• 著者: Theodora-Dorita Tsourouktsoglou, Annika Warnatsch, Marianna Ioannou, Dennis Hoving, Qian Wang, Venizelos Papayannopoulos
  • Corresponding author: Venizelos Papayannopoulos (Antimicrobial Defense Laboratory, The Francis Crick Institute, London, UK; veni.p@crick.ac.uk)
  • 雑誌: Cell Reports
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32375035

背景

好中球細胞外トラップ (NETs) は、細菌感染だけでなくアテローム性動脈硬化や痛風などの無菌性炎症においても観察され、周囲細胞の炎症性サイトカイン産生を促進することが知られている。しかし、高濃度ヒストンは極めて細胞毒性が強く、NETsが細胞死を引き起こさずに炎症を促進するメカニズム、関与する受容体経路、およびヒストンシトルリン化がNET形成ではなく機能にどのように寄与するかについては未解明な点が残されていた。特に、NETsがアテローム性動脈硬化を促進するメカニズムは不明であり、ヒストンが細胞毒性を示す一方で、どのようにして細胞を殺すことなく活性化するのかという課題があった。また、NETsのクロマチンは特異的な翻訳後修飾、特にPAD4 (protein arginine deiminase 4) によるヒストンシトルリン化を受けるが、この修飾がNET形成に必須であるという従来の認識は、その機能的役割の検討を妨げていた (Leshner et al. 2012; Papayannopoulos et al. 2010; Wang et al. 2009)。さらに、TLR (Toll-like receptor) アゴニスト間の相乗効果は報告されているものの、NETsのような多様な構成要素を持つDAMPs (damage-associated molecular patterns) における生理学的関連性は十分に定義されていなかった。

目的

本研究の目的は、NETクロマチン構成要素(ヒストン、DNA、シトルリン化ヒストン)が細胞毒性閾値以下で相乗的に炎症を引き起こす分子基盤、関与する受容体経路、およびシトルリン化の機能的役割を決定することである。さらに、アテローム性動脈硬化モデルにおいて、クロマチン-TLR4軸標的化の治療的潜在性を検証することを目指した。

結果

シトルリン化はNET形成に必須ではない: Cl-amidineによるPAD4阻害は、コレステロール結晶刺激によるヒト好中球のNET形成を抑制せず、またApoE欠損マウスの動脈硬化病変においてもPAD4欠損はNET形成に影響を与えなかった (Figure 1A-E)。非シトルリン化NETは、シトルリン化ヒストンH3を欠くものの、脱凝縮したクロマチン構造とMPO (myeloperoxidase)、NE (neutrophil elastase)、S100A8などのNETマーカーを含んでいた。この結果は、シトルリン化がNETosisの実行ではなく、その下流の機能を修飾することを示唆する。n=30 cellsの解析で、Cl-amidine処理群とDMSO処理群でNET形成に有意差は認められなかった (p>0.05)。

ヌクレオソームはLPSと同等のIL-1βを誘導し、シトルリン化がシグナルを増強する: 精製モノヌクレオソーム(0.2 kb DNA)は、ヒト単球においてLPS (lipopolysaccharide) に匹敵するIL-1β産生を強力に誘導した (Figure 2B)。ヌクレオソームの活性化能は断片サイズが小さいほど増強され、ジヌクレオソーム(0.4 kb)およびモノヌクレオソームで最大となった。非シトルリン化NET断片は、IL-1β mRNA、IL-1α、IL-6の誘導能が低く、シトルリン化がヒストン媒介性シグナル伝達を増強することが示された (Figure 2A)。非シトルリン化NET断片によるIL-1β mRNA誘導は、シトルリン化NET断片と比較して約2.5-fold decreaseを示した (p<0.01)。H2B-EGFP (histone H2B-enhanced green fluorescent protein) 融合タンパク質を発現するCAG::H2B-EGFPマウス由来のヌクレオソームは、サイトカイン誘導能を示さず、EGFPドメインがヒストンと特異的受容体との認識を妨げることが示唆された (Figure 2B, C)。CAG::H2B-EGFPマウスの気管内カンジダ感染モデルでは、BAL (bronchoalveolar lavage) 中のIL-1β濃度が野生型マウスと比較して有意に低かった (p<0.05, n=8 mice per group)。

TLR4がNETクロマチンの主要な受容体である: TLR4欠損BMDMはヌクレオソームに完全に無反応であった一方、TLR9欠損およびSTING欠損BMDMは正常な応答を示した (Figure 3A)。抗TLR4抗体はヒト単球のIL-1β誘導を有意に抑制し (Figure 3B, p<0.01)、HEK-Blue TLR4レポーター細胞はモノヌクレオソームおよび組換えシトルリン化H3で活性化された (Figure 3E, F)。組換えシトルリン化H3はTLR4レポーター細胞のNFκB活性を約10-fold increaseさせた。さらに、HAタグ付きTLR4は組換えMBP-H3 (maltose-binding protein-histone H3) 融合タンパク質またはモノヌクレオソームと免疫沈降され、ヒストンとTLR4の直接的な相互作用が確認された (Figure 3G, H)。ヌクレオソームのシトルリン化はTLR4への結合を増加させ、この修飾がNET媒介性シグナル伝達を増強するメカニズムを示唆した。

ヒストンとDNAの相乗効果がサイトカイン誘導に必須である: DNase IまたはBenzonaseでDNAを完全に除去したDNAフリーヌクレオソームは、単球を強力に活性化する能力を喪失した (Figure 4A)。組換えヒストンH3単独(0.3 μM)では弱い活性化しか示さなかったが、サブスレッシュホールド濃度のDNA添加により、単球のヒストンH3への応答が劇的に増強された (Figure 4B)。DNA添加によりIL-1β産生は最大約5-fold increaseした (p<0.001)。また、シトルリン化ヒストンは単球刺激をさらに増強した。これらの結果は、ヒストンとDNAの相乗効果がクロマチンおよびNETsの炎症誘発活性の大部分を担うことを示している。

DNAはTLR4をヒストン含有エンドソームにリクルートする: ヒト初代単球ではTLR4は細胞表面には存在せず、細胞内にのみ検出された (Figure 5A)。ヒストンH3とDNAの複合体刺激後、TLR4はRab5陽性初期エンドソーム(ヒストン含有)の約45%に局在が変化した (Figure 5D, E)。DNAが存在しない場合、TLR4はヒストン含有エンドソームへの局在変化を示さなかった。このことは、細胞外DNAが取り込まれたヒストン含有エンドソームへのTLR4の転座を促進することで、相乗効果を発揮することを示唆する。エンドソームの酸性化阻害剤であるバフィロマイシンAは、ヌクレオソーム刺激に対する単球の応答を減少させた (Figure 5C, p<0.001)。

相乗効果は細胞毒性閾値以下のシグナル伝達を可能にする: EGFP標識ヌクレオソームを用いた実験では、単球は10⁻⁷ Mのモノヌクレオソーム濃度で最大16時間生存可能であったが、5×10⁻⁷ M以上の濃度ではすべてのヒストン含有細胞が死滅した (Figure 6A, B)。一方、ヌクレオソームは10⁻⁹ Mという低濃度でヒト単球を活性化し、10⁻⁸ Mから10⁻⁷ Mの濃度で刺激がピークに達した (Figure 6C)。この結果は、ヒストンとDNAの相乗効果が、ヒストン細胞毒性閾値よりもはるかに低い濃度で単球がクロマチンに応答することを可能にすることを示している。n=3 independent experimentsで同様の傾向が確認された。

クロマチン遮断およびPAD4欠損はアテローム性動脈硬化を抑制する: ApoE欠損雌マウスに抗クロマチンPL2-3 Fabを投与すると、プラーク面積が顕著に縮小した (Figure 7A, B, p<0.01)。一方、全長抗体であるPL2-3 IgGはプラーク形成を抑制しなかった。ApoE/PAD4二重欠損マウスでは、プラークサイズの中間的な減少が認められた (Figure 7A, B)。これらのin vivoデータは、細胞外クロマチンがアテローム性動脈硬化における無菌性炎症の主要な駆動因子であることを示唆する。n=7 animals per groupで解析した。

考察/結論

本研究は、NETクロマチンが「ヒストン=シグナル伝達リガンド+DNA=空間オーガナイザー」という二成分機構により、細胞毒性閾値以下の炎症を実現することを初めて示した。ヒストンはTLR4に結合して活性化する主要な炎症誘発因子であり、DNAはTLR4をヒストン含有エンドソームにリクルートすることで、ヒストン細胞毒性閾値以下のサブリーサルシグナル伝達を増強する。シトルリン化はNET形成には必須ではないが、ヒストン媒介性シグナル伝達を増強する修飾因子として機能し、TLR4結合を促進することが示唆された。高濃度ではヒストン毒性が炎症を反転的に抑制するため、生理学的な狭い「安全域」ウィンドウが自動的に炎症のトーンを調節すると考えられる。

先行研究との違い: これまでの研究では、NETsの炎症誘発能は主にヒストンの細胞毒性に起因すると考えられていたが、本研究は、ヒストンが細胞毒性閾値以下の濃度でDNAと相乗的に作用し、TLR4を介して炎症シグナルを誘導するという新規メカニズムを提示した点で、これまでのパラダイムと異なる。特に、DNAがTLR4の細胞内局在を制御するという役割は、これまで報告されていない。

新規性: 本研究で初めて、NETsの炎症誘発におけるヒストンとDNAの相乗効果の分子基盤、すなわちヒストンがTLR4を活性化し、DNAがTLR4をヒストン含有エンドソームにリクルートするという新規な役割分担を同定した。また、シトルリン化がNET形成には必須ではないものの、ヒストン媒介性シグナル伝達を増強する修飾因子として機能することも新規な発見である。

臨床応用: 本知見は、アテローム性動脈硬化や全身性エリテマトーデス (SLE)、痛風などの無菌性炎症性疾患に対する新規治療戦略の開発に繋がる臨床的含意を持つ。抗クロマチン抗体やPAD4阻害剤(例: Cl-amidine)によるクロマチン-TLR4軸の標的化は、これらの疾患の治療応用として有望である。特に、PAD4阻害剤はNET形成を完全に阻害することなく、その炎症誘発能を抑制できる可能性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、PL2-3 Fabの長期的な安全性と特異性の検証、TLR4の共受容体(MD-2, CD14)の寄与の定量的評価、シトルリン化以外のヒストン翻訳後修飾(アセチル化、メチル化など)の炎症修飾作用の検討が残されている。また、本研究のアテローム性動脈硬化以外の臓器におけるクロマチン性炎症への一般化可能性も限定的であるため、さらなる検証が必要である。

方法

試験デザイン: In vitroでの分子機構解析と、ApoE欠損マウスを用いたアテローム性動脈硬化モデルでのin vivo検証を組み合わせた。

主要手技:

  1. NETクロマチン断片の調製: コレステロール結晶で誘導したNETをMNase (micrococcal nuclease) で断片化し、精製モノヌクレオソームを調製した。
  2. サイトカイン産生評価: ヒト初代単球およびマウスBMDM (bone-marrow-derived macrophage) を用いて、IL-1βのELISAおよびRT-PCRによる発現を評価した。
  3. 受容体同定: TLR4欠損、TLR9欠損、STING欠損BMDM、およびHEK-Blue (human embryonic kidney-Blue) TLR4レポーター細胞を用いて、NETクロマチンに対する応答を解析した。統計解析にはMann-Whitney U testおよびStudent t-testを用いた。
  4. ヒストン-TLR4相互作用解析: 免疫沈降法とウェスタンブロット法により、ヒストンとTLR4の直接的な相互作用を検証した。
  5. アテローム性動脈硬化モデル: ApoE欠損マウスおよびApoE/PAD4二重欠損マウス (C57BL/6Jバックグラウンド) に高脂肪食を負荷し、抗クロマチンFab (PL2-3) を投与して、プラーク形成への影響を評価した。
  6. TLR4細胞内局在解析: 免疫蛍光染色とフローサイトメトリーにより、Rab5陽性エンドソームにおけるTLR4の局在変化を観察した。
  7. シトルリン化の役割: PAD (protein arginine deiminase) 阻害剤Cl-amidineを用いて非シトルリン化NETを生成し、その炎症誘発能を評価した。