• 著者: Han Meng, Wenchao Hu, Enming Kang, Qing Xu, et al.
  • Corresponding author: Rougang Xie, Yazhou Wang (Fourth Military Medical University)
  • 雑誌: Cell Reports
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-06-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42228568

背景

慢性疼痛は世界人口の約30%が生涯を通じて何らかの形で経験し、DRG(dorsal root ganglion、後根神経節)は痛覚情報伝達の最初のリレー点として侵害受容ニューロンの過活動が末梢感作を引き起こす。DRGにおける神経炎症は、免疫細胞の集積、ニューロン-免疫細胞クロストーク、サイトカイン・ケモカイン増加を特徴とする。過去十年では主にマクロファージ-ニューロン相互作用が注目され、DRGニューロンにおけるCSF(colony-stimulating factor)発現やシュワン細胞からのIL-6放出が侵害受容ニューロンの活動亢進・可塑性増大に関与することが示されてきた(Morenilla-Palao et al. 2014、Hackel et al. 2013)。また、Baral et al. 2018は侵害受容ニューロンが細菌感染に対する好中球応答を抑制することを示した。しかし、無菌性炎症における好中球活性化とNET(neutrophil extracellular trap、好中球細胞外トラップ)形成がDRGの痛覚過敏においてどのような役割を担うかは未解明であり、この問いに答える研究はまだ不足していた。このギャップを埋めるべく、本研究はMLKLの新規機能に注目した。中枢神経系の脊髄後角では神経炎症の機序が詳細に解析されているのと対照的に、末梢DRGにおける好中球浸潤と痛覚調節の関係は不明であった。細胞死関連DAMP(danger-associated molecular pattern)の放出がNET形成を促進するという仮説に基づき、主要な細胞死経路の分子スクリーニングを行ったところ、ネクロプトーシスの鍵分子であるMLKL(mixed lineage kinase domain-like)がDRGの侵害受容ニューロンの核に恒常的に発現していることが予想外に発見された。

目的

DRGの侵害受容ニューロンにおけるMLKLの細胞死非依存的機能を解明し、MLKL-ヒストン-NET軸が慢性炎症性疼痛の発症・維持に果たす役割を明らかにする。

結果

侵害受容ニューロン核内MLKLの細胞死非依存的疼痛調節機能の発見:

CFA(Complete Freund’s adjuvant)誘発炎症性疼痛モデル(n=9-13 mice/group)において、apoptosis・pyroptosis・phospho-MLKLの発現変化は認めず、RIPK3・pRIPK3のみがCFA後3日目から増加した(Fig 1A, B)。しかし、Mlkl-/-マウスは基礎条件下でもWTと比較して機械的allodyniaと熱hyperalgesiaが有意に増強し(p<0.001)、CFA後にさらに悪化した(Fig 1C)。RIPK3-/-マウスでは疼痛閾値の変化を認めなかった。免疫組織化学ではMLKL陽性細胞の約46%がIB4陽性、41%がCGRP(calcitonin gene-related peptide)陽性であり、主に侵害受容ニューロンに発現していた(Fig 1E)。AAV-hSyn-MLKLをMlkl-/-DRGに導入すると疼痛閾値が有意に回復し(n=10 mice/group)(Fig 1D)、TUNEL染色では細胞死増加を認めず、疼痛調節機能が細胞死非依存的であることを示した。

核局在MLKLが疼痛閾値の維持に必須:

通常状態ではMLKL陽性細胞の約8.3%のみが細胞質分布を示すが、CFA刺激後には約95.4%が核外移行した(Fig 2A)。LMB(Leptomycin B、核外移行阻害剤、100 ng/mL)(n=13 mice/group)処置によりMLKLを核に留めると、機械的allodyniaと熱hyperalgesiaが有意に軽減された(p<0.001)(Fig 2B)。核局在ペプチドAAV-MLKL196-472をMlkl-/-DRGに導入すると疼痛閾値が有意に上昇した(n=12 mice/group)(Fig 2E)が、細胞質変異体AAV-MLKLquad-K→Aでは効果を認めなかった(Fig 2D)。Nav1.8-Cre; Mlklfl/fl(Mlkl-CKO)マウスでも全身KOと同様に疼痛閾値低下と神経興奮性増大が確認され(Fig 1G, H)、侵害受容ニューロン特異的な機能であることが示された。

NET形成がMlkl欠損誘発痛覚過敏を媒介:

プロテオミクス解析(WT vs Mlkl-/-DRG)のKEGG解析において、NETs、ECM受容体相互作用、補体凝固カスケード等がWT vs Mlkl-/-の共通変動経路として同定された(Fig 3A)。Mlkl-/-DRGでは通常状態でも低レベルのMPO(myeloperoxidase)・citH3(citrullinated histone H3)が検出され、CFA後3日目にはLy6G+MPO+citH3+細胞がDRGの神経周膜部に顕著に増加した(約3-fold増加、Fig 3C, D)。Mlkl-/-DRGへのAAV-MLKL再発現はNETマーカーを有意に低下させた(Fig 3E, F)。Ly6G中和抗体による好中球除去はMlkl-/-マウスの疼痛閾値を有意に改善し(p<0.01)、DNase I投与(iv)によるNET除去は両機械・熱閾値を有意に減弱した(n=13 mice/group)(Fig 3J)。

MLKL-ヒストンH3軸によるNET制御機構の解明:

IP-MS(immunoprecipitation-mass spectrometry)によりCFA刺激後のMLKL相互作用タンパクとしてhistone H2・H3・H4が主に同定された(Fig 4A)。タンパク質co-IP(co-immunoprecipitation)では、MLKLはH3とのみ特異的に結合し(H2・H4ではなく)、この相互作用はCFA刺激後に解離した(Fig 4B)。Protein-protein docking simulationでMLKL Arg105-H3 Glu134間の塩橋が重要な結合界面として同定され(結合エネルギー-274.22 kcal/mol)、変異体解析ではH3 Glu134が相互作用必須であることが判明した。Mlkl-/-DRGニューロンの培養培地中ヒストンH3はWTより高値を示し(Fig 4C)、抗H3抗体のMlkl-/-DRGへの局所投与でNET形成と疼痛が有意に改善した(n=13 mice/group)(Fig 4D, E)。外因性ヒストンH3(20 μg/mL)のWTマウスDRGへの局所投与は神経興奮性増大・NET形成・疼痛を誘発した(Fig 4G-I)。TLR4(Toll-like receptor 4)がDRGの好中球に発現し、Tlr4-/-マウスでMPO・Ly6G・citH3が劇的に減少した(Fig 4L)。P2X7RはニューロンでCFA後に増加し、P2X7R-shRNAとTlr4欠損の組み合わせで最も大きな疼痛緩和が得られた(Fig 4M)。

考察/結論

本研究は、先行研究においてネクロプトーシス実行因子として記載されてきたMLKLが、侵害受容ニューロンの核内でヒストンH3と結合し細胞死非依存的にNET形成と疼痛閾値を調節するという新規な機能を本研究で初めて発見した。これはMLKLの非ネクロプトーシス的核内機能という新しいパラダイムを提示する。インフルエンザウイルス感染における核内MLKLの先行研究(Petrie et al. 2021)では細胞死が惹起されていたのと対照的に、本研究の侵害受容ニューロンでは細胞死を伴わずにヒストンH3の「ゲートキーパー」として機能するという根本的に異なるメカニズムが働いていることが示された。また、DRGにおける好中球浸潤と痛覚調節の関係は従来不明であったが、本研究はMLKL-ヒストン-NET軸という神経-免疫クロストーク機序を解明した点でも新規である。

臨床的意義として、MLKL-ヒストン-NET軸は慢性炎症性疼痛の末梢治療標的となり得る。LMB(核外移行阻害)、核局在MLKLペプチド、抗ヒストンH3抗体、DNase Iによる複数の介入点でのアプローチが有効であることが示された。特に、細胞外DNA・NETを標的とするDNase I投与の疼痛改善効果は、既存の抗炎症治療法との組み合わせで有望な可能性を示唆する。

残された課題として、①ヒストンH3の核外放出機構の詳細(膜透過性変化の寄与の可能性)、②Tlr4とMlklのダブルKOによる機序の完全な解明、③他の疼痛モデル(神経障害性疼痛等)への一般化可能性、④ミトコンドリアDNA等他のDAMPのNET形成への関与が挙げられる。なお、DRGニューロンへのAAVによる遺伝子導入効率が約70%であることは結果解釈上の留意事項である。

本研究はがん神経科学好中球の組織特異的機能細胞外小胞と免疫調節の理解を深める。

方法

CFA(Complete Freund’s adjuvant)誘発炎症性疼痛モデルを C57BL/6J mice(8-10週齢、雄)に適用。全身性Mlkl-/-マウス、NaV1.8-Cre; Mlklfl/fl条件的KO(Mlkl-CKO、侵害受容ニューロン特異的MLKL欠損)を使用。疼痛評価: 機械的allodynia(フォンフライフィラメント)、熱hyperalgesia。免疫組織化学・in situ hybridization(Mlkl mRNA)、patch-clamp記録(L3-L5 DRGニューロン小~中径)。AAV(adeno-associated virus; AAV-hSyn-MLKL全長・核局在ペプチドMLKL196-472・核外変異体MLKLquad-K→A)をL3-L5(lumbar 3-5)DRGに局所注射(感染率約70%)。Leptomycin B(LMB、核外移行阻害剤、100 ng/mL)を局所投与。IP-MS(免疫沈降-質量分析)によるMLKL相互作用タンパク探索。protein-protein docking simulation(murine MLKL vs histone H3、結合エネルギー-274.22 kcal/mol)。ELISA(培養培地中ヒストンH3定量)。DNase I(iv投与・局所投与)によるNET除去実験。抗H3中和抗体、Ly6G中和抗体(好中球除去)。P2X7R-shRNA, Tlr4-/-マウスによる受容体解析。プロテオミクス解析(WT vs Mlkl-/- DRG)。統計: one-way ANOVA、Friedman M test、repeated measurement ANOVA、Mann-Whitney test、two-tailed unpaired t test。Data: ProteomeXchange PXD077273、iProX IPX0016680000。