- 著者: Xuemei Xie, Qiang Shi, Peng Wu, Xiaoyu Zhang, Hiroto Kambara, Jiayu Su, Hongbo Yu, Shin-Young Park, Rongxia Guo, Qian Ren, Sudong Zhang, Yuanfu Xu, Leslie E. Silberstein, Tao Cheng, Fengxia Ma, Cheng Li, Hongbo R. Luo
- Corresponding author: Fengxia Ma (Institute of Hematology, CAMS) / Cheng Li (Peking University) / Hongbo R. Luo (Boston Children’s Hospital, Harvard)
- 雑誌: Nature Immunology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-07-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 32719519
背景
好中球は循環白血球の最多成分であり、感染防御の第一線を担う重要な自然免疫細胞である。しかし、その短寿命と終末分化の特性から、好中球の機能的多様性や分化・成熟・老化の全貌を単一細胞レベルで包括的に理解することは長らく困難であった。従来の好中球研究は、主にバルク解析やフローサイトメトリーに依拠しており、形態学的な分類(前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、杆状核球、分葉核球)に基づく分類が主流であった。このアプローチでは、細胞集団内の微細な不均一性を捉えることが難しく、好中球の多様な機能や運命決定メカニズムの解明には限界があった。
近年、いくつかの好中球サブポピュレーション(pre-neutrophil、immature neutrophil、mature neutrophilなど)が提唱されてきたが、それらの命名法は統一されておらず、分化方向性や相互関係も十分に確立されていなかった。例えば、Evrard et al. Immunity 2018は骨髄好中球の分化段階を3つのサブセットに分類したが、これらのサブセットが末梢血の成熟好中球とどのように連携するのかは不明であり、大きな知識ギャップが残されていた。また、細菌感染のような炎症刺激が好中球の転写プログラムにどのような影響を与え、各サブポピュレーションが固有性を保ちながら機能的適応を示すのかについても、詳細な解析が不足していた。特に、感染時の好中球の転写リプログラミングが、既存のサブポピュレーション固有性を維持しつつ進行するのか、あるいは新たなサブポピュレーションを誘導するのかは未解明な点が多く、好中球の動態を包括的に理解するための知識ギャップが残されている。Ng et al. NatRevImmunol 2019やStubbington et al. Science 2017といった先行研究は、単一細胞解析の有用性を示唆しているものの、好中球の全分化段階を網羅した詳細な解析は依然として不足している状況であった。
このような背景から、好中球の分化、成熟、機能、および運命決定に関する包括的な参照アトラスの構築が強く求められていた。単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)は、細胞集団の不均一性を高解像度で解析できる強力なツールであり、免疫細胞の多様性解明に貢献してきたが、好中球の全分化段階を網羅した詳細なscRNA-seq解析はこれまで報告されていなかった。特に、定常状態と感染状態の両方で、骨髄から末梢血・組織に至る好中球の連続的な分化軌跡を分子レベルで解明し、その機能的多様性を明らかにする研究が不足しており、分化経路やサブセット間の遷移関係の多くが未解明であった。
目的
本研究の目的は、定常状態および細菌感染時のマウス好中球の包括的な単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)参照アトラスを構築することである。具体的には、骨髄における好中球の分化過程から、末梢血および脾臓に存在する成熟好中球に至るまで、連続した分化軌跡を単一細胞レベルで明らかにすることを目指した。
この参照アトラスを通じて、以下の点を解明することを目的とした。
- 各好中球サブポピュレーションの明確な分子シグネチャ、転写因子ネットワーク、および機能スコアを定義すること。
- scRNA-seqによって定義された好中球サブポピュレーションと、既報の形態学的な分類や表面マーカーに基づく好中球分類との対応関係を定量的に評価し、好中球分類の文献間の不整合を解消する統一的な参照フレームワークを提示すること。
- 細菌感染時における好中球の転写リプログラミング様式を解析し、各サブポピュレーションが感染刺激に対してどのように機能的適応を示すのかを明らかにすること。これにより、好中球の動態、機能、運命決定に関する包括的な参照モデルを確立し、将来的な好中球関連疾患のメカニズム解明、バイオマーカーの探索、および治療標的の開発のための基盤を提供することを目指した。
結果
8つの好中球サブポピュレーションの定義と分化軌跡: 非監督クラスタリングとMonocle擬似時間解析により、好中球の分化・成熟過程を8つの明確な集団(G0-G4、G5a-c)として定義した(Fig. 1b)。G0はGMP(granulocyte-monocyte progenitor)様細胞(Cd117/Cd34/_Sox4_発現)、G1は増殖期(Gfi1/Cebpa_発現、proNeu相当)、G2は最大増殖期(二次顆粒前、metamyelocyte相当)、G3は二次顆粒遺伝子(Ltf/Camp/Ngp)高発現、G4は_Mmp8/_Cxcl2_高発現の成熟BM好中球とされた。これらのBM好中球は、G0からG4へと連続的に分化する軌跡を示した。BM G4から末梢へ移行後、G5a(Mmp8/_S100a8_高発現、遊走・炎症応答型)、G5b(ISG(interferon-stimulated gene)高発現、Ifit3/Isg15+)、G5c(最老化型、_CXCR4_高発現)という3つの成熟サブセットが分岐・収束することが明らかになった(Fig. 1h)。RNA velocity解析では、G5aとG5bが独立した並行起源を持つことが示された。G5aはBM G3とG4の両方から生じるが、G5bはG4からのみ生じ、G5aを経由しない。G5cは全G5集団の終端であり、最も高いアポトーシススコアを示した(Fig. 2i,j)。G5c細胞におけるアポトーシス細胞の割合は、G5bまたはG5a集団と比較して有意に高かった(n=3 mice、p<0.0001、約20%)。
末梢血3サブセットのFACS分離と定量: scRNA-seqで定義された末梢血の3つの成熟好中球サブセット(G5a, G5b, G5c)は、表面マーカーの発現パターンに基づいてFACSにより分離可能であることが示された。G5bはIFIT1+細胞として分離され、G5cはIFIT1-CXCR4^hi、G5aはIFIT1-CXCR4^loとして同定された(Fig. 3d)。RT-qPCRによる各サブセットの固有シグネチャ遺伝子発現の確認では、G5aは_Lyz2_/S100a8_が高く、G5bは_Ifit1/Isg15_が高く、G5cは_Cxcr4/_Gm2a_が高い発現を示し、scRNA-seqの結果と一致した(Fig. 3e,f)。末梢血における各サブセットの比率は、G5aが最多(約60%)、G5bが約25%(n=6 mice)、G5cが約15%と推定された(Fig. 3g)。これらの結果は、scRNA-seq解析とFACSベースの解析で一貫しており、各サブセットの存在が確認された(n=3-6 mice)。
既報好中球サブポピュレーション分類との対応関係: 本研究で定義された好中球サブポピュレーションは、既報の分類と高い相関を示した。Evrard et al. Immunity 2018のpreNeu/immNeu/mNeuは、それぞれ本研究のG2/G3/G4に対応した(Extended Data Fig. 2b)。Zhu et al.のC1/C2集団は、G0/G1とG2/G3にそれぞれ対応した(Extended Data Fig. 2c,d)。Muench et al.およびKwok et al.のproNeuは、G1と完全に一致した(Extended Data Fig. 2g,h)。Giladi et al.のstage I/IIは、G2-G4とG4-G5のオーバーラップを示した(Extended Data Fig. 2e,f)。これにより、好中球分類の文献間の不整合を解消する統一参照フレームが提示された。
分化に伴う機能獲得の漸進的構築: 好中球の分化に伴い、貪食スコア、走化性スコア、NADPH oxidase(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate oxidase)スコアはG0からG3にかけて段階的に上昇し、G3でピークに達した(Extended Data Fig. 4a-d)。NADPH oxidaseのサブユニット(gp91phox/p22phox/p47phoxなど)は逐次的に発現し、成熟好中球での最大刺激応答を可能にする一方、未熟骨髄での過剰なROS(reactive oxygen species)産生を防ぐ「タイムド発現機構」が示唆された(Extended Data Fig. 4e)。NADPH oxidaseスコアはG3でピークに達した後、成熟好中球では20%減少した(Extended Data Fig. 4d)。成熟好中球はグリコーシス優位な代謝を示すとされてきたが、グリコーシス関連遺伝子は転写レベルでは成熟に伴い低下しており、グリコーシス優位は転写後・翻訳後メカニズムで維持される可能性が示唆された(Extended Data Fig. 4g,h)。
新規好中球特異的転写因子ネットワークの同定: SCENIC解析により、19の好中球特異的レギュロンが同定された(Fig. 4h)。これには既知の因子(Cebpe, Spi1/PU.1, Klf5など)に加え、Nfil3, Max, Mlx, Xbp1_の4因子が新規好中球特異的転写因子として同定された(Fig. 4i)。G0/G1移行には_Xbp1_と_Mlx_ネットワークの変化が特異的であり、G2/G3移行では_E2f1, Nelfe, _Rb1_の劇的な喪失が観察された(Fig. 4j)。これらの新規転写因子は、好中球の分化過程における重要な制御メカニズムを示唆する。
細菌感染時の転写リプログラミング: _E. coli_感染24時間後、細胞あたりの遺伝子数とUMI総量が有意に増加し、感染時の転写活性上昇が示された(Extended Data Fig. 6g,h)。しかし、G0-G4およびG5a/b/c各集団の固有シグネチャ遺伝子は感染後も維持され、集団アイデンティティが安定していることが確認された(p<0.0001で一致率高)(Fig. 5c)。感染による差次的遺伝子発現解析では、G0/G1細胞でも免疫エフェクター機能やROS代謝関連遺伝子が変動しており、感染応答が造血前駆細胞レベルで既に開始することが示された(Fig. 5e)。成熟G4/G5では特に細胞質分泌・顆粒タンパク質・NADPH oxidaseスコアが有意に上昇し(log2FC 1.8以上の変動、p<0.0001)、走化性・貪食機能スコアも全ての成熟集団で増強された(Fig. 5f-h)。転写因子レギュロンでは防御応答関連(_Irf7_など)が上昇し、代謝関連(Foxp1, _Ctcf_など)が低下するという広汎なシフトが検出された(Extended Data Fig. 8b)。
ISG発現G5b好中球の存在と感染時の動態: ISGを発現するG5b好中球は、定常状態のマウスおよびヒトの末梢血に存在し、細菌感染時にその割合が有意に増加することが示された(Fig. 5b, Fig. 6d-f)。マウス脾臓におけるG5b細胞の分布解析では、S100a8+IFIT1+細胞として同定され、感染時にはその数と割合が増加し(n=3 mice)、脾臓の被膜下領域に優先的に局在することが示された(Fig. 6a,b)。これは、G5bサブポピュレーションのユニークな性質と、感染防御における特定の役割を示唆する。
細菌感染による好中球分化の加速と動態変化: 細菌感染時においても好中球の分化・成熟軌跡は全体として維持されたが(Fig. 7a)、G1細胞の増殖スコアが上昇し(Fig. 7c)、G2細胞ではS期関連遺伝子の発現が減少した。EdU(5-ethynyl-2’-deoxyuridine)標識実験により、感染時には骨髄における好中球の有糸分裂後成熟期間が大幅に短縮され(約3日から2日へ、n=5 mice)、末梢への動員が加速されることが示された(Fig. 7f)。また、感染時にはG3からG5aへの直接的な移行が抑制され、G3細胞は主にG4細胞へと分化することが示された(Fig. 8b)。腹腔内の感染部位では、G5c細胞が45%以上を占め、高い血管外遊走能力を持つ可能性が示唆された(Fig. 8d)。これらの動態変化は、感染時の好中球応答の効率化に寄与すると考えられる。
考察/結論
本研究は、単一細胞トランスクリプトーム解析を用いて、定常状態および細菌感染時のマウス好中球の不均一性(heterogeneity)と、分化・成熟過程における協調的な変化を包括的に明らかにした。
先行研究との違い: これまでの研究では、好中球の多様性に関する知見は断片的であり、骨髄から末梢血・組織に至る連続的な分化軌跡を単一細胞レベルで網羅的に捉えたものは存在しなかった。本研究は、Ng et al. NatRevImmunol 2019が提唱した好中球の不均一性概念を分子レベルで詳細に裏付け、8つの明確なサブポピュレーションを定義した点で、これまでの研究とは異なる包括的な視点を提供した。特に、末梢血の3つの成熟サブセット(G5a, G5b, G5c)が骨髄の異なる成熟段階から生じるという知見は、好中球の運命決定における新たな理解をもたらす。
新規性: 本研究で初めて、好中球の分化・成熟過程をG0からG5cまでの8つの明確な集団として定義し、その分子シグネチャ、転写因子ネットワーク、および機能スコアを詳細に特徴付けた。特に、Nfil3, Max, Mlx, _Xbp1_の4因子を新規好中球特異的転写因子として同定したことは、好中球の分化制御メカニズムに関する新規の洞察を提供する。また、ISG高発現G5bサブポピュレーションが定常状態から存在し、感染時に拡大すること、そしてその転写プロファイルがZilionis et al. Immunity 2019が報告した腫瘍微小環境におけるISG発現好中球とは異なることも、これまで報告されていない新規の発見である。
臨床応用: 本研究で確立された好中球の包括的な参照アトラスは、好中球関連疾患の病態メカニズム解明に大きく貢献する。例えば、感染症、自己免疫疾患、がんなどにおける好中球の異常な動態や機能不全を、単一細胞レベルで解析するための基盤となる。新規に同定された好中球特異的転写因子やサブポピュレーション固有の分子シグネチャは、診断バイオマーカーや治療標的としての臨床応用に直結する可能性がある。特に、ISG高発現G5b細胞の同定は、インターフェロン応答が関与する疾患における好中球の役割を再評価し、新たな治療戦略を開発するための臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究がマウスモデルに基づいているため、ヒト好中球における同様の不均一性と分化軌跡の検証が残されている。特に、ヒトのG5bに相当するISG発現好中球は同定されたものの、その機能的役割や病態生理における意義はさらなる研究が必要である。また、好中球の代謝経路が転写後・翻訳後メカニズムによって制御される可能性が示唆されたが、その詳細なメカニズムの解明も今後の重要な課題である。さらに、感染時の好中球の動態変化において、G3細胞がG5aへ直接移行する経路が抑制され、G4への分化が促進されるメカニズムや、G5c細胞の高い血管外遊走能力の分子基盤についても、さらなる機能的検証が求められる。本研究はscRNA-seqによる転写レベルの解析に限定されており、タンパク質レベルでの検証や、細胞の機能的アッセイを組み合わせることで、より深い理解が得られるだろう。
方法
本研究では、定常状態および細菌感染時のマウス好中球の包括的なトランスクリプトームプロファイリングを実施した。まず、C57BL/6Jマウスの骨髄(BM)、末梢血(PB)、および脾臓からGr1+細胞を蛍光活性化セルソーティング(FACS)により回収した。好中球の成熟過程全体を捉えるため、Gr1低発現細胞や一部のGr1陰性細胞も回収対象に含めた。さらに、造血幹前駆細胞(HSPC)の低頻度を補うため、c-Kit+BM HSPCとBM Gr1+細胞を2:3の比で混合したバッチも解析に含めた。これらの細胞を用いて10X Genomics scRNA-seqを実施した。厳格な品質管理の後、19,582個の高品質細胞(1細胞あたり平均1,241遺伝子、合計18,269マウス遺伝子)を取得した。
データ解析には、Seuratパッケージ(バージョン2.3.4)を用いた。未監督グラフベースクラスタリングにより7つの主要細胞集団を同定し、骨髄系/好中球関連集団をさらにサブクラスタリングすることで、8つの明確な好中球集団(G0-G4およびG5a-c)を定義した。細胞の分化方向を決定するため、Monocle2(バージョン2)とLa et al. Nature 2018による擬似時間軌跡解析(Velocytoプログラム)を実施した。転写因子レギュロンの網羅的同定には、SCENIC(single-cell regulatory network inference and clustering)解析を用いた。SCENIC解析では、6,000細胞のサブセットでレギュロンを推論し、全32,888細胞でAUCell(area under the recovery curve)スコアを計算した。
scRNA-seqで定義された各クラスターの表面マーカーによる分離を検証するため、FACS実験を行った。BMの分化集団はCD34、Ly6G、CXCR2の組み合わせで分離し、PBのG5サブセットはIFIT1(G5b陽性)およびCXCR4(G5c高発現)を用いて区別した。これらの分離された細胞の固有シグネチャ遺伝子発現は、RT-qPCR(reverse transcription quantitative polymerase chain reaction)により確認した。
細菌感染モデルでは、大腸菌(Escherichia coli)を腹腔内投与し、24時間後のBM、PB、脾臓、肝臓、腹腔細胞を採取してscRNA-seq解析を再実施した。感染時の転写活性上昇を評価するため、細胞あたりの遺伝子数とUMI(unique molecular identifier)総量を比較した。感染後の各好中球サブポピュレーションのアイデンティティ維持と機能的適応を評価するため、差次的遺伝子発現解析を行った。
既報の各種好中球サブポピュレーション分類との対応関係は、回帰ベースのデコンボリューション法を用いて定量的に評価した。この方法は、Newman et al. NatMethods 2015と同様に、scRNA-seqで同定されたグループ特異的シグネチャ遺伝子の発現に基づいてバルクRNA-seqプロファイルをデコンボリューションする線形回帰モデル(非負最小二乗問題)を用いた。統計解析には、主に二側性不対Student t-testおよびPearson correlation、Spearman correlationを用い、多重比較の補正にはBonferroni法を適用し、P < 0.05を有意とした。