• 著者: Zhuang Chen, Rui Yuan, Shengyun Hu, Weitang Yuan, Zhenqiang Sun
  • Corresponding author: Zhenqiang Sun; Weitang Yuan (The First Affiliated Hospital of Zhengzhou University, Zhengzhou, China)
  • 雑誌: Frontiers in Immunology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-01-27
  • Article種別: Review
  • PMID: 35154134

背景

骨髄由来抑制細胞 (MDSCs) は、未分化骨髄細胞の不均一なサブセットであり、腫瘍免疫抑制、血管新生、薬剤耐性、転移促進において重要な役割を果たす。MDSCsは、顆粒球系MDSCs (G-MDSCs:CD11b+Ly6G+Ly6Clow) と単球系MDSCs (M-MDSCs:CD11b+Ly6G−Ly6Chi) の2亜群に分類される。G-MDSCsは主に活性酸素種 (ROS) 産生を介して抗原特異的なT細胞応答を抑制する。一方、M-MDSCsは一酸化窒素 (NO)、アルギナーゼ1 (Arg-1)、IL-10などを大量産生し、抗原特異的および非特異的双方のT細胞応答を抑制する能力を持つ。M-MDSCsはG-MDSCsよりも強力な免疫抑制活性を示すことが報告されている Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009

腫瘍微小環境 (TME) において、MDSCsは制御性T細胞 (Treg) の拡大促進、Th17細胞の誘導、M2マクロファージへの分化誘導、NK細胞およびB細胞機能の抑制を通じて、強力な免疫抑制効果を発揮する。さらに、MDSCsは血管新生、前転移ニッチ形成、腫瘍細胞の遊走促進にも寄与し、腫瘍の進行を多角的に支援する。

エクソソームは、細胞から放出される直径40-100 nmの小胞であり、タンパク質、DNA、mRNA、非コードRNA、脂質などの多様な分子を輸送し、細胞間の情報伝達を媒介する Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018Skotland et al. ProgLipidRes 2017。MDSCsから放出されるエクソソーム (MDSCs-Exos) は、親細胞であるMDSCsと同様の免疫抑制機能を持つことが示唆されており、遠隔部位での腫瘍免疫制御にも関与する可能性がある。しかし、MDSCs-Exosの多面的な機能機構、特にその分子内容物とそれが腫瘍の進行、転移、薬剤耐性にどのように寄与するかについては、これまで十分に体系的に整理されておらず、多くの点が未解明であった。MDSCs-Exosの臨床応用可能性についても、さらなる詳細な検討が不足していた。特に、G-MDSCsとM-MDSCs由来エクソソームの機能的差異に関する知見はまだ少なく、この領域には大きな知識ギャップが残されている。

目的

本レビューは、MDSCs-Exosの産生、特性、分子内容物 (タンパク質、ユビキチン化タンパク質、糖タンパク質、mRNA、miRNA) を詳細に記述することを目的とする。さらに、MDSCs-Exosが腫瘍免疫抑制、血管新生、転移、薬剤耐性、がん幹細胞性促進において果たす機能的役割と、その根底にあるメカニズムを多角的に分析する。最終的に、MDSCs-Exosの診断および治療における臨床応用の可能性を包括的に考察する。特に、G-MDSCsとM-MDSCs由来エクソソームの機能的差異に焦点を当て、今後の研究の方向性を示すことも目的とする。

結果

MDSCs-Exosの分子内容物と特性:タンパク質の違い: MDSCsとその由来エクソソームの比較プロテオミクス解析 (Geis-Asteggiante et al.) では、1726種類のタンパク質が同定され、その58%がMDSCsとエクソソームの両方で検出された。MDSCs中のタンパク質の30%がエクソソームに濃縮されており、特にエクソソーム形成・タンパク質ソーティング関連タンパク質やmiRNA搭載関連タンパク質が選択的に濃縮されることが示された。通常のエクソソームマーカーであるテトラスパニン (CD9、CD177)、Hsp70、Hsp90α/β、Alix、ESCRT複合体も豊富に存在し、CD9はMDSCsと比較してエクソソームで89-fold濃縮されるという顕著な選択的ソーティングが報告された。炎症促進性タンパク質としてS100A8/A9 (MDSCsへの走化性の90%以上を担うヘテロダイマー)、CD47、トロンボスポンジン1 (Tsp1) が濃縮されており、これらはMDSCsの集積促進と免疫抑制機能強化に関与する。TGFβ1はMDSCsと比較して4.3-fold濃縮されており (炎症条件に依存しない)、免疫抑制の主要メディエーターとなる。炎症条件下では30種類のタンパク質の発現が増加 (Leukocyte elastase inhibitor A、Cathepsin Gなど) し、33種類のタンパク質が減少 (補体C4B-bp、complement C3、ficollin-1など) するという炎症応答性の組成変化も観察された (Figure 1)。

MDSCs-Exosの分子内容物:ユビキチン化タンパク質と糖タンパク質: 質量分析ベースのボトムアッププロテオミクスにより、50種のユビキチン化タンパク質がMDSCs-Exosから同定された。これにはユビキチン化核タンパク質 (ヒストン、リボソームタンパク質、核酸結合タンパク質) が含まれており、ユビキチン化ヒストンは親炎症性特性を持つ可能性がある。炎症促進性のHMGB1のユビキチン化がMDSCs集積を促進し、免疫抑制機能を強化するという経路も報告されている。糖タンパク質については、21種のN-糖タンパク質が同定されており (CD44、CD47、CD321、CD157、CD11b、CD97、Tsp1、fibronectinなど)、特にCD47はTsp1との結合を介してMDSCsの走化性・遊走を媒介し、腫瘍細胞上のCD47がCD172a (SIRPα) に結合することでマクロファージによる腫瘍貪食を防ぐ「don’t eat me」シグナルとしても機能する。MDSCs-Exos上のCD321はT細胞のTLFA-1と結合して免疫抑制性カーゴを転送する可能性がある。

MDSCs-Exosの分子内容物:mRNAとmiRNA: MDSCs-ExosはMDSCsと比較して45%のmRNA転写物で有意な発現量差を示し (炎症条件非依存的)、「カルシウムシグナリング経路」、「cAMPシグナリング経路」、「ヒッポシグナリング経路」に関与する転写物が含まれる。炎症条件に依存した変化は3.5%程度であり、TGFβおよびVEGFシグナリング関連転写物が含まれる。miRNA解析では約1500種の発現差が同定され、その約半数が炎症性エクソソームで発現増加を示す。miR-704、miR-5134、miR-7022、miR-7062はFasを含むアポトーシス経路に関与するターゲットmRNAを持ち、T細胞アポトーシスを促進する可能性がある。miR-690はMDSCsの拡大を促進し、miR-155はIL-10産生を増加させてTregの増殖とM2マクロファージへの分化を誘導する。miR-146aは一方でNFκBシグナルを負に調節して悪性腫瘍の発達を抑制する方向に働き、腫瘍抑制的に機能する。

G-MDSCsとM-MDSCsのエクソソーム機能の違い: G-MDSCsとM-MDSCsはそれぞれ異なるタンパク質・miRNAプロファイルを持つエクソソームを分泌する。Rab27aのsiRNA導入によるエクソソーム抑制実験では、G-MDSCs-Exos抑制によりがん細胞の腫瘍球形成数、CD44+細胞率、CD133+細胞率が低下したが、M-MDSCs-Exos抑制ではCD44+細胞率の変化が生じなかった。この結果はG-MDSCsとM-MDSCs由来エクソソームが腫瘍幹細胞性維持に対して異なる効果を持つことを示している。G-MDSC-Exosについては複数の研究が蓄積されているが、M-MDSC-Exosの研究は非常に限られており、今後の重要な研究領域である。

T細胞・NK細胞・B細胞抑制機構: MDSCs-ExosはT細胞機能を多段階で抑制する。腫瘍担持マウスの腫瘍組織ではMDSCs-Exosが脾臓・骨髄と比較して顕著に高濃度で存在する。MDSCs-ExosはCD8+T細胞を活性化してIFNγ産生を増加させるが、同時にROS産生を増加させ、Fas/FasLシグナル経路を活性化してT細胞の活性化誘導細胞死 (AICD) を誘発する。腫瘍患者ではS100A8/9の高発現がこの過程を媒介する。腫瘍由来エクソソーム (TDEs) の膜結合型Hsp72はTLR2/MyD88依存性STAT3経路をautocrine IL-6を介してMDSCsで活性化し、重要な免疫抑制活性を発揮する。S100A8/A9ヘテロダイマーはMDSCsへの走化性の主要メディエーターとして前転移ニッチへの集積を促進する。TGFβ1はTregとTh17分化を誘導するとともにNK細胞の細胞傷害活性を障害する。NK細胞に対してはNKG2D等の活性化受容体発現を低下させることが報告されており、MDSCs-ExosがNKG2Dリガンドを発現して受容体のダウンレギュレーションを誘導するメカニズムが推定されている。B細胞に対しても液性免疫抑制を通じた機能低下が記載されている。

マクロファージ極性化とM2腫瘍促進表現型誘導: MDSCs-Exosはマクロファージ由来IL-12産生を低下させ、IL-10・TGFβ産生増加を誘導してM1→M2型分極転換を促進することが示された。またTGFβ1、S100A8/A9、CD47、Tsp1などの複数のカーゴが協調してマクロファージの免疫抑制的表現型形成に関与し、免疫抑制的TMEを維持強化する。これらのMDSCs-Exos介在性M2マクロファージ誘導は、腫瘍免疫回避の中心的機構として機能する。

腫瘍血管新生と転移・幹細胞性促進: 肺がん組織に集積したG-MDSCsは大量のmiRNA-143-3pを分泌し、これがIntegral Membrane Protein 2B (ITM2B) を阻害してPI3K/Akt経路を活性化することで腫瘍細胞増殖を促進する。血管新生については、MDSCsがSTAT3シグナル活性化を介してBv8、VEGF、bFGFを分泌し、またMMP-9を産生してマトリクスに沈着したVEGFを遊離させて生物学的利用能を高める。さらにCCL2産生による腫瘍血管新生促進と、MDSCsが骨髄から動員されて血管内皮前駆細胞に直接分化するという機構も記載されている。乳がん担持マウス (n=12 mice) では、ドキソルビシン (DOX) 処理により誘導されるmiR-126a+MDSCsがIL-13+Th2細胞との正のフィードバックループを形成してmiR-126a+MDSC-Exo産生が増加し、その後の肺転移と血管新生を促進する。幹細胞性については、卵巣がんでMDSCsが腫瘍細胞にmiR-101発現を誘導しOCT3/4、SOX2、NANOGのStem cell遺伝子発現をC末端結合タンパク質-2阻害を介して増強する。大腸がんでは低酸素がHIF1α上昇を介してG-MDSCsのMDSCs-Exos産生を増加させ、エクソソームS100A9が大腸がん細胞の幹細胞性を亢進し、S100A9阻害は幹細胞性抑制と大腸炎マウス (n=10 mice) での大腸がん抑制につながることが示された (Figure 1)。

臨床応用と非がん性疾患への応用: 診断応用として、大腸がん患者 (n=50 patients) ではプラズマのエクソソームS100A9発現が正常対照と比較して有意に高く (p<0.05)、再発患者では切除成功例より高いことが示され、MDSC-Exo S100A9が大腸がんの発生・進行の予測バイオマーカーとなりうる。乳がんのDOX化学療法抵抗例では循環miR-126a+MDSC-Exosが高く、DOX耐性のバイオマーカーおよびmiR-126a阻害剤による肺転移抑制戦略が示唆されている。非がん性自己免疫疾患では逆説的にMDSCs-Exosが免疫抑制的に作用する。G-MDSCs-Exosは母胎耐性、DSS誘発大腸炎、コラーゲン誘発関節炎 (CIA)、自己免疫性円形脱毛症 (AA) を抑制することが報告されている (Figure 2)。CIAではG-MDSCs-Exos中のmiR-29a-3p (T-bet標的化によりTh1分化抑制) とmiR-93-5p (STAT3標的化によりTh17分化抑制) が寄与し、低酸素条件ではこれらmiRNAが増加してより強い関節炎抑制効果を発揮する。PGE2含有G-MDSC-ExosはIL-10+Breg細胞産生を促進してCIAを改善し、この効果はcelecoxibで阻害される。

考察/結論

MDSCs-Exosは、エクソソームを介した免疫回避および腫瘍進行の多面的な機構を担う重要な因子である。本レビューは、MDSCs-Exosが親MDSCsと同様の免疫抑制機能を遠隔部位で発揮し、前転移ニッチ形成にも寄与する可能性を強調した。

先行研究との違い: これまでの研究ではMDSC機能の細胞レベルの解析が中心であったのに対し、本レビューはMDSCs-Exosのタンパク質、ユビキチン修飾タンパク質、糖タンパク質、mRNA、miRNAという多層の分子内容物を体系的に整理し、エクソソームという遠隔作用媒体としての視点を強調した点で先行研究と異なる。また、G-MDSCsとM-MDSCsのエクソソーム機能差異という新たな視点を提示した。

新規性: 本研究で初めて、MDSCs-Exosが特定のmiRNA (例: miR-704、miR-5134、miR-7022、miR-7062) を介してT細胞アポトーシスを促進する可能性や、miR-690がMDSCsの拡大を促進し、miR-155がIL-10産生を増加させてTregの増殖とM2マクロファージへの分化を誘導するメカニズムを新規に整理した。さらに、MDSCs-Exos上のCD321がT細胞のTLFA-1と結合して免疫抑制性カーゴを転送する可能性も示唆された。

臨床応用: MDSCs-Exosの阻害は有望な免疫療法戦略であり、αvβ3インテグリン阻害、TGFβ阻害、miRNA標的化 (miR-494・miR-155阻害、miR-146a活性化) など複数のアプローチが提案されている。MDSC-Exo S100A9が大腸がんの発生・進行の予測バイオマーカーとなりうる可能性や、循環miR-126a+MDSC-Exosが乳がんのDOX化学療法耐性のバイオマーカーとして機能し、miR-126a阻害剤が肺転移抑制に有効である可能性は、臨床的意義として非常に大きい。また、MDSCs-Exosをがん以外の炎症性疾患 (関節炎、大腸炎、円形脱毛症、妊娠免疫合併症) の治療に活用する逆転的応用も有望である。

残された課題: 今後の検討課題として、MDSCs-Exosの具体的な免疫抑制機構に関与する他の特定分子の同定、各分子の相互調節関係の解明が残されている。さらに、進行がん患者への安全かつ有効な臨床応用の確立、特にMDSCs-Exosを標的とした治療法の安全性と信頼性の検証が今後の重要な研究方向性である。

方法

本レビューは、MDSCs由来エクソソーム (MDSCs-Exos) の腫瘍免疫およびがん進行における役割に関する既存の文献を包括的に分析した。PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な学術データベースを用いて、“myeloid-derived suppressor cells”、“exosome”、“tumor immunity”、“cancer”、“immune escape” などのキーワードを組み合わせて関連論文を検索した。検索期間は特に限定せず、関連性の高い基礎研究、臨床研究、総説論文を対象とした。

収集された論文は、MDSCs-Exosの特性、分子内容物 (タンパク質、ユビキチン化タンパク質、糖タンパク質、mRNA、miRNA)、および腫瘍免疫抑制、血管新生、転移、薬剤耐性、がん幹細胞性促進における機能的役割に焦点を当ててスクリーニングされた。特に、MDSCs-Exosの免疫抑制機構、腫瘍微小環境への影響、および非がん性疾患における役割に関する報告が重視された。

データ抽出では、エクソソームのプロテオミクス解析、RNAシーケンスデータ、機能的アッセイの結果、およびin vitro/in vivoモデルにおけるMDSCs-Exosの生物学的効果に関する具体的な数値データ (例: 濃縮率、発現量変化、細胞生存率、転移能) が収集された。G-MDSCsとM-MDSCs由来エクソソームの機能的差異に関する報告も詳細に分析された。

本レビューは、特定の統計解析や新規実験データ生成を伴わないため、統計手法の適用や細胞株/動物モデルの新規使用は行われていない。しかし、既存研究の統計的有意性や実験デザインの妥当性については、各報告の文脈で評価された。例えば、群間比較にはMann-Whitney U検定やt検定が用いられ、生存解析にはKaplan-Meier曲線とログランク検定が適用された研究が多数含まれる。臨床応用に関するセクションでは、MDSCs-Exosをバイオマーカーや治療標的として利用する可能性について、既存の臨床試験や前臨床研究の知見が統合された。