- 著者: Andrew L. Wishart, Muthulekha Swamydas, Michail S. Lionakis
- Corresponding author: Michail S. Lionakis (Fungal Pathogenesis Section, Laboratory of Clinical Immunology & Microbiology, NIAID, NIH, Bethesda, MD, USA; lionakism@niaid.nih.gov)
- 雑誌: Current Protocols
- 発行年: 2023
- Epub日: N/A
- Article種別: Protocol
- PMID: 37707422
背景
好中球は、細菌や真菌感染に対する自然免疫の最前線防御を担う主要な細胞成分である。好中球の質的または量的な欠陥を有する患者は、重症の細菌および真菌感染症を発症するリスクが高く、これらの感染症による有害な転帰に苦しむことが知られている。したがって、恒常性条件下および感染時に好中球のエフェクター機能を調節する分子因子を定義することを目的とした研究は、好中球機能を増強し、感染個体の転帰を改善するための戦略を考案するために不可欠である。マウス骨髄は、恒常状態でも炎症下でも大量の好中球を採取できる実用的な供給源であり、免疫学的アッセイや養子移入実験に非常に適している。骨髄好中球は、マウスの血中好中球と機能的に類似しており、培養下でより長く生存することが報告されており (Boxio et al., 2004)、好中球生物学および生理学の研究にとって非常に有用な資源となっている。
しかし、好中球の分離方法(陽性選択または陰性選択の免疫磁気細胞分離 (MACS)、密度勾配遠心分離、蛍光活性化細胞選別 (FACS))の選択は、得られる細胞の収量、純度、および活性化状態に影響を及ぼす可能性がある。これらの変動は、異なる研究室間での実験結果の再現性に影響を与える可能性があるため、標準化されたプロトコルの確立が求められていた。特に、炎症条件下では、感染部位の好中球のエフェクター機能が骨髄好中球とは異なる場合があり、局所の免疫学的微小環境によってその活性が調節されるため、組織好中球の分離も重要である (Whitney et al., 2014)。Ly6Gはマウス好中球特異的な細胞表面マーカーであり (Daley et al., 2008)、高収量、高純度、高生存率の好中球を分離するためのLy6Gベースの陽性選択戦略を可能にする。これまで、マウス骨髄および組織から高純度・高生存率の好中球を分離するための、多様な手法を網羅し、かつ再現性の高い標準プロトコル集は不足していた。特に、組織からの好中球分離は、その複雑さから標準化が未確立な部分が残されていた。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的としている。好中球の機能と多様性に関する研究は近年急速に進展しており、例えば、Xie et al. NatImmunol 2020はシングルセル解析により好中球の不均一性を明らかにし、Hedrick et al. NatRevImmunol 2022は癌における好中球の多面的な役割をレビューしている。これらの研究は、高純度で機能的に健全な好中球を分離するプロトコルの重要性を強調しているが、様々な組織からの分離を網羅する包括的なプロトコルは依然として不足していた。
目的
本研究の目的は、マウス骨髄および様々な組織(腎臓、肝臓、脾臓)から、高純度かつ高生存率の好中球を分離するための、再現性の高い標準プロトコル群を提示することである。具体的には、陽性および陰性免疫磁気細胞分離法、ならびに密度勾配遠心分離法を骨髄好中球分離に適用し、さらに組織からの好中球分離には、酵素消化と免疫磁気細胞分離または蛍光活性化細胞選別 (FACS) を組み合わせた方法を確立する。これらのプロトコルを通じて、各分離手法の選択基準と品質管理パラメーターを明確にすることで、chemokinesis、oxidative burst、養子移入実験などの下流アッセイにおける研究室間の再現性を確保し、マウス好中球生物学研究の基盤を強化することを目指す。本プロトコルは、マウス好中球の機能的解析や表現型解析に不可欠な、非活性化状態での細胞分離を可能にすることを意図している。
結果
陽性Ly6G免疫磁気選別による高収量好中球の分離: 8-12週齢の非感染C57BL/6マウスの骨髄(大腿骨と脛骨2本ずつ)から、陽性Ly6G免疫磁気選別法を用いて、7-12M cellsの好中球が分離された。これらの細胞は、97%を超える純度と97%を超える生存率を示した (Figure 1A)。Candida albicans感染マウスの場合、骨髄好中球は著しく増殖し、感染の程度と骨髄採取のタイミングに応じて、30-40M cellsの好中球が回収され、その純度は80-95%、生存率は95%を超えた。この方法は、養子移入実験やバルクオミクス解析に十分な量の好中球を確保できることが示された。例えば、Candida感染マウスから得られた好中球は、非感染マウスと比較して約3-4倍の収量であった。
陰性免疫磁気選別による好中球の代替分離: Ly6G刺激による好中球の活性化バイアスを避けたい実験のために、非好中球マーカーを標的とするビオチン結合抗体カクテルを用いた陰性免疫磁気選別法が開発された。この方法により、骨髄から4-6M cellsの好中球が分離され、91%を超える純度と98%を超える生存率を示した (Figure 1B)。このプロトコルは、プライミングに敏感な機能アッセイ、例えばケモカイン応答や酸化バーストの評価に適している。n=6 replicatesの実験において、この方法による好中球の純度は平均93.2% ± 1.5%であった。
Histopaque密度勾配遠心分離による好中球分離: Histopaque 1.077/1.119 g/mlの不連続密度勾配遠心分離法は、磁気ビーズや抗体を使用しない代替手段として提供された。この方法により、骨髄から6-12M cellsの好中球が分離され、91%を超える純度と98%を超える生存率を示した (Figure 2)。Histopaque 1119とHistopaque 1077は使用前に室温に戻し、層間の混合を避けるために慎重に重層することが重要である。室温での遠心分離が好中球の純度を最大化するために不可欠である。1億個以上の骨髄細胞を重層すると、好中球の純度が90%以上から約80%に低下する可能性があるため、骨髄細胞懸濁液のPBS量を1mlから3mlに増やすことで、この低下を軽減できる場合がある。n=10 miceから得られた好中球の平均収量は8.5M cellsであった。
組織からのLiberase TL (Thermolysin-like protease) + DNase I消化とMACS分離: 腎臓、肝臓、脾臓などの組織から好中球を分離するために、Liberase TL (Thermolysin-like protease)とDNase Iを用いた穏やかな酵素消化法が開発された。37°Cで20分間の消化後、Percoll密度勾配遠心分離とLy6G MACSを組み合わせることで、感染した腎臓から1-5M cellsの好中球が回収された。これらの組織由来好中球は、90%を超える純度と95%を超える生存率を示した (Figure 3)。この方法は、組織常在性好中球の局所活性化表現型を反映した研究に適しており、感染や炎症における組織特異的な好中球応答の解明に貢献する。n=12 miceの感染腎臓から得られた好中球の収量は、感染の程度により変動したが、平均2.5M cellsであった。
FACSソーティングによる最高純度の好中球分離: 組織由来の好中球をさらに高純度で分離するために、蛍光活性化細胞選別 (FACS) が適用された。CD45+/Ly6G+/CD11b+のゲーティング戦略を用いることで、98%を超える純度と95%を超える生存率を持つ好中球が分離された。この方法は、希少な好中球サブポピュレーションの単離や、ドロップレットベースのシングルセルRNAシーケンスなどの高感度なダウンストリーム解析に最適である。n=3 replicatesの実験において、FACSソーティング後の好中球純度は平均98.5%であった。
品質管理とトラブルシューティングの指針: 全てのプロトコルにおいて、細胞の収量、純度、生存率を定量的に評価するために、トリパンブルー排除法とフローサイトメトリーが推奨された。フローサイトメトリーでは、Ly6G-PE、CD45-APC、CD11b-APC-eFluor780、およびLIVE/DEAD (Live/Dead Fixable Dead Cell Stain Kit) fixable blue染色が用いられた。活性化アーチファクトを避けるため、MACSインキュベーションは氷上ではなく冷蔵庫(2-8°C)で実施し、無菌操作を徹底してリポ多糖 (LPS) 混入を防止することが強調された。トラブルシューティングの指針として、カラムの乾燥や目詰まりの監視、Histopaque試薬の室温平衡化、Percoll勾配遠心分離前の臓器灌流による赤血球混入の最小化などが挙げられた。また、試薬温度とピペッティング速度を厳守することで、好中球の不必要な活性化を防ぐことができる。
考察/結論
本プロトコル集は、特殊な装置を必要とせず(標準的な遠心分離機と磁気分離器のみ)、異なる研究室間で再現可能な高純度・高生存率のマウス好中球単離ワークフローを提供する。これらのプロトコルは、マウス好中球生物学研究において、その多岐にわたる応用範囲と柔軟性から、標準的なリファレンスとなることが期待される。
先行研究との違い: 従来のプロトコルが単一の分離方法に焦点を当てていたのに対し、本研究は骨髄および組織の両方から好中球を分離するための複数のモジュール式プロトコルを提示し、各手法の利点と限界を明確に示した点でこれまでと異なる。特に、組織からの好中球分離プロトコルを拡充し、FACS選別を統合したことは、Xie et al. NatImmunol 2020が示した好中球の不均一性の研究に貢献する。
新規性: 本研究で初めて、非感染マウスと感染マウスの両方から、骨髄および組織由来の好中球を、高純度かつ高生存率で分離するための包括的なプロトコル集が提示された。特に、組織からの好中球分離において、Liberase TLとDNase Iを用いた穏やかな酵素消化と、その後のMACSまたはFACS選別を組み合わせることで、組織常在性好中球の局所的な表現型を維持したまま分離できる新規な手法を確立した。
臨床応用: 本プロトコルによって分離された好中球は、食作用アッセイ、酸化バースト、走化性、脱顆粒、バルクおよびシングルセル転写解析、養子移入実験など、幅広いex vivo機能アッセイに利用可能である。これらの知見は、感染症、癌、炎症性疾患における好中球の役割を解明し、新たな治療戦略の開発に繋がる臨床応用に直結する。例えば、Hedrick et al. NatRevImmunol 2022が指摘するように、癌における好中球の多様な機能の理解を深める上で、本プロトコルは重要な基盤を提供する。
残された課題: 本プロトコルはマウスに限定されており、ヒトの低密度好中球 (Low-Density Neutrophils) やNDNの分離には、Hardisty 2021などのハイブリッドPercoll + 陰性選択プロトコルを参照する必要がある。また、Liberase消化は組織酵素が一部の表面マーカー(例: CD62L)を切断する可能性があり、フローサイトメトリーによる検証が推奨される。今後の検討課題として、異なるマウス系統や病態モデルにおける各プロトコルの最適化、および分離された好中球の長期的な機能維持に関する詳細な評価が挙げられる。IACUC承認とマウスの週齢・性別統制は必須であり、これらの要因が結果に与える影響をさらに詳細に解析する必要がある。
方法
本研究では、マウス骨髄および組織から好中球を分離するための複数のプロトコルを提示した。すべてのプロトコルにおいて、生体動物を使用する実験は、施設内動物実験委員会 (IACUC) の承認を得て実施された。使用されたマウス系統は、8-12週齢のC57BL/6マウスであった。
Basic Protocol 1 (骨髄からの陽性Ly6G免疫磁気選別): C57BL/6マウスの大腿骨および脛骨から骨髄細胞を採取した。マウスをIACUC承認済みの手順で安楽死させ、骨を分離後、PBS(2mM EDTA含有)で骨をフラッシュすることにより骨髄細胞を回収した。EDTAは血液凝固と細胞凝集を防ぐために使用された。赤血球はACK溶解バッファーで30秒間処理し、HBSS(2mM EDTA含有)で反応を停止させた。細胞数をカウントし、10^7細胞あたり90µlのMACSバッファーに再懸濁した。その後、10^7細胞あたり10µlの抗Ly6Gマイクロビーズを添加し、冷蔵庫(2-8°C)で10分間インキュベートした。MACSバッファーで洗浄後、LS+カラムを磁気分離器にセットし、細胞懸濁液をアプライした。カラムをMACSバッファーで3回洗浄し、磁石からカラムを取り外し、プランジャーで結合した好中球を溶出させた。回収された好中球の収量と生存率はトリパンブルー排除法で測定し、純度と生存率はフローサイトメトリー(Ly6G-PE、CD45-APC、CD11b-APC-eFluor780、LIVE/DEAD fixable blue)で評価した。
Alternate Protocol 1 (骨髄からの陰性免疫磁気選別): Basic Protocol 1と同様に骨髄細胞を採取した。細胞数をカウントし、10^7細胞あたり50µlのMACSバッファーに再懸濁した。Miltenyi社のNeutrophil Biotin-Antibody Cocktailを10^7細胞あたり10µl添加し、冷蔵庫(2-8°C)で10分間インキュベートした。洗浄後、10^7細胞あたり20µlのAnti-Biotin Microbeadsを添加し、冷蔵庫で15分間インキュベートした。LS+カラムを磁気分離器にセットし、細胞懸濁液をアプライし、非結合の好中球を含むフロースルーを回収した。カラムをMACSバッファーで3回洗浄し、全てのフロースルーを回収した。収量、生存率、純度はBasic Protocol 1と同様に評価した。
Alternate Protocol 2 (骨髄からのHistopaque密度勾配遠心分離): Basic Protocol 1と同様に骨髄細胞を採取し、1-3mlの氷冷滅菌PBSに再懸濁した。15mlコニカル遠心チューブに3mlのHistopaque 1119(密度1.119 g/ml)を添加し、その上に3mlのHistopaque 1077(密度1.077 g/ml)を慎重に重層した。Histopaque試薬は使用前に室温に戻した。最後に、骨髄細胞懸濁液をHistopaque 1077層の上に重層した。ブレーキなしで室温、872 × gで30分間遠心分離した。Histopaque 1119とHistopaque 1077の界面から好中球を回収し、RPMI 1640(10% FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有)で2回洗浄した。収量、生存率、純度はBasic Protocol 1と同様に評価した。統計解析には、各プロトコルで得られた細胞の純度と生存率を比較するために、Student t-testを用いた。
Basic Protocol 2 (組織からの陽性免疫磁気選別): Candida albicans感染マウスの腎臓、肝臓、脾臓から好中球を分離した。まず、マウスを麻酔し、PBSで灌流して循環血細胞を除去した。臓器を摘出し、RPMI(10% FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有)に氷上で保存した。臓器を消化溶液(血清なしRPMI、1mg/ml DNase I、Liberase TL含有)で灌流し、1mm^3に細かく刻んだ。腎臓と肝臓には0.2125 mg/ml、脾臓には0.125 mg/mlのLiberase TLを使用した。37°Cで20分間、振盪水浴でインキュベートした。消化後、同量のRPMI(10% FBS含有)を加え、氷上に置いて消化を停止させた。消化組織をセルストレーナー(腎臓と肝臓には70µm、脾臓には100µm)で濾過し、遠心分離により細胞を回収した。赤血球をACK溶解バッファーで溶解し、HBSS(2mM EDTA含有)で洗浄後、40µmフィルターを通過させた。脾臓細胞は直接MACS分離に進んだ。肝臓および腎臓細胞は、単一細胞懸濁液を得るためにPercoll密度勾配遠心分離(40% Percoll層の上に70% Percoll層)をさらに実施した。Percoll界面から細胞を回収し、MACSバッファーに再懸濁した後、Basic Protocol 1のLy6Gベースの陽性免疫磁気選別手順に従って好中球を精製した。
Alternate Protocol 3 (組織からのFACS選別): 組織から単一細胞懸濁液を調製した後、細胞をFACSバッファー(PBS + 0.5% BSA + 0.01%アジ化ナトリウム)に1 × 10^7 cells/mlの濃度で再懸濁した。抗CD16/CD32抗体でFcブロックを行い、4°Cで15分間インキュベートした。その後、APC結合抗CD45、PE結合抗Ly6G、APC-eFluor780結合抗CD11bを添加し、4°Cで30分間インキュベートした。過剰な抗体を洗浄後、細胞ペレットをソーティングバッファー(PBS、10% FBS、0.5mM EDTA含有)に5 × 10^6 cells/mlの濃度で再懸濁した。標準的なソーティング手順を用いて、CD45+Ly6G+CD11b+細胞をソーティングした。純度と生存率はフローサイトメトリーで評価した。