• 著者: Jeanne Tie, Joshua D. Cohen, Yuxuan Wang, Michael Christie ほか
  • Corresponding author: Jeanne Tie (Division of Personalised Oncology, Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research, Melbourne, Australia)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-11-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31621801

背景

結腸癌は世界主要な悪性腫瘍であり、ステージIII (リンパ節転移あり) では根治切除後にACT (adjuvant chemotherapy; 補助化学療法) が標準治療として確立されている。オキサリプラチンベースのFOLFOX (fluorouracil + oxaliplatin + leucovorin) によりOSは改善するが、それでも30〜40%の患者が再発する。すなわち、既存リスク層別化では再発高リスク群を十分に絞り込めないという臨床的ギャップが残っている。

先行研究の系譜を整理すると、Tie et al. (2016) はステージII大腸癌でのctDNA (circulating tumor DNA; 循環腫瘍DNA) 術後陽性が再発リスクと相関することを報告した。また、Garcia-Murillas et al. (2015) は乳癌でのctDNA変異追跡が再発予測に有用なことを示した。技術面では、Newman et al. (2014) が超高感度ctDNA検出法を確立し、Bettegowda et al. (2014) は進行癌における血漿中ctDNA検出感度を体系的に評価した。これらの先行研究を踏まえても、ステージIII結腸癌における術後・ACT後の連続的ctDNA動態評価が治療効果の代替指標となるかは未確立のままであった。

特に、既存リスク層別化 (T・Nステージ・脈管浸潤等) の精度が不十分であり、ACT後のMRD (minimal residual disease; 微小残存病変) を前向きに評価したエビデンスは限定的であった。何が足りなかったか:すなわち、ACT後にctDNAが陽性であることの独立した予後的意義と、ctDNA動態 (クリアランス vs 持続陽性) が治療応答の代替指標として機能するかという前向きデータが欠如していた。

目的

ステージIII結腸癌患者において、(1) 術後ctDNA陽性が補助化学療法後の再発リスクを予測するか、および (2) ACT後のctDNA動態 (陽性・陰性・クリアランス) がACT治療効果をリアルタイムに反映し、追加治療戦略の意思決定に利用できるかを前向き多施設研究で評価すること。

結果

ステージIII結腸癌全例での腫瘍変異同定と臨床背景

n=96 patients 全例で腫瘍組織NGS (15遺伝子パネル) により少なくとも1つの体細胞変異が同定され、患者特異的Safe-SeqSアッセイの設計が可能であった (Fig. 1)。追跡期間中央値28.9ヵ月 (範囲11.6-46.4ヵ月) でn=24 patients (25%) が再発した。ACT施行n=96 patients のうちoxaliplatin-based 73例 (76%)、fluoropyrimidine単剤22例 (23%)。患者年齢中央値64歳 (範囲26-82歳)、男性51%。高リスク病変 (pT4 and/or pN2) は全体の約50%であった。術後サンプルは全例から採取可能であり、ACT後サンプルはACT 12週以上完了例n=85例中78例 (92%)、ACT 24週完了例n=72例中66例 (92%) から取得された。

術後ctDNA陽性は独立した再発予測因子である

術後 (ACT前) サンプルでのctDNA陽性はn=20 patients (20/96例、21%) に認められた。術後ctDNA陽性例の3年RFI (recurrence-free interval; 無再発期間) 推定値は47% vs 76% (陰性例)、HR 3.8 (95% CI 2.4-21.0、P<0.001) と有意差を示した (Fig. 2A)。再発したn=24 patients のうち10例 (42%) が術後ctDNA陽性であり、術後非再発n=72 patients 中10例 (14%) を大きく上回った。一方で、術後ctDNA陽性はT・N・リンパ管脈管浸潤等のいかなる臨床病理学的因子とも有意な関連を示さず、既存リスク分類とは独立した情報を提供した。すなわち、ctDNAは従来の病理学的リスク因子を補完する独立予測因子である。多変量Cox回帰ではctDNA状態のHR 7.5 (95% CI 3.5-16.1、P<0.001)、臨床リスク (高リスク vs 低リスク) HR 2.5 (95% CI 1.3-5.0、P=0.008) であった (Table 1)。

ACT後ctDNA陽性が最も強力な再発予測因子である

ACT後サンプルでctDNA陽性はn=88 patients 中15例 (17%)。ACT後ctDNA陽性例の3年RFI推定値は30% vs 77% (陰性例)、HR 6.8 (95% CI 11.0-157.0、P<0.001) と術後時点のHR 3.8を大幅に上回る強力な予後予測が示された (Fig. 2B)。ACT後ctDNA陽性n=10 patients 中7例でACT後画像検査で再発が確認され、中央再発時間は51日 (範囲9-470日) と極めて短期間であった。ctDNA陽性15例中、ACT完了にもかかわらず陽性が持続した9例では全例が追跡期間内に再発し (100%)、陰性の73例では9例 (12%) のみ再発と際立った差が見られた。

ctDNA動態パターンが治療効果の代替指標となる

術後→ACT後の動態パターン別解析では: ①陰性→陰性 (n=63例) が最良のRFI、②陽性→陰性 (n=5例; ACTによるMRD消失) HR 3.7 (95% CI 1.1-17.0、P=0.04) で中間リスク、③陽性→陽性 (n=7例) が高再発リスク、④陰性→陽性 (n=8例; 化学療法抵抗性クローン出現) HR 6.5 (95% CI 7.2-642.0、P<0.001) が最高リスクであった (Fig. 2C-D)。この対称的なパターンは、ctDNA監視が治療の生物学的有効性と治療抵抗性クローン出現を同時にリアルタイムに反映することを初めて実証した。

ctDNAはCEAより優れた再発検出感度を有する

術後ctDNA陽性 (20/96例、21%) は術後CEA高値 (7/96例、7%) より多くの患者を検出した (Fig. 5)。AUC解析ではCEA単独AUC=0.52と再発予測への追加情報はなく、ctDNA+臨床リスクの組み合わせAUCが最も高い値を示した。CEA高値でctDNA陰性のn=6 patients では1例 (17%) のみ再発 vs CEA高値かつctDNA陽性 (n=6 patients 中5例、83%) が再発と、ctDNAがCEAを大幅に上回る再発確率の精度を示した。さらに、CEA陰性であってもctDNA陽性例 (n=14) では57% (8/14例) が再発し、ctDNA単独検査によって従来のCEAでは見逃されていた高リスク患者を同定できることが明示された (P<0.001)。ctDNAとCEAの検出時間差についても、ctDNA陽性はCEA高値の中央値3.8ヵ月前に再発を予見した。

考察/結論

本研究は術後・ACT後の連続的ctDNA動態評価によってステージIII結腸癌の再発リスク層別化とACT有効性のリアルタイム評価が可能であることを前向き設計で実証した。

先行研究との差異:先行研究 Tie et al. 2016 はステージII結腸癌での術後ctDNA予測を示したが、ACT後ctDNA動態の評価設計を持たず、ACT応答の代替マーカーとしてのctDNAの前向きエビデンスは未確立であった。本研究と先行研究の根本的な相違点は、「術後1時点の予後予測」から「術後→ACT後の連続的動態追跡による治療効果判定」へと設計を拡張したことにある。具体的には、陰性→陽性動態パターン (化学療法抵抗性クローン出現) という先行研究にない概念を初めて前向きデータで示し、ACT後ctDNA陽性のHR 6.8が術後ctDNA陽性のHR 3.8を大きく超えることを定量化した。Bettegowda et al. SciTranslMed 2014 の進行癌でのctDNA検出方法論に対し、Safe-SeqSによる個別化アッセイはアーリーステージ大腸癌での検出感度を最大化した技術的進歩を体現している。

新規性:本研究で初めてACT後ctDNA陽性が独立した最強の再発予測因子 (HR 6.8) となることを前向き研究で示した。ctDNA陰性→ACT後新規陽性という動態パターンが化学療法抵抗性クローンの出現を示唆するという novel な概念は、実臨床での治療選択に直接応用できる。Bettegowda et al. SciTranslMed 2014Newman et al. NatMed 2014 が確立した超高感度ctDNA検出技術の基盤の上に、本研究はACT応答モニタリングという新たな応用軸を開拓した。この概念は Powles et al. Nature 2021 の尿路上皮癌でのctDNA誘導型補助免疫療法試験に影響を与え、ctDNA動態による治療個別化の普遍的科学的根拠を提供した。

臨床応用の意義:本研究の最大の臨床応用としての意義は、ACT後ctDNA状態に基づく治療個別化の根拠を提供したことである。ACT後ctDNA陽性例 (HR 6.8) への追加治療探索、ACT後ctDNA陰性例での不必要な治療強化回避という双方向的な臨床意思決定支援が可能となる。Tie et al. NEnglJMed 2022 が後続研究でステージII結腸癌においてctDNA誘導型ACT戦略が標準治療を上回ることをRCTで実証し、本研究の科学的根拠が臨床実装へと発展した。

残された課題・今後の展望:残された課題として、サンプルサイズが96例と小規模でありACT後ctDNA陽性例 (n=15) での統計的検出力に限界があること、Safe-SeqSの1変異評価による感度の限界があること、dMMR (mismatch repair deficient; ミスマッチ修復欠損)/MSI-H腫瘍 (免疫療法適応候補) での有用性が未評価であることが挙げられる。更なる検討として、DYNAMIC (data yields needed about managing individual ctDNA) 後継の DYNAMIC-III試験によるctDNA指導型ACT強度調整の有効性の前向き検証が必要である。

方法

試験デザイン:オーストラリア5施設での多施設前向きコホート研究、STROBE (Strengthening the Reporting criteria) 報告ガイドライン準拠。本試験は ClinicalTrials.gov NCT02605837 として登録された。2014年11月〜2017年5月に新規診断ステージIII結腸癌n=100 patients を連続登録、除外後n=96 patients を解析 (男性49例、女性47例、年齢中央値64歳 [範囲26〜82歳])。担当医は全研究期間中ctDNA結果に盲検化。

患者背景・治療:ACTはoxaliplatin-based FOLFOX 73例 (76%)、fluoropyrimidine単剤22例 (23%)。24週間完了はn=72 patients (75%)、少なくとも12週完了はn=85 patients (89%)。

ctDNA測定法:腫瘍組織NGS (next-generation sequencing; 次世代シーケンシング、15遺伝子パネル: APC・KRAS・TP53等) により体細胞変異を同定後、患者特異的Safe-SeqS (Safe-Sequencing System; 確率的配列エラー低減技術) アッセイを設計。白血球生殖細胞系列DNAを照合しCH (clonal hematopoiesis; クローン性造血) 由来の偽陽性を除外した。計174連続血漿サンプルを解析。術後サンプル採取: 術後中央値42日 (IQR 32〜52日)。ACT後サンプル: 最終ACTサイクル後中央値19日 (範囲2〜47日)。

統計解析:主要アウトカム: RFI (recurrence-free interval; 無再発期間、手術日〜放射線学的再発または大腸癌死亡)。Kaplan-Meier法・log-rank検定・Cox比例ハザード回帰を実施。ACT後ctDNA状態は時間依存性共変量としてCox回帰に組み込み (Efron法)。ROC曲線下面積 (AUC) でctDNAとCEA (carcinoembryonic antigen; 癌胎児性抗原) の精度を比較。5分割交差検証×100反復で外部精度を検証。