- 著者: Nicholas D. Condon, John M. Heddleston, Teng-Leong Chew, Lin Luo, Peter S. McPherson, Maria S. Ioannou, Louis Hodgson, Jennifer L. Stow, Adam A. Wall
- Corresponding author: Jennifer L. Stow (j.stow@imb.uq.edu.au); Adam A. Wall (a.wall@imb.uq.edu.au) (Institute for Molecular Bioscience and IMB Centre for Inflammation and Disease Research, The University of Queensland, Brisbane, Australia)
- 雑誌: Journal of Cell Biology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-08-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 30150290
背景
マクロファージは、病原体刺激に応答して活性化され、dorsal ruffle形成とマクロピノサイトーシスを亢進させる。これは、環境サンプリングや受容体内在化、シグナル伝達を担う自然免疫の中核的な機能である (Stow and Condon 2016)。これまでの研究では、ラッフルは線形構造からC字形へと段階的に環状化し、多点閉鎖によってマクロピノソームを形成するというモデルが提唱されてきた (Swanson 2008)。しかし、この過程はマイクロメートル規模で数秒以下の時間スケールで進行する三次元的な動的現象であり、従来の蛍光顕微鏡(共焦点顕微鏡、SIM)ではその時空間分解能が不十分であったため、膜閉鎖の分子機構は未解明なままであった。特に、マクロピノソーム形成におけるラッフル膜の正確な閉鎖メカニズムや、それに伴う分子イベントのリアルタイムでの可視化は、技術的な限界から困難であった。
マクロピノサイトーシスは、マクロファージの病原体応答において重要な役割を果たすだけでなく、がん細胞における栄養取り込み経路としても注目されている (Commisso et al. 2013)。したがって、このプロセスの詳細な理解は、免疫応答の制御や疾患治療の新たな標的同定に繋がる可能性がある。しかし、ラッフル形成とマクロピノソーム閉鎖の動態を、細胞全体を対象に高解像度かつ高速で捉えることは、従来のイメージング技術では不足していた。例えば、PI3K活性がマクロピノソームの完成と閉鎖に必要であること (Araki et al. 1996) や、ホスファチジン酸 (Bohdanowicz et al. 2013)、ARF6 (Radhakrishna et al. 1999)、Rac1 (Ras-related C3 botulinum toxin substrate 1)、SNX1 (Sorting nexin 1) およびSNX5 (Sorting nexin 5) (Bryant et al. 2007; Lim et al. 2012) などがラッフル形成に関与することは報告されていたが、これらの分子がラッフル構造の動態にどのように寄与するかの詳細なメカニズムは不明な点が多かった。
近年開発された格子光シート顕微鏡(LLSM)は、従来の顕微鏡と比較して光毒性を大幅に低減しつつ、高速かつ高解像度の4次元イメージングを可能にする画期的な技術である (Chen et al. 2014)。この技術は、マクロファージのラッフル形成とマクロピノソーム閉鎖という、これまで直接観察が困難であった動的現象を、新たな視点から解析する機会を提供する。特に、マクロピノソーム形成に関与するRab GTPase群の中でも、Rab13はこれまで上皮細胞のタイトジャンクション形成や癌細胞の移動に関与することが知られていたが (Köhler et al. 2004; Ioannou et al. 2015)、マクロファージにおけるマクロピノサイトーシスでの役割は未開拓であった。本研究は、LLSMを用いてこの知識のギャップを埋め、マクロファージにおけるマクロピノソーム形成の新たなモデルを提唱することを目的とする。
目的
本研究の目的は、LPS (Lipopolysaccharide) で活性化されたマクロファージにおけるdorsal ruffleからマクロピノソームが形成される過程を、格子光シート顕微鏡(LLSM)を用いて直接可視化し、その構造的特徴と分子機構を高解像度で定義することである。具体的には、従来の多点閉鎖モデルとは異なる、ラッフル閉鎖の新規メカニズムを同定し、その動態を詳細に解析する。
さらに、Rab GTPaseファミリーの一員であるRab13が、このマクロピノソーム形成過程において果たす役割を解明する。Rab13の局在、活性化状態、およびその機能的影響を、CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子ノックアウト(KO)やFRET (Förster resonance energy transfer) バイオセンサー、siRNA (small interfering RNA) によるノックダウン(KD)アプローチを組み合わせることで詳細に解析する。これにより、Rab13がラッフル形成および大型マクロピノソームの生成に必須であるかを検証し、その分子メカニズムにおける位置付けを明確にすることを目的とする。最終的には、マクロファージの自然免疫応答における膜動態制御の理解を深め、新たな治療標的の可能性を探る。
結果
テントポールF-アクチン構造の同定と螺旋状閉鎖モデル: LPSで活性化されたRAW 264.7マクロファージをLLSMで観察した結果、dorsal ruffleの形成と閉鎖に関する新規メカニズムが明らかになった (Fig 1, Fig 2)。従来の多点閉鎖モデルとは異なり、ラッフルの両縁に2本のフィロポジア様F-アクチン構造が「テントポール」として立ち上がり、その間にラッフル膜ベールを張る構造が可視化された。これらのテントポールは、ねじれ回転運動によって交差し、ラッフルベールを螺旋状に絞り込みながら単一点で膜を封鎖し、マクロピノソームを形成することが4D再構成データで示された (Video 3, 4, 5)。このテントポール構造は、観察された全ラッフルの83%に存在し、平均ラッフル寿命は176秒、テントポールが交差するまでの時間は平均90秒であった (Fig 2D, F)。この構造はRAW264.7細胞だけでなく、骨髄由来マクロファージ(BMM)やMDA-MB-231乳がん細胞でも観察され (Fig S1A)、細胞種に普遍的なメカニズムであることが示唆された。また、細胞表面の特定の「ホットスポット」でラッフルが繰り返し形成される現象も同定され、30分間で10細胞から104のホットスポットで345のラッフルが形成された (Fig 2E)。マクロピノソーム形成後、F-アクチンは脱重合し、Rab5cや2×FYVEなどの早期マクロピノソームマーカーが順次リクルートされる段階的成熟過程が確認された (Fig 3B, C)。
LPS刺激によるRab13活性化と大型マクロピノソーム形成の亢進: LPS刺激はマクロファージのラッフル形成とマクロピノサイトーシスを顕著に亢進させた (Fig S2)。LPS処理により、ラッフルインデックスは1.3-fold上昇し (Fig S2B)、10分間のデキストラン取り込み量は約2-fold増加した (Fig S2D)。特に、LPS刺激は大型マクロピノソーム(面積 >1.3 µm²)の比率を有意に増加させ、この大型マクロピノソームの増加が総液相取り込み量の増加の主要因であることが示された (Fig S2E)。GST-OCRL RBDプルダウンアッセイにより、LPS処理後30分でGTP結合型Rab13の量が約2-fold増加することが示され (p<0.05)、TLR4 (Toll-like receptor 4) を介したマクロピノサイトーシス亢進がRab13の活性化を伴うことが示唆された (Fig 4C)。
Rab13のテントポールラッフルへの特異的濃縮と活性化: GFP-Rab13は、Rab8aなど他のRab GTPaseと比較して、dorsal ruffleに顕著に濃縮されることが示された (Fig 4A)。FRETベースのRab13バイオセンサーを用いた解析では、LPS処理細胞のラッフル領域において、他の原形質膜領域と比較してRab13-GTPシグナルが有意に上昇することが確認された (p<0.05-0.01) (Fig 4E)。この結果は、Rab13がテントポールラッフルにおいて局所的にGTP結合型に活性化され、ラッフル形成を駆動する役割を持つことを直接的に証明するものである。Rab13は細胞内の小胞膜や原形質膜、特にF-アクチンに富むラッフルに濃縮され、早期マクロピノソーム様構造にも局在することが3D-SIMで確認された (Fig 4B)。
Rab13の欠損がテントポールラッフルと大型マクロピノソーム形成に与える影響: Rab13をsiRNAでノックダウン(約75%削減、p<0.0001)したn=3 independent siRNA duplexesの細胞では、LPS刺激後のdorsal F-アクチン突出の増加が消失し、大型マクロピノソームの形成がほぼ完全に失われた (p<0.05-0.01) (Fig 5B, C, E)。CRISPR/Cas9によるRab13ノックアウト(90%以上の削減)したn=400 macropinosomes per groupの細胞では、この表現型がさらに顕著であった (Fig 5E)。LLSMを用いたリアルタイム観察では、Rab13 KO細胞ではテントポール自体は形成されるものの、F-アクチン/膜ベールを適切に形成する能力が低下し、ラッフルの環状化やテントポールのねじれ運動が著しく減少した (Video 10)。ラッフルの動態を定量的に解析した結果、Rab13欠損細胞では平均ラッフル速度が4.4 µm/s²から3 µm/s²未満に、変位が10 µm/s²から5 µm/s²に有意に低下した (Fig S3F, G)。これらの結果は、Rab13がテントポールラッフルの最適な形成と動態、特に大型マクロピノソームの形成に必須であることを示している。興味深いことに、小型マクロピノソームの形成はRab13非依存的であり、Rab13が大型マクロピノソーム形成に特異的に関与するGTPaseであることが示唆された。
考察/結論
本研究は、格子光シート顕微鏡(LLSM)を用いた高解像度4次元生細胞イメージングにより、マクロファージにおけるマクロピノソーム形成の新規モデルを確立した。これまで提唱されてきたラッフルの多点閉鎖モデルと異なり、本研究はF-アクチンからなる「テントポール」構造がラッフル膜ベールを支持し、ねじれ交差による単一点閉鎖でマクロピノソームを形成するというメカニズムを初めて明らかにした。この発見は、マクロピノサイトーシスにおける膜閉鎖のパラダイムを根本的に更新するものである。
新規性: 本研究で初めて、Rab13がLPS/TLR4刺激下流の大型マクロピノソーム形成において重要な役割を果たすGTPaseであることを同定した。Rab13はテントポールラッフルに特異的に濃縮され、GTP結合型に活性化されることで、ラッフルの適切な形成と動態を駆動する。Rab13の欠損は、テントポールラッフルの形成不全と大型マクロピノソームの消失を引き起こし、Rab13がこのプロセスに必須であることを明確に示した。これは、Rab5やRab34など、これまでに報告されているマクロピノサイトーシス関連Rab GTPaseとは異なり、Rab13が膜閉鎖の「前段階」、すなわちラッフル形成の初期段階で機能することを示唆する新規な知見である。
生物学的含意: テントポール構造は、RAW264.7マクロファージだけでなく、骨髄由来マクロファージやMDA-MB-231乳がん細胞でも観察され、マクロファージに限定されない普遍的な細胞膜動態メカニズムである可能性が示唆される。Rab13の機能は、PKA (Protein Kinase A)/VASP (Vasodilator-stimulated phosphoprotein)、MICAL-L2/アクチニン-4、DENND2B (DENN domain-containing protein 2B) などのエフェクターを介して、F-アクチン重合と膜輸送を協調させることで、ラッフル形成を制御していると考えられる。また、TLR4シグナル伝達とMst1-Hippo-MyD88経路との関連性も示唆され、Rab13が自然免疫応答における膜動態制御のキーレギュレーターとして浮上する。
臨床応用: 本研究の知見は、いくつかの臨床応用の可能性を秘めている。マクロピノサイトーシスは、RAS駆動型腫瘍細胞の栄養取り込み経路として知られており (Commisso et al. 2013)、Rab13を標的とすることで、がん治療の新たな戦略が開発される可能性がある。また、病原体(サルモネラ、HIVなど)の細胞内侵入を阻害する薬剤の開発や、抗原提示細胞であるマクロファージの抗原取り込み機能を向上させることで、ワクチンのアジュバント効果を最適化する可能性も考えられる。さらに、COVID-19におけるTLR過剰活性化によるARDS (Acute Respiratory Distress Syndrome) など、マクロファージ機能の異常が関与する炎症性疾患の治療において、Rab13を介したマクロファージ機能のモジュレーションが有効なアプローチとなるかもしれない。
残された課題: 今後の検討課題として、テントポールと通常のフィロポディアの分子レベルでの差異や、テントポールを構成する特定のF-アクチン重合因子やモータータンパク質(例:ミオシン)の同定が挙げられる。また、最終的な膜切断(scission)の分子機構(ダイナミンやESCRT複合体の関与など)も未解明である。Rab13のエフェクター分子を実証的に同定し、F-アクチン重合と膜輸送におけるRab13の役割を明確に分離することも重要である。さらに、Dictyostelium discoideumのような他の生物におけるマクロピノサイトーシス機構との比較研究も、テントポールラッフルの普遍性を理解する上で必要である。LLSMで得られた膨大な4Dイメージングデータを機械学習で解析することで、テントポール動態の統計的モデリングが可能になり、これらの課題解決に貢献すると考えられる。
方法
本研究は、格子光シート顕微鏡(LLSM)を中心とした高解像度4次元生細胞イメージングと、CRISPR/Cas9およびsiRNAを用いた遺伝学的手法を組み合わせた試験デザインを採用した。
細胞株と培養: 実験には、RAW 264.7マクロファージ細胞株(ATCC-TIB71)を主に使用した。この細胞株には、F-アクチンを可視化するためにGFP (Green Fluorescent Protein)-LifeActを安定的に発現させた。また、C57BL/6マウス由来の骨髄由来マクロファージ(BMM)およびMDA-MB-231乳がん細胞株も、テントポールラッフルの普遍性を検証するために使用した。細胞はRPMI 1640培地(10%熱不活化FCS、2 mM L-グルタミン含有)で37℃、5% CO2条件下で培養した。
イメージング手法:
- LLSM: Howard Hughes Medical Institute Janelia Research CampusのE. Betzig氏が開発したカスタムビルドLLSMおよびThe University of QueenslandのInstitute for Molecular Bioscienceに設置された3i LLSMを使用した。488 nmおよび560 nmレーザーを用いて、細胞全体を1.4秒間隔で取得し、JaneliaカスタムソフトウェアまたはMicrovolution DeconvolutionソフトウェアでデスクューおよびRichardson-Lucyデコンボリューション処理を行った。
- 3D-SIM (3D-structured illumination microscopy): Lin Shao氏が開発したカスタムビルド3D-SIM顕微鏡を使用し、488 nmおよび560 nmレーザーで高解像度イメージングを行った。
- 共焦点顕微鏡: Zeiss LSM 710および880 confocal顕微鏡を使用し、FRETバイオセンサーの測定やRab13の局在解析を行った。
- 広視野顕微鏡: Applied Precision Personal DeltaVisionおよびNikon TiE inverted wide fieldシステムを使用し、F-アクチンラッフルやマクロピノソームの定量解析を行った。
Rab13機能解析:
- CRISPR/Cas9 Rab13 KO: 相同組換え修復を利用してRab13遺伝子をノックアウトした。gRNA配列はZhang Lab CRISPR design toolで設計し、pSpCas9(BB)-2A-GFP (px458) プラスミドにライゲーションした。ノックアウト効率はリアルタイム定量的PCR(qRT-PCR)で90%以上の削減を確認した。
- siRNAノックダウン: 3種類の独立したsiRNAデュプレックスを用いてRab13を約75%ノックダウンした。
- Rab13活性測定: GST (Glutathione S-transferase) 融合OCRL1のRab結合ドメイン(RBD)を用いたプルダウンアッセイにより、GTP結合型Rab13の量を測定した。
- FRETバイオセンサー: WT (Wild Type) Rab13、不活性型変異体(T22N)、構成的活性型変異体(Q67L)のRab13 FRETバイオセンサーを一時的に発現させ、Rab13の活性化状態をリアルタイムで測定した。
機能アッセイ:
- ラッフルインデックスアッセイ: LPS(100 ng/ml)処理後の細胞を固定し、Alexa Fluor 488-ファロイジンでF-アクチンを染色後、ImageJでdorsal F-アクチン領域の細胞面積に対する割合を算出した。
- マクロピノサイトーシスアッセイ: Alexa Fluor 555-デキストラン(100 µg/ml)を15分間取り込ませ、ImageJで個々のマクロピノソームの数と面積を測定した。マクロピノソームは1.3 µm²を閾値として小型と大型に分類した。
- ラッフル動態追跡: LLSMデータから、ラッフルの重心を追跡し、ラッフル速度(平均変位/時間)、変位(総移動距離)、およびラッフル持続時間を定量した。
統計解析: GraphPad Prismソフトウェアバージョン7.0を使用し、Shapiro-WilkおよびChi Squared検定で正規性を確認後、対応のないt検定を実施した。有意水準はp<0.05とした。