• 著者: Catherine C. Hedrick, Ilaria Malanchi
  • Corresponding author: Catherine C. Hedrick (La Jolla Institute for Immunology, La Jolla, CA, USA); Ilaria Malanchi (The Francis Crick Institute, London, UK)
  • 雑誌: Nature Reviews Immunology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2021-07-06
  • Article種別: Review
  • PMID: 34230649

背景

好中球はヒト血液中で最も豊富な骨髄球系細胞であり、感染・組織傷害に対する第一線応答細胞として長年認識されてきた。古典的な見方では、好中球は寿命が短く、最終分化・非増殖性であるために機能的に単純かつ均質な集団とみなされ、がん免疫における役割は他の骨髄系細胞と比べて十分に探索されてこなかった。しかし in vivo イメージング・single-cell RNA sequencing (scRNA-seq)・質量分析フローサイトメトリー (CyTOF、cytometry by time-of-flight mass spectrometry) などの高次元解析技術の進歩により、この古典的パラダイムが根本的に見直されつつある。

がんにおける好中球研究の先行知見としては、Fridlender et al. CancerCell 2009 が TGFβ 依存的に誘導される「N1 (抗腫瘍) /N2 (促腫瘍)」の二極性分類を提唱したが、この枠組みは多様な好中球表現型を捉えるには手薄であることが明らかになっている。Shaul & Fridlender (NatRevClinOncol 2019) は腫瘍関連好中球 (TAN、tumor-associated neutrophil) の臨床的重要性を論じ、Jaillon et al. NatRevCancer 2020 は好中球の多様性と可塑性を包括的にまとめた。またVeglia et al. NatRevImmunol 2021 は MDSC (myeloid-derived suppressor cell、骨髄由来抑制細胞) 概念の問題点を論じている。

これまでの研究では、好中球の骨髄内 progenitor (前駆細胞) 多様性とその末梢表現型への継承、組織特異的な空間的適応、概日リズム依存的な時間的変化、疾患コンテクスト (感染・自己免疫・がん) に応じた可塑性の各要素を統合した理解が不足していた。特に、がんの発症から転移・治療抵抗性に至るまでの各段階での好中球の役割を、これら 3 パラメータ (空間・時間・疾患コンテクスト) を軸に統一的に解析した総説は存在せず、この gap in knowledge を埋めることが本論文の動機となっている。

目的

好中球の骨髄内発生と progenitor 多様性・末梢における機能的不均一性・がんにおける促腫瘍/抗腫瘍両面機能・全身性好中球変容と転移前ニッチ (pre-metastatic niche) 形成・治療抵抗性との関連を、「空間 (spatial)」「時間 (temporal)」「疾患コンテクスト (disease context)」の 3 パラメータを統一的な軸として整理することで好中球の多面性の生成メカニズムを体系的に示し、MDSC 概念の妥当性を再検討した上で治療標的化の方向性を提示する。

結果

好中球の骨髄内発生と progenitor heterogeneity:従来、GMP (granulocyte-monocyte progenitor、顆粒球単球前駆細胞) は単一の均質集団と考えられてきたが、scRNA-seq と CyTOF による高次元解析により GMP は複数の heterogeneous な骨髄球系前駆細胞を内包することが明らかになった (Fig. 1)。ヒトでは lin−CD66b+CD117+ の hNeP プール内に eNeP が同定され、骨髄好中球全体の 1-3% を占め、CD34−hNeP と CD34+hNeP の両画分を含む。NSG-m3 マウスへの移入実験で eNeP は好中球のみを産生する unipotent progenitor であることが確認された。マウスでは ProNeu1 (proneutrophil 1) が最早期 unipotent 好中球 progenitor として同定され、preNeu (lin−CD66b+CD34−CD49d (integrin subunit alpha-4, ITGA4)+) は骨髄好中球全体の約 5% を占める。これら最早期 progenitor からプロミエロサイト→ミエロサイト→メタミエロサイト→桿状核球→成熟好中球へと段階的成熟が進む。がんでは腫瘍由来 G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) 等が GMP を拡大させ、未熟好中球を含む progenitor が末梢血に早期大量放出される emergency granulopoiesis (緊急骨髄産生) が生じる。

好中球 heterogeneity を規定する 3 軸:成熟好中球の表現型的多様性は 3 つのパラメータによって規定される。第 1 軸「空間」では、組織特異的なケモカインや血管特性への応答により組織適応型サブセットが形成される。Ballesteros らはマウスの neutrophil-tracking モデルで CXCL12-CXCR4 シグナルが肺常在好中球のリプログラミングを担い、血管新生・組織修復・ウイルス感染応答に異なるサブセットが関与することを示した。脾臓の辺縁帯では B 細胞刺激機能を持つ特殊好中球も存在する。第 2 軸「時間」では、骨髄からの放出後に老化プロセスが進み、若い好中球と老化好中球の間で ROS (reactive oxygen species、活性酸素種) 産生能は約 2-fold 異なり、NET (neutrophil extracellular trap) 形成能も老化好中球で顕著に高い (p<0.05)。概日リズムは GATA1・C/EBP (CCAAT/enhancer-binding protein) といった転写因子と交感神経系による CXCL12 制御を介して好中球放出を調節し、腸内細菌叢は TLR (Toll-like receptor) と MyD88 シグナル経由で老化表現型を誘導する。Hidalgo らは好中球の概日振動が肺の転写プロファイルを規定し、がん細胞の播種効率を変化させることを示した。第 3 軸「疾患コンテクスト」では、感染・自己免疫・がんで異なる転写シグネチャを示し、インターフェロン刺激遺伝子 (ISG) 発現サブセットが感染時・腫瘍浸潤時に共通して拡大する。この 3 軸の組み合わせが、腫瘍の早期から後期まで多彩な好中球表現型を生み出す (Fig. 2)。

促腫瘍機能 — 腫瘍発生・増殖への関与:好中球の直接的発がん促進作用として、肺・大腸の炎症モデルで ROS による酸化 DNA 損傷が明らかにされている (Fig. 2a)。化学発がんモデルでは発がん物質曝露と同時期に好中球由来 ROS が DNA 損傷を増幅し腫瘍発生を促進する。ゼブラフィッシュ RAS 誘発新生物モデルでは PGE2 (prostaglandin E2) による腫瘍細胞増殖促進が報告され、RAS 駆動肺癌では好中球エラスターゼが IRS1 (insulin receptor substrate 1) を分解して癌細胞増殖を誘導し、膵癌では IL-1RA (interleukin-1 receptor antagonist) 分泌ながん細胞の老化誘導プログラムを阻害する (Fig. 2b)。未分化甲状腺癌では TAN がミトコンドリア酸化的代謝にシフトして生存を維持しながら NET を放出し、がん細胞増殖を促進する。NSCLC モデルでは転写因子 SOX2 の過剰発現が CXCL5 依存的 TAN 動員を誘導して扁平上皮癌特性を付与し (Fig. 2c)、別の肺癌モデルでは好中球が T 細胞排除と低酸素環境をつくり、SNAI1 誘導性の EMT (epithelial-to-mesenchymal transition、上皮間葉転換) を促進してさらなる好中球動員ループを形成する (Fig. 2c)。NOTCH1 活性化が TGFβ 依存性の免疫抑制 TAN を誘導して CD8+T 細胞応答を抑制し (Fig. 2e)、肝細胞癌・胃癌患者では PD-L1 (programmed cell death 1 ligand 1) 発現 TAN が抗腫瘍免疫を障害する。VISTA (V-type immunoglobulin domain-containing suppressor of T cell activation) を介した T 細胞抑制も報告され、腫瘍微小環境内 NET がシールドとして細胞傷害性免疫細胞からがん細胞を保護し、NET-rich 腫瘍では NK 細胞のがん細胞接触率が NET-low 腫瘍と比べ約 40% 低下した (Fig. 2e)。膵癌では NET が間質の stellate cell を活性化して desmoplastic 間質形成を誘導しがん細胞増殖を間接的に促進する (Fig. 2f)。

抗腫瘍機能:抗腫瘍的な好中球機能も複数の機序で報告されている (Fig. 2h-l)。ヒト好中球は TRAIL (TNF-related apoptosis-inducing ligand) を発現してアポトーシス誘導によりがん細胞を殺傷し、この作用は IFNγ (interferon-gamma) 刺激で増強される。マウス子宮がんモデルでは好中球が基底膜からの腫瘍細胞剥離を誘導して早期腫瘍増殖を阻害し (Fig. 2h)、低酸素抑制により細胞傷害活性がさらに高まった。MET (receptor tyrosine-protein kinase MET) 発現好中球は HGF (hepatocyte growth factor) 刺激を受けると一酸化窒素放出を介してメラノーマ細胞を直接殺傷する (Fig. 2i)。Trogoptosis (トロゴプトーシス) と呼ばれる新規殺傷機構では、好中球が抗体結合がん細胞の細胞膜を直接貪食して腫瘍細胞死を誘導し、SIRPα (signal regulatory protein-α)-CD47 経路を阻害すると trogoptosis 効率が約 3-fold 上昇することが示された (p<0.01, Fig. 2j)。真皮肉腫の 3-メチルコランスレン誘発モデルでは抗腫瘍好中球がマクロファージの IL-12 産生を駆動し、unconventional αβT 細胞活性化を介した IFNγ 産生が抗腫瘍微小環境を形成した (Fig. 2k)。ヒト肺癌では APC (antigen-presenting cell) 様ハイブリッド好中球が腫瘍抗原を提示して CD8+T 細胞応答を誘導する (Fig. 2l)。これら抗腫瘍機能と促腫瘍機能はしばしば同一腫瘍型でも共存し、コンテクスト依存的にバランスが決まる。

全身性好中球変容と緊急好中球産生:原発腫瘍由来の G-CSF・GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)・IL-6 などが骨髄にフィードバックし GMP 拡大を介した emergency granulopoiesis を誘導する (Fig. 3a)。感染時の C/EBPα→C/EBPβ スイッチと異なり、ヒト・マウスのがんでは RORC (retinoic acid-related orphan receptor C) がこのスイッチを代替し、好中球分化が抑制されて未熟好中球プールが拡大する。Engblom らは肺腺癌細胞が骨内骨芽細胞を活性化して Siglec-Fhigh 促腫瘍好中球の動員を誘導し、腫瘍増殖を加速させることを示した (Fig. 3b)。腎細胞癌では腫瘍細胞内在性エピジェネティックリモデリングが全身の好中球変容を駆動し、血管新生と転移を促進する炎症ループが形成された。腫瘍由来 TGFβ も循環・組織・腫瘍内での好中球成熟を修飾し、がんによる全身的プライミングが好中球の代謝・活性化・免疫抑制機能を変化させる (Fig. 3b)。KIT+好中球の動員は Trp53 欠損乳癌で TAM 由来 IL-1β シグナルを介して誘導され、この KIT+好中球は野生型乳癌モデルと比べ腫瘍増殖促進効果が約 2-fold 高いことが示された。p53 発現腫瘍では KIT を発現しない別の好中球プールが動員されるなど、がんの遺伝的背景によって動員される好中球サブセットが異なる。

転移前ニッチ形成と転移促進機構:転移前ニッチ形成において好中球の代謝リプログラミングが中核的役割を担う (Fig. 3b, 4b)。がん患者とがんモデルの転移関連好中球は FATP2 (fatty acid transporter protein 2) を選択的に上方制御し、アラキドン酸取り込みを亢進させた PGE2 合成を介して T 細胞を免疫抑制する。この FATP2-PGE2 軸は転移前ニッチにおける好中球免疫抑制の主要分子機序として確立された。腫瘍由来エクソソームが肺胞上皮細胞の TLR3 (Toll-like receptor 3) を活性化してケモカイン産生・免疫抑制性好中球動員を誘導する機序も明らかにされた (Fig. 4c)。NET 関連 DNA のがん細胞センサーとして CCDC25 (coiled-coil domain-containing protein 25) が発見され、CCDC25 への NET-DNA 結合が ILK (integrin-linked kinase) 経路を活性化して肝転移を促進することが示された (Fig. 4f)。タバコ煙に含まれる LPS (lipopolysaccharide) が肺常在好中球の NETosis を誘発し、NET 関連プロテアーゼによるラミニン切断・ECM (extracellular matrix) リモデリングを介して休眠がん細胞が再活性化され、NET 形成後 48 時間以内に休眠がん細胞の増殖再活性化率が対照群比 約 3-fold 上昇した (Albrengues et al. Science 2018; Fig. 4g)。好中球は循環腫瘍細胞とクラスターを形成して転移細胞の細胞周期進行を促進する (Fig. 4a)。肺間質細胞は脂質分解酵素 ATGL (adipose triglyceride lipase) 活性を好中球内で抑制し、好中球からがん細胞への脂質転送 (マクロピノサイトーシス-リソソーム経路) ががん細胞増殖と転移活性を増強する (Fig. 4d)。転移前の好中球由来ロイコトリエンは leukotriene receptor 発現の転移開始細胞を選択的に増殖促進し (Fig. 4h)、IL-1β は逆に MET (mesenchymal-to-epithelial transition、間葉上皮転換) を阻害して転移初期を抑制する場合もある (Fig. 4i)。TRPM2 (transient receptor potential cation channel M2) 高発現間葉型がん細胞は H2O2 依存的に好中球から選択的に殺傷される (Fig. 4j)。

治療抵抗性と ICB との関連:TAN の豊富さは化学療法・放射線療法への不良応答と多くのがん種で関連するが、卵巣癌と胃癌では TAN 数が多いと化学療法奏効率が高い例外も存在する。ICB (immune checkpoint blockade) との関連では、NSCLC での高い腫瘍内好中球含量が ICB 不良応答と関連し、抗 PD1 治療に CXCR1/2 (C-X-C chemokine receptor type 1/2) 阻害薬を併用することで肺癌マウスモデルで抗 PD1 効果が増強された。2 件の大規模コホート (合計 n=2,500 例超の黒色腫・NSCLC・尿路上皮癌・腎細胞癌) では、血清 IL-8 高値が TAN 増多・生存短縮・ICB 抵抗性と独立して関連することが示された。トリプルネガティブ乳癌の免疫サブタイプ解析では、NES (neutrophil-enriched subtype) が ICB 抵抗性を示し、MES (macrophage-enriched subtype) から NES への治療後移行も報告された。MET 発現好中球は HGF 刺激を受けると T 細胞増殖・エフェクター機能を抑制して ICB 効果を制限する。NLR は多くのがん種での予後マーカーとして活用されているが、循環好中球 heterogeneity と臨床予後の詳細な関連は依然不明確である。

MDSC 概念の再検討:PMN-MDSC (polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cell) は形態・表面マーカー上 TAN と区別不能であり、「MDSC」という機能定義的用語を細胞同定に使用することは好中球の可塑性・機能多様性の理解を妨げるリスクがある。PMN-MDSC は CD11b+/CD15+/CD66b+ の表面マーカーを成熟好中球と共有し、密度勾配遠心分離で得られる LDN (low-density neutrophil) 分画にも混在することから、機能分離には LOX-1 (lectin-type oxidized LDL receptor 1) などの追加活性化マーカーが必要とされる。LOX-1+ LDN は LOX-1− 好中球と比較して T 細胞増殖抑制能が約 4-fold 高く、がん患者末梢血での LOX-1+ 好中球比率は健常ドナー比で有意に高いことが複数コホートで確認された。scRNA-seq 解析では PMN-MDSC とされる集団の転写プロファイルが活性化成熟好中球と高い相同性を示すことが複数のヒトがん研究で確認されており、「MDSC」という機能的分類が独立した細胞集団を指すのか、好中球の活性化状態を指すのかが論争となっている。n=多施設コンセンサス研究 (Veglia et al. NatRevImmunol 2021) による nomenclature 統一提言と整合する形で、著者らは本総説で MDSC 用語の再評価を明確に提言し、細胞の lineage identity (好中球) を主軸として機能的多様性を記述するアプローチを推奨した。この議論は、好中球 heterogeneity の分類体系全体の精緻化に直結しており、治療標的としての好中球サブセット選択においても実践的意義を持つ。

考察/結論

本総説は好中球の「短寿命・均質・単純応答」という古典的イメージを根本的に刷新し、骨髄内 progenitor 段階から末梢循環・組織・腫瘍・転移ニッチに至るまで、空間・時間・疾患コンテクストに応じて多様な表現型と機能を獲得する高度に plastic な細胞であることを体系的に提示した。これまでの研究では N1/N2 二分類 (Fridlender 2009) や機能優位の観点からのみ論じる枠組みが主流であったが、それらと異なり、本稿は空間・時間・疾患コンテクストの 3 軸という統一的フレームワークを導入した点で新規な体系的貢献を果たしている。

先行する Shaul & Fridlender (NatRevClinOncol 2019) や Jaillon et al. (NatRevCancer 2020) の既報総説と比較して、本稿は特に新規な知見として ① 最早期 unipotent 好中球 progenitor (eNeP/ProNeu1) の発見とがんにおける全身的動員・プライミングへの影響、② 転移前ニッチにおける FATP2-PGE2 代謝軸という新規の免疫抑制機序の詳細解析、③ NET-CCDC25-ILK 軸による肝転移促進という新規の分子機序の統合、④ n=2,500 例超の大規模コホートに基づく血清 IL-8 の ICB 抵抗性バイオマーカーとしての確立、⑤ trogoptosis・APC-ハイブリッド好中球という新規の抗腫瘍機序の提示、を中核的内容として取り上げた点で独自性が高い。また MDSC 概念の問題点を明確に論じてその再評価を提唱したことは、これまで報告されていなかった bold な提言として際立つ。

臨床応用の観点からは、① CXCR1/2 阻害薬と ICB の併用による TAN 標的化 ICB 増強戦略が前臨床レベルで有望であり、② Siglec-F や FATP2 など特定サブセット・代謝経路の選択的標的化、③ trogoptosis や APC-ハイブリッド機能を活用した新規免疫療法の開発、④ 血清 IL-8・NLR による予後予測と治療選択アルゴリズムへの組み込み、⑤ SIRPα-CD47 軸 (前臨床・早期臨床で有望) の阻害、という複数の臨床的含意が提示されている。bench-to-bedside の観点では、好中球 TME (tumor microenvironment、腫瘍微小環境) の高度な可塑性を考慮した precision な標的設計が不可欠であり、臨床現場での単純な好中球枯渇戦略は抗腫瘍機能も同時に消失させるリスクがある。

残された課題として著者らは明示的に以下を挙げている: (i) progenitor heterogeneity が末梢好中球サブセットへどのように継承されるか、(ii) 異なる好中球サブセットの機能差と治療応答への定量的寄与、(iii) 抗腫瘍好中球機能 (trogoptosis、APC-hybrid) を治療的に引き出す方法の開発、(iv) TAN と TAM (tumor-associated macrophage、腫瘍関連マクロファージ) の相互制御の分子メカニズム、(v) 腸内細菌叢・好中球・がんの三者相互作用の統合的解析。今後の研究には好中球の脆弱性と低 RNA 含量を克服する技術開発 (live-cell imaging、in situ single-cell analysis、lineage tracing) がさらに必要であり、limitation として現行知見の多くがマウスモデルや ex vivo 実験に依存し、ヒトがんでの in vivo 検証が課題として残ることが率直に指摘されている。好中球の分子ドライバーと可塑性の理解が深まれば、促腫瘍機能のブロックと抗腫瘍機能の活用を両立した future research が可能になると展望されている。

方法

本総説は PubMed を通じた文献検索に基づき、2000 年代後半から 2021 年までの好中球生物学・がん免疫学の主要研究を統合的に解析した。骨髄内 progenitor 同定研究では、ヒト NSG-m3 (NOD/SCID/IL2Rγ (interleukin-2 receptor gamma) null triple-knockout xenograft model supporting human myeloid cell reconstitution) マウスを用いた unipotent 好中球 progenitor の機能確認実験、および human neutrophil progenitor (hNeP; lin−CD66b/CEACAM8 (carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 8)+CD117+) と early neutrophil progenitor (eNeP) の high-dimensional phenotyping が主要方法として参照された。成熟好中球の heterogeneity 解析には、CyTOF による n=7 種以上の成熟好中球サブセット分類と scRNA-seq による分子シグネチャの規定が用いられた。機能研究ではマウスモデル (Csf3 (colony stimulating factor 3)/Csf3r (colony stimulating factor 3 receptor) 欠損、Cxcr2 欠損、Trp53 欠損、Mcl1 欠損など) と in vivo イメージング・lineage tracing が活用された。臨床データとしては、黒色腫・非小細胞肺癌 (NSCLC)・尿路上皮癌・腎細胞癌を対象とした計 n=2,500 例超の前向きコホート 2 件における血清 IL-8 (interleukin-8) 測定値と、複数がん種の好中球リンパ球比 (NLR、neutrophil-to-lymphocyte ratio) が解析された。引用研究における統計手法はログランク検定・Cox 比例ハザードモデル・スピアマン相関・ANOVA などである。