• 著者: Peiyuan Chai, Sina Kheiri, Andrew Kuo, Jessica Shah, Jeffrey D. Esko, Ryan A. Flynn
  • Corresponding author: Ryan A. Flynn (Boston Children’s Hospital / Harvard University)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-01-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41606331

背景

ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG (heparan sulfate proteoglycan)) は、細胞膜表面に存在する多様な増殖因子やサイトカインの共受容体として機能し、血管新生を促進する血管内皮増殖因子A (VEGF-A (vascular endothelial growth factor A)) を含むシグナル伝達を調節することが知られている。特に、VEGF-AによるERK (extracellular signal-regulated kinase) シグナル伝達の制御は、これまでヘパラン硫酸 (HS (heparan sulfate)) の硫酸化パターン、とりわけ6O-硫酸化の選択的な修飾によって説明されてきた。しかし、HSPGが細胞表面でどのようにメカニズム的にシグナル伝達を仲介するのか、特に細胞表面RNAとの関連性については、依然として不明な点が多く、詳細な分子機構は未解明のままであった。

近年、細胞表面にはglycoRNA (糖鎖修飾を持つ小分子RNA、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン (acp3U (3-(3-amino-3-carboxypropyl)uridine)) をN-グリカン結合部位として持つ) と、細胞表面RNA結合タンパク質 (csRBP (cell surface RNA-binding protein)) からなる細胞表面リボ核タンパク質複合体 (csRNP (cell surface ribonucleoprotein)) のクラスターが存在することが発見された。これらのcsRNPが細胞外シグナル伝達において果たす具体的な役割は、これまで十分に解明されていなかった。先行研究である Zhang et al. Cell 2024 では、細胞表面RNA (csRNA (cell surface RNA)) が好中球の動員を制御することが示され、細胞外RNA (exRNA (extracellular RNA)) がVEGF活性を調節する可能性が示唆されてきたが、関与する具体的なRNA種、作用受容体、および細胞表面における正確な分子機構は未解明であり、学術的なギャップが残されていた。また、血管新生を促進する細胞外RNaseであるアンギオゲニン (ANG (angiogenin)) の研究では、その薬理学的阻害がゼブラフィッシュの血管発達を阻害することが示されており、exRNAの分解自体が血管新生において重要な役割を果たす可能性が示唆されているものの、これを支持する直接的なエビデンスは不足していた。

このように、HSPGによるVEGF-Aシグナル伝達の調節メカニズム、特にHSの硫酸化パターンが果たす役割は認識されているものの、細胞表面に存在する新規の生体高分子であるglycoRNAとcsRBPからなるcsRNPクラスターが、このシグナル伝達にどのように関与するのかという知識ギャップが残されている。特に、csRNPクラスターの形成を規定する分子基盤、およびそれらがVEGF-Aシグナル伝達を調節する具体的なメカニズムに関する知見が決定的に不足しており、血管新生における新たな制御軸の解明に向けた課題が残されている。

目的

本研究の目的は、glycoRNAと細胞表面RNA結合タンパク質 (csRBP) からなる細胞表面リボ核タンパク質複合体 (csRNP) のクラスター形成を規定する分子基盤を解明し、これらが血管内皮増殖因子A (VEGF-A) シグナル伝達を調節する新規メカニズムを同定することである。具体的には、ヘパラン硫酸 (HS) 生合成とcsRNPクラスターの形成における依存関係、VEGF-A165 (VEGF-Aの165アミノ酸アイソフォーム) のRNA直接結合能、およびその結合が血管新生に与える影響をin vitroおよびin vivoの両面から詳細に解析することを目的とした。

さらに、VEGF-A165のHS結合ドメインにおける特定のアルギニン残基をリジンに置換した変異体 (HS(R/K)) を用いて、RNA結合能とHS結合能を解離させ、この変異体がVEGF-Aシグナル伝達および血管新生に及ぼす影響を評価する。これにより、csRNPがVEGF-A駆動型血管新生におけるHS介在シグナル伝達の拮抗因子として機能する、これまで認識されていなかった制御軸を確立することを目指した。最終的には、この新規制御軸が腫瘍血管新生における新たな治療標的となる可能性を探ることも目的とする。

結果

HS生合成および6O-硫酸化によるcsRNPクラスター形成制御: ゲノムワイドCRISPR-Cas9ノックアウトスクリーンでは、Siglec-11、9D5、MAA-Iスクリーンのヒット数はそれぞれ154、187、246遺伝子であった。スコアカットオフ-0.8でのintersectional解析では9D5とSiglec-11の重複が最も強く、共通トップヒットとしてEXT1、EXT2、UXS1 (HS合成酵素遺伝子) が同定された (Fig 1d)。U2OS細胞 (n=3 replicates) におけるEXT1/EXT2/UXS1のKOでは10E4染色によるHS消失が確認され、Siglec-11、9D5、cs-DDX21、cs-hnRNP-Uのシグナルがいずれも完全に消失した (Fig 1e,f)。触媒不活性変異体 (D517N/D573N) の再導入では消失したシグナルは回復せず、野生型EXT2の再導入のみが回復させた。NDST1-KO (N-硫酸化欠損) では Siglec-11、9D5、cs-DDX21、cs-hnRNP-U の結合強度がそれぞれ77%、72%、62%、63%低下した (p<0.01, n=3 replicates)。HS6ST1-KO (6O-硫酸化欠損) でも同様に Siglec-11、9D5、cs-DDX21、cs-hnRNP-U の結合が76%、67%、56%、53%低下した (Fig 2c,d)。HS2ST1-KO (2O-硫酸化欠損) では有意な低下は認められなかった。Sulf1・Sulf2 (6O-硫酸化除去酵素) の安定過剰発現でも完全なシグナル消失が認められた。外来性HS鎖の競合添加実験では、N-硫酸化・6O-硫酸化のみを持つrHS37がcsRNPシグナルを約2倍から3倍に増強した一方、N-硫酸化・6O-硫酸化・2O-硫酸化を持つrHS09は逆にシグナルを消失させた。ヘパリナーゼ処理後の回復実験では、HS punctaが回復開始後45分でまだ9.4%のみ (csRNPクラスターは回復なし)、90分でcsRNPが大型HSクラスターの部位で再出現し始め、180分で完全回復した (Fig 2a)。これらの結果は、csRNPクラスターの形成がHS生合成、特にN-硫酸化および6O-硫酸化に強く依存することを示している。

VEGF-A165のRNA結合能とcsRNPによるERKシグナル抑制: 血清飢餓HUVEC (n=3 replicates) に3 ng/ml VEGF-A165を5分間添加したpERK誘導実験で、RNase処理前処置はVEGF-A165誘発pERKを3.0-foldに増強した (p<0.001, Fig 3b)。一方、VEGF-A121 (HS非結合ドメインを持たないアイソフォーム) とEGF (HS非結合) はRNaseの影響を受けなかった。VEGFR2 (Tyr1175) のリン酸化もRNase処理で2.69-foldに増強された (Extended Data Fig 8d)。RIPシーケンスではVEGF-A165が235 RNAを入力対照比で濃縮し、既知glycoRNA (HeLa細胞由来) との34 RNAの有意な重複が確認された (snRNA、rRNA、snoRNA、tRNAが主体) (Extended Data Fig 9c-f)。さらに、血清飢餓およびRNase前処理により、VEGF-A165の細胞表面結合が約2倍増加した一方、VEGF-A121は変化しなかった (Fig 3c)。VEGFR2の発現量にはRNase処理による変化は認められなかった (Fig 3d)。VEGF-A165とSiglec-11の共染色では、Siglec-11 punctaの78%がVEGF-A165と重複し、VEGF-A165 punctaの40%がSiglec-11と重複した (Fig 3e)。マイクロ流体チップを用いた3D管腔形成アッセイでは、RNase A処理 (6日間、毎日添加、n=4 replicates) によりHUVECのコラーゲン3D基質への遊走面積が有意に増加し、中空管腔様構造の形成が促進された (Fig 3f,g)。これらのデータは、VEGF-A165がcsRNPクラスターに結合し、csRNPがVEGF-A165によるERKシグナル伝達の負の調節因子として機能することを示している。

RNA結合欠損R/K変異体によるVEGF-A165シグナルの増強: VEGF-A165のHS結合ドメインにおける8個のアルギニン残基をリジンに置換したHS(R/K)変異体は、in vitroでHS親和性を維持しながらRNA結合を選択的に失った (Fig 4a, Extended Data Fig 9m)。25 ng/mlでの刺激実験で、HS(R/K)はHS野生型と比較してpERK誘導を2.0-foldに増強し (p<0.01, n=3 replicates, Fig 4b)、pVEGFR2も同様に2.67-foldに増強された (Extended Data Fig 9i)。HS野生型はRNase処理でpERK誘導が増強されたが、HS(R/K)はRNase処理の有無でpERK誘導が変わらなかった (HS(R/K)はRNaseに対して51%感受性低下) (Fig 4c)。また、HS(R/K)はsialoglycoRNAを野生型ほど濃縮せず (Extended Data Fig 9j)、シアル酸の除去でHS野生型のRNA結合が約35%低下した (Microscale thermophoresis, Extended Data Fig 9k)。これらの結果は、VEGF-A165のRNA結合がERKシグナル伝達を負に調節すること、およびHS(R/K)変異体がこのRNA結合を特異的に阻害することを示唆している。

In vivoモデルにおける過剰血管新生の誘導: C57BL/6Jマウス (n=12 mice) 生後6日目の網膜にVEGF-A165 HS野生型またはHS(R/K)を硝子体内注射したところ、HS野生型はIB4カバレッジとERG+内皮細胞密度を増加させたが、HS(R/K)はさらに有意に高いIB4強度と内皮細胞密度を誘導した (Fig 4d,e)。これは、HS(R/K)がVEGF-A活性を増強し、in vivoにおいて過剰な血管新生を引き起こすことを示している。ゼブラフィッシュ胚 (n=15 embryos) では、HAvegfa HS野生型mRNAは体幹血管発達に影響しなかった一方、HAvegfa HS(R/K) mRNAは体幹血管の発達不全と背側大動脈・後枢静脈領域での内皮細胞数増加を誘導した (Fig 4f,g, Extended Data Fig 11b,c)。さらに、Wnt3aとVEGF-A165 HSドメインの融合タンパク質実験で、HS野生型ドメインはWnt3a過活性化を阻害し、HS(R/K)ドメインは阻害しなかった (WNT下流標的6/8遺伝子がWnt3aおよびWnt3a-HS(R/K)で上昇) (Extended Data Fig 11d,e,g)。これらの知見は、csRNPによる増殖因子シグナル負制御が進化的に保存された普遍的な機構であることを示唆する。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) が血管内皮増殖因子A (VEGF-A) の共受容体として促進的役割を持つと同時に、細胞表面リボ核タンパク質複合体 (csRNP) クラスターの足場として機能することでVEGF-Aシグナルを負に調節するという二面性を初めて実証した。この知見は、HSPGが単にシグナルを促進するのみであると考えられてきた従来の理解と対照的である。先行研究では細胞外RNAがVEGF活性を正に調節する可能性が示唆されていたが、本研究は細胞表面に組織化されたcsRNPクラスターが負の調節因子として機能することを確立した。

新規性: 本研究で初めて、glycoRNAとVEGF-A165のC末端HS結合ドメインが直接結合することにより、csRNPがVEGF-A165/VEGFR2/ERK軸の生理的ブレーキとして機能する新規シグナル調節軸を解明した。VEGF-A165のHS結合ドメインにおける8個のアルギニン残基をリジンに置換するだけで、RNA結合能と増殖因子活性が解離でき、これがRNase処理と同等のcsRNP非依存性シグナル増強をもたらすというエレガントな実験設計が、この新規メカニズムの解明に大きく貢献した。

臨床応用: 本知見は、腫瘍血管新生における新規の治療標的候補としてcsRNPクラスターを位置づける点で、臨床応用に直結する可能性を配している。csNPM1 (cell surface nucleophosmin 1) やcsU5 snRNP200 (cell surface U5 small nuclear ribonucleoprotein 200) など、腫瘍細胞に選択的に提示されるcsRBPが存在することから、腫瘍特異的なcsRNP-VEGF-A軸の操作が、選択的抗血管新生治療につながりうる。例えば、csRNPクラスターの形成を促進する薬剤や、VEGF-AとcsRNPの結合を増強する分子は、血管新生を抑制し、腫瘍の成長を阻害する新たな治療戦略となる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、まず、6O-硫酸化の特異的標的化の実現可能性を詳細に評価する必要がある。また、他のHS結合性増殖因子 (例えばFGF (fibroblast growth factor) など) に対するcsRNP調節の普遍性を検証することも重要である。さらに、炎症、創傷治癒、神経変性疾患など、VEGF-A依存的な生理的および病理的プロセスにおけるcsRNPの役割を解明することも今後の研究方向性である。本研究は、CRISPR-Cas9ノックアウトスクリーンと生化学的解析、in vitroおよびin vivo実験 (マウス網膜、ゼブラフィッシュ胚) の多段階検証により、発見の確実性が担保されている。RNA結合欠損R/K変異体でのpERK増強 (2.0-fold)、マウス網膜およびゼブラフィッシュ胚のin vivoモデルにおける過血管新生の一貫した再現は、csRNPシグナル制御の生理的重要性を裏付けている。WNT経路への応用実験は、この負の調節機構が複数の増殖因子シグナリング軸に普遍的に作用する可能性を示唆している。

方法

本研究では、以下の多角的なアプローチを用いて、csRNPクラスターの形成メカニズムとVEGF-Aシグナル伝達への影響を解析した。

(1) ゲノムワイドCRISPR-Cas9ノックアウトスクリーン: MOLM-13細胞 (ヒト急性骨髄性白血病細胞株) を用い、Siglec-11 (sialic acid-binding immunoglobulin-type lectin 11)、9D5 (dsRNA検出抗体)、およびMAA-I (Maackia amurensis hemagglutinin I、シアル酸結合レクチン) をフローサイトメトリー読み出しとしてゲノムワイドCRISPR-Cas9 (clustered regularly interspaced short palindromic repeats-associated protein 9) ノックアウト (KO) スクリーンを実施した。これにより、csRNPクラスター形成に必須な遺伝子を同定した。MAGeCK (Model-based Analysis of Genome-wide CRISPR-Cas9 Knockout) 統計パッケージを用いてリードカウントを解析し、ガイドおよび遺伝子の濃縮を評価した。

(2) HS生合成遺伝子KO/点変異の作製と解析: U2OS細胞 (ヒト骨肉腫細胞株) において、EXT1 (exostosin glycosyltransferase 1)、EXT2 (exostosin glycosyltransferase 2)、UXS1 (UDP-glucuronate decarboxylase 1) のKOクローン、および触媒不活性EXT2点変異体 (D517N/D573N) を作製した。これらの細胞を10E4 (成熟HS認識抗体)、Siglec-11、9D5、抗DDX21 (DExD-box helicase 21)、抗hnRNP-U (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein U) 抗体で染色し、HSおよびcsRNPシグナルへの影響を定量した。HSの硫酸化特異性を検討するため、NDST1 (N-deacetylase and N-sulfotransferase 1)-KO (N-硫酸化欠損)、HS6ST1 (heparan sulfate 6-O-sulfotransferase 1)-KO (6O-硫酸化欠損)、HS2ST1 (heparan sulfate 2-O-sulfotransferase 1)-KO (2O-硫酸化欠損) 細胞も作製し、同様に解析した。さらに、Sulf1/2 (extracellular sulfatase 1/2) 安定過剰発現細胞 (6O-硫酸化除去) を用いて、6O-硫酸化の役割を評価した。外来性HS鎖 (rHS37: N-硫酸化・6O-硫酸化、rHS09: N-硫酸化・6O-硫酸化・2O-硫酸化) の競合添加実験も実施した。ヘパリナーゼ処理後のcsRNPクラスターの回復動態も経時的に観察した。

(3) VEGF-A165のRNA結合能とERKシグナル伝達への影響: 血清飢餓HUVEC (human umbilical vein endothelial cell、ヒト臍帯静脈内皮細胞) に3 ng/ml VEGF-A165を5分間添加し、RNase (ribonuclease) 処理前処置がpERK (phosphorylated ERK) 誘導に与える影響をウェスタンブロットで定量した (pERK/total ERK比)。統計解析には両側 Student t-test を用いた。VEGF-A121 (HS非結合アイソフォーム) およびEGF (epidermal growth factor、HS非結合) を対照として用いた。VEGFR2 (vascular endothelial growth factor receptor 2、Tyr1175) のリン酸化も同様に評価した。UV-C (254 nm) クロスリンク後の免疫沈降とRIP (RNA immunoprecipitation) シーケンスにより、VEGF-A165のRNA結合特異性を解析した。シーケンスリードのゲノムマッピングには Bowtie 2 を用いた (Langmead et al. NatMethods 2012)。

(4) RNA結合欠損VEGF-A165変異体 (HS(R/K)) の作製と評価: VEGF-A165のヘパリン結合ドメインにおける8個のアルギニン残基をリジンに置換したHS(R/K)変異体を作製した。この変異体のHS親和性およびRNA結合能をin vitroで評価した。HUVECへの刺激実験 (25 ng/ml) で、HS(R/K)がpERKおよびpVEGFR2誘導に与える影響をウェスタンブロットで定量し、HS野生型と比較した。RNase処理に対する感受性も評価した。また、sialoglycoRNAとの結合をrPAL (reproducible periodate-aniline labeling) アッセイで、シアル酸除去後のRNA結合をMicroscale thermophoresisで解析した。

(5) In vivo血管新生モデル: C57BL/6J マウス生後6日目網膜への硝子体内注射 (各100 ng/網膜) により、VEGF-A165 HS野生型またはHS(R/K)が血管新生に与える影響を評価した。IB4 (isolectin B4) 染色による血管カバレッジとERG (ETS-related gene) + 内皮細胞密度を定量した。Tg(fli1a-eGFP) ゼブラフィッシュ胚への1細胞期mRNAマイクロインジェクションにより、体幹血管発達への影響を評価した。さらに、Wnt3a (Wnt family member 3A) とVEGF-A165 HSドメインの融合タンパク質を用いた実験で、WNTシグナル伝達への影響をqRT-PCR (quantitative reverse transcription PCR) で評価した。