• 著者: Chao Wang, Qi Zhang, Jinyan Huang, Fangyu Lin, Danyang Zhao, Youling Mu, Junshuo Tong, Jinping Li, Yingjiqiong Liang, Tao Zeng, Fukang Shi, Hang Shen, Tingting Lu, Tingbo Liang
  • Corresponding author: Tingbo Liang (Zhejiang University); Chao Wang (Zhejiang University)
  • 雑誌: Journal of Clinical Investigation
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41818263

背景

膵臓癌 (膵管腺がん、PDAC) は最も致死的な固形腫瘍の一つであり、米国における癌関連死因第3位を占める (Siegel et al. 2024)。PDACは免疫療法に対して極めて高い抵抗性を示し、その主因は強力な免疫抑制性腫瘍微小環境 (TME) にある (Ho et al. 2020)。TMEには多数の腫瘍関連マクロファージ (TAM) が浸潤しており、免疫逃避に重要な役割を果たすと考えられているが (Habtezion et al. 2016)、どのTAMサブセットが主要な役割を担うかは未解明であった。炎症性マクロファージはM1様表現型を持ち、従来は抗腫瘍性と考えられてきたが、近年の研究では炎症性TAMが病態促進的に機能することが示唆されている (Caronni et al. 2023)。また、TAMと好中球のクロストークがTMEにおける免疫逃避に貢献することが複数のがん種で示唆されているが (Pan et al. 2025, Hu et al. 2023)、PDAC原発巣における両者の相互作用は不明であった。IL-34はCSF1Rリガンドとして骨髄系細胞の分化・増殖を調節し (Baghdadi et al. 2018)、syndecan-1 (CD138) はIL-34の機能的受容体として機能することが近年示された (Segaliny et al. 2015)。しかし、IL-34-syndecan-1シグナルがTMEにおける骨髄系細胞の表現型と機能に与える影響、およびこのプロセスが腫瘍免疫逃避に与える影響は依然として不明であり、この領域には知識のギャップが残されている。

目的

PDAC TMEにおける特定のTAMサブセットを同定し、そのTAMがSiglec-F+好中球とのフィードフォワードループを介して免疫逃避を促進するメカニズムを解明すること。IL-34-syndecan-1シグナルの標的化が治療戦略として有効かを評価すること。

結果

CD138+TAMは膵がんTMEで拡大し免疫逃避と予後不良に関連する: 多重免疫組織化学 (mIHC) 解析でPDAC患者腫瘍組織において隣接良性組織に比較してCD138+TAMの著明な増加が確認された (Figure 1A-C)。CD138+TAM密度はCD8+T細胞・活性化細胞傷害性CD8+T細胞の密度と逆相関し (Pearson’s R=-0.3327, p=0.0336, n=103 patients)、腫瘍細胞密度と正相関した (Figure 1G)。生存解析では、CD138+TAM高発現群 (n=51 patients) はCD138+TAM低発現群 (n=63 patients) に比較して有意に短い全生存期間を示した (p=0.0069, HR 1.685, 95% CI 1.098 to 2.584, Figure 1H)。KPCおよびKTCマウスモデルでも同所移植モデルでも、腫瘍組織においてCD138+TAMの有意な蓄積が確認された (Figure 1I-L)。これらの結果は、CD138+TAMがPDACの免疫逃避と疾患進行に寄与することを示唆する。

CD138+TAMは炎症性・好中球走化性プログラムを持つ独自のTAMサブセットである: シングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) でF4/80+細胞の7クラスターが同定され、MM1サブクラスターはSdc1 (CD138をコード) の高発現を特徴とした (Figure 2A-B)。先行研究で報告された抗炎症性CD138+マクロファージとは異なり、MM1のトランスクリプトームはIL-10R・CD206・CCR2を発現せず、cAMPシグナルへの濃縮も示さなかった。GSEA解析ではMM1は好中球走化性 (Cxcl1、Ccl2、Cxcl3)、急性相反応 (SAA3、Fn1)、低酸素応答関連遺伝子の濃縮を示した (Figure 2C-D)。タンパク質レベルでもCD138+TAMにおけるSAA3 (SAA1の相同体) とCXCL1の著明な上昇がフローサイトメトリーとmIHCで確認された (Figure 2E-G)。TCGAデータセットを用いたサバイバル解析でMM1遺伝子スコア高値患者は有意に予後不良であった (Supplemental Figure 3E)。

IL-34-syndecan-1とPGE2-EP2シグナルの協調によりCD138+TAMが誘導される: CD45.1/CD45.2キメラ実験でCD138+TAMが主に循環単球 (CD45.1+) 由来であることが判明した (Supplemental Figure 4A-C)。IL-34は腫瘍細胞 (ductal cells) から産生され、骨髄由来マクロファージ (BMDM) へのIL-34単独処理はsyndecan-1発現誘導効果が限定的であった (Figure 3A-C)。一方、腫瘍浸潤好中球由来のプロスタグランジンE2 (PGE2) がEP2受容体を介してsyndecan-1発現をアップレギュレートし、IL-34との相乗効果によりSAA3・CXCL1の産生が著明に増加した (Figure 3A-C)。PDE4D高発現がcAMP-PKA/CREB経路を抑制することで、IL-34とPGE2が協調してCD138+TAM状態を誘導するメカニズムが示された。EP2拮抗薬 (PF-04418948) はsyndecan-1の誘導を有意に抑制した (Supplemental Figure 7G-H)。

CD138+TAMはSAA3・CXCL1を介してSiglec-F+好中球とフィードフォワードループを形成する: CD138+TAMが分泌するSAA3とCXCL1はFPR2 (formyl peptide receptor 2) を介してSiglec-F+好中球を腫瘍内に動員・活性化し、活性化されたSiglec-F+好中球は高レベルのPGE2を産生した (Figure 6A-J)。このPGE2が再びEP2を通じてCD138+TAMの生成を促進するポジティブフィードフォワードループが形成され、CD8+T細胞の腫瘍内排除と機能障害が増幅された (Figure 7L-O)。Siglec-F+好中球はNET (好中球細胞外トラップ) 形成能が高く、CD8+T細胞のIFNγ産生を抑制した (Figure 7A-F)。CD138+TAMの養子移入により腫瘍重量が増加し (Figure 4B, p<0.05, n=6 mice)、生存期間が短縮した (Figure 4D, p<0.05, n=8 mice)。一方、Sdc1-cKOマウスではCD138+TAMが枯渇し、腫瘍重量が約0.4gから約0.2gに有意に減少し (Figure 4J, p<0.05, n=9 mice)、CD8+T細胞の浸潤と活性化が増加し、生存期間が延長した (Figure 4M, p<0.001, n=8 mice)。

抗IL-34中和抗体の単独・抗PD-1併用による治療効果: 抗IL-34中和抗体はKPCモデルにおいてPDAC進行を有意に抑制し (Figure 8B, p<0.05, n=8 mice)、CD138+TAM・Siglec-F+好中球の減少とCD8+T細胞の回復が観察された (Figure 8F-O)。抗PD-1抗体との併用では相乗的な腫瘍縮小と生存延長が示された (Figure 8E, p<0.001, n=8 mice)。特に、治療開始が遅れた進行腫瘍モデルにおいても、併用療法は生存期間を延長した (Figure 8T, p<0.001, n=8 mice)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、PDACにおいてCD138+TAMとSiglec-F+好中球が双方向性のフィードフォワードループを形成し免疫逃避を促進するという新規メカニズムを明らかにした点で、従来のTAMと好中球の相互作用の役割がPDAC原発巣では未解明であった研究と異なる。本研究はCD138+TAM由来のSAA3・CXCL1→FPR2依存性Siglec-F+好中球活性化→PGE2産生→EP2介在CD138+TAM誘導という連鎖的機序を解明した。

新規性: 本研究で同定されたCD138+TAMは、先行研究 (Caronni et al. 2023, Sun et al. 2022) で報告されたIL1β+ TAMやCXCL3/granulin産生TAMとは異なる発生起源 (循環単球由来) と機能的特性 (炎症性・好中球化学誘引性) を持つ新規サブセットである。また、IL-34-syndecan-1軸はCSF1Rリガンドとして機能する観点で一部既知であったが (Segaliny et al. 2015)、PDAC TMEにおけるシグナル伝達ハブとしての役割は本研究で初めて示された。IL-34とPGE2の協調作用によるCD138+TAMの誘導メカニズムも新規の発見である。

臨床応用: 本知見は、CD138+TAMが予後不良バイオマーカーになり得ること、IL-34-syndecan-1経路阻害と抗PD-1の併用が免疫療法抵抗性PDACに対する有望な戦略であることを示唆する。この併用療法は、PDAC TMEを免疫抑制性から免疫反応性へと転換させ、抗PD-1単独療法に反応しない腫瘍を反応性へと導く可能性があり、臨床現場におけるPDAC治療の選択肢を広げる臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒトPDAC患者でのSiglec-F相同分子 (Siglec-8など) 発現好中球の役割確認、FPR2シグナルの治療的標的としての詳細な検討、腫瘍微小環境のさらなる因子との相互作用解析が挙げられる。また、FPR2拮抗薬WRW4の併用が効果を示さなかった理由として、複数のFPR2リガンドの存在が考えられ、今後の研究でその詳細なメカニズムを解明する必要がある。

方法

PDAC患者 (コホート1:隣接良性n=58、腫瘍n=103) および腫瘍組織アレイ (コホート2:41症例、コホート3:予後情報付き114症例) について多重免疫組織化学 (mIHC) ・フローサイトメトリーを実施した。自然発症PDACモデル (KPCマウス:KrasG12D/+ Trp53R172H/+ Pdx1cre/+ マウス) および同所移植KPCモデルを使用した。F4/80+細胞のscRNA-seq (11,711細胞) によるTAMサブクラスタリング、Smart-seqによるCD138+ vs CD138- TAMのトランスクリプトーム比較、骨髄由来マクロファージ (BMDM) のin vitro分化実験 (IL-34、PGE2、EP2拮抗薬) を行った。CD45.1/CD45.2キメラモデルによる起源解析、抗IL-34中和抗体単独および抗PD-1抗体との併用効果を評価した。本研究で用いた細胞株はKPC細胞株である。統計解析にはGraphPad Prism 9を使用し、結果は平均±SEMで示し、Student’s t-検定、PearsonまたはSpearmanの相関分析、Log-rank検定を用いた。バイオインフォマティクス解析はR (v4.4.1) で行い、2群間の比較にはWilcoxon rank-sum testを用いた。