- 著者: Daisuke Kotani, Eiji Oki, Yoshiaki Nakamura, Hiroki Yukami, Saori Mishima, Hideaki Bando, Hiromichi Shirasu, Kentaro Yamazaki, Jun Watanabe, Masahito Kotaka, et al.
- Corresponding author: Eiji Oki, MD, PhD (Kyushu University, Fukuoka, Japan) / Takayuki Yoshino, MD, PhD (National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-01-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 36646802
背景
切除可能大腸癌 (CRC) の患者は、標準治療にもかかわらずステージII〜IIIで30%以上、ステージIVや再発後の残存腫瘍切除後では60〜70%が再発を経験する。補助化学療法 (ACT) はステージIII大腸癌の全患者に推奨されているが、集団全体における再発率の絶対的減少は10〜15%に過ぎず、治療の受益者を正確に特定する精度が不足していた。米国臨床腫瘍学会 (ASCO) の声明でも指摘されているように、従来のTNM分類に基づく「ハイリスクステージII」の定義は不適切であり、高リスク特徴を持つ多くの患者が再発しない一方で、平均リスクと分類される患者の一部が再発するというパラドックスが長年続いていた。このため、ACTの過剰治療や過小治療のリスクが懸念されていた。
近年、循環腫瘍DNA (ctDNA) を用いた分子的残存病変 (MRD) 検査が、術後のリスク層別化とACT選択の精度向上に有望なバイオマーカーとして注目されてきた。複数の後向き研究や小規模前向き研究でその有用性が示唆されてきたものの、1,000例規模の大規模な前向き検証はこれまで存在せず、その臨床的意義は未解明な部分が残されていた。特に、ctDNAガイド下でのACTの有効性を大規模コホートで検証し、ctDNA陰性患者におけるACTの省略可能性を評価することは、臨床現場における重要な課題であった。
CIRCULATE-Japan研究は、日本全国92施設が参加する大規模なレジストリとして計画され、GALAXY観察コホートはその中核をなす。本研究は、GALAXYコホートの中間解析結果 (n=1,039、追跡期間中央値16.74ヶ月) を報告するものであり、術後ctDNAの状態が再発リスク予測およびACTの有効性予測にどのように寄与するかを前向きに評価することを目的としている。これにより、従来の臨床病理学的因子では捉えきれなかった、より精緻なリスク層別化と個別化治療戦略の確立に向けた重要な知見を提供することが期待される。先行研究であるTie et al. NEnglJMed 2022やTie et al. JAMAOncol 2019は、ctDNAの予後予測能を示していたが、本研究はより多様な病期と大規模な患者群を対象としている点で独自性を持つ。また、Powles et al. Nature 2021は尿路上皮癌におけるctDNAガイド下免疫療法の有効性を示しており、腫瘍種を超えたctDNAの普遍的な有用性を示唆する。しかし、大腸癌におけるACTの個別化に関する大規模な前向きデータは不足しており、本研究はそのギャップを埋めるものである。
目的
本研究の目的は、CIRCULATE-Japan (大腸癌術後補助療法を最適化するための循環腫瘍DNAガイド下適応プラットフォーム試験) GALAXY (観察コホート) において、以下の4点を前向きに検証することである。
- 術後ctDNA陽性/陰性による再発リスク予測能の評価: 根治術後4週時点のctDNA状態が、大腸癌患者の再発リスクをどの程度正確に予測できるかを明らかにすること。特に、従来の臨床病理学的因子と比較した際のctDNAの予後予測能を評価する。
- ctDNA陽性患者における補助化学療法 (ACT) の有効性検証: 術後4週時点でctDNA陽性であった患者において、ACTが再発抑制に有意な効果を示すかを検証すること。また、その効果が病理ステージ間で一貫しているかを確認する。
- ctDNA陰性患者におけるACTの有効性評価: 術後4週時点でctDNA陰性であった患者において、ACTが再発抑制に有意な上乗せ効果をもたらすかを評価すること。これにより、ACTの省略可能性に関するエビデンスを構築する。
- ctDNAダイナミクスと予後の関連性およびctDNAクリアランスとACTの関連性: 術後4週から12週にかけてのctDNA状態の変化 (持続陽性、持続陰性、陽性から陰性への転換、陰性から陽性への転換) が患者の予後にどのように影響するかを解析すること。さらに、ACTがctDNAクリアランスの達成に与える影響と、クリアランス達成が予後に及ぼす影響を評価すること。
これらの目的を達成することで、ctDNAガイド下の大腸癌個別化治療戦略の確立に向けた重要なエビデンスを提供することを目指す。
結果
術後4週時点のctDNA陽性状態と再発リスク: 術後4週時点でctDNA陽性であった患者は全体の18.0% (187/1,039例) であり、ctDNA陰性患者は82.0% (852/1,039例) であった。ctDNA陽性群の18ヶ月DFSは38.4% (95% CI 31.4-45.5%) であったのに対し、ctDNA陰性群では90.5% (95% CI 88.3-92.3%) と著明に良好であった (HR 10.0, 95% CI 7.7-14.0, p<0.0001) (Figure 2a)。追跡期間中に、ctDNA陽性群の61.4% (115/187例) が再発したのに対し、ctDNA陰性群では9.5% (81/852例) のみが再発した。この傾向は、病理ステージ別のサブグループ解析でも一貫して確認された。具体的には、ステージI (HR 37.0, 95% CI 3.3-420.0, p=0.004)、ステージII (HR 18.0, 95% CI 8.7-35.0, p<0.0001)、ステージIII (HR 9.6, 95% CI 5.8-16.0, p<0.001)、ステージIV (HR 5.9, 95% CI 3.9-9.0, p<0.0001) であった (Extended Data Fig. 3a-d)。ステージII〜III患者を対象とした多変量解析では、術後4週時点のctDNA陽性状態が再発リスクと関連する最も強力な予後因子であり (adj HR 10.82, 95% CI 7.07-16.6, p<0.001)、T・N分類を含む既存の臨床病理学的因子はいずれも有意な関連を示さなかった (Figure 2b)。
ctDNAとCEAの再発予測能の比較: 術後12週時点でctDNAとCEAの両方が評価可能であった804例のうち、18.7% (150/804例) で両者の結果が不一致であった。ctDNA陽性かつCEA陰性の83例では70% (58/83例) が再発したのに対し、CEA陽性かつctDNA陰性の67例では12% (8/67例) の再発にとどまった (Figure 2c)。この結果は、ctDNAがCEAよりも再発予測において実質的に優れていることを示唆する。
ctDNA陽性患者における補助化学療法 (ACT) の有効性: ハイリスクステージIIまたはステージIIIで術後4週時点でctDNA陽性であった患者において、ACTはDFSを大幅に改善した (adj HR 6.59, 95% CI 3.53-12.3, p<0.001) (Figure 3a)。この有益効果は、ハイリスクステージII (adj HR 5.84, 95% CI 1.36-25.1, p=0.018)、ステージIII (adj HR 7.02, 95% CI 3.46-14.2, p<0.0001)、ステージIV (adj HR 4.0, 95% CI 1.85-8.8, p<0.0001) の各ステージサブグループで一貫して認められた (Extended Data Fig. 5a-c)。ctDNA陽性のステージII〜IV患者の多変量解析では、ACT非施行が最も有意な不良予後因子であった (adj HR 5.03, 95% CI 3.17-8.0, p<0.001) (Extended Data Fig. 5d)。
ctDNA陰性患者におけるACTの有効性: 一方、術後4週時点でctDNA陰性であったハイリスクステージIIまたはステージIII患者 (n=531 patients) では、ACTによる有意なDFS改善効果は認められなかった (adj HR 1.71, 95% CI 0.80-3.7, p=0.167) (Figure 3b)。ACT群の18ヶ月DFS (94.9%, 95% CI 91.0-97.2%) と観察群 (91.5%, 95% CI 87.6-94.2%) の差は3.4ポイントに過ぎず、統計的にも臨床的にも有意ではなかった。術後8週時点のランドマーク解析でも同様のパターンが確認された。ctDNA陽性患者ではACTが有意な効果を示した (adj HR 5.19, 95% CI 2.57-10.5, p<0.0001) のに対し、ctDNA陰性患者では有意な効果は認められなかった (adj HR 1.84, 95% CI 0.84-4.0, p=0.129) (Extended Data Fig. 6a, b)。
ctDNAダイナミクスと予後: 術後4週から12週までのctDNAダイナミクスを評価できた838例において、持続陰性群 (n=660 patients, 78.8%) を参照として、陰性から陽性へ転換した群 (n=32 patients, 3.8%) は18ヶ月DFS 33.8% (95% CI 18.1-50.2%, HR 14.0, 95% CI 8.5-24.0, p<0.001) と著しく不良な予後を示した。陽性から陰性へ転換した群 (n=62 patients, 7.4%) は18ヶ月DFS 81.4% (95% CI 68.6-89.3%, HR 2.3, 95% CI 1.2-4.4, p=0.012) であり、持続陽性群 (n=84 patients, 10%) は18ヶ月DFS 22.9% (95% CI 14.3-32.7%, HR 21.0, 95% CI 14.0-31.0, p<0.001) と最も不良な予後を呈した (Figure 4)。
ctDNAクリアランスとACT: 術後4週時点でctDNA陽性であった182例のうち、ACT群92例と観察群90例を比較した。ACT群では術後24週時点までにctDNAクリアランスを達成した割合が68.5% (63/92例) であったのに対し、観察群では12.2% (11/90例) に過ぎなかった (adj HR 8.50, 95% CI 4.2-17.3, p<0.0001) (Figure 5a)。さらに、ACT施行のctDNA陽性例において、ctDNAクリアランス非達成群はクリアランス達成群に比べDFSが著明に不良であった (adj HR 11, 95% CI 5.2-23.0, p<0.0001) (Figure 5b)。クリアランス達成群の18ヶ月DFSは81.8% (95% CI 69.3-89.6%) であったのに対し、非達成群では実質的に追跡期間内の全例が再発した。
考察/結論
本研究の意義と位置づけ: GALAXY研究は、術後ctDNA (MRD) 検査に基づくリスク層別化と補助化学療法 (ACT) 選択の有用性を、1,039例という世界最大規模の前向き観察研究として実証した。本研究の最重要知見は二つある。第一に、術後4週時点のctDNA陽性状態が、従来の病理ステージやTNM分類などの臨床病理学的因子よりも圧倒的に強力な再発予測因子であること (adj HR 10.82, 95% CI 7.07-16.6, p<0.001 vs 他因子は全て非有意) である。第二に、ctDNA陽性患者ではACTによる大幅なDFS改善 (adj HR 6.59, 95% CI 3.53-12.3, p<0.001) が認められる一方で、ctDNA陰性患者ではACTの有意な上乗せ効果がないという非対称性が明示されたことである。これらの知見は、大腸癌の術後治療戦略においてctDNA検査が極めて重要な役割を果たす可能性を示唆する。
先行研究との違いと新規性: Tie et al. NEnglJMed 2022によるDYNAMIC試験 (n=455) は、ステージII大腸癌においてctDNA陰性患者へのACT省略が標準管理に非劣性であることを無作為化比較試験で示した。本GALAXY研究は、この概念をステージII〜IVのより広範な患者群に前向き観察研究として拡張し、ACTの受益者選別の精度を実証した点で新規性がある。これまで報告されていない大規模な前向き研究として、本研究はctDNAの臨床的有用性を明確に示した。また、Powles et al. Nature 2021による尿路上皮癌でのctDNAガイド下補助免疫療法試験 (IMvigor010) と類似した「ctDNA陽性で治療有効、陰性で効果なし」という臨床パターンが確認されたことは、腫瘍種を超えた普遍的なctDNA-MRD概念の妥当性を示す。本研究で用いられたSignateraアッセイは、患者ごとに最大16個の腫瘍特異的SNVに基づく個別化設計を採用しており、0.01% MAFという高い感度でctDNAを検出できるため、腫瘍負荷が低い術後MRD評価に本質的に適している。これは、従来の汎用的なctDNAアッセイとは異なるアプローチであり、本研究の信頼性を高める要因である。
臨床応用: 本研究の知見は、大腸癌の臨床現場におけるACTの個別化に直接的な臨床的意義を持つ。ctDNA陽性患者に対してはACTを積極的に推奨し、ctDNA陰性患者に対してはACTの省略を検討できる可能性を示唆する。これにより、ACTによる副作用を回避し、患者のQOL向上に貢献できる可能性がある。現在、ctDNA陰性患者でのACT省略の安全性検証はVEGA試験 (無作為化非劣性試験) が担い、ctDNA陽性患者への治療エスカレーション戦略はALTAIR試験 (trifluridine/tipiracil vs プラセボ) が評価中である。これらとGALAXY観察研究が一体のCIRCULATE-Japanプラットフォームを構成し、ctDNAガイド下の大腸癌治療最適化 (de-escalation/escalation) の双方向検証を可能にしている点が本プロジェクトの戦略的優位性である。
残された課題: しかし、本研究にはいくつかの残された課題とlimitationがある。(a) 観察研究であるため、患者特性のバイアスが完全に排除できない可能性がある。(b) 追跡期間が中央値16.74ヶ月と比較的短く、長期的なDFSや全生存期間 (OS) への影響は不明である。(c) ctDNA陰性患者でのACT省略の安全性は、現時点では無作為化比較試験によって確立されているわけではない。これらの課題を解決するためには、ALTAIR、VEGA、DYNAMICといった進行中の無作為化比較試験の長期追跡データとの統合解析が不可欠である。今後、ctDNA-MRD検査を組み込んだ大腸癌の新たな治療標準が確立されることが期待される。
方法
試験デザインと患者選択: 本研究は、多施設前向き観察研究であるGALAXY (UMIN000039205) コホートの中間解析である。対象は、臨床ステージII〜IVまたは再発大腸癌患者で、根治的手術が計画された成人 (ECOG PS 0-1) であった。2020年6月5日から2021年4月30日までに日本全国92施設で1,563例が登録され、適格基準を満たした1,039例がctDNA解析に組み込まれた。データカットオフは2022年6月8日であり、追跡期間中央値は16.74ヶ月 (範囲 0.49-24.83ヶ月) であった。
ctDNAアッセイ: 腫瘍組織のFFPE検体から全エクソームシーケンス (WES) を実施し、患者ごとに最大16個の腫瘍特異的体細胞SNV (一塩基多型) を選択して個別化アッセイ (Signatera、Natera社) を設計した。ctDNA陽性は、16変異のうち2個以上が規定閾値 (最小検出限界0.01% MAF) を超えて検出された場合と定義された。このアッセイは、95%を超える感度と99.7%の特異度を有すると報告されている。血液検体は術前、術後4週、12週、24週、36週、48週、72週に採取された。
主要エンドポイントと副次エンドポイント: 主要エンドポイントは無病生存期間 (DFS) であり、手術日から再発またはあらゆる原因による死亡日までの期間と定義された。再発は診断画像またはその他の診断手技に基づいて決定された。副次エンドポイントにはctDNAクリアランス率が含まれた。
統計解析: 統計解析にはRソフトウェアv3.6.1 (survivalおよびsurvminerパッケージ) およびSASソフトウェアv9.4が用いられた。カテゴリカル変数の比較にはカイ二乗検定が使用された。生存解析はKaplan-Meier法を用いて行われ、群間の差はログランク検定で評価された。DFSに関連する予後因子を評価するため、多変量Cox比例ハザード回帰モデルが使用された。不死時間バイアスを補正するため、術後8週時点でのランドマーク解析が実施された。ctDNA陽性患者におけるACTの有効性解析では、年齢、性別、MSI状態、病理ステージ、ECOG PSなどの交絡因子を調整した。ctDNAクリアランスの累積発生率の比較にはGrayの検定が用いられた。P値が0.05未満を統計的に有意と判断した。
患者背景: 術後4週時点のctDNA陽性群 (n=187 patients) とctDNA陰性群 (n=852 patients) の間で患者背景を比較した。ctDNA陽性群では、男性比率 (62.6% vs 50.8%、p=0.003)、T3-4 (TNM分類における腫瘍の深達度を示すステージ3-4) ステージ比率 (95.0% vs 84.1%、p<0.001)、N1-2 (TNM分類におけるリンパ節転移を示すステージ1-2) ステージ比率 (75.7% vs 45.3%、p<0.001)、およびMSS比率 (97.3% vs 88.8%、p<0.001) が有意に高かった。また、原発部位、病理ステージ、RASおよびBRAF変異状態にも有意差が認められた。