• 著者: Ningning Zhang, Wenwen Tang, Lidiane Torres, et al.
  • Corresponding author: Dianqing Wu (Yale University School of Medicine); Jun Lu (Yale University School of Medicine)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-01-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38262409

背景

近年、哺乳動物細胞の外側細胞表面にRNAが存在することが報告され、特にFlynn et al. (2021) はがん細胞株や胚性幹細胞においてN-グリコシル化修飾を持つ小RNA(glycoRNA)の一部が外側細胞表面に局在することを発見した。これらの細胞表面RNAの生物学的機能は未解明であった。また、Huang et al. (2020) はヒト循環血中のmaxRNAを単球表面に同定し、モノサイトと内皮細胞の接着に関与することを示唆したが、そのin vivo機能や産生機序は不明であった。これらの先行研究は細胞表面RNAの存在を示したが、その機能的意義、特に生体内における役割や、細胞表面への輸送メカニズムについては知識ギャップが残されていた。

好中球は、炎症組織への迅速な動員を担う主要な自然免疫細胞であり、このプロセスはローリング、接着、血管内皮透過といった複数の細胞間相互作用を伴う。これらの相互作用は、感染や組織損傷に対する宿主防御に不可欠である。好中球の動員は厳密に制御されており、その破綻は炎症性疾患や自己免疫疾患の発症に関与することが知られている。しかし、好中球における細胞表面RNA、特にglycoRNAの存在とその機能、および炎症部位への動員における役割については、これまでほとんど検討されていなかった。特に、好中球の細胞表面に存在するRNAが、内皮細胞との初期相互作用やその後の遊走にどのように影響するのかは、重要な未開拓領域であった。本研究は、この知識の不足を埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、好中球の外側細胞表面にglycoRNAが存在するかを検証し、その生体内機能、特に炎症部位への動員における役割を解明することである。さらに、内皮細胞との相互作用におけるglycoRNAの役割、glycoRNAを認識する受容体、およびその産生・輸送機序を明らかにすることを目的とした。具体的には、glycoRNAが好中球のローリング、接着、血管内皮透過にどのように寄与するか、そしてその機能がRNAの糖鎖部分に起因するのかを評価する。また、Sidt1/Sidt2 RNAトランスポーターがglycoRNAの発現と細胞表面への局在に必須であるかを検討し、細胞表面RNAの生物学的意義と制御メカニズムに関する新たな知見を提供することを目指した。

結果

好中球外側細胞表面でのglycoRNA存在の実証: Ac4ManNAzラベリングした好中球においてビオチン化glycoRNAシグナルが確認され、exRNaseA処置により細胞表面glycoRNAシグナルが消失した。RNAシーケンス(RNA-seq)では、exRNaseA処置PMNとmock処置PMNの間で転写レベルに高い一致(R2 > 0.99)が認められ、細胞膜非透過性DNA色素を用いた分析でも膜完全性が維持されていることが確認された (Figure 1C, S1C)。これは、exRNaseAが細胞内RNAを消化していないことを示唆する。直接的な外側細胞ビオチン化実験でも、exRNaseA感受性のglycoRNAシグナルが確認された。さらに、BrUラベルRNAと抗BrU抗体を用いた実験では、Proteinase K前処置後に細胞表面RNAが可視化され、細胞表面タンパク質がRNAへの抗体アクセスを妨げている可能性が示唆された (Figure 1E)。glycoRNAは裸のRNAと比較して100倍以上RNase A耐性であり (Figure S1G)、細胞自律的に産生され細胞表面へ輸送されることがラベル共培養実験で証明された (Figure 5B)。

Cell surface RNAのin vivo好中球動員への必須性: チオグリコレート(TG)誘発腹膜炎モデルにおいて、exRNaseA処置好中球はmock処置好中球に比べて腹腔への動員が約9倍低下した (n=6 mice, p<0.0001) (Figure 2B)。血液、骨髄、脾臓での分布には有意差がなく、動員障害が主な原因であることが示された。不活性化RNaseAでは効果がなかった。exRNaseA処置好中球を腹腔内へ直接注入すると動員減少が消失し、血液から炎症部位への移行ステップに細胞表面RNAが必須であることが確認された (Figure 2D)。LPS気管内急性肺炎モデルでも同様に、exRNaseA処置好中球の肺への動員が著明に減少した (Figure S2E)。

EC接着と経内皮遊走における機能と糖鎖依存性: in vitroにおいて、exRNaseA処置により内皮細胞(EC)存在下での経内皮遊走が約3倍低下し(EC非存在下では差なし)、静的EC接着が約30%低下した (Figure 3A, 3B)。フロー条件下ではさらに大きな低下が観察された (Figure S3A)。好中球glycoRNA全体でのEC前処置は、untreated好中球のEC接着をexRNaseA処置好中球と同程度に低下させ、両方を同時に行っても相加効果はなかった。PNGase Fによる糖鎖分画は、好中球EC接着と経内皮遊走の低下を完全に再現したが、RNA分画は効果がなかった (Figure 3C)。これはglycoRNAの機能が糖鎖部分に帰属することを示唆する。生体内イメージング(精巣挙筋血管)では、exRNaseA処置好中球は自由流動から初期ローリングへの移行とローリング持続が有意に減少し (p<0.001, p<0.0001)、P-セレクチンを介した初期キャプチャー・ローリング過程が主な障害部位であることが示された (Figure 3F, 3G)。

P-セレクチン (Selp) がglycoRNA受容体として機能: Selp-Fc融合タンパク質はglycoRNAシグナルとRNase A感受性で特異的に結合したが、Sele-Fcは結合しなかった (Figure 4C)。Selp抗体によるEC表面へのglycoRNA結合は有意に減少し(p<0.001)、Selp KO ECではglycoRNA結合が約3倍低下した (Figure 4B, S4F)。exRNaseA処置により、好中球表面のSelp-Fc結合が約30%低下したが、PSGL-1やL-セレクチン発現は変化しなかった (Figure 4E, S4G, S4H)。Selp KO ECとexRNaseA処置を組み合わせても追加効果はなく、いずれもSelp-glycoRNA軸を介した同一の接着メカニズムであることを支持した (Figure 4F)。

Sidt1/Sidt2 RNAトランスポーターがglycoRNA産生に必須: Sidt1およびSidt2は好中球およびHOXB8細胞で発現していた (Figure S5A, S5B)。Sidt1/Sidt2二重ノックダウン(二種の独立sgRNAベクター)により、HOXB8分化好中球のglycoRNAシグナルが消失した (Figure 5C)。Sidt KD細胞はexRNaseA処置WT細胞と同程度のEC接着低下および経内皮遊走低下を示し、Sidt KD細胞にexRNaseAを追加しても障害が悪化しなかった (Figure 5D, 5E)。in vivoでのSidt KDおよびWT HOXB8分化好中球の競合腹腔転移実験では、Sidt KD好中球は5倍以上の動員低下を示した (n=3 replicates) (Figure 5F)。

好中球glycoRNAの分子組成:主要ノンコーディングRNA断片: WGA親和性精製とビオチンプルダウンの二法でglycoRNAを精製し、small RNA-seqで解析した。glycoRNAは主にrRNA、tRNA、snoRNAなどのノンコーディングRNA断片で構成される小RNAであった (Figure S6C)。45S pre-rRNA 5’末端由来の2種のsRNA断片がglycoRNAライブラリーの25%以上を占めた (Figure S6E)。細胞種間で豊富なglycoRNA配列はinput豊富な配列と正相関し、選択的グリコシル化またはゲーティングの機序が示唆された。ヒト細胞株データともクラス組成の類似性が認められた (Figure S6C)。

考察/結論

本研究は、哺乳動物細胞表面RNAの生物学的機能を初めてin vivoで明確に実証し、好中球炎症動員という重要な免疫プロセスにおける細胞表面glycoRNAの新規役割を確立した。

新規性: 本研究で初めて、好中球の細胞表面に存在するglycoRNAが、炎症部位への好中球動員に不可欠な役割を果たすことを明らかにした。glycoRNAが糖鎖部分を通じてP-セレクチン(Selp)に認識され、好中球のローリングおよびEC接着を仲介するという発見は、これまで知られていたSelp-PSGL-1相互作用を補完するRNA基盤の認識リガンドという新概念を提供する。さらに、Sidt1/Sidt2 RNAトランスポーターがglycoRNAの産生と細胞表面への輸送に必須であるという発見は、RNAの細胞内小胞から外側細胞表面への輸送経路として新規の生物学的機序を示す。glycoRNAが表面タンパク質によって保護され(RNaseA抵抗性)、半減期が24時間以上と安定であるという発見も重要であり、細胞表面RNA生物学の基本的理解に貢献する。

先行研究との違い: これまでの研究では細胞表面RNAの存在が示唆されていたものの、そのin vivo機能や具体的な分子メカニズムは未解明であった。本研究は、好中球の炎症動員という生理学的に重要なプロセスにおいて、細胞表面glycoRNAがP-セレクチンを介した接着およびローリングを制御するという、これまで報告されていないメカニズムを明らかにした点で、先行研究と異なる。特に、glycoRNAの機能がその糖鎖部分に起因するという発見は、RNAが直接的な配列認識だけでなく、糖鎖修飾を介して細胞間相互作用を調節するという点で、従来のRNA生物学の枠組みを拡張するものである。

臨床応用: 本知見は、好中球過剰動員が関与する炎症性疾患(例:敗血症、急性肺損傷)の治療標的として、Sidt阻害やglycoRNA生合成の制御が有効である可能性を示唆する。Sidtトランスポーターを標的とすることで、炎症部位への好中球動員を特異的に抑制できる可能性があり、これは新たな抗炎症薬の開発に繋がる臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、glycoRNAの詳細な化学構造(どの小RNAがglycoRNA化されるかのライセンスメカニズム)、Selp以外の追加受容体の同定、加齢や活性化状態による好中球glycoRNAの変化、および他の細胞型(T細胞、内皮細胞など)でのglycoRNA機能の解明が必要である。また、in vivoでの好中球動員における細胞表面RNA除去の効果がin vitroでの接着アッセイよりも顕著であった理由(約9〜10倍の減少 vs 約30%の接着低下)についても、複数の細胞間相互作用ステップが複合的に影響している可能性を考慮し、さらなる詳細な解析が求められる。

方法

本研究では、HOXB8細胞(Hoxb8-ER遺伝子で不死化したマウス骨髄前駆細胞)とin vitro分化好中球、および一次骨髄好中球(PMN)を使用した。glycoRNAの検出には、N-アジドアセチルマンノサミン-テトラアシル化体(Ac4ManNAz)によるメタボリックラベリングとDBCO-PEG4-ビオチンを用いたクリックケミストリーを適用し、ビオチン化glycoRNAを検出した。細胞膜非透過条件下での細胞外RNase A(exRNaseA)処理により、細胞表面RNAの除去を行った。in vivo機能実験として、チオグリコレート誘発急性腹膜炎モデルとLPS気管内投与急性肺炎モデルを用い、exRNaseA処置好中球と対照好中球の競合転移実験を実施した。

内皮細胞(EC)とのin vitro接着および経内皮遊走アッセイは、Boydenチャンバーとフロー条件下のパラレルプレートフローチャンバーを用いて実施した。生体内イメージングは、精巣挙筋血管において頸動脈注入とTNF-α刺激マウス(C57BL/6Jマウス)を用いて行い、好中球のローリングおよび接着過程を定量した。glycoRNAの認識受容体同定のため、P-セレクチン(Selp)およびE-セレクチン(Sele)ブロッキング抗体、Selp-Fc融合タンパク質、およびSelp KO ECを用いた実験を行った。glycoRNAの糖鎖分画とRNA分画はPNGase F消化で分離し、それぞれの機能を評価した。RNAトランスポーターの役割を解析するため、Sidt1/Sidt2遺伝子の二重ノックダウン(CRISPR KD)をHOXB8細胞で実施した。glycoRNAの分子組成を同定するため、WGAアフィニティー精製およびビオチンプルダウンによる精製後、小RNA-seq解析を行った。統計解析にはStudent’s t-test(unpaired, unequal variance)を用いた。