• 著者: Claire A. Naveh, Kiran Roberts, Przemysław Zakrzewski, Martha M. S. Sim, Catherine Hipgrave, Chia-Te Liao, Heather M. Wilson, Jeremy S. Duffield, Oliver Florey, Mark T. Bunce, Andrew D. Mumford, Borko Amulic
  • Corresponding author: Borko Amulic (School of Cellular and Molecular Medicine, University of Bristol, Bristol, UK; borko.amulic@bristol.ac.uk)
  • 雑誌: Journal of Translational Medicine
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-06-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38822352

背景

好中球は、ヒトの免疫システムにおいて最も豊富で強力な抗菌エフェクター細胞であり、細菌や真菌病原体に対して貪食、活性酸素種 (ROS) 産生、脱顆粒、好中球細胞外トラップ (NETs) の放出など、多様な抗菌応答を駆使して戦うことが知られている (Amulic et al. 2012)。しかし、好中球は半減期が約8-24時間と短命な終末分化細胞であり、電気穿孔法による遺伝子改変に対する耐性が低いため、CRISPR-Cas9編集などの遺伝子操作が困難であるという技術的な課題が存在する。このため、好中球の発生や機能に関する多くの基本的な疑問が未解明のままであった。

感染症や無菌性炎症時には、緊急顆粒球造血 (emergency granulopoiesis) と呼ばれる骨髄の代償性応答が誘発され、未成熟な好中球が骨髄から循環系に放出される。この現象は「左方移動 (left shift)」として臨床現場で長年観察されており、循環する未成熟好中球の存在は、全身性エリテマトーデス (SLE)、COVID-19、進行癌など、さまざまな自己免疫疾患や炎症性疾患における予後不良と強く関連することが報告されている (Christopher et al. 2023)。しかし、これらの未成熟好中球の機能的特性や分子レベルでの制御メカニズムについては、遺伝学的に操作可能なヒト好中球モデルの不足により、その解析が限定的であった。

これまでの研究では、HL-60やNB-4神経芽腫細胞由来の好中球様細胞が一部の機能を再現するモデルとして用いられてきたが、顆粒内容物や核形態が初代好中球と大きく異なり、完全なモデルとは言えなかった (Newburger et al. 1979)。また、CD34⁺ 造血幹細胞 (HSPC) からのex vivo分化誘導が代替戦略として有望視されてきたが、高収率かつ高純度で機能的な好中球を効率的に分化させるためのプロトコル最適化と、初代好中球、特に緊急顆粒球造血由来の好中球との系統的な比較解析が未確立であった。例えば、Dick et al. (2008) は骨髄CD34+細胞由来好中球の限定的な殺菌能力を報告しており、その機能的特性のさらなる詳細な解析が不足していた。また、Ng et al. NatRevImmunol 2019Wigerblad et al. JImmunol 2022 のような単一細胞解析研究は好中球の多様性を示唆しているものの、その機能的意義を遺伝学的に検証するツールが不足していた。

本研究は、この技術的なギャップを埋めることを目的とし、CD34⁺ HSPCからex vivoで好中球を効率的に分化誘導する最適化プロトコルを確立し、その細胞がG-CSF動員未成熟好中球に類似した表現型と機能特性を持つことを詳細に解析した。これにより、未成熟好中球の機能と緊急顆粒球造血のメカニズム解明に貢献する遺伝学的に操作可能なモデルシステムの樹立を目指した。

目的

本研究の目的は、CD34⁺ 造血幹細胞 (HSPC) からex vivoで好中球を効率的に分化誘導する最適化プロトコルを確立することである。さらに、この培養好中球をG-CSF動員好中球および定常状態好中球と比較し、その詳細な表現型、機能、およびプロテオーム特性を明らかにすることを目指した。最終的に、前駆細胞段階でのCRISPR-Cas9による遺伝子改変の実現可能性を検証し、未成熟好中球の研究と遺伝子操作の可能性を兼ね備えた新規モデルシステムを樹立することを目的とした。このモデルシステムは、緊急顆粒球造血における好中球の機能的意義や、様々な疾患における未成熟好中球の病態生理学的役割を分子レベルで解明するための強力なツールとなることが期待される。

結果

最適化された培養プロトコルによる高収率な好中球増殖: 本研究で最適化されたプロトコルにより、14日間の培養で初期CD34⁺細胞から平均326 ± 248倍 (n=7-11 differentiations) の総細胞数増殖が達成された。最終的に、CD66b⁺CD15⁺の好中球画分が平均75.45 ± 5.7% (n=4 differentiations) の純度で得られ、培養終了時の細胞生存率は80%以上であった (Fig. S1F)。Day 12-14には、Wright Giemsa染色で観察される核形態が分葉核または桿状核へと成熟し、初代好中球に類似した形態を示した。この収率と純度は、従来のHL-60細胞株を用いたプロトコルや、先行研究で報告された他のCD34⁺ HSPC由来好中球培養プロトコル (Kuhikar et al. 2021) と比較して優位性を示した。

培養好中球のG-CSF動員好中球との表現型類似性: フローサイトメトリー解析により、培養好中球はG-CSF動員好中球 (GCSF-D好中球) と類似した表現型を示すことが明らかになった。具体的には、培養好中球は定常状態好中球と比較して、成熟マーカーであるCD10およびCD101の発現が有意に低く (p<0.001)、CXCR4の発現が高く、CD62Lの発現が低いという、未成熟好中球に特徴的な表面マーカーパターンを示した (Fig. 2C-E)。これらの発現パターンは、GCSF-D好中球のそれと統計的に区別できないレベルであった。一方、CD66b、CD15、CD11bなどの顆粒球マーカーの発現は、3種類の好中球間で同程度であった (Fig. 2F-H)。核形態においても、培養好中球はGCSF-D好中球よりもやや未成熟な傾向を示し、桿状核好中球の比率が高かった。

ROS産生と殺菌能の維持、抗真菌活性と脱顆粒の低下: 培養好中球は、PMA刺激によるスーパーオキシド産生 (DHR酸化) および大腸菌・黄色ブドウ球菌 (S. aureus) に対する殺菌能において、定常状態好中球と遜色ないレベルを維持していた (Fig. 3A, B, J)。しかし、Candida albicansに対する抗真菌活性は、定常状態好中球と比較して約50%有意に低下していた (p<0.01, Fig. 3I)。脱顆粒応答に関しても、オプソニン化ザイモサン刺激によるCD63およびCD35の表面発現誘導が減弱し、好中球エラスターゼ (NE) の細胞外放出も定常状態好中球と比較して27%減少した (p<0.05, Fig. 3F)。NETosisについては、PMA刺激によるNOX2依存性NETs形成は4時間時点では観察されなかったが、C. albicans刺激によるNOX2非依存性NETs形成は定常状態好中球と同程度に維持されていた (n=3 donors, Fig. 3C-E)。サイトカイン産生では、LPSおよびR-848刺激によるIL-6産生が定常状態好中球と比較して有意に亢進していたが (p<0.001)、IL-8産生に差は認められなかった (Fig. 3G, H)。これらの結果は、培養好中球が「部分的に成熟した」表現型と機能的異質性を持つことを示唆している。

TMTプロテオミクス解析による顆粒タンパク質合成の不完全性: TMT質量分析法を用いたプロテオミクス解析により、約4,800種類のタンパク質が定量され、培養好中球と定常状態好中球の間に明確なプロテオームの違いが示された。培養好中球では、ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、リポカリン-2 (LCN2)、マトリックスメタロプロテイナーゼ9 (MMP9)、アズロシジン、ディフェンシンなどの一次・二次顆粒タンパク質の発現が、定常状態好中球と比較して30-60%低値であった (Fig. 4I)。この顆粒タンパク質の不足は、培養好中球のSSC (側方散乱光) の減少や脱顆粒応答の減弱という機能的所見と一致する。GO term解析では、培養好中球において「細胞呼吸」経路が最も濃縮されており、ミトコンドリアタンパク質の増加と活性化されたミトコンドリア呼吸が示唆された (Fig. 4D, E-H)。これは、緊急顆粒球造血由来の未成熟好中球の分子プロファイルと一致する所見である。ROS産生に関連するNOX2複合体サブユニットのタンパク質は維持されており、ROS産生能が保たれていることと整合的であった。また、C. albicans殺菌能の低下は、抗体オプソニン化C. albicansの主要受容体であるFcyRIIIB (CD16B) の発現低下 (p<0.05, Fig. 4J) と関連している可能性が示唆された。

CRISPR-Cas9による前駆細胞段階での効率的なゲノム編集: CD34⁺ HSPC段階でCas9リボ核タンパク質 (RNP) を電気穿孔法により導入することで、効率的なゲノム編集が可能であることが実証された。B2M (beta-2-microglobulin) をターゲットとした場合、培養14日後の分化好中球で90.1%のB2M発現消失が確認され (p<0.0001, n=3 differentiations)、CD11bをターゲットとした場合も86.3%のCD11b発現消失が認められた (p<0.0001, n=3 differentiations) (Fig. 5A, B)。これらのノックアウト効率は非常に高く、分化後も安定して維持されていた。ゲノム編集された好中球は、ROS産生能や殺菌能が維持されており、遺伝子改変が細胞の基本的な機能的完全性を損なわないことが示された。これにより、未成熟好中球の機能研究において、特定の遺伝子の役割を分子レベルで解明するための強力なツールが提供された。

免疫不全マウスへの養子移入によるin vivoでの適用可能性: 免疫不全マウスモデル (NSGマウス) へのヒト培養好中球の養子移入実験により、24時間以内の生着と組織への動員が確認された。この結果は、本培養システムがin vivoでの未成熟好中球生物学研究ツールとしての適用可能性を持つことを示唆している。

考察/結論

本研究は、CD34⁺ HSPCからのex vivo分化誘導による未成熟好中球モデルの確立と、その遺伝子操作可能性の実証という、長年の技術的ギャップを埋める画期的な方法論的論文である。本プロトコルは、平均326倍の細胞増殖率と75.45%の好中球純度を達成し、G-CSF動員好中球に類似した表現型を示すことを明らかにした。さらに、CRISPR-Cas9によるゲノム編集が90%を超える高い効率で可能であり、編集後も好中球の基本的な機能が維持されることを示した。これらの結果は、従来のHL-60細胞株を用いたモデルや、他の先行研究で報告されたCD34⁺ HSPC由来好中球培養プロトコルを明確に凌駕するものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、CD34⁺ HSPCからの好中球分化誘導は報告されていたものの、本研究のように高収率、高純度、かつ遺伝子操作可能という複数の利点を兼ね備えたプロトコルは確立されていなかった。特に、Hoogendijk et al. CellRep 2019 が示したような好中球分化におけるトランスクリプトームとプロテオームの動的な変化を、遺伝子改変された細胞で直接検証できる点は、これまでの研究と対照的である。また、プロテオミクス解析により顆粒タンパク質の不完全な合成が示唆されたことは、G-CSF動員好中球の機能的特性を分子レベルで裏付けるものであり、従来の表面マーカーや一部の機能評価に留まっていた知見を深化させる。

新規性: 本研究で初めて、CD34⁺ HSPC由来の培養好中球が、G-CSF動員によって循環する未成熟好中球の表現型と機能特性を忠実に再現することを示した。特に、Candida albicansに対する抗真菌活性の低下や、特定の顆粒タンパク質の不足、そしてミトコンドリア代謝の亢進といった分子プロファイルは、緊急顆粒球造血由来の未成熟好中球の生物学を理解するための新規な洞察を提供する。さらに、前駆細胞段階でのCRISPR/Cas9による効率的なゲノム編集は、未成熟好中球の機能と緊急顆粒球造血のメカニズムを遺伝学的に解明するための強力なプラットフォームを新規に提供するものである。

臨床応用: 本知見は、敗血症、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、COVID-19重症患者などで循環する未成熟好中球 (CD10⁻CD16ᵈⁱᵐ好中球) の機能的意義をCRISPR技術を用いて分子的に解析するための基盤となる。また、顆粒球輸血製剤の品質管理や、慢性肉芽腫症 (CGD) などの遺伝性好中球疾患に対するex vivo遺伝子治療の検証、さらには急性骨髄性白血病 (AML) における好中球成熟阻害の研究モデルシステムとしても応用可能である。将来的には、CAR-好中球などの抗癌好中球エンジニアリングや、新規好中球標的薬のスクリーニングシステムとしての臨床応用も期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、G-CSF動員好中球との類似性が表面マーカーやROSレベルに限定されており、核クロマチンのエピゲノム比較が未完了である点が挙げられる。また、Candida抗真菌活性低下の分子機序(特定の顆粒タンパク質の複合的な欠損か)のさらなる詳細な解析が必要である。ドナー間の細胞増殖率や分化効率の変動性についても、より大規模なドナーコホートでの定量化が求められる。in vivoでの養子移入実験は短期間(24時間)のみであり、長期的な生着や組織内での成熟プロセスについては未検証である。さらに、臨床スケール(10¹⁰細胞)での大規模生産の実現可能性も今後の課題である。培養好中球の寿命が初代好中球よりも延長している可能性があり、アポトーシス経路の変更による物理生理学的動態のアーティファクトの懸念も残されている。

方法

CD34⁺ HSPCの単離と分化培養: 健常ドナーのアフェレーシス廃棄物または臍帯血から、免疫磁気ビーズ陽性選択法を用いてCD34⁺ HSPCを単離した。純度は90%以上であった。これらの細胞を、StemSpan SFEM II基礎培地にSCF (50 ng/ml)、IL-3 (20 ng/ml)、G-CSF (20 ng/ml)、GM-CSF (10 ng/ml) を含むサイトカインカクテルで培養した。培養は14日間行い、Day 3以降はG-CSF濃度を増量した。初期細胞密度は0.1-0.2 × 10⁶ cells/mLとし、2-3日ごとに培地交換を行い、細胞密度を0.5 × 10⁶ cells/mLに維持した。

表現型解析: 培養好中球の表現型は、フローサイトメトリーを用いてCD66b、CD15、CD16、CD62L、CXCR2、CXCR4、CD11b、CD10、CD33などの表面マーカーの発現を解析した。核形態はMGG染色により評価し、細胞生存率はAnnexin V/PI染色で確認した。比較対象として、G-CSF動員健常ドナーから分離した末梢血好中球 (GCSF-D好中球) および定常状態健常ドナーから分離した末梢血好中球 (定常状態好中球) を用いた。また、HL-60細胞をATRAで分化誘導した好中球様細胞も一部の比較に用いた。

機能アッセイ: 各種好中球の機能は以下の方法で評価した。

  • 活性酸素種 (ROS) 産生: DHR123 (dihydrorhodamine 123) およびルミノール化学発光法を用いて、PMA刺激によるスーパーオキシド産生を測定した。APF (aminophenyl fluorescein) を用いてペルオキシナイトライトおよびMPO触媒次亜塩素酸の産生も評価した。
  • 殺菌能: 大腸菌 (E. coli) および黄色ブドウ球菌 (S. aureus) に対する殺菌能をコロニーカウント法で評価した。
  • 抗真菌活性: Candida albicans (C. albicans) に対する抗真菌活性を、共培養後の真菌の代謝活性をアラマーブルーで測定することで評価した。
  • 脱顆粒: 刺激後のCD63およびCD35の細胞表面発現をフローサイトメトリーで測定し、脱顆粒応答を評価した。また、オプソニン化ザイモサン刺激による好中球エラスターゼ (NE) の細胞外放出をELISAで定量した。
  • 走化性: fMLPおよびCXCL1に対するTranswellアッセイを用いて走化能を評価した。
  • NETosis: PMA刺激およびC. albicans刺激によるNETs形成をSYTOX Orange染色と蛍光顕微鏡観察で評価した。
  • サイトカイン産生: LPS (TLR4アゴニスト) およびR-848 (TLR7/8アゴニスト) 刺激後のIL-6およびIL-8産生をELISAで測定した。

プロテオミクス解析: 培養好中球、GCSF-D好中球、定常状態好中球のプロテオームを比較するため、TMT (Tandem Mass Tag) 10-plex定量質量分析法を用いた。CD66b陽性細胞をFACSソーティングにより精製し、プロテオミクス解析に供した。同定されたタンパク質は、Log2FC > 1かつp < 0.05を閾値として、有意に発現変動したタンパク質を特定した。GO (Gene Ontology) term解析およびReactomeパスウェイ解析を実施し、機能的経路の濃縮を評価した。

ゲノム編集: CD34⁺ HSPC段階でCas9リボ核タンパク質 (RNP) を電気穿孔法により導入し、B2M (beta-2-microglobulin) およびCD11bをモデルターゲットとしてCRISPR-Cas9による遺伝子ノックアウトを試みた。分化誘導後、フローサイトメトリーによりノックアウト効率と細胞生存率、好中球分化への影響を評価した。

統計解析: データはGraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて整理・解析した。2群間比較にはStudent’s t検定を、多群間比較には一元配置ANOVAとTukeyの多重比較検定を用いた。p < 0.05を有意差ありと判断した。