• 著者: Ankita Chakravarthy, Andrew Henderson, Paul D. Theriault, Mehdi Meijer, Irene V. Sriram, Sooraj Rajasekaran, Nathan West, Grantley Charles, Yue Zhao, Trung Nghia Vu, Jinhyeon Park, Sohrab Shah, Mark Lathorm, Tim R. Fenton
  • Corresponding author: Tim R. Fenton (University of Kent, Canterbury, UK; email: t.fenton@kent.ac.uk)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-08-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30104673

背景

腫瘍微小環境 (TME) の細胞組成、特に細胞傷害性T細胞 (CTL) 浸潤や線維芽細胞比率は、癌の予後と治療効果を大きく規定する重要な因子である。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) が複数のがん種で劇的な治療効果を示しているが、その応答率は癌種や患者によって大きく異なり、信頼性の高い予測バイオマーカーの確立が喫緊の課題となっている。例えば、Le et al. NEnglJMed 2015Rizvi et al. Science 2015は、ミスマッチ修復欠損や高い変異負荷がICB応答と関連することを示唆しているが、これらのみでは全ての患者の応答を予測するには不足している。

腫瘍細胞組成の定量的推定には、フローサイトメトリーや免疫組織化学的評価が一般的に用いられる。しかし、これらの手法は新鮮な腫瘍組織の入手が困難であること、特定の細胞型に対する確立されたマーカーが未解明であること、そしてコストや労力が高いといった問題がある。特に、コラーゲンが豊富な腫瘍では細胞の解離自体が困難となる場合も多い。これらの課題を克服するため、遺伝子発現データを用いたin silicoデコンボリューション法が開発されてきた。代表的なものとして、サポートベクター回帰に基づくCIBERSORT (Newman et al. NatMethods 2015) が挙げられるが、RNAの品質への依存性やホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体への適用限界が問題として残されている。

DNAメチル化は、細胞分化過程で確立された細胞型特異的なパターンを安定して保持する特徴を持つ。また、RNAと比較して化学的に堅牢であり、FFPE検体からも信頼性の高いデータが得られる利点がある。The Cancer Genome Atlas (TCGA) などの大規模な公開メチル化データが蓄積されており、これらを活用することで大規模な遡及的解析が可能となる。本研究は、CIBERSORTの原理である細胞型特異的シグネチャーへの混合モデル適合を、ゲノムワイドDNAメチル化データに拡張する「MethylCIBERSORT」の開発を中核的なアイデアとしている。これにより、既存の遺伝子発現ベースの手法が抱える限界を克服し、より広範な臨床検体への適用を目指す。

目的

本研究の目的は、ゲノムワイドDNAメチル化データから腫瘍組成をデコンボリューションする新規手法MethylCIBERSORTを開発し、その精度と汎用性を検証することである。具体的には、まず頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC) の大規模コホートを用いてMethylCIBERSORTの主要な検証を行い、腫瘍純度推定および免疫細胞浸潤の評価におけるその性能を明らかにする。次に、TCGAの汎癌種データセットにMethylCIBERSORTを適用し、腫瘍の免疫表現型 (immune hot/cold) を分類し、これらと臨床アウトカム、ゲノム変異との関連性を包括的に解析する。さらに、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療に対する非奏効の分子基盤を解明し、ICB反応性を予測するための候補バイオマーカーおよび免疫コールド腫瘍を免疫ホット腫瘍へ転換するための治療標的を同定することを目指す。最終的には、精密免疫療法の開発に資する新たな知見を提供することを目標とする。

結果

MethylCIBERSORTの技術的精度と腫瘍純度推定: フローサイトメトリーで組成が確認されたPBMC (Peripheral Blood Mononuclear Cells) 混合物を用いた検証において、MethylCIBERSORTによる細胞型推定値と実測値のPearson相関係数はR=0.986 (p<2.2×10⁻¹⁶) と極めて高い精度を示した (Fig. 1a)。これは、RNA発現ベースのCIBERSORT (LM22 basis matrix) と比較して、MethylCIBERSORTが細胞型レベル (Fig. 1b) およびサンプルレベル (Fig. 1c) の双方で高い相関を示し、絶対誤差も有意に低かった (Fig. 1d)。HNSCC 464例における腫瘍純度推定では、MethylCIBERSORTとABSOLUTE法とのSpearman相関係数はR=0.82であり、LUMPやESTIMATEといった他の既存手法を上回る高い一致度を示した (Fig. 1e)。特に、LUMPとESTIMATEが低腫瘍純度サンプルで腫瘍細胞含有量を過大推定する傾向があった (FDR<2.2×10⁻¹⁶) のに対し、MethylCIBERSORTは純度80%以上の高純度例でのみわずかな乖離が見られた。FFPE検体と新鮮凍結検体 (n=21) 間でも非常に高い相関が確認され、本手法がアーカイブ検体にも適用可能であることが示された (Supplementary Figure 2d)。

HNSCCにおける免疫ホット/コールド分類と予後: MethylCIBERSORTはHNSCC 464例を、免疫細胞浸潤パターンに基づいてimmune hotとimmune coldの2つの明確なクラスターに分類した (Fig. 2a)。immune hot腫瘍は、高CTL浸潤、高Treg比率、高細胞傷害活性スコア (Fig. 2c)、高クローナルネオアンチゲン量 (OR=1.56, p<5.5×10⁻⁸) を特徴とした。一方、immune cold腫瘍は、低免疫浸潤、高線維芽細胞含有量 (平均fold change 1.35, FDR<5×10⁻⁷)、およびPTEN欠失、MYC増幅、EGFR増幅、KRAS変異の富化を示した。HPV陰性HNSCCでは、immune hotクラスターが統計的に有意に良好な予後を示した (Log rank p<0.001, Fig. 1h)。HPV陽性HNSCCはほぼ全例がimmune hot表現型を示し、その良好な予後と一致した。

免疫ホット腫瘍における耐性ゲノム変異の存在: 治療未経験のhot腫瘍においても、ICB耐性と関連するゲノム変異が高頻度に検出された。具体的には、抗原提示に関わるB2MやHLA-A、アポトーシスに関わるCASP8、インターフェロンシグナル伝達に関わるJAK1の変異がhot腫瘍で有意に富化していた (OR=11.75, p<0.0004, Fisher’s Exact Test, Fig. 5c)。CASP8変異は、リンパ球によって誘導されるアポトーシスを回避する役割が示唆されており、高い免疫細胞傷害活性を持つ腫瘍で富化していることは、適応免疫細胞の存在による選択圧の増加を反映していると考えられる。この知見は、「hot腫瘍の中にもICBに反応しない症例が存在する」という臨床的課題の分子的基盤を説明するものであり、hot/coldの二項分類だけではICB応答の予測が十分でないことを示唆する。

ICB反応予測との関連: メラノーマICBコホート (抗CTLA-4および抗PD-1治療) の解析において、ICB奏効者ではimmune hot転写シグネチャースコアが有意に高かった (p<0.05, Fig. 4b, c)。特に、治療後の生検でhot signatureが維持または強化された患者が奏効し、coldシグネチャー (特にEGFR下流の有酸素解糖遺伝子発現モジュール) が非奏効者で富化された。CTL/Treg比および細胞傷害活性スコアもICB奏効と相関した。しかし、hot/cold分類、総変異負荷、または予測されるClass Iネオアンチゲン負荷のいずれも、単独ではICB応答の信頼性の高い予測因子とはならなかった (Fig. 4e)。

汎癌種解析における免疫表現型の普遍性: TCGA 21腫瘍型7596例の解析により、各腫瘍型内でimmune hot/coldの連続スペクトルが普遍的に存在することが示された (Fig. 3a)。immune hot表現型は多くの腫瘍型で良好な予後と関連した。immune cold表現型では、PTEN欠失 (PI3K-AKT経路)、MYC増幅、EGFR増幅が汎癌種規模で一貫して富化しており (Fig. 5d)、これらが免疫排除の分子基盤として機能する可能性が示唆された。特に、EGFR高発現のHNSCCはTIL低浸潤である可能性が有意に高かった (p<0.05およびp<0.01, Fig. 5e)。また、EGFRレベルと解糖系共発現シグネチャーのssGSEAスコアの間には正の相関が認められ (Fig. 5f)、この解糖系シグネチャーはPD-1阻害後の進行性メラノーマで富化し (p=0.06, Fig. 5g)、ICB応答と関連するhot転写シグネチャーとは逆相関を示した (Rho=-0.44, Fig. 5h)。

免疫編集とTCRレパートリー: 免疫ホット腫瘍では、免疫編集の有意な富化が認められた (OR=1.28, p=0.001)。また、免疫ホット腫瘍ではTCRレパートリーの多様性が有意に高かった (p<2.2×10⁻¹⁶, Fig. 3d)。これは、より広範な免疫応答が、このグループにおけるネオアンチゲンのより大きな枯渇の根底にある可能性を示唆している。

Th1/M1応答と免疫抑制性細胞の関連: 汎癌種解析において、hot腫瘍ではTh1サイトカイン (IFNG, CCL4, CCL5, CXCL9, CXCL10) および共刺激・共抑制受容体の発現が亢進しており、リンパ球活性化の状態が示唆された (Fig. 3e)。発現ベースのCIBERSORTを用いた解析では、hot腫瘍でTh1細胞が、cold腫瘍でTh2およびTh17細胞が富化していることが示された (Fig. 3f)。また、hot腫瘍ではM1マクロファージの割合がM2マクロファージと比較して有意に高かった (p=2.2×10⁻¹⁶, Fig. 3g)。これらの結果は、Th1サイトカインシグナル伝達プログラムが免疫ホット状態の確立に寄与し、MDSC (Myeloid-Derived Suppressor Cells) やTh2/Th17プログラムがコールド腫瘍をホット状態に転換するための標的となりうることを示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、既存のRNA発現ベースデコンボリューション手法がRNAの品質やFFPE検体への適用限界といった課題を抱えていたと異なり、DNAメチル化の化学的堅牢性を利用することで、これらの限界を克服し、より広範な臨床検体への適用を可能にした。特に、腫瘍純度推定においてABSOLUTE法との相関がR=0.82と最高値を示し、既存のRNAベース手法よりも高精度であった。

新規性: 本研究で初めて、PTEN欠失、MYC増幅、EGFR増幅が免疫cold表現型と汎癌種で一貫して関連することを発見した。これは、これらのゲノム変異が腫瘍内免疫排除の「ドライバー」として機能する可能性を強く示唆する。PI3K-AKT経路の活性化は、T細胞機能抑制や免疫抑制性サイトカイン産生を介した免疫逃避メカニズムとして先行研究でも示唆されており、本研究はメチル化ベースの汎癌種解析でこの関連性を大規模に支持した。また、hot腫瘍においても治療前からICB耐性に関連するゲノム変異 (B2M, HLA-A, CASP8, JAK1変異など) が高頻度に検出されたことは、これまで報告されていない重要な知見であり、hot腫瘍内でのICB応答の異質性を説明する分子的基盤を提供する。

臨床応用: 本知見は、ICB応答予測のための複合バイオマーカー開発に直結する。単純なhot/cold分類を超え、CTL/Treg比、クローナルネオアンチゲン量、PTEN欠失、免疫解糖スコアなどを組み合わせた多因子モデルの構築が次のステップとなる。特に、免疫cold腫瘍におけるEGFR/MYC増幅やPTEN欠失と解糖系亢進の関連は、これらの経路を標的とした薬剤 (例: PI3K阻害薬) とICBの併用療法により、cold腫瘍を「hot化」し、ICB応答性を向上させるという臨床応用に繋がる可能性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、血漿cfDNAメチル化へのMethylCIBERSORTの適用による非侵襲的なTME評価の可能性が挙げられる。これは本研究では未検証であるが、後続のcfDNAメチル化デコンボリューション研究へと発展する方向性である。また、単細胞メチル化シーケンス (scWGBS) との統合によるより精細な細胞型分解能の実現、そして前向き臨床試験におけるICB反応予測バイオマーカーとしての検証が重要である。MethylCIBERSORTの公開実装は、TME解析の新たな標準ツールとなる可能性を秘めている。

方法

MethylCIBERSORTの開発とリファレンス行列の構築: MethylCIBERSORTは、CIBERSORTのカスタムR実装にDNAメチル化データを入力するパイプラインとして開発された。リファレンス行列の構築には、7種類の免疫細胞型 (T細胞、B細胞、NK細胞、単球、好中球、好酸球) および線維芽細胞、上皮細胞のin vitro純粋培養またはFACS分取細胞から得られたゲノムワイドメチル化アレイ (Illumina 450k/EPIC) データが用いられた。各細胞型間でメチル化レベルに有意差を示すCpGサイト (MVPs: Methylation Variable Positions) を選択し、最大100個のMVPsを各ペアワイズ比較から抽出し、ベータ値をパーセンテージに変換してCIBERSORT用のシグネチャー行列を作成した。

PBMC混合物によるベンチマーク検証: MethylCIBERSORTの推定精度は、フローサイトメトリーで細胞組成が確認された公開PBMC混合物のメチル化データを用いて評価された。推定値と実測値のPearson相関係数、およびRNA発現ベースのCIBERSORT (LM22: Leukocyte Methylation 22リファレンス行列) との比較により、細胞型レベルおよびサンプルレベルでの相関と絶対誤差が評価された。

HNSCCコホートでの検証: TCGA由来のHNSCC 464例 (HPV+/HPV-) のメチル化アレイおよびRNA-seqデータを用いて、MethylCIBERSORTの性能が検証された。腫瘍純度推定は、ゴールドスタンダードとされるABSOLUTE (Absolute quantification of somatic DNA alterations) 法 (Mermel et al. GenomeBiol 2011) と比較され、LUMP (Leukocyte Unmethylation for Purity) やESTIMATE (Yoshihara et al. NatCommun 2013) といった既存手法との優位性が評価された。また、MethylCIBERSORTが推定した免疫浸潤スコアと臨床アウトカム (全生存期間) との関連性が、多変量Cox回帰モデルを用いて解析された。

汎癌種解析: TCGAの21腫瘍型7596例にMethylCIBERSORTを適用し、メチル化から推定された免疫スコアに基づいてコンセンサスPAMクラスタリングを実施した。これにより、各腫瘍型内でのimmune hot/cold分類が行われ、これらの免疫クラスターと予後、ゲノム変異 (体細胞変異、コピー数異常) との関連性が解析された。特に、PTEN欠失、MYC増幅、EGFR増幅などのドライバー遺伝子変異と免疫クラスターとの関連が詳細に調べられた。

ICB反応性バリデーション: メラノーマのICB治療コホート (抗CTLA-4および抗PD-1治療) において、MethylCIBERSORTで定義されたimmune hot転写シグネチャースコアとICB応答・非応答者との関連が評価された。ssGSEAスコアを用いてhotシグネチャーの発現レベルが定量化され、ロジスティック回帰により応答予測能が分析された。

免疫編集とTCRレパートリー解析: 免疫ホット腫瘍における免疫編集の程度は、観察されたネオアンチゲンと非サイレント変異の比率の減少として定量化された。また、T細胞受容体 (TCR) レパートリーデータ (Gentles et al. NatMed 2015) と統合し、免疫ホット腫瘍におけるTCR多様性が評価された。

遺伝子発現解析と経路解析: ホット腫瘍とコールド腫瘍間の差次的発現遺伝子 (DEGs) は、limma-trend解析により同定された。Ingenuity Pathway Analysis (IPA) を用いて、DEGsが関与する主要なシグナル経路や生物学的機能が解析され、特にTh1/Th2応答やマクロファージのM1/M2分極との関連が評価された。