• 著者: Friederike Neuenfeldt, Jan Christoph Schumacher, Ricardo Grieshaber-Bouyer, Juri Habicht, Jutta Schroeder-Braunstein, Annika Gauss, Uta Merle, Beate Niesler, Niko Heineken, Alexander Dalpke, Matthias M. Gaida, Thomas Giese, Stefan Meuer, Yvonne Samstag, Guido Wabnitz
  • Corresponding author: Guido Wabnitz (Institute of Immunology, Heidelberg University, Heidelberg, Germany)
  • 雑誌: Cell Reports
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35443164

背景

好中球 (PMN) は自然免疫の最前線細胞であり、脱顆粒、活性酸素種 (ROS) 産生、食作用、そして好中球細胞外トラップ (NETs) 形成 (NETosis) を通じて病原体を排除する。NETs形成は細菌の捕捉と殺傷に不可欠な防御機構であるが、その過剰な産生や除去不全は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス (SLE)、炎症性腸疾患 (IBD)、がんなどの慢性炎症性疾患の病態悪化に寄与することが、多くの先行研究で示されている (Castanheira and Kubes, 2019; Cools-Lartigue et al., 2013; Delgado-Rizo et al., 2017)。

腫瘍壊死因子α (TNFα) は慢性炎症組織で大量に産生され、NETosisを誘導することが知られている (Khandpur et al., 2013)。しかし、TNFαが全ての好中球を均等にNETosisに誘導するのか、あるいは特定のサブセットのみに作用するのかについては、これまで未解明であった。好中球の不均一性については、概日リズム、恒常性交代、腫瘍、感染、炎症組織における機能変化など、様々な文脈で報告されている (Grieshaber-Bouyer and Nigrovic, 2019; Silvestre-Roig et al., 2019; Xie et al., 2020)。しかし、NETosisへの感受性の差を生む好中球サブセットの分子機序は十分に解明されていなかった。特に、TNFαシグナリングに関与する2種類の受容体、すなわちTNF受容体1 (TNFR1) とTNF受容体2 (TNFR2) のどちらがpro-NETotic誘導に関与するのかは、依然として不明な点が多かった。

炎症性サイトカイン、例えばインターフェロンγ (IFNγ) や顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF) は、好中球の寿命を著しく延長させることが知られている (Colotta et al., 1992; Ellis and Beaman, 2004; Samadi et al., 2019; Wright et al., 2010)。好中球がNETosisによって死滅するか、あるいはアポトーシスを遅らせて生存するかは、炎症性疾患の進行において重要な決定点となる。このNETosisの調節は臨床研究の焦点となっており、好中球サブセットがNETosisに対して異なる感受性を示すという仮説も提唱されている (Yipp and Kubes, 2013)。しかし、炎症組織におけるNETosisの増加を説明する好中球の多様化と機能レパートリーの変化については、知識が不足している状況であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指したものである。

目的

本研究の目的は、炎症プライミングによって誘導されるpro-NETotic好中球サブセットを同定し、その細胞表面マーカー (CCR5)、誘導シグナル (TNFR2)、および活性化機序 (細胞内エラスターゼ (ELANE) 発現上昇、膜結合型TNF (mTNF) 逆行シグナル) を詳細に解明することである。さらに、炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎 (UC) 患者において、このCCR5+好中球サブセットの臨床的意義を明らかにすることも目的とした。具体的には、CCR5+好中球がUC患者の病態においてどのような役割を果たすのか、また抗TNF療法への応答性と関連があるのかを検証する。

結果

TNFαプライミングによる好中球のCCR5+サブセットへの二分化: GM-CSFとIFN-γによるプライミング後、末梢血好中球はCCR5陰性 (CCR5-) の多数派とCCR5陽性 (CCR5+) の少数派に明確に二分化した (Figure 1E)。健常ドナーのrPMNまたは全血PMNではCCR5発現細胞は1%未満であったが、pPMNではCCR5+細胞が4%から69%に増加し、中央値は17.4%に達した (n=20 donors; ANOVA; p<0.01) (Figure 1F)。CCR5発現は48時間のプライミング後にピークに達し、0時間では検出されなかった (Figure 1H)。IFN-γ単独またはGM-CSF単独でもCCR5+pPMNの誘導が可能であり、さらにG-CSFやIL-8でも誘導された (Figure 1I, 1J)。Western blot解析では、rPMNとpPMNで同程度の総CCR5タンパク質が検出され、CCR5が細胞内に貯蔵され、サイトカイン刺激により細胞表面へ移行することが示唆された (Figure 2A, 2B)。3D-SIM超解像顕微鏡により、rPMNとpPMNの両方でCCR5が小胞様構造に蓄積していることが確認され、pPMNの一部でのみ表面局在が見られた (Figure 2D)。F-アクチン安定化薬jasplakinolide (500 nM) はCCR5表面発現を抑制し、F-アクチン脱重合薬cytochalasin D (250 nM) は増加させたことから、F-アクチン状態がCCR5の細胞内貯蔵から細胞表面への移行を制御することが示された (Figure 2F)。CCR5+pPMNはCD62L bright/CD16 dim/CXCR4 dim/HLA-DR brightプロファイルを示し、CCR5-pPMNはCD62L dim/CD16 bright/CXCR4 bright/HLA-DR dimプロファイルを示した (Figure 2H, 2I)。NanoString遺伝子発現解析では、CCR5、CCR1、CXCL2、CXCL9、CXCL10、TNFなどの炎症性ケモカイン・受容体の上昇が認められた (Figure 1B)。

TNFR2シグナリングによるELANE上昇とpro-NETotic状態の誘導: 受容体選択的リガンドを用いた実験により、TNFR2選択的リガンド刺激はCCR5+好中球のみでELANEタンパク質発現を有意に上昇させ、NETosisを亢進させた (Figure 6C, 6D)。TNFR1選択的リガンドでは変化は認められなかった。CCR5+好中球へのCCR5リガンドCCL5 (100 ng/mL) 刺激後3時間で、核形態 (round/NET-shaped/denucleated形態) の割合が有意に増加し、ROS産生も増強された (Figure 4G, 4H)。このCCL5誘導NETosisはMEK阻害剤U0126およびROS拮抗剤N-acetylcysteine (NAC) で抑制されたが、カルシウムキレーター (BAPTA-AM、EGTA) では抑制されず、ROS/MEK依存的機序が示唆された (Figure 4G)。CCR5+pPMNは自発的NETosisにも傾向があり、imaging flow cytometryでは、rPMNの3%およびCCR5-pPMNの8%に対し、CCR5+pPMNの19%が核膨化 (chromatin swelling) を示した (Figure 4E)。さらに、末端NETosis産物である脱核細胞質 (cytoplast) の割合も、rPMNの0.53%およびCCR5-pPMNの2.3%に対し、CCR5+pPMNでは22.4%と著明に高く、PMA刺激によりさらに増加した (Figure 4F)。CCR5+pPMNは走化性、食作用、脱顆粒においても機能低下を示した。E. coliの食作用は、rPMNの28% ± 5%およびCCR5-pPMNの25% ± 3%に対し、CCR5+pPMNでは13% ± 3%に低下した (n=5 replicates; ANOVA; p<0.05) (Figure 3F)。SDF1α刺激による細胞極性化はCCR5-pPMNでより顕著であったが、CCL5刺激はCCR5+pPMNのみを極性化した (Figure 3A, 3B)。

膜結合型TNF (mTNF) の逆行シグナルによるNETosis増強: mTNF発現T細胞とCCR5+好中球の共培養実験において、CCR5+好中球のROS産生が有意に上昇し、NETosisが亢進した (CCR5-好中球では変化なし) (Figure 6G, 6H)。この結果は、mTNFがCCR5+好中球のTNFR2にリガンドとして作用し、ROS産生を誘導する逆行シグナル (outside-in signaling) として機能することを示唆している (Figure 6F)。これは、T細胞と好中球が直接細胞間接触を介してNETosisを増幅する新規の細胞間コミュニケーション機序を提示するものである。

潰瘍性大腸炎患者での臨床的意義: 活動期のUC患者の末梢血では、CCR5+好中球の頻度が健常対照と比較して有意に増加した (p<0.05) (Figure 7E)。免疫組織化学的解析では、活動期UC患者の炎症粘膜固有層において、CCR5+好中球が健常組織や寛解期組織と比較して有意に多く浸潤していた (Figure 7A, 7B)。抗TNF療法 (インフリキシマブ、アダリムマブ) 奏効患者ではCCR5+好中球頻度が低かったのに対し、不応患者では有意に高い頻度が維持されており (p<0.05)、CCR5+好中球頻度が抗TNF療法応答性の予測バイオマーカーになる可能性が示された (Figure 7G)。さらに、UC患者の末梢血を抗TNF抗体でex vivo処理すると、CCR5+PMNの量が有意に減少し、NETosisが誘導されることが示唆された (Figure S5C)。細胞外ミエロペルオキシダーゼ (MPO) の染色により、CCR5+PMNは刺激なしでもMPOシグナルを示し、抗TNF抗体処理によりさらに増加した (Figure 7H)。

考察/結論

本研究は、炎症環境下におけるTNFR2を介したCCR5+好中球の誘導、それに続くELANE発現の上昇、そして膜結合型TNF (mTNF) の逆行シグナルによるNETosis増強という、新たな炎症増幅軸を初めて同定した。このTNFR2/CCR5/ELANEの3要素が連動してpro-NETotic好中球を規定するという概念は、好中球の不均一性研究における重要な知見である。

先行研究との違い: NETsの過剰産生が関節リウマチ、SLE、IBD、がんなどの慢性炎症疾患の病態を悪化させることは先行研究で示されていたが、どの細胞メカニズムがNETs過剰産生に寄与するかは不明であった。本研究はその細胞機序として「TNFR2を介したpro-NETotic好中球サブセット (CCR5+) の誘導」という新概念を提示した点で、これまでの研究と異なる。また、CCR5が主にHIV受容体やT細胞ケモカイン受容体として知られているのに対し、好中球においてpro-NETotic状態のマーカーとして機能するという発見は、既存の概念を拡張するものである。

新規性: 膜結合型TNFの逆行シグナル (TNFを発現するT細胞が好中球のTNFR2を刺激する) という細胞間コミュニケーション機序は新規であり、T細胞と好中球の協調的NETosis誘導という炎症増幅ループを示す。CCR5の細胞内貯蔵から細胞表面への動的移行がF-アクチン状態によって制御されるという知見も新規である。さらに、潰瘍性大腸炎患者の炎症粘膜固有層におけるCCR5+好中球の増加と、抗TNF療法不応例でのその頻度の高さは、これまで報告されていない重要な臨床的関連性である。

臨床応用: 潰瘍性大腸炎における抗TNF療法不応とCCR5+好中球高頻度の相関は、CCR5+好中球を標的とした治療戦略 (CCR5アンタゴニスト、TNFR2選択的阻害) や、治療前CCR5+好中球頻度を用いた抗TNF療法応答予測の可能性を提示する。HIVに対して既承認のCCR5アンタゴニスト (maraviroc) は好中球のCCR5+への分化プロセス自体には影響しないため (Figure 2G)、TNFR2を標的にした選択的阻害の方が有望である可能性が考えられる。本研究の知見は、炎症性腸疾患の臨床現場における診断および治療戦略の改善に繋がる臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、ELANE活性化機序の詳細 (転写、翻訳、酵素活性化のどの段階で調節されるか) と、CCR5+好中球の他の慢性炎症疾患 (関節リウマチ、乾癬、クローン病など) への一般化が残されている。また、CCR5+好中球誘導の決定的因子 (どのサイトカイン組み合わせが最も効率的か、in vivoでの誘導条件) と、UCでの機能的役割 (組織傷害メカニズムとしてのNETsの実際の寄与) の検証が必要である。本研究の患者データは、基礎科学研究としては適切であったものの、異質な患者集団を考慮するにはまだ症例数が少ないというlimitationがあるため、データは一部のIBD患者にのみ適用される可能性がある。

方法

健常ドナーの末梢血好中球 (rPMN) を密度遠心法と磁気ビーズ単離法を用いて精製し、CD66b+細胞の純度が99%以上であることを確認した (Figure 1A, Figure S1A)。精製したrPMNをGM-CSF (100 U/mL) とインターフェロンγ (IFN-γ) (10 ng/mL) で48時間プライミングし、活性化PMN (pPMN) を作製した。遺伝子発現解析にはNanoString nCounterシステムを使用し、log2 fold change ≥ 2かつ偽発見率 (FDR) = 0.01を基準として、rPMNとpPMN間で差次発現する106個の遺伝子を同定した (Figure 1B)。ケモカイン受容体の発現はフローサイトメトリーで解析し、CCR5+pPMNの頻度を定量した (n=20 donors; ANOVA; p<0.01) (Figure 1F)。CCR5の細胞内貯蔵は、whole-cell lysateのwestern blot (Figure 2A) およびstructured-illumination microscopy (3D-SIM) (Figure 2D) で可視化した。アクチン動態がCCR5表面発現に与える影響は、cytochalasin D (250 nM) またはjasplakinolide (500 nM) 処理によって評価した (Figure 2F)。

TNF受容体1 (TNFR1) 選択的リガンド (TNF mutein R32W) およびTNF受容体2 (TNFR2) 選択的リガンドを用いて、受容体特異的シグナルがELANE発現とNETosisに与える影響を検討した。走化性はSDF1α (100 ng/mL) またはCCL5 (100 ng/mL) 刺激後のtranswellアッセイで評価した (n=3 replicates) (Figure 3C)。食作用はGFP発現大腸菌 (E. coli) との15分間共培養後にフローサイトメトリーで評価した (n=5 replicates) (Figure 3E, 3F)。脱顆粒はCD66b表面発現のフローサイトメトリーで評価した (n=5 replicates) (Figure 3D)。NETosisは共焦点顕微鏡による核形態観察 (lobed/round/NET-shaped/denucleated) (Figure 4B) と、imaging flow cytometryによるクロマチン膨化 (chromatin swelling) 指標 (Figure 4E) で定量した。ROS産生はジヒドロローダミンおよびルミノール法で評価した (Figure 4H, 4I)。

潰瘍性大腸炎 (UC) 患者 (活動期、寛解期、抗TNF療法奏効/不応) の末梢血および炎症粘膜固有層組織において、CCR5+好中球の頻度を免疫組織化学 (Figure 7A, 7B) およびフローサイトメトリー (Figure 7E) で定量した。統計解析にはGraphPad Prism V6を使用し、2群比較にはt検定、多重比較にはANOVAとFisherのLSD検定を用いた。IBD患者の末梢血PMNの評価にはKruskal-Wallis検定を用いた。