• 著者: Reegan Sturgeon, Paran Goel, Caitlin Molczyk, Ridhi Bhola, Paul M. Grandgenett, Michael A. Hollingsworth, Rakesh K. Singh
  • Corresponding author: Rakesh K. Singh (University of Nebraska Medical Center, Omaha, NE, USA)
  • 雑誌: Cancers
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-11-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41228334

背景

膵がん (PC) は、その診断の遅れ、早期転移、そして炎症性かつ免疫抑制的な腫瘍微小環境 (TME) の存在により、5年生存率がわずか13%と極めて予後不良な疾患である Siegel et al. CA Cancer J. Clin. 2025。腫瘍促進性の炎症と免疫回避は、がんの生存と増殖に寄与する重要な特徴として認識されている Hanahan et al. CancerDiscov 2022。TMEにおける炎症と免疫抑制は、浸潤性白血球とプロ炎症性サイトカインによって形成されることが多く、特に好中球がこの環境に大きく寄与することが知られている McDonald et al. Int. J. Cancer 2009。好中球は、体内で最も豊富な免疫細胞であり、その役割は通常、炎症の制御と細胞外病原体に対する防御にあるが、がんの文脈では、その機能は腫瘍促進的または抗腫瘍的の両方であり得ると報告されている Burn et al. Immunity 2021

好中球は、PCの複雑なTMEや間質形成に寄与し、好中球細胞外トラップ (Neutrophil Extracellular Traps; NETs) はPCの転移において不可欠な役割を担うことが示唆されている Masucci et al. FrontImmunol 2020。NETsは、DNA、ヒストン、抗菌顆粒、好中球エラスターゼからなる網状構造であり、病原体を損傷・封じ込める役割を持つが、がんにおいては腫瘍細胞の循環、転移部位への誘導、さらには前転移ニッチの形成を助けることが示されている Cools et al. JClinInvest 2013 Rada et al. MethodMolBiol 2019。また、NETsは腫瘍細胞とNK細胞や細胞傷害性T細胞などの他の細胞傷害性免疫細胞との物理的接触を妨げ、免疫回避を促進する可能性も指摘されている Teijeira et al. Immunity 2020

先行研究では、CXCR2とそのリガンド (CXCL1-3、CXCL5、CXCL8) がPCの進行、予後、および化学療法耐性に関与することが示唆されていた McDonald et al. CommunBiol 2025。特に、高NLR (好中球/リンパ球比) がPC患者の予後不良指標であることも報告されており、好中球の動態がPCの病態生理において重要な役割を果たすことが示唆されている。しかし、CXCR2を介した好中球動員とNETs形成が疾患進行に伴ってどのように変化し、標準化学療法であるgemcitabineがこれらのプロセスにどのような影響を与えるかについては、体系的な検証が不足していた。また、好中球の表現型が疾患の進行に伴いどのように変化し、それがTMEの免疫抑制にどのように寄与するのかについても、さらなる詳細な解析が未解明な点として残されていた。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的とした。

目的

本研究の目的は、膵がん患者検体および複数のマウスモデルを用いて、CXCR2を介した好中球動員とNETs形成が疾患進行に伴ってどのように変化するかを詳細に解析することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。第一に、膵がんの原発巣および転移巣における好中球浸潤とNETs形成の程度を評価し、疾患進行との関連を検討する。第二に、CXCR2とそのリガンドであるCXCL1、CXCL5、CXCL8が好中球動員に果たす役割を、遺伝子欠損マウスモデルを用いて機能的に検証する。第三に、標準化学療法であるgemcitabineが好中球動員とNETs形成に与える影響を評価し、化学療法耐性への寄与の可能性を探る。最後に、疾患進行に伴う好中球の表現型変化(抗腫瘍性から腫瘍促進性への移行)を解析し、その免疫抑制的な役割を明らかにすることで、膵がんの予後不良因子としての好中球の包括的な理解を深めることを目的とした。

結果

患者検体における好中球浸潤とNETs形成の増加: PC患者の原発巣では、正常膵臓組織と比較して好中球浸潤が有意に増加していることが確認された (p<0.05)。肝転移巣では、正常組織との間に統計的有意差は認められなかったものの、好中球浸潤の増加傾向が観察された。NETs形成についても、原発巣および転移巣の両方で正常組織よりも高い傾向が示されたが、統計的有意差には達しなかった (Figure 1A)。これは、n=20 patientsのサンプル数の少なさや診断時点での転移合併が影響した可能性が考えられる。

マウスモデルにおける好中球浸潤とNETs形成の疾患依存的増加: KCマウスモデル (Pdx1-cre; LSL-KrasG12D) では、疾患進行に伴い好中球浸潤とNETs形成が有意に増加し、特に40週齢および50週齢で統計的に有意な増加が認められた (p<0.05〜0.0001)。より進行の速いKPCマウスモデル (LSL-KrasG12D/+; LSL-Trp53R172H/+; Pdx-1-Cre) でも、n=3 miceの各群において5週齢から25週齢にかけて好中球浸潤とNETs形成の両方が疾患進行とともに統計的に有意な増加を示した (Figure 1B, C)。これらの結果は、両マウスモデルにおいて疾患進行と好中球動態の間に明確な相関があることを示している。

CXCR2経路の好中球動員における中心的役割: TNMplotデータベースを用いた解析では、転移組織においてCXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8の遺伝子発現が正常組織と比較して有意に高いことが示された (CXCR2: p=3.09×10⁻¹²、CXCL1: p=2.38×10⁻³)。CXCR2を遺伝的にノックアウトしたKCCマウスモデル (n=3 mice) では、好中球浸潤とNETs形成が有意に減少した (p<0.01) (Figure 2C)。この結果は、CXCR2経路が膵がんにおける好中球動員に必須であることを明確に実証している。また、患者検体を用いた免疫蛍光染色では、CXCL5およびCXCL8の発現が肝転移巣で増加傾向を示し、これらのリガンドが転移において重要な役割を果たす可能性が示唆された (Figure 2B)。

Gemcitabine化学療法による好中球動員とNETs形成の増強: 標準化学療法であるgemcitabine治療を受けたPC患者の原発巣では、n=20 patientsの未治療群と比較して好中球浸潤およびNETs形成がともに有意に増加した (p<0.01) (Figure 3)。CXCL8の発現も、原発巣および転移巣の両方でgemcitabine治療後に増加傾向を示した。これらの知見は、gemcitabineがTMEにおける好中球依存性の免疫抑制を増強し、化学療法耐性の一因となる可能性を強く示唆する。

疾患進行に伴う好中球表現型の変化: KPCマウスモデルにおいて、抗腫瘍活性の指標であるpanNOS (一酸化窒素合成酵素) の発現は、10週齢で初期上昇を示した後、疾患進行とともに低下した (Figure 4A)。一方、腫瘍促進性活性の指標であるArginaseの発現は、疾患進行とともに有意に増加した (p<0.0001) (Figure 4B)。CD3陽性T細胞とMPO陽性好中球の比率を算出すると、疾患進行に伴い好中球/T細胞比が上昇し、TMEにおける免疫抑制環境の悪化が示された (Figure 4C)。炎症マーカーであるCathepsin G (CTSG) は、KPCモデル (n=3 mice) において疾患進行とともに増加し (Figure 4D)、患者検体でも転移巣およびgemcitabine治療後に増加傾向を示した (Figure 4E)。これらのデータは、好中球が疾患進行に伴い、抗腫瘍性から腫瘍促進性へと表現型を変化させることを示唆している。

CXCR2およびそのリガンドの発現と予後との相関: Kaplan-Meier plotterを用いた解析では、CXCR2高発現患者は低発現患者と比較して生存率が有意に低下することが示された (HR=1.73; 95% CI 1.03-2.91、p<0.05)。特にCXCL5高発現患者では、より強い予後不良との関連が認められ (HR=2.49; 95% CI 1.51-4.1、p=0.00022)、CXCL8高発現患者でも生存期間の有意な短縮が確認された (p<0.006) (Figure 5)。CXCR1については傾向はあったものの、統計的有意差は認められなかった (HR=1.56; p=0.083)。高発現患者の20ヶ月時点での生存率は、CXCL5で約20-25%、CXCL8で約30%であったのに対し、低発現患者では約55-60%を維持しており、これらの好中球走化性因子が患者の予後と強く関連していることが示された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、膵がんにおける好中球動態の包括的解析として、CXCR2を介した好中球動員と好中球細胞外トラップ (NETs) 形成が疾患進行に伴い段階的に増加することを、KCおよびKPCマウスモデルと患者検体の両方で実証した。好中球の表現型が、初期のpanNOS高値(抗腫瘍性)から疾患進行に伴うArginase高値(腫瘍促進性)へと移行する点は、TME内での好中球の機能的変換(N1様からN2様への偏極)を示唆しており、高NLRがPC患者の予後不良と相関する機序的基盤を提供した。この好中球の表現型変化は、TMEが好中球の機能をどのように再プログラムするかという、これまで未解明であった側面を明らかにする新規な知見である。

新規性: 特に重要な新規な知見は、PCの標準化学療法であるgemcitabineが、好中球動員とNETs形成をさらに増強するという観察である。先行研究では、CXCR2リガンドの発現が化学療法後に増加することが同グループによって示されており Saxena et al. Am. J. Cancer Res. 2022、本研究はその機能的帰結として、患者検体において好中球の増強を直接示した。この結果は、gemcitabineと好中球の協働によるTMEの免疫抑制悪化が治療耐性の一因となる悪循環を示唆しており、CXCR2阻害剤との併用戦略の妥当性を強化するものである。このメカニズムは、これまで報告されていない新規な化学療法耐性メカニズムとして、臨床的意義が大きい。

臨床応用: 臨床的意義として、CXCR2、CXCL5 (HR=2.49, 95% CI 1.51-4.1, p=0.00022)、およびCXCL8高発現が予後バイオマーカーとして有望であることが示された。これらの知見は、CXCR2阻害剤とgemcitabineの組み合わせや、NETs標的治療 (DNaseやPAD4阻害剤など) との三剤戦略が、PCにおける免疫抑制TMEへの介入戦略として有効である可能性を示唆する。これは、既存の治療法では効果が限定的であったPC患者に対する新たな治療選択肢を提供するものであり、臨床応用への大きな一歩となる。

残された課題: 残された課題として、好中球が化学療法耐性に直接的に寄与するメカニズムのin vivoでの詳細な検証が必要である。また、好中球の表現型変化(panNOS低下とArginase上昇)の分子機序、特にTME内の特定の因子がこの変化を誘導するメカニズムの解明が今後の研究課題である。さらに、好中球が他の免疫細胞(例:T細胞、マクロファージ)とどのように相互作用し、TME全体の免疫抑制を形成するのかについても、さらなる詳細な解析が求められる。本研究のlimitationとして、患者検体のサンプルサイズが限定的であったこと、特に転移巣におけるNETs形成の統計的有意差が得られなかった点が挙げられる。

方法

患者検体およびマウスモデル: 膵がん患者検体 (n=20 patients、原発巣および肝転移) を用い、ミエロペルオキシダーゼ (MPO) およびシトルリン化ヒストンH3 (cit-H3) の免疫蛍光 (IF) 染色により好中球浸潤と好中球細胞外トラップ (NETs) 形成を評価した。また、TNMplotデータベースを用いて、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8の発現を正常組織、原発腫瘍、転移組織間で比較した。Gemcitabine治療前後の患者検体では、CXCL5およびCXCL8のIF染色を実施した。マウスモデルとしては、KC (Pdx1-cre; LSL-KrasG12D、10〜50週齢) およびKPC (LSL-KrasG12D/+; LSL-Trp53R172H/+; Pdx-1-Cre、5〜25週齢) の2種類の膵がんモデルマウスを使用し、疾患進行に伴う好中球浸潤とNETs形成の経時変化をIF染色で評価した。さらに、CXCR2遺伝子をノックアウトしたKCCマウス (Pdx1-cre; LSL-KrasG12D; Cxcr2 -/-) を作製し、CXCR2経路の好中球動員における重要性を検証した。KPCモデルでは、疾患進行に伴うpanNOS (一酸化窒素合成酵素)、Arginase、Cathepsin G (CTSG) の発現変化を解析した。CD3抗体を用いたT細胞のIF染色も行い、好中球とT細胞の比率を算出した。

免疫染色と定量: 固定パラフィン包埋組織切片をキシレンとアルコールで脱パラフィン処理し、クエン酸ナトリウムバッファー (pH 6.0) を用いて抗原賦活化を行った。一次抗体 (MPO、cit-H3、CTSG、IL8、CXCL5、CD3e、Arginase、panNOS) を4℃で一晩反応させ、その後蛍光標識またはビオチン化二次抗体と反応させた。核はDAPIで染色した。画像はNikon Eclipse E800顕微鏡 (200倍) で取得し、NIS-Elements BR 5.11.00ソフトウェアで解析した。ImageJ-win64を用いてDAPIと蛍光画像を重ね合わせ、陽性シグナルを定量した。各マウスおよび患者検体から3〜5枚の高倍率視野画像を解析した。

遺伝子発現解析: 膵がん患者の遺伝子発現データは、TNMplotデータベース (www.tnmplot.com) から取得し、正常、腫瘍、転移組織間でのCXCR2およびそのリガンドの発現を比較した。また、Kaplan-Meier plotterを用いて、CXCR1、CXCR2、CXCL5、CXCL8の発現とPC患者の全生存期間との関連を評価した。このデータベースは、公開されている患者コホートの遺伝子発現プロファイルと臨床転帰を統合したオンラインリソースである。

統計解析: 統計解析にはGraphPad Prism 10ソフトウェアを使用した。2群間の比較にはStudentのt検定またはノンパラメトリックMann-Whitney U検定を用い、3群以上の比較には一元配置分散分析 (One-way ANOVA) を適用した。p値が0.05以下を統計的に有意と判断し、アスタリスクの数で有意水準を示した (p ≤ 0.05*, p ≤ 0.01**, p ≤ 0.001***, p ≤ 0.0001****)。