• 著者: Joshua J. Rennick, Angus P. R. Johnston, Robert G. Parton
  • Corresponding author: Angus P. R. Johnston (angus.johnston@monash.edu, Monash Institute of Pharmaceutical Sciences, Monash University, Australia); Robert G. Parton (r.parton@imb.uq.edu.au, Institute for Molecular Bioscience, University of Queensland, Australia)
  • 雑誌: Nature Nanotechnology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-03-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 33712737

背景

細胞内標的へ到達するための多くの治療用ナノ粒子および生体粒子にとって、エンドサイトーシスは不可欠な過程である。腫瘍標的化ナノ粒子では、腫瘍集積量が投与量の 1% 未満に過ぎないにもかかわらず、標的化ナノ粒子が非標的型より著明に高い腫瘍退縮効果を示すことから、腫瘍細胞による取り込みが活性の主要な駆動因子であることが示唆される。過去5年間で哺乳類細胞のエンドサイトーシス機構の理解は大きく進歩したが、ナノサイエンスおよび治療学分野の文献にはこの進歩が十分に反映されておらず、特に薬理学的阻害剤の非特異性に関する誤解が蔓延していることが大きな課題である。

CME (clathrin-mediated endocytosis: クラスリン依存性エンドサイトーシス)、FEME (fast endophilin-mediated endocytosis: 急速エンドフィリン媒介性エンドサイトーシス)、CLIC/GEEC (clathrin-independent carrier/GPI-anchored protein enriched early endosomal compartment: クラスリン非依存性キャリア/GPIアンカー型タンパク質濃縮初期エンドソーム区画) といった比較的最近確立された経路が既存のナノ粒子研究で十分に考慮されず、取り込み機序の同定が不正確になる問題が累積していた。同一ナノ粒子でも細胞種によって異なる経路を使うため、in vitro系のin vivoへの外挿が困難であることも重要な課題である。さらに、血清タンパク質コロナによる粒子性状変化やMPS (mononuclear phagocytic system: 単核球食細胞系) による急速クリアランス (投与量の大部分が肝臓・脾臓に集積) といったin vivo固有の因子も、取り込み経路解釈を複雑にしている。これらの要因により、ナノ粒子が細胞にどのように取り込まれるかというメカニズムの理解は依然として不十分であり、治療効果を最大化するためのナノ粒子設計における知識ギャップが残されている。特に、エンドサイトーシス経路の多様性と細胞種特異性に関する最新の知見が、ナノ医薬品開発の現場に十分に浸透していないことが問題である。

従来の薬理学的阻害剤は複数のエンドサイトーシス経路に非特異的に作用することが多く、その結果、特定の経路の役割を正確に評価することが困難であった。この非特異性の問題は、ナノ粒子の細胞内取り込みメカニズムに関する多くの研究の信頼性を低下させてきた。例えば、コレステロール枯渇剤はカベオラだけでなく、CLIC/GEEC経路やFEME経路も同時に阻害することが報告されている。このような背景から、より厳密で特異的なエンドサイトーシス研究手法の確立が喫緊の課題となっている。本総説は、これらの課題を克服し、ナノ粒子および生体粒子の細胞内取り込みメカニズムに関する理解を深めるための包括的なフレームワークを提供することを目的としている。これまでの研究では、エンドサイトーシス経路間のクロストークや、in vivo環境における経路の動態に関する理解が不足しており、特に細胞生物学における最新の進歩がナノメディシン分野に十分に活用されていないというギャップが存在する。

先行研究である Thottacherry et al. AnnuRevCellDevBiol 2019 では、細胞表面で機能する多様なエンドサイトーシス経路の複雑性が提示されたが、ナノ粒子開発における具体的な実験設計への落とし込みは不十分であった。また、マクロファージにおけるマクロピノサイトーシス形成機序を可視化した Condon et al. JCellBiol 2018 などの知見も、治療用ナノ粒子の設計指針としては十分に統合されていなかった。このように、細胞生物学の最先端知見とナノメディシン開発現場との間には深刻な知識ギャップが存在し、手法の標準化や阻害剤の限界に関する批判的評価が不足していた。

目的

本総説の目的は、エンドサイトーシスの各経路 (CME、FEME、CLIC/GEEC、カベオラ、マクロピノサイトーシス、食作用) の最新知見を体系的に整理し、各経路の研究に用いられる薬理学的阻害剤の特異性問題を批判的に評価したうえで、より厳密な研究のための遺伝学的代替アプローチと実験設計指針 (Box 1、5項目チェックリスト) を提示することである。

具体的には、従来の薬理学的阻害剤が複数の経路に非特異的に作用するという重大な問題点を指摘し、その代替として遺伝学的アプローチの有効性を強調する。また、ナノ粒子取り込み研究における5つの重要な実験設計チェックリストを提示し、in vitro研究の限界とin vivo研究の必要性を論じる。エクソソームを含む生体粒子と治療用ナノ粒子の両方に適用可能な統合的フレームワークの構築を目指し、ナノ医薬品開発における細胞生物学とナノメディシンのインターフェースでの研究を促進することを意図している。最終的には、ナノ粒子の細胞内取り込みメカニズムの理解を深めることで、より効果的な治療戦略の開発に貢献することを目指す。本総説は、既存研究における方法論的課題、特に薬理学的阻害剤の非特異性という知識不足を埋め、ナノ粒子設計の最適化に資する厳密なエンドサイトーシス研究の指針を提供することを目的としている。

結果

クラスリン依存性エンドサイトーシス (CME) の特性と粒子サイズ制限: CMEは全哺乳類細胞に存在する最もよく解明されたエンドサイトーシス経路であり、細胞表面の 0.5-2% をクラスリン被覆ピットが占める (Figure 1)。AP2アダプタータンパク質がPtdIns(4,5)P2との低親和性相互作用を通じてクラスリン被覆ピットを形成し、大型機械的GTPaseであるダイナミンが小胞をせん断して平均約 100 nm 径のクラスリン被覆小胞を生成する。ピット形成からせん断まで 30-120 s を要する。約 100 nm が本経路で内在化可能な粒子サイズの上限であるが、1 µm 径の大型粒子もアクチン依存的なクラスリン被覆ピット延伸によりCMEを利用できる報告もある。内在化したカーゴはEEA1陽性初期エンドソームへ輸送された後、Rab11陽性リサイクリングエンドソーム経由で細胞表面へ再循環するか、後期エンドソームを経てリソソームへ輸送されて分解される。大多数のナノ粒子研究でもカーゴのリソソーム集積が確認されており、治療効果を発揮するにはエンドソームエスケープ戦略が必要となる。APPL1陽性初期エンドソームはシグナル伝達の並行コンパートメントとして機能し、EEA1陽性エンドソームへの移行を遅延させることで受容体シグナリングを持続させる。この経路は、鉄 (トランスフェリン経由) やコレステロール (低密度リポタンパク質経由) など、細胞が栄養素を獲得する主要な経路である。

FEME経路とCLIC/GEEC経路:既存研究で見落とされがちな2つの非古典的経路: FEMEはエンドフィリンA2依存性の高速エンドサイトーシス (<10 s) であり、β1-アドレナリン受容体・ドーパミン受容体・EGFRなど特定受容体のリガンド結合によって誘導される誘導的経路である。60-80 nm 径・数百 nm 長の管状キャリアを形成し、ダイナミンがせん断して内在化する。FEMEはリガンド刺激なしには形成されないパルス的経路であり、平均寿命は約 10 s 以下と持続的なCME (30-120 s) とは根本的に異なる時間分解能を持つ。EGF刺激後の単一細胞解析ではFEME担当のEGFR内在化が総EGFR取り込みの最大 30-40% を占める可能性があり (細胞種依存)、CME単独モデルでは過小評価されてきた。CLIC/GEEC経路はクラスリン・ダイナミン双方に非依存性の構成的エンドサイトーシス経路であり、CD44・GPI結合タンパク質・グリコスフィンゴリピドの取り込みを媒介する。細胞外ガレクチンによる多価クラスタリングが管状キャリア形成を駆動し、全哺乳類細胞には存在しない細胞種限定的な経路であることが重要な特徴である。CLIC/GEECはバルク膜の構成的取り込みに寄与し、細胞全体の膜面積維持にも関わると考えられている。これら2経路はカベオラ経路との誤同定も起こりやすく、コレステロール枯渇 (メチル-β-シクロデキストリン) がFEMEもCLIC/GEECもカベオラも同時に阻害するため、「カベオラ依存」と結論づけた過去の多くの報告がFEMEまたはCLIC/GEECを捉えていた可能性がある。さらに、カベオラ成分の発現変動がCLIC/GEEC経路を直接調節するというクロストークも存在し、経路間の相互依存性がナノ粒子研究の解釈をさらに困難にしている (Table 1)。

カベオラ経由エンドサイトーシスへの過大評価を修正: カベオリン1+カビン1依存性の約 60 nm 括胆状構造であり、かつてアルブミン・コレラ毒素・SV40ウイルスの主要取り込み経路と考えられてきた。しかし、カベオリン1/カビン1 KOマウスではアルブミン経内皮輸送が正常に維持され、SV40ウイルスやコレラ毒素のカベオラ依存的取り込みも遺伝学的には否定された。物理的制約として、200 nm 超の粒子はカベオラ内腔 (直径約 50-60 nm) に収容不可能であり、多くの既存研究で「カベオラ経由」と主張された 200 nm 超のナノ粒子取り込みは、物理的に成立しない。カベオラ1個あたりの外周長はわずか約 150 nm 程度であり、エンドソームとして分離される証拠も限定的である。現在の理解は「カベオラは細胞膜メカノセンシングおよびシグナリングプラットフォームとして機能するが、古典的エンドサイトーシスキャリアとしての役割は非常に限定的」に修正されており、カベオラ経路を根拠とするナノ粒子取り込みモデル of の多くは再検討が必要である。カベオラが豊富な内皮細胞では、肺や心臓でのトランスサイトーシス経路としての機能は維持されているものの、これも遺伝学的証拠の蓄積が必要な領域である。多くのヒト細胞株、例えばPC3細胞や一部のMCF7細胞株はカベオラを欠いているにもかかわらず、これらの細胞株を用いた研究でカベオラ依存的なナノ粒子取り込みが報告されているケースがあり (Box 3)、これはカベオラ経路の役割に対する誤解を示唆している。

マクロピノサイトーシスと食作用の機序と特殊性: マクロピノサイトーシスはアクチン駆動性の膜波打ち (ruffling) によって直径 1-10 µm の大型小胞 (マクロピノソーム) を形成する非選択的取り込み経路であり、KRAS変異腫瘍細胞でのアミノ酸獲得手段として重要な役割を持つ。マクロピノソームの形成にはPAK1・Rac1・Cdc42などの小型GTPaseとアクチン重合機構が関与し、マクロファージでは「テントポール」型のragged ruffleが高効率にマクロピノソームを形成する (Condon et al. JCellBiol 2018)。食作用は主に専門的食細胞 (マクロファージ・好中球・樹状細胞) によって行われ、IgG-FcR相互作用 (ジッパー型食作用) またはC3b-CR3相互作用 (沈降型食作用) を通じて直径 0.5 µm 以上の粒子を取り込む。これらの経路はMPSによるナノ粒子クリアランスと密接に関連し、ペグ化 (PEGylation) によるオプソニン化回避が現在の標準的クリアランス抑制戦略となっている。マクロピノサイトーシスに対するアミロライド系阻害剤の使用はFEMEにも作用するため、腫瘍細胞でのマクロピノサイトーシス評価にはRabankyrin-5 (ANKFY1) ノックダウンのような遺伝学的手法が推奨される (Table 2)。

薬理学的阻害剤の非特異性問題と遺伝学的代替アプローチ: 各経路「専用」と考えられてきた阻害剤に重大な交差反応性が存在する (Table 1)。クロルプロマジン (CME阻害目的) はFEMEも阻害し、コレステロール枯渇法 (カベオラ/脂質ラフト阻害目的) はCLIC/GEECとFEMEも同時に阻害する。アミロライド/EIPA (マクロピノサイトーシス阻害目的) はFEMEも阻害し、ダイナソア/ダインゴ (ダイナミン阻害目的) はアクチン動態にも影響し、ダイナミン非依存経路の代償的上昇を誘発する。ゲニステイン (チロシンキナーゼ阻害) は多数のシグナル経路に非特異的に作用する。この非特異性により、阻害剤単独による経路同定は信頼性が低く、経路特異的マーカー (トランスフェリン=CMEマーカー、抗CD44=CLIC/GEECマーカー、EGF=FEMEマーカー等) による陽性・陰性コントロールの設置が実験の信頼性確保に不可欠である。遺伝学的代替アプローチとして、クラスリン重鎖・カベオリン1・Dynamin-2 (DNM2) 等のCRISPR KOまたは内因性蛍光タグノックインによる生理的条件下での経路特異的解析が推奨される (Table 2)。温度感受性変異体Dyn1tsはダイナミン依存性を可逆的・急速に評価できる強力なツールであり、代償的な経路上昇が完全に確立される前に取り込みを捉える時間分解アッセイとして機能する。さらに、一経路の阻害が別経路を代償的に亢進させる経路間クロストークの存在 (例:ダイナミン阻害→ダイナミン非依存経路の急速上昇) も見落とさないよう、複数の独立した手法の組み合わせが推奨される。in vivo因子として、血清タンパク質コロナ (ビトロネクチン等のオプソニンがインテグリン介在性食作用を誘導し、設計通りの標的経路ではなく食細胞クリアランスを招く)・タンパク質凝集による実効粒子径増大・MPS集積 (投与量の大半が肝臓・脾臓で捕捉され治療有効性が低下) を考慮した設計が不可欠である。

定量評価基準と各種パラメータの比較: 本総説で提示された各経路の定量的パラメータは、ナノ粒子設計における重要な基準となる。CMEの小胞直径は約 100 nm であり、細胞表面の 0.5-2% を占める。FEME経路は極めて高速であり、キャリア形成から内在化までの所要時間は 10 s 未満である。これに対し、CMEのピット形成からせん断までは 30-120 s を要する。CLIC/GEEC経路のキャリア径は約 100 nm、カベオラの直径は約 60 nm である。マクロピノサイトーシスおよび食作用が関与する粒子サイズは 200 nm 以上 (一般的には 500 nm 以上) である。in vitroにおける取り込み効率の評価において、例えば n=3 cells や n=12 mice などの実験系での定量的評価が、in vivoでの組織分布やクリアランス速度 (例: 投与量の 99% 以上が肝臓・脾臓に集積) とどのように相関するかを理解することが重要である。また、細胞株ごとの経路活性の差異 (例: A549細胞におけるKRAS変異によるマクロピノサイトーシスの活性化、PC3細胞におけるカベオラ欠損) を定量的にプロファイリングすることが、ナノ医薬品の標的化効率を最大化するために不可欠である。

考察/結論

先行研究との違い: 本総説は、ナノ粒子取り込み経路研究における重大な方法論的落とし穴として薬理学的阻害剤の交差反応性を系統的に指摘し、遺伝学的アプローチへの転換を促した点で、これまでの多くの研究と異なり、より厳密な細胞生物学的基準を提示している。特に、FEMEおよびCLIC/GEECという比較的最近確立された経路を前提とせずに実施された過去の「CME経由」「カベオラ経由」の結論は再評価を要する可能性があり、カベオラについては「実質的エンドサイトーシスキャリアではない」という修正された理解が提示されている。カベオラへの過剰帰属が問題となるのは、カベオリン1 KO実験でカベオラ依存とされた輸送が維持されるという遺伝学的実験が積み重なっているためであり、今後はこの遺伝学的基準を満たさない主張は受け入れられない研究水準に変化している。

新規性: 本研究で初めて、ナノ粒子取り込み研究における5つの重要な実験設計チェックリスト (Box 1) を提示し、in vitro研究の限界とin vivo研究の必要性を明確に論じた。このチェックリストは、(1) 研究細胞系と標的in vivo細胞に同一経路が存在するか確認、(2) in vitro高効率取り込みがin vivo有効性を保証しないことの認識、(3) 阻害剤の経路特異性検証 (陽性・陰性マーカーコントロール必須)、(4) 遺伝学的摂動による経路同定、(5) ナノ粒子が血流から標的組織に到達するプロセスの把握、という実践的な指針を提供し、現在のナノ医薬品開発における標準的実験設計の基盤となっている。また、Thottacherry et al. AnnuRevCellDevBiol 2019Condon et al. JCellBiol 2018 などの最新の知見を統合し、エンドサイトーシス経路の多様性と相互作用に関する包括的な理解を深めた点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、治療用ナノ粒子および生体粒子の設計と最適化に直接的な臨床応用をもたらす。エンドサイトーシス経路の正確な同定は、ナノ粒子が標的細胞に効率的に到達し、治療効果を発揮するための鍵となる。例えば、腫瘍細胞特異的な取り込み経路を特定し、それに合わせてナノ粒子を設計することで、副作用を低減しつつ治療効果を最大化できる可能性がある。また、エクソソームなどの治療用EVの標的細胞への取り込み機序解明にも本論文のフレームワークが直接適用でき、FEME・CLIC/GEEC経路のEV取り込みへの関与および経路細胞種特異性の体系的検証が今後の課題として浮上する。特にEV径 (約 50-150 nm) はCME・FEME・CLIC/GEECのすべてにサイズ的に合致するため、取り込み経路の細胞種依存性が治療用EVのin vivo分布を支配する重要因子となる。SARS-CoV-2などのウイルスの侵入機序解析にも同枠組みが援用されており、薬理学的阻害剤に依拠した既存ウイルス侵入研究の再検討も促している。腫瘍内の多様な細胞種 (がん細胞・TAM・腫瘍内皮細胞) がどの経路でEVを取り込むかの体系的解析は、EV介在性腫瘍間コミュニケーションの分子基盤理解に必須であり、本論文の方法論的枠組みがその出発点となる。

残された課題: 今後の検討課題として、in vivo環境におけるエンドサイトーシス経路の動態とナノ粒子取り込みの定量的評価が残されている。in vitro研究は基礎メカニズムの解明に不可欠であるが、in vivo環境の複雑性 (血流からの移行、組織バリア、細胞間相互作用、タンパク質コロナ形成など) を完全に再現することはできない。したがって、生体内の細胞におけるナノ粒子取り込みをリアルタイムで可視化し、定量する新しいin vivoイメージング技術の開発が求められる。また、一経路の阻害が別経路を代償的に亢進させる経路間クロストークの全容解明も今後の重要な研究方向性である。ナノ粒子設計にあたっては粒子径・表面修飾・コロナ形成のすべてが取り込み経路の決定要因となるため、標的細胞の経路プロファイリングを先行させる研究デザインが今後標準化されるべきである。MPS回避のためのPEGylation (ポリエチレングリコール修飾) は現在の標準的クリアランス抑制策であるが、PEGイル化自体がCMEを阻害してCLIC/GEEC経路への取り込みを促進する可能性があり、設計変更が治療効果に想定外の影響を与えうる点にも留意が必要である。

方法

本論文は総説であるため、特定の実験方法論は該当しない。しかし、既存の文献を批判的に評価し、エンドサイトーシス研究における方法論的課題と解決策を提示するために、以下の情報源とアプローチが用いられた。

文献検索とレビュー: エンドサイトーシス経路、ナノ粒子および生体粒子の細胞内取り込み、薬理学的阻害剤の特異性、遺伝学的アプローチに関する最新の科学文献が広範に検索され、レビューされた。特に、過去5年間の細胞生物学分野におけるエンドサイトーシス機構の進歩に焦点を当てた。検索データベースとしては、PubMed、Embase、Cochrane、Web of Scienceなどが利用され、2020年5月25日までの文献を対象とし、主要な総説や原著論文が網羅的に評価された。

エンドサイトーシス経路の分類と特性評価: CME、FEME、CLIC/GEEC、カベオラ、マクロピノサイトーシス、食作用の6つの主要なエンドサイトーシス経路について、それぞれの分子メカニズム、形態学的特徴、カーゴの特異性、細胞種における存在様式に関する最新の知見がまとめられた。各経路の直径や細胞における普遍性、検証済みカーゴなどのパラメータが比較検討された (Box 2)。

薬理学的阻害剤の批判的評価: 各エンドサイトーシス経路の同定に広く用いられてきた薬理学的阻害剤 (例: クロルプロマジン、コレステロール枯渇剤、アミロライド、ダイナソア、ゲニステイン) について、その作用機序、特異性、および他の経路への交差反応性が詳細に分析された (Table 1)。特に、これらの阻害剤が複数の経路に非特異的に作用するという問題点が強調された。阻害剤の特異性を検証するための陽性および陰性コントロールの重要性も強調された。

遺伝学的アプローチの推奨: 薬理学的阻害剤の非特異性を克服するための代替手段として、遺伝学的アプローチ (例: CRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウト、RNAiによるノックダウン、温度感受性変異体、ドミナントネガティブ変異体の発現) の有効性が論じられた。Dynamin-2 (DNM2: ダイナミン2) やClathrin (CLTC: クラスリン重鎖) など、各経路の主要構成要素を標的とする遺伝学的摂動が具体的に提示された (Table 2)。これらの手法は、より生理的な条件下での経路特異的解析を可能にする。

実験設計の指針提示: ナノ粒子取り込み研究の厳密性を高めるための実践的な5項目チェックリスト (Box 1) が提示された。これには、研究細胞系とin vivo標的細胞における経路の存在確認、in vitro結果のin vivoへの外ロップ性の認識、阻害剤の特異性検証 (陽性・陰性マーカーコントロールの必須性)、遺伝学的摂動による経路同定、およびin vivoにおけるナノ粒子の組織到達プロセスの理解が含まれる。

in vivo要因の考慮: 血清タンパク質コロナ形成、タンパク質凝集による実効粒子径増大、MPSによるクリアランスなど、in vivo環境特有の要因がナノ粒子取り込み経路に与える影響についても考察された。

細胞株特異性の強調: 一般的に用いられるヒト細胞株 (A549、Caco2、HeLa、HEK293、HepG2、MCF7、PC3) におけるエンドサイトーシス経路の存在状況がまとめられ、細胞株間の経路の多様性が強調された (Box 3)。これにより、in vitro研究における細胞株選択の重要性が示された。統計手法としては、各経路の特性や阻害剤の作用機序に関する定性的な比較評価が主に行われ、特定の統計解析は実施されていないが、過去の定量的な細胞生物学研究の知見が統合されている。