した。系統発生ツリーは、Pycloneの改変版を用いてSNVの癌細胞分画 (cancer cell fraction: CCF) に基づいてクラスタリングし、CITUP (Clonality Inference in Multiple Tumor Samples Using Phylogeny) ツール (0.1.0) を用いて構築された。

個別化ctDNAアッセイ設計: 構築された系統発生ツリーに基づき、各患者に特異的な多重PCRパネルを設計した。このパネルは、すべての腫瘍領域に共通するクローナル体細胞変異 (trunk mutations) を中央値11個 (範囲2〜20)、およびサブクローナル変異を中央値6個 (範囲0〜16) 含むように設計された。1パネルあたりの標的SNV数は中央値18個 (範囲10〜22) であった。

ctDNA検出プラットフォームの分析的バリデーション: 合成SNVスパイクを用いた分析的バリデーションにより、本多重PCR NGSプラットフォームは、バリアントアレル頻度 (VAF) 0.1%以上のSNVに対して99%を超える感度と99.6%の特異度を示すことが確認された。ctDNA陽性の閾値は、タイプIエラーを最小化するため、2つ以上のSNV検出と設定された。この閾値は、単一SNV検出の場合の偽陽性リスクを考慮し、最大30個の腫瘍特異的SNVを同時にテストする際のタイプIエラーを最小限に抑えるために選択された。

血漿サンプル採取とctDNA抽出: 術前、術後4週、および定期フォローアップ時に血漿サンプルを採取した。血漿は採取後2時間以内に二重遠心分離により処理され、-80°Cで保存された。cfDNAはQIAamp Circulating Nucleic Acid kitを用いて抽出された。最大5 mlの血漿が利用可能であり、全量がcfDNA抽出に用いられた。

ctDNAライブラリ調製とシーケンス: 抽出されたcfDNAはNatera Library Prep kitを用いてライブラリ調製され、多重PCRにより増幅された。増幅産物はバーコード化され、Illumina HiSeq 2500 Rapid Runを用いてシーケンスされた。平均リード深度は1アッセイあたり約40,000であった。

バイオインフォマティクス解析とSNVコール: ペアエンドリードはPearを用いてマージされ、Novoalign (version 2.3.4) を用いてhg19参照ゲノムにマッピングされた。SAMtools (Li et al. Bioinformatics 2009) を用いてソートおよびインデックス化された。SNVコールには、ポジション特異的エラーモデルに基づく信頼度スコアが用いられ、トランジションに対して95%、トランスバージョンに対して98%の閾値が設定された。CRUK0063の剖検解析では、標的SNV数が多いため、偽陽性を制御するためにコール閾値が更新された。

統計解析: サンプルサイズは事前に決定されなかった。解析はR統計環境 (version 3.2.3) およびSPSS (version 24) で実施された。すべての統計検定は両側検定であった。ctDNA検出の規定因子を特定するため、多変量ロジスティック回帰分析が用いられた。PET FDG集積度とctDNA検出の関連は、受信者動作特性 (ROC) 曲線分析により評価された。腫瘍体積とctDNA VAFの関係は、ログ変換後の線形回帰分析により評価された。